リラさんの小説

【リボンの伝説 神々のトライフォース】第5章 森の長老


 第5章 森の長老

 タック率いる盗賊団から親友ポピーを救い出し、
 再びウィスピーウッズのいる森の深部を目指すカービィ。
 しかし、その心には不安が渦巻いていた。
(ウィスピーに、何かあったのかな)
 盗賊タックは、ウィスピーウッズが何かに取り憑かれたようだったと語った。
 彼もまた、司祭の魔法で操られてしまったのだろうか。
 カービィとポピーを乗せ、夕闇の迫るグリーングリーンズの森を進んでいく
 グリゾー。ウィスピーウッズの場所が近づくにつれ、
 邪悪な気配が感じられるようになってきた。
「嫌な感じ。これは、デデデの城で感じたのと同じだ」
 グリゾーの背の上で、カービィが呟く。
「じゃあ、ウィスピーも」
 ポピーが言った。
「うん。考えたくないけど、きっと」
 木の上から突然、3つ目のクモが降りてきた。
コモだ。ポピーに向かって糸を吹き付けてくる。
「危ない!」
 カービィが戦士の盾をポピーの前にかざし、糸を防いだ。
そして剣を振るい、木の上から垂れ下がるコモの糸を切る。
コモは地面に落下し、グリゾーの足に踏みつけられた。
「ギエェェェギエエエエエッ」
 コモの悲鳴が、森の中にこだまする。
 それに反応するかのように、今度は森の奥から3体のヌラフが現れた。
しかし、森の広場で会ったような大人しいヌラフではない。
 目を赤く吊り上げたイノシシ達は、グリゾーめがけて飛びかかってきた。
 カービィがグリゾーの背から飛び降り、向かってきた1体を切り裂く。
 1体はグリゾーの手が叩き落とした。
 しかし、残る一体がグリゾーの足に噛み付いてくる。
「ガオッ」
「グリゾー!」
 ポピーが叫んだ。カービィが素早く振り向いて、最後の一体を両断する。
「ブオオッ」
 ヌラフが低いうなり声を上げて倒れた。
「グリゾー、だいじょうぶ?」
 カービィが言った。
「ガオッ」
 どうやら大した傷ではないらしい。
「よかった。ポピー、ここから先は本当に危ないみたい。
 グリゾーに送ってもらって、村に戻った方がいいよ」
「うん。でもカービィ、お願い。一緒にウィスピーのところまで行かせて。
 何もできないかもしれないけど、僕もウィスピーのこと、助けたいんだ」
「わかった。きっとポピーのこと、守るよ」
「ありがとうカービィ」
 カービィは再びグリゾーの背に飛び乗った。
 茂みの中の道無き道を行くグリゾー。
 そして西の地平に日が沈む頃、カービィ達はついに、
 ウィスピーウッズの立つ場所へとたどりついた。
「ウィスピー!」
 カービィがリンゴの大木の前に立ち、森の長老へ呼びかけた。
 大木の表面に、口と2つの目が現れる。
 そして、その口は低くおぞましい声で言葉を発し始めた。
「ググッ、来たか、カービィ……」
「ウィスピー、きみも司祭に操られているんだね。お願い、目を覚まして」
 再びカービィが呼びかける。
 しかし、目を吊り上げたウィスピーウッズは禍々しい波動を放ち始めた。
「殺してくれるゥ!」
 ウィスピーウッズの無数の根が、地中から持ち上げられた。
 根が蛇のようにうねうねと曲がりながら、カービィ達めがけて襲いかかってくる。
「うわああっ」
 次々と地面に叩きつけられる大木の根を、必死で避けて回るカービィ達。
 グリゾーが根の一本を避けられず、直撃を受けた。
「ガオオオッ!」
「グリゾー! ポピー!」
 グリゾーと、彼の背に乗っていたポピーが森の茂みの中に弾き飛ばされた。
 ウィスピーウッズの根をかわしながら、カービィが彼らに駆け寄る。
「だいじょうぶ?」
「う、うん」
「ガオッ」
 ポピーもグリゾーも、幸いまだ動けるようだった。
「どうしよう、どうやったら、ウィスピーを助けられるかな?」
 ポピーが言った。
「わからない。でも、何とかして司祭の魔法を解かなきゃ」
 これまで、司祭に操られた者達は、戦って倒すしかなかった。
 しかし、森の長老であり、カービィ達の大切な友であるウィスピーウッズを
 殺すわけにはいかない。
 それに、マスターソードの秘密を知っている者は彼しかいないのだ。
「殺してくれるゥ!」
 ウィスピーウッズの根が茂みの中まで伸びてきた。
 上から叩きつけられる根を、戦士の盾で受け止めるカービィ。
「ポピー、グリゾー、今のうちに下がって!」
「う、うん」
 ポピーとグリゾーが、後方に避難する。
 直後に再び叩き付けられた根を、カービィが横に跳んでかわした。
 しかし、着地点に下から根が伸びてくる。
「串刺しだァ!」
 ウィスピーウッズの根が直撃し、カービィは空中に放り出された。
「わあぁぁぁぁぁっ」
「カービィ!」
 ポピーが叫んだ。かち上げられたカービィが地面に叩きつけられる。
 そして、ポピーの頭上にも、ウィスピーウッズの根が迫った。
「うわあっ」
「ガオッ」
 グリゾーがその根を渾身の力で受け止める。
 その間にポピーが、根のそばから離れた。
 グリゾーが根から手を離し、退く。
 ウィスピーウッズの根が地面に激突し、激しい音が響いた。
「どうしよう、カービィも、グリゾーも戦ってくれてるのに、僕には何も……」
「ポピー、きみの力を貸して。きみにも、できることがあるよ」
 カービィが立ち上がってポピーの方へ振り向いた。
「僕に?」
「うん、ププ村でダークマターをやっつけた時のこと、思い出したんだ。
 ハートスターがあれば、ウィスピーを目覚めさせることができるかもしれない」
「ハートスター?」
「串刺しだァ!」
 ウィスピーウッズが再び、地中から根を突き出してくる。
 危ういところを跳んで避けるカービィ。
「誰かを大切に思う気持ちを、魔法の力にしたもののことなんだ。
 それがあれば、きっと闇の魔法を破れるよ!」
「僕、魔法なんて使えないよ!」
「殺してくれるゥ!」
 ウィスピーウッズの根が、四方八方からカービィに襲いかかる。
 素早く跳び回ってかわそうとするが、根の1本がカービィに衝突する。
「ああっ」
 カービィが宙を舞い、地面に叩きつけられた。
「だ、だいじょうぶ。念じるだけでいいんだ。
 誰か大切な人のことを思い浮かべながら、僕の剣に力がこもるように、
 念じてみて」
「殺してくれるゥ!」
 再び、大木の根がカービィに叩き付けられた。
 戦士の盾がその重い一撃を受け止める。
「だいじょうぶ。ポピー、きみなら、できる」
「わかった、やってみるよ。グリゾー、君も力を貸して」
「ガオッ」
 ポピーとグリゾーが、カービィのことを想って祈り始めた。
 ハート型の赤い光が2つ、カービィの剣へと吸い込まれていく。
(ありがとう、2人の気持ち、受け取ったよ)
 カービィは襲い来る根をかわしながら走り、
 ウィスピーウッズの正面へと踊り出た。そして勢いよく跳び上がると、
 剣に力を込め、大木の顔面めがけてソードビームを放つ。
 赤みを帯びた光線が、ウィスピーウッズを直撃した。
「グワアァァァァァ」
 ウィスピーウッズが低いうなり声を上げて悶え始める。根の動きが止まった。
 しかし、邪悪な気は完全に消えてはいない。
「そんな、ハートスターの力でも、だめなの?」
 戸惑うカービィ。だが、闇の力は確実に弱まってはいた。
「力が、光の力が足りないんだ……」
 カービィが言った。ウィスピーウッズに邪悪な気が集まり始める。
 このままでは、再び動き出すのは時間の問題だ。
「そうだ、僕にできたのなら」
 ポピーは麻袋から細波の笛を取り出すと、「ハイリアの歌」を吹き始めた。
(みんな、力を貸して、お願い!)

 緑の森 天吹く風
 そして空に 歌おう
 光溢れ 山河も清き
 母なる地よ 豊かに

 しばらくすると、森の茂みの中から動物達が姿を現した。
 ツイジー、ブロントバート、バードン、ヌラフ、スリッピー……。
「あっ、やっぱりさっきの小人さんだ。こんな所で笛を吹いて、どうしたんだい」
 ブロントバートが言った。
「森の奥の嫌な感じが、急にしなくなったね。何かあったのかい」
 バードンが言う。
「カービィが、悪い魔法に操られたウィスピーを止めたんだ。
 でも、魔法は完全には解けてない。それで、ウィスピーを助けるのに、
 みんなの力を貸して欲しいんだ」
 ポピーが、動物達に訴えた。
「どうすりゃいいんだい」
 ブロントバートが尋ねる。
「念じるだけでいいんだ。誰か大切な人のことを想いながら、
 カービィの剣に力がこもるように念じて。お願い」
「よし、わかったよ」
 ブロントバートが言うと、森の動物達が祈り始めた。
 カービィの剣に、再び力が集まってくる。
「グアァァァァ、おのれカービィ!」
 同時に、ウィスピーウッズが再び動き出した。口から突風を吹きつけてくる。
「消し飛べェ!」
「ううっ」
 カービィが足に渾身の力を込めて踏みとどまる。
 ポピーと森の動物達が生み出したハートスターが、メタナイトの剣に結集した。
「カービィ、今だ!」
 ポピーが叫んだ。カービィが強く頷き、剣に力を込める。
 そして、再び全身全霊込めてソードビームを放った。
「はあっ!」
 剣から放たれた赤い光が、ウィスピーウッズの顔面を直撃する。
「グワアァァァァァッ」
 苦しみ悶えるウィスピーウッズ。直後、大木の顔に変化が起こり始めた。
 吊り上った目が丸くなり、大きく裂けた口も小さく丸くなる。
 そして森の長老は、穏やかな声で語り始めた。
「ありがとうカービィ、ポピー。君達がくれた光の力のおかげで、
 今しばらくは正気に戻ることができたよ」
「えっ、どういうこと?」
 カービィが尋ねる。ウィスピーウッズはまだ、苦しそうな表情をしていた。
「司祭の呪いはまだ、解けていないんだ。
 僕の体の中に、司祭が放った魔物が棲みついていて、
 そいつが闇の力を撒き散らしている……。
 カービィ、お願いだ。僕の体内に入って、魔物を倒しておくれ。
 このままじゃ、僕はまた、闇の力に支配されてしまう……意識が……
 もう限界だ、頼む」
「わかった。まかせて。きっと魔物をやっつけるよ」
 ウィスピーが大きく口を開ける。カービィはその中へと飛び込んでいった。

 ウィスピーウッズの内部は非常に広くなっていた。
 いや、カービィが縮んでいるのかもしれない。
 いずれにしても、何か魔法的な力で空間が拡張されているらしい。
 カービィの体に対して、その場所はデデデ城のホールくらいの広さがあった。
 木の匂いのするその場所は、ほのかな明かりに満たされていて、
 物ははっきりと視認できる。カービィは剣と盾を構え、用心深く周囲を伺う。
 天井から、何か動くものの気配がする。カービィが見上げると、
 それは突然、カービィの前に落ちてきた。
 それは、巨大な真っ黒い球体だった。直径はカービィの5倍以上ある。
「これが、魔物?」
 カービィが黒い球体に近づく。すると、球体から4本の細長い脚が生え、
 白く光る2つの目が現れた。
「うわっ」
 カービィが驚いて後ずさる。4本の脚は黒い球体の胴を高く持ち上げた。
 その姿は、巨大なクモのようだった。
〈黒核寄生虫 マリエル〉
(これが、ウィスピーを苦しめていた魔物!)
 クモの魔物、マリエルは、黒い胴体の下部を開き、
 その口のような部分から黒い煙を吐き出した。
「ううっ」
 カービィは後方に退いて煙を回避するが、煙が少し、目と口に入ってしまった。
 卵の腐ったような臭いが感じられた。そして、喉が焼けるように痛み出す。
 目からも涙が溢れた。猛毒だ。まともに吸ったらただではすまない。
 カービィは怪物を煙の外におびき出すと、
 その細長い足に思いきりメタナイトの剣を叩き付けた。
「えいっ」
 しかし、弱々しく見えるその細い脚は鋼のように硬かった。
 剣が弾かれ、金属がぶつかり合うような鋭い音が鳴る。
(剣が、効かない)
 マリエルが2本の前足をカービィに向けて突き出してきた。
 側転して横に回避する。脚の威力は凄まじい。
 2本の脚が叩きつけられた地面から土煙が上がり、2つの穴が開いた。
 カービィは高く跳び上がり、今度は頭上から丸い胴体を狙った。
 しかし、コモの体表面に似た弾性の体が剣を弾く。
 その反発でカービィは弾き飛ばされ、地面を転がった。
 そこに、マリエルが再び脚を突き出してくる。
「うわっ」
 慌てて戦士の盾を構えるカービィ。魔物の硬い脚の先端が盾に当たる。
 凄まじい衝撃だった。何とか持ちこたえ、体を起こして退くカービィ。
(剣じゃ倒せない。どうすれば)
 マリエルが再び黒い毒霧を放つ。毒霧が拡散し、
 毒がウィスピーウッズの体内全体に広がり始めた。
 カービィの目が痛み出す。
 カービィの体は呼吸をしなくても維持できる。
 しかし、目から入ってくる煙は防ぎようが無い。
 このままでは毒にやられてしまう。
「カービィ、カービィ……」
 ウィスピーウッズの声が、カービィの心の中に響いてきた。
「ウィスピー?」
「よかった。通じた。カービィ、あまり長くはもたない。よく聞いてくれ、
 奴の弱点は目だ。そして、奴は光に弱い。光で目をくらませて、
 その隙に目玉を狙うんだ」
「わかったよウィスピー。がんばって、もうすぐ魔物をやっつけるから」
 カービィはボムの能力を発動した。
 そして、水色の帽子の中から爆弾を取り出し、
 マリエルの顔面へと投げつける。爆弾が炸裂し閃光が巻き起こった。
「ギエェェェェェェッ」
 マリエルが鋭い悲鳴を上げて地面に倒れた。カービィは能力をソードに戻し、
 マリエルの左目めがけて斬りかかる。
「はあっ」
 メタナイトの剣が、マリエルの左目に深々と突き刺さった。
「ギエェェェェェッ」
 マリエルが、再び甲高い叫び声を上げる。しかし、まだ終わってはいなかった。
 マリエルは激しく体を震わせてカービィを振るい落とすと、
 素早く逃げていき、壁を登って天井からたくさんの黒い球体を落とし始めた。
 地面に落ちた黒い球体からは4本の脚と2つの目が生じて、
 小型のマリエルになる。
(魔物の子供?)
 カービィは、爆弾と剣で1体1体小さなマリエルを仕留めていった。
 しかし、真っ黒い球体は次から次へと落ちてくる上、目を剣で貫くと、
 あの黒い毒霧を出して消滅する。このままではじり貧だ。
(親玉をやっつけなきゃ)
 迫り来るクモの群れをかわしながら、天井にマリエルの姿を探すカービィ。
 しかし、なかなか見つけられない。
 マリエルの子供の一匹がカービィに跳びかかってきた。
 戦士の盾で脚の一撃を防ごうとするが、逆に盾に取り付かれてしまう。
 やむなくカービィは盾を投げ捨てた。
 なおも、真っ黒いクモの群れがカービィに迫ってくる。
 カービィは毒煙を吸い込むのを覚悟で大きく息を吸い、空中へ浮かび上がった。
 喉の奥が激しく痛み出す。
 クモの子の攻撃が届かない高さから、天井を見上げてマリエルの姿を探す。
 そして、発見した。天井の隅でうずくまっている、真っ黒い球体を。
 カービィは浮かび上がったまま剣に力を込め、
 マリエルに向かってソードビームを放った。光線がマリエルを直撃し、
 閃光が魔物を包む。
「ギェェェェェェッ」
 魔物が地面に落下した。そして、カービィがマリエルの上に降り立ち、
 その右目にメタナイトの剣を突き立てる。
「えいっ」
「ギエェェェェェェェッ」
 直後、マリエルの体は崩れ落ち、青白い光に包まれて消えていった。
 無数の子供も、毒の霧も消滅し、
 ウィスピーウッズの体内から邪悪な気配が消え去った。
「カービィ、聞こえるかい」
 ウィスピーの声が、心に響いてきた。
「うん、魔物、やっつけたよ」
「ありがとう。体の痛みが、すっかり消えてなくなったよ。さあ、出ておいで」
 体内の空間に、大きな穴が開いた。カービィは戦士の盾を回収し、
 その穴に飛び込むと、森の涼やかな空気がカービィを包んだ。
 日はすっかり落ち、空には星が瞬いている。
「カービィ! やったね」
「ガオッ」
 ポピーとグリゾー、そして、森の仲間達が、笑顔で迎えてくれた。
「うん、ポピーのおかげだよ。ありがとう」
 ポピーを優しく抱きしめるカービィ。
「カービィ、ポピー、森のみんな、本当にありがとう。
 ささやかだけど、これはお礼だよ」
 ウィスピーウッズが体を大きく揺らす。すると、大木の上から、
 大きなリンゴの実がたくさん落ちてきた。
「わぁい」
 カービィが喜び勇んでリンゴにかじりつく。まろやかな甘みと、
 ほのかな酸味。ウィスピーウッズのリンゴを飲み込むと、
 毒煙に冒された喉の痛みが、瞬く間に治まっていった。
 ポピー達もリンゴを食べ始めた。皆満足げな表情だ。
「そうだウィスピー、マスターソードのこと、教えてくれないかな」
 カービィがリンゴを頬張りながら言った。
「マスターソードのこと?」
「うん、司祭を倒すのに、マスターソードが必要なんだ。
 今日は、マスターソードのことをウィスピーに聞こうと思ってここへ来たの」
「そうか。そうだね。カービィなら、マスターソードを扱う、
『真の勇者』になれるかもしれない。わかった。
 マスターソードのことを話そう」
 長老の木は、静かに語り始めた。
「マスターソードについて話すには、
 まずトライフォースの伝説と封印戦争の歴史に触れなければならない。
 トライフォースの伝説は、カービィも聞いたことがあるだろう。
 人が現れるはるか昔、混沌として何も無いこの星に、
 3人の女神が降り立ち、それぞれの力で秩序と生命を作り出したという話さ。
 創世記の最初の一節を覚えているかい?

 世に理無く、命未だ形成さず
 混沌の世界に 黄金の三大神降臨す
 即ち
 力の女神ディン
 知恵の女神ネール
 勇気の女神フロルなり
 
 ディン 其の逞しき炎の腕以て
 地を耕し 赤き大地を創る

 ネール 其の叡智を大地に注ぎて
 世界に法を与える

 フロル 其の豊かなる心により
 法を守りし全ての命創造せり

 三大神 その使命を終え
 彼の国に去り行き給う
 神々の去りし地に 黄金の聖三角残し置く
 此の後 其の聖三角を世の理の礎とするもの也
 亦 此の地を聖地とするもの也

 この『黄金の聖三角』っていうのがトライフォースのことだ。
 これは3人の女神がこの世界を去る時に残していった力の象徴で、
 『世の理の礎』。つまり、世界の全てを決定付ける
 ものすごい力があるものなんだ。
 トライフォースが触れた者の願いを叶えるっていうのは、
 何でもできるその力のためっていうわけ。
 そして、このトライフォースが置かれている『聖地』の入口は、
 『神々の去りし地』、つまりこのプププランドにあるんだよ。
 ここまでが、神話の時代の話。
 それから妖精族の時代になって、この聖地への入口が、偶然発見された。
 そして、欲にかられた人々が次々と聖地へ向かっていったんだけど、
 事もあろうにトライフォースを手にしたのは、あの悪魔ゼロだった。
 その時のゼロは、人の姿でこのポップスターに入り込んでいたらしい。
 そして、盗賊団の首領になって聖地の情報を探っていたという話だ。
 トライフォースを手にしたゼロが何を望んだのかはわからない。
 けれど、ゼロの邪悪な力は聖地から溢れ出して、
 このプププランドにも流れ込んできた。そこで妖精族の女王は、
 7人の賢者と騎士団を召集して、ゼロの力に対抗する手段を考えた。
 その中で作り出されたのが、トライフォースをかどわかす魔を撃退する
 『退魔の剣』、マスターソードなんだ。
 しかし大きな問題があった。
 マスターソードは心の強さを力に変える剣だ。
 力と知恵と勇気、その全てを兼ね備えた『真の勇者』でなければ、
 マスターソードの真の力を引き出すことはできなかったんだ。
 そしてゼロとの戦いの時代、『真の勇者』はついに現れなかった。
 それで妖精の女王は、やむなくゼロの打倒を諦め、
 聖地の入口を7人の賢者に命じて封印させたんだ。
 この時の、妖精族とゼロの魔物との戦いが、今に伝わる『封印戦争』ってわけ。
 それと、もう分かってると思うけど、『7人の賢者』っていうのが、
 今『7妖精』って呼ばれてる妖精達だよ。封印戦争で多くの犠牲を払った結果、
 妖精族はほとんど滅びてしまった。
 今では7妖精も含めて、もう数えるほどしか生き残っていない。
 それで、ここからが本題だ。封印戦争の後、
 妖精達は来るべきゼロとの戦いの時に備えて、
 マスターソードをこの森の奥にある『聖域』という場所に安置した。
 僕の立っているこの場所のさらに北に、
 いつも霧に覆われている場所があるだろう。
 そこが、マスターソードが置かれている『森の聖域』なんだ。
 そして、妖精族が建てた3つの神殿で試練を受けて、
 神殿の守護者である3体の魔物を倒し、
 その証である3つの紋章を手にした勇者だけが、
 マスターソードを手にすることができる。
 カービィ、試練に挑む覚悟はできているかい」
「もちろん!」
「よし。じゃあ最初の試練について教えよう。
 マシュマロ城は知っているね。デデデ山の東の窪地を抜けたところにある、
 大臣一家の城だ。あそこの地下が妖精の神殿になっていて、
 3つの紋章の1つ『勇気の紋章』がある。試練を突破できたらまたおいで」
「わかった。ありがとうウィスピー」
 カービィはウィスピーウッズのリンゴをたらふく食った後、
 ポピーと共にグリーングリーンズの森を後にした。

「今日は本当にありがとう。またね」
 森の入口で、ポピーがグリゾー達に別れを告げる。
「ガオッ」
 グリゾーが笑顔で応えた。
「またいつでもおいで。ポピー、カービィ。君達はこの森の友だ」
 大鳥のバードンが言った。
「また、あの笛の音色を聴かせておくれ」
 と、ブロントバート。
「うん、もっと上手に吹けるようになるよ」
「みんなありがとう。またね」
 ポピーとカービィが手を振る。そして2人は、ププ村への帰途に就いた。
 満天の星が、グラスランドの夜空を瑠璃色に照らしている。
「ふぅ、すっかり遅くなっちゃったね」
 カービィが息をついた。
「そうだね。兄ちゃん怒ってるかなぁ」
 木製のアーチ門を抜けて、再びププ村へ。
 星のかけらの街灯が淡い光で照らす道を通り、
 2人は村の南の外れにある、ポピー兄弟の家へと赴いた。
 ポピーが玄関の扉を開く。
「ただいま……」
「ジュニア!」
 ポピーの兄が、玄関に駆け寄ってきた。
「ジュニア、よかった、ちゃんと帰ってきて。
 さてはお前、また森で遊んでたんだろ。心配してたんだぜ」
 弟の体を、そっと抱きしめる兄。
「ごめんね、兄ちゃん」
「お前、傷だらけじゃないか。まさか、盗賊や怪物に襲われたんじゃ……」
「うん。でも、カービィが助けてくれたんだ。盗賊も怪物も、
 みんなカービィがやっつけてくれたんだよ」
 ポピーの兄は、弟の後ろに立つカービィの方を見た。
「ありがとな、カービィ」
「うん。僕も、ジュニアにたくさん助けてもらったんだ。
 だから、あんまりジュニアのこと、怒らないであげてね」
「そっか。まあ、とりあえずカービィも入ってくれよ。
 これから風ヶ丘の家まで帰るのは難儀だろ。今日はうちに泊めてやるからさ」
「ありがとう、ポピーシニア」
 ポピーシニアは弟とカービィを居間に通し、
 2人に温かいココアを入れた。カービィは、
 この日森であったこと、マスターソードと3つの紋章のことを話した。
「ほう。またお手柄だったな、カービィ」
「えへへ。ジュニアのおかげだよ」
「ねえ兄ちゃん、カービィのおかげで、
 グリーングリーンズも平和になったんだ。また、森へ行ってもいいよね」
「そうだな。ただ、このご時勢だ。
 いつどこに悪者や司祭の手先が出てくるか知れたもんじゃない。
 村の外に出る時は、しっかり気をつけるんだぞ」
「うん」
「今度、お前にも飛び道具の使い方を教えてやるよ。
 とりあえず、小人族の戦士としちゃあ、
 爆弾とブーメランくらいは使えるようにならなきゃな」
「がんばるよ。ねえカービィ、僕が一人前になったら、また一緒に冒険しようね」
「うん、約束だよ」
 カービィがポピーの手を取って上下に振ってみせる。
 指はないけど、指きりのつもり。
「お前らほんとに仲がいいな〜。そうだ、一つ教えてやろう。
 冒険の心得その4、『暗中道あり、勇者友あり』だ」
「どういうこと?」
 ポピージュニアが尋ねる。
「どんな大変なことにも乗り越える手段はある、
 勇気ある者にはいつも友達がいるってことさ」
「いい言葉だね」
 カービィが言った。
「古い時代の冒険者が残した格言の1つだ。ジュニア、カービィ、
 これからも色々大変なことがあるだろうが、仲間を信じてがんばれよ。
 俺も応援してるからさ」
「うん、ずっと友達だよ、カービィ」
「ありがとうポピー」
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