リラさんの小説

【リボンの伝説 神々のトライフォース】第4章 始まりの森


 第4章 始まりの森

 ププ村の北、グラスランド地方の北西部に広がる、グリーングリーンズの森。
 この森の奥には、人語を話すリンゴの大木が立っている。
 その木の名はウィスピーウッズ。グリーングリーンズ最古の木である彼は、
 プププランド一の賢者だ。ププ村の人々には「森の長老」として慕われている。
 カービィは「退魔の剣」マスターソードを手に入れる術を聞くため、
 この森へウィスピーウッズを訪ねにやってきた。
「のどかだなぁ」
 森の澄んだ空気を一杯に吸い込むカービィ。
 大木の生い茂る森の中は、変わらぬ静けさを保っていた。
 木漏れ日が風に揺らぐ。枝ずれの音と、鳥達の歌声だけが、
 緑の帳の中を包んでいた。
 森の小道を歩きながら、カービィは歌い出す。
 
 行こう 星の彼方へ 新しい世界へ
 夢の翼広げて どこまでも行こうよ 手と手繋いで
 深い闇が立ち込めても 一緒なら飛んでゆける
 涙の海も越えて行こう 輝く未来信じて

 その名も「グリーングリーンズ」という古い歌だ。
 楽曲自体は妖精の時代以前からあったと言われ、
 もとはこの森の豊かさを賛美する音楽だったらしい。
 それにいつしか歌詞がつけられ、
 今では友情の歌としてプププランドの住人達に親しまれている。
 カービィの声に応えるように、森の奥から歌の続きが聞こえてきた。

 進め 虹の彼方へ 果てしない世界へ
 星の海を渡って どこまでも行こうよ 二人一緒に
 心震えるその時は 二人で星天(そら)に歌おう
 絶望さえも越えてゆける 君と一緒になら

(この声は)
 聞き覚えのある声だった。小さな男の子のような、はつらつとした声。
 その主は、ほどなくして森の茂みから姿を現した。
 熊のグリゾーの背に乗った、水色の三角帽子の少年。
「やあ、カービィ」
「ポピー!」
 カービィが少年に駆け寄る。
「久しぶりだね、カービィ。元気にしてたかい」
「うん。きみも元気そうでよかったよ」
 彼の名はポピージュニア。ププ村に住む小人族で、ポピー兄弟の弟だ。
 彼もまた、カービィの友人の一人だった。
「昨日は騎士団の連中をやっつけてくれてありがとう。
 君は今、司祭を倒すために戦っているんだってね。
 兄ちゃんや村の人達から聞いたよ」
「そうなんだ。今日はそのために、ウィスピーウッズに会いに来たんだよ」
「じゃあ、ウィスピーのところまで一緒に行こうよ。
 僕、森の奥へ抜ける近道を知ってるんだ。
 道々、城での冒険のこと、聞かせて」
「うん!」
 カービィはポピーの乗るグリゾーの背中に飛び乗った。
 グリゾーがゆっくりと森の茂みの中を進み始める。
 グリゾーの背の上で、カービィはこれまでの冒険のことをポピーに話した。
 デデデ城からリボンを助け出したこと。仲間達と力を合わせて、
 ダークマターをやっつけたこと。そして、これから伝説の聖剣、
 マスターソードを手に入れなければならないこと。
 その剣を手に入れる方法を聞くため、
 この森にウィスピーウッズを訪ねに来たこと。
「そっか。何だか大変そうだね。今の僕には何もできないけど、
 カービィのこと応援してるよ。マスターソード、手に入るといいね」
「ガオッ」
 2人の足元で、グリゾーが笑った。
「グリゾーも、カービィに『がんばれ』って」
「うん、ありがとうポピー、グリゾー」
 森に咲く白い花が、微笑む2人と1匹を見守っていた。
 グリゾーは森の中を、さらに奥へと進んでいく。涼やかな秋の風が、
 ほのかに甘い花の香りを運んで来る。
「ほんとはね、もう森で遊ぶなって兄ちゃんに言われてるんだ。
 最近この森も物騒だからって」
 ポピーは小さな麻袋を取り出すと、
 その中から米粒くらいの小さな木の実を両手一杯に盛った。
 そしてその手をグリゾーの背の上に広げると、
 どこからともなく三羽のツイジーが飛んで来る。
 ツイジー達はグリゾーの上に降り立つと、
 ポピーの手元に集まって木の実をついばみ始めた。
「でもね、グリゾーやこの子達に会いたくて、やっぱり森に来ちゃうんだ」
「みんな、いい子だもんね」
 しばらく森の中を進んでいくと、開けた場所に出た。
 その中央には、大きな切り株がある。
「ここでちょっと一休みしようか」
 ポピーが言った。カービィとポピーは大きな切り株に腰かけ、
 グリゾーがその傍らに座る。
 ポピーは先ほどと別の麻袋から、ガラスの小瓶を取り出した。
 その中には、黒く熟れた野いちごの実が入っている。
「この森で採ったんだ。一緒に食べよ」
「わぁい」
 ポピーはいちごの実をカービィとグリゾーに分け、皆で一緒に食べた。
「甘くて、おいし〜」
 満面の笑みを浮かべるカービィ。
「えへへ、いいでしょ」
「ガオッ」
 グリゾーも満足げな表情。小さなガラス瓶の中身は、あっという間になくなった。
「そうだ、カービィ、面白い物を見せてあげるよ」
 ポピーは麻袋の中から、瑠璃色に光る大きな巻貝の殻を取り出した。
「わぁ、きれいな貝殻。どこで見つけたの?」
「こないだ兄ちゃんとフロートアイランドへ行った時、
 海辺の洞穴で見つけたんだ。これ、ただの貝殻じゃないんだよ」
 ポピーは、巻貝の細くなっている方に開いた穴に唇を当て、息を吹き込む。
 すると、貝が縦笛のような音色を発した。
「音が鳴るんだね。きれいな音。リコーダーみたい」
「そうなんだ。それもね、息の吹き込み方によって違う音が鳴るんだよ」
 ポピーは貝殻の笛を使って楽曲を奏でた。
 それは、森を吹き渡るそよ風を思わせるような調べであった。
「すごい、上手上手! その曲、何て名前?」
「『ハイリアの歌』っていうんだよ。
 この前、ウィスピーがこの曲を教えてくれたんだ。
 妖精の時代よりももっと前に、銀河の果ての、
 どこか別の星から伝わってきたんだって。いい曲でしょ」
「うん。何だか、優しい感じだね」
「歌詞もついてるんだよ」
 ポピーは歌い始めた。

 緑の森 天吹く風
 そして空に 歌おう
 光溢れ 山河も清き
 母なる地よ 豊かに

「素敵な歌だね」
「うん、きっとこの歌を作った人が住んでた星は、
 とってもきれいなところだったに違いないよ」
 森の木々の中から、カービィ達のもとにたくさんの動物達が集まってきた。
 小鳥のツイジー、ブロントバート、大鳥のバードン、
 猪のヌラフ、カエルのスリッピー……。
「あれ、みんなどうしたんだい?」
 ポピーが呼びかけた。
「さっきの笛と歌、もう一回聞かせてくれないかい?」
 一羽のバードンが言った。
「ありゃこないだウィスピーが歌ってた曲だろ。
 あの曲を聴くと、何か不思議と懐かしいような気分になってさぁ」
 そう言ったのはブロントバート。それに続けて、
 ツイジー達がピヨピヨと鳴いた。
「ガオッ」
 グリゾーも、何かを期待しているようだ。
「みんな、さっきの歌をもう一度聞きたいんだって」
 と、カービィ。
「嬉しいな。じゃあ、僕が貝を吹くから、みんなで歌って。カービィも歌ってよ」
「うん!」

 緑の森 天吹く風
 そして空に 歌おう
 光溢れ 山河も清き
 母なる地よ 豊かに

 ポピーの笛の音色と、カービィ達の歌声が、
 森の広場の中を高らかに響き渡る。吹き渡る秋風が、その音楽を運んでいった。
「ありがとうね。小人さん、素敵だったよ」
 ポピーの周りを飛び回るブロントバート。
「えへへ、みんなの歌も、素敵だったよ」
 ポピーが言った。
「森の演奏会だね」
 と、カービィ。
 暖かな昼下がりの日差しが、森の小さな広場を満たしていた。
 だが、のどかな森の集会は突然に終わりを迎えた。
 動物達が茂みの中に姿を消していく。
「あれ、みんなどうしたんだい」
 ポピーは急に不安になった。森の奥から、何か嫌な感じがした。
「やばいよ、小人さん、あんたも逃げな。あいつらがやってくるよ」
 ブロントバートが焦った表情で言う。
「あいつらって?」
 ポピーがそう尋ねようとした時には、ブロントバートは飛び去っていた。
「グルルルル……」
 グリゾーが立って身構える。
「気をつけて、何か来るよ」
 カービィも剣と盾を手にした。
 敵は森の奥から、9人の集団で現れた。黒い頭巾をかぶり、
 緑の風呂敷を背負った、猫のような生き物達。
 その両手は、ポピーの体と同じくらいの大きさがあった。
「ケッケッケッ、今日もいいカモが入り込んでやがるなぁ」
 盗賊の1人が、カービィ達を睨んで笑い声を上げた。
「と、盗賊だ」
 ポピーが、カービィの後ろに隠れる。カービィは剣を握る右手に力を込めた。
「おかしら、あのピンクの丸々、例の賞金首ですぜ。80万ゴールドでがす」
 先頭に立つ盗賊の首領に、配下の盗賊が言う。
「ケッケッケッ、相手に不足はねぇな。さあて、仕事にかかるとするか。
 覚悟しな、水色坊主とピンクの丸々!」
 盗賊の首領が言い放った。盗賊がカービィ達に襲いかかる。
「えいっ」
 走り寄ってきた一人にめがけ、カービィが剣を振りかざした。
 しかし、盗賊は素早く跳び上がって剣をかわすと、
 その後ろから別の盗賊が、カービィに鋭い蹴りを浴びせた。
「うわっ」
 草の上に転がって倒れるカービィ。
「カービィ!」
 ポピーが叫ぶ。そのポピーの体を、盗賊の巨大な手が掴んだ。
 ポピーの手から離れた青い貝殻を、別の盗賊が拾っていく。
「わっ、やめろっ、は、放せっ、カービィー!」
「ポピー!」
 カービィがすぐさま立ち上がってポピーの方へと向かっていく。
 だが、ポピーを掴んだ盗賊は風のような速さで森の奥へと逃げ去っていった。
 その盗賊を追いかけようと、走り出すカービィ。
 しかし、カービィの前に盗賊の首領が立ちはだかった。
「おおっと、逃がしゃしないぜ、ピンクの丸々」
 盗賊の首領が、大きな手を胴体から分離させ、カービィに掴みかかる。
 跳び上がってその手をかわすカービィ。しかし空中に浮かび上がったところへ、
 左右から2人の盗賊が追撃をかけてきた。
 右から跳びかかってきた盗賊には剣の一撃を見舞い、
 左から伸びてきた盗賊の拳は盾で防ぐ。
 危ういタイミングだった。着地して体勢を立て直す。
 少しずつ盗賊達の動きが読めてきた。
 四方八方から飛んで来る盗賊の手をかわしながら、
 カービィは少しずつ盗賊達を追い詰めていく。
 傍らではグリゾーも戦ってくれている。彼の拳の肉球が、
 1人の盗賊の頭を殴りつけた。
「ぐあっ、痛えっ……このクマがあっ」
 盗賊が、グリゾーに大きな手を伸ばしてきた。
「えいっ」
 カービィがその手を、水平に両断する。
「ぎゃっ!」
 盗賊の手が、真っ二つに切り裂かれて消え去った。
「この野郎っ」
 別の盗賊が跳び上がり、カービィに蹴りかかってきた。
 しかし、戦士の盾がその攻撃を防く。跳ね返った盗賊めがけて、
 カービィがソードビームを放つ。
「ぎゃああああああ」
 盗賊が、激しい衝撃を受けてもがいた。
「くそっ、こいつ強えぞ」
 別の盗賊の1人が毒づく。
「ケッケッケッ、伊達に賞金首じゃねえってことか。
 面白え、このタック様が直々に引導を渡してやるよ! これでも喰らいなっ!」
 盗賊の首領、タックがカービィの前に立ちはだかり、
 素早く右の拳を飛ばしてきた。危ういところで横に跳んでかわすカービィ。
 しかし、そこにタックの本体が飛びかかってくる。
 タックの足がカービィの体を捉えた。
「わあっ」
 カービィが弾き飛ばされて地面を転がった。そこにタックの右手が伸びてくる。
「おらぁ」
 すぐさま立ち上がり、剣を構えるカービィ。
 迫り来るタックの手を切り落とそうとする。
 しかし、タックの右手は剣の間合いから退き、
 直後に死角から左手が伸びてきた。とっさに盾で手を防ぐ。
(このままじゃもたないよ。どうしたら)
 その時、カービィは気づいた。タックら盗賊達が手を飛ばしてくる時、
 本体は割と無防備になっている。手を伸ばしてきたところに、
 胴体を狙うことができれば。
「おらおらぁ」
 タックが右手を飛ばしてくる。盾を構えつつ横に跳んで避けるカービイ。
 次は左手が飛んで来るはずだ。案の上、着地点に左の拳が突き出された。
 剣に力を込めつつ地面を蹴り、今度は上に飛び上がってかわす。
 そして空中から剣を一閃、ソードビームを放つ。
「なにっ!」
 タックが慌てて後方に退いた。しかし、その動きを読んだカービィが、
 続けざまにもう一発光線を撃つ。さすがのタックも、これは避けられなかった。
「うおっ、ぐがあぁぁぁぁぁっ」
 タックの体を、激しい衝撃が襲う。
 次の瞬間、盗賊の首領は草地の上に崩れ落ちていた。
「さあ、ポピーを返して」
 カービィが、タックに剣を突きつける。
「ケッ、甘いな。これで勝ったと思うなよ丸々」
 タックは背後の風呂敷に素早く手を入れ、
 何か丸いものを取り出してカービィに投げつけた。
 慌ててそれをよけるカービィ。しかし、地面に落ちたそれは炸裂し、
 真っ白い煙を辺り一面に広げてカービィの視界を塞いだ。
(煙幕! しまった!)
 盗賊達の足音がする。咳き込みながらも彼らを追おうとするカービィ。
 しかし、彼らの姿をとらえることができない。
 煙が晴れた時、盗賊達は完全に姿を消していた。
「ポピーを、助けなきゃ」
「ガオッ」
 グリゾーが、気合のこもった目でカービィに呼びかけた。
 そうだ。グリゾーならきっと、盗賊達の匂いをたどって、
 ポピーの元へと連れて行ってくれる。カービィはグリゾーに強く頷き、
 その背に飛び乗った。
 グリゾーが盗賊達の匂いを注意深くたどり、森の奥へと進んでいく。
 すると、森の東側の茂みの中で、地上に不自然な穴が開いている場所を発見した。
「きっと、ここが盗賊達の隠れ家だね」
「ガオ……」
 小さな穴だった。グリゾーは通れそうにない。
「待っててグリゾー、きっとポピーを助け出してみせるから」
 カービィは、穴の中へと飛び込んだ。
 地下洞窟の中は意外に広くなっている。
 入口の穴から西側に向かって横穴が開いており、
 壁には星のかけらの灯篭がかけてあった。
 カービィはその明かりを頼りに、洞窟の奥へと進んでいく。
 通路には至る所に、木箱や樽などが置いてある。
 盗品を入れておくものだろうか。試しにそれらのいくつかをのぞいてみたが、
 武器として使えそうな物は入っていなかった。
 曲がりくねった通路をしばらく進むと、奥に明るい場所が見えてきた。
 話し声が聞こえる。ここがきっと盗賊達の部屋だ。
 カービィは部屋の入口近くに置かれた大きな木箱の陰に隠れ、様子を伺った。
「やれやれ、今日の獲物はとんだスカでがしたねぇ、おかしら」
「ケッ、全くだ。これだけ苦労して、収穫がこの水色坊主だけだとはなぁ」
 部屋の一番奥にタックが座して、
 何か真っ赤な液体の入ったグラスを飲み干している。
「そうでもないでがすよ。水色坊主が持ってたこの貝殻、
 こいつは妖精時代の遺物ですぜ。『細波の笛』って代物でがす。
 こいつぁ闇市に売っ払えば、8万ゴールドは下らないでしょうよ」
 盗賊の1人が、ポピーの青い貝殻を手にして言った。
 その傍らには鉄の檻が置かれ、中に縛られたポピーが囚われている。
「ほお、そいつそんな物持ってやがったのか」
「それに、この坊主も司祭の野郎に売っ払えば、
 いくらかの金になるでがしょうしねぇ」
「しっかし、司祭の奴、奴隷なんざ集めて何に使うつもりなんでがしょう?」
「さあな。噂じゃあ、召し使いとしてこき使ってるとか、
 怪しげな儀式で生け贄にするとかって話だ」
「気色悪い奴でがすねぇ」
「ケッケッケッ、まあ、その悪趣味のおかげで俺達にしてみれば、
 労をせずして金が手に入るというわけよ」
「全くでがす」
 ケッケッケッという盗賊達の笑い声が、洞窟内にこだまする。
「おらおらぁ、飲むぞぉ〜、トマトジュース持ってこ〜い! ケッケッケッケッ」
 タックがグラスを手にして高笑いを上げた。
(ポピーを司祭に売るなんて、させない)
 カービィはボムの能力を発動した。帽子の色が緑から水色に変わる。
 そして、帽子の中から火のついた爆弾を数個取り出すと、
 盗賊達の部屋へと次々に投げつけた。
「なっ、爆弾?」
「敵だ! 気をつけろ!」
 盗賊達が部屋の隅に退避する。直後、部屋の中央で爆弾が爆発した。
 粉塵が部屋の中を満たす。カービィはこの隙に素早く部屋の中に進入した。
「くっ、おかしら、さっきのピンク玉でがす!」
 1人の盗賊が、煙の中でカービィの姿を捉えた。
「畜生! ここを嗅ぎ付けやがったか!」
 タックが毒づく。カービィは声のした方向へさらに爆弾を放り投げた。
 それをよける盗賊達。しかし、炸裂した爆弾が粉塵を巻き起こし、
 さらに盗賊達の視界を奪う。
「げほ、げほっ、くそがっ」
 カービィは能力をソードに戻した。
 そして、メタナイトの剣を渾身の力で振るって鉄の檻を破壊し、
 囚われていたポピーを救出した。
「ポピー、だいじょうぶ?」
 カービィが、剣でポピーの縄を切る。
「カービィ、よかった。僕はだいじょうぶ」
「さあ、逃げよう」
 カービィがポピーの手を取って走り出す。
「逃がすな! 追え!」
 タックが盗賊達に叫んだ。
 薄暗い通路を東へ走っていくカービィとポピーを、
 盗賊達が追いかけてくる。天井から地上の明かりが見えてきた。
 だが、盗賊達の方が素早い。出口にたどりつく前に、
 盗賊達に回りこまれてしまった。
「おおっと、ここまでだ」
「逃がしゃしないぜ、丸々」
 カービィの前に立ちはだかった2人の盗賊が言った。
 後ろにはタックと、6人の手下達。
「ど、どうしようカービィ」
 ポピーが不安を目に浮かべる。
「だいじょうぶだよ、絶対、守るから」
 と、カービィ。
「さあて年貢の納め時だ丸々。やっちまえ野郎共!」
 タックが言い放った。8人の盗賊達が一斉に襲いかかってくる。
「ポピー、伏せて」
 カービィが剣に力を込めながら言った。ポピーが地面に伏せ、
 メタナイトの剣が橙色の輝きを増していく。
 カービィは盗賊達を限界まで引き付けると、
 剣を水平に構えたまま体を高速で回転させた。
「しえぇぇぇぇっ」
 メタナイトの剣が真空波を巻き起こし、次々と盗賊達の体を引き裂いていく。
 カービィの必殺技、「回転斬り」だ。
「ぎやあぁぁぁぁぁっ」
 盗賊達の悲鳴が響き渡る。
 直後、カービィの周囲には8人の盗賊が傷を負って倒れていた。
「ケッ、揃いも揃って甲斐性無しが……」
 盗賊達の後方でタックがつぶやいた。
 そのタックに、カービィが再び剣を突きつける。
「さあ、年貢の納め時だよ。もう人を襲って物を盗むなんて、やめて」
「こうなっちゃ仕方ねぇな。あんたの言う通りにするぜ丸々」
 タックが両手を上げた。
「ほんとだね」
「ああ」
「よし。じゃあ行こ、ポピー」
「うん」
 ポピーと共に、盗賊の隠れ家を後にしようとしたカービィ。しかし……。
「……なぁんて、言うと思ったか?」
 カービィが背を向けた瞬間、タックがその巨大な手をカービィに伸ばしてくる。
 タックの手はカービィの体をすり抜け、体内を抉った。
 カービィの体の中で、タックの大きな拳が握り締められる。
「あああああああっ!」
 身を締め付けられるような痛みがカービィを襲った。
「カービィ!」
 ポピーが叫ぶ。
「ケッケッケッケッケ。見せてやるよ。俺様の本当の力を」
 タックの手がカービィの体から引いていく。
 その手には、黄色く光る星のようなものが握られていた。
 星はタックの手の中に吸い込まれて次第に小さくなり、消えていく。
 カービィは地面に倒れ伏した。
 すぐさま立ち上がってタックに対峙するカービィだったが、
 その右手からはメタナイトの剣が失われ、頭の三角帽子も消え去っている。
「あっ、剣が……」
 カービィはソードの能力を発動し直そうとした。
 心の奥から、メタナイトの剣の記憶を呼び起こそうとする。
「あれ、おかしいな。あれ、あれ?」
 剣も緑色の三角帽子も、姿を現さない。
 カービィは呆然とした。カービィの心から、
 全ての能力の「記憶」が失われていた。
 カッターもボムも、使えなくなっている。
「ケッケッケッ、丸々、あんたの能力、頂いたぜ」
「コピー能力を? そんな、まさか」
「そのまさかだ。あんたが隙を見せるのを、ずっと待ってたぜ。
 俺様のこの『盗みの手』は、ブツだけでなく、
 他人の持つ能力の『記憶』を奪うことができるのさ」
「『記憶』を奪う……?」
 カービィのコピー能力は、飲み込んだものに宿っていた「記憶」、即ち、
 何かに対する強い想いを読み取って発動する。生き物を飲み込めば、
 その者が得意とする技を習得でき、道具を飲み込めば、
 持ち主や作り主がそれに込めた想いに従って、
 その道具の複製品を生み出すことができる。
 だが、「記憶」がなければコピー能力は使えない。
 長い間使わなかったコピー能力が次第に使えなくなってしまうのは、
 カービィの心から飲み込んだものの「記憶」が失われてしまうからだ。
「あんたのコピー能力と似たようなもんだ。奪った能力は、
 自分のものとして使える」
 タックは右手の中に黒い爆弾を出現させると、カービィに投げつけてきた。
「うわっ」
 ポピーの手を取って跳び上がり、爆弾をよけるカービィ。
 爆弾が目の前で炸裂した。
「ケッケッケッ、それだけじゃねえぞ。奪った記憶の持ち主の姿に、
 変身することもできるんだ」
 タックが左手で顔に触れると、黄色い帽子の小人の姿になった。
 もう一度顔に触れると、今度はカッターを頭に載せたサーキブル兵の姿になる。
「おっ、こいつは面白ぇ『記憶』があるなぁ」
 タックがもう一度左手で顔に触れる。すると彼は、
 右手に橙色の剣を携えたメタナイトの姿になった。
「メ、メタナイト卿の姿だ」
 ポピーが驚いて言った。
「あんたのオレンジ色の剣、どっかで見たと思ってたら、
 騎士団長のくそったれの剣だったのか。こいつは面白ぇ、
 あいつには散々煮え湯を飲まされたからな。
 この剣でてめぇをあの世に送ってやろうじゃねえか!」
「ポピー、下がって!」
 カービィがポピーを穴の隅へ逃がす。タックが斬りかかってきた。
 すかさず戦士の盾を構えるカービィ。激しい金属音が響いた。
 剣を受け流したカービィが後ろに退くが、
 そこにタックが剣を振りかざして衝撃波を放ってくる。
 側転して横に避けるカービィ。洞窟の壁が鋭く切り刻まれた。
「ケッケッケッ、こいつはすげえ、人間離れした剣の技の記憶が、
 次々と頭に流れ込んでくるぜ」
 タックが地面に勢いよく剣を突き立てた。鋭い衝撃が地面を走り、
 カービィに向かってくる。飛び上がってその攻撃をよけるが、
 そこにまた衝撃波が飛んできた。今度は盾を構えて防ぐが、
 体を後方へ弾き飛ばされる。
 そこに、タックが剣を構えて回転しながら跳んできた。
「おらおらおらおらあっ」
 タックの剣から発せられる真空波が渦を巻き、
 竜巻のようになってカービィに向かってきた。
 メタナイトの必殺技、「マッハトルネイド」だ。
 カービィが真空の渦に巻き込まれ、舞い上がっていく。
「うわあぁぁぁぁぁっ」
 カービィは天井に激突し、地面に落下した。
 そこにタックがとどめの一撃を与えようと迫ってくる。
 倒れたまま戦士の盾を構え直し、
 振り下ろされたタックの剣を受け止めるカービィ。
 そして、起き上がると同時に後方へ宙返りし、
 タックへ下から鋭い蹴りを入れた。
「えいっ」
「うおっ」
 タックが後方へと弾き飛ばされる。その姿が一瞬、タック本来のものに戻った。
「くそっ、しぶとい奴め」
 メタナイトの姿に戻ったタックが、地面に剣を突き立てる。
 その瞬間、激しい竜巻が巻き起こり、カービィは吹き飛ばされた。
「うわあっ」
 壁に衝突するカービィ。そこに、タックが剣を突き出して飛んでくる。
「くたばれ丸々!」
 危ういところで横に跳んで剣をかわした。
 タックの剣が、洞窟の壁に深々と突き刺さる。
「ケッ」
 タックが剣を引き抜き、再び向かってくる。
 カービィには体術の心得もあった。だが、素手でメタナイトを倒すのは無理だ。
 このままでは、いずれあの剣の餌食になってしまう。
 タックを吸い込めば能力を取り戻せるかもしれない。
 だが、吸い込みは隙が大きすぎる。恐らくはそれもできない。
(さっきみたいに、元の姿に戻ったところを、狙うしかない)
 だが、どうやってその隙を作るか。敵の攻撃を回避するだけでも大変な状況だ。
 そうそう攻勢には回れない。
 タックが剣を振り下ろしてくる。
 メタナイトの剣と戦士の盾が再びぶつかり合い、鋭い金属音が響いた。
「そろそろ観念しなぁ!」
「僕は負けない! 絶対、負けないもん!」
 カービィの盾に剣を押し付けていたタックが、一瞬体勢を崩した。
「うおっ、何だ」
「カービィ、今だ!」
 ポピーだった。タックの背後に回りこんだポピーが、
 その手を押さえつけている。
(ポピー、ナイス!)
 カービィはすかさず、近くに倒れていた盗賊を口に含むと、
 タックに向かって吐き出した。星型弾と化した盗賊が、
 タックに向かっていく。
「この野郎っ」
 慌ててポピーを振り払うタックだが、遅すぎた。星型弾が激突し、
 激しく後方に弾き飛ばされる。タックは元の姿に戻った。
(今だっ!)
 カービィが走り寄ってタックを吸い込み、飲み込む。
 デデデ城で拾ったカッターの記憶が、ププ村で手に入れた爆弾の記憶が、
 そして、メタナイトに託された剣の記憶が、カービィの心に戻ってきた。
 カービィは再びソードの能力を発動し、緑色の三角帽子をかぶった姿に戻る。
 右手には、橙色に輝くメタナイトの剣。
「やったね、カービィ!」
 ポピーが駆け寄ってくる。一見気が弱そうに見えるが、
 実はとても勇気のある彼。今回も、その心意気に助けられた。
「うん、ありがとうポピー」
 満面の笑顔でハイタッチする2人。
「ぎやあぁぁぁぁぁ、助けてくれー」
 カービィの心の中に、タックの叫び声が聞こえてくる。
 こうして、グリーングリーンズの森の盗賊団は壊滅した。

 数分後の地下洞窟。星のかけらの淡い明かりの中で、
 タックら9人の盗賊は、ピンクの丸々の前にひざまずいていた。
「参りやした。あっしらは今度こそ、盗賊家業から足を洗いやす。
 盗んだブツも全部返しやす。ほんと、すんませんでした」
 カービィのよだれにまみれて、無残な姿になったタックが、涙ながらに言った。
 手下達が「すんませんでした」と続ける。
「もう、悪いことしちゃだめだよ」
 カービィが言った。
「へい」
 と、タック。
「これもお返ししやす」
 盗賊の1人が、細波の笛をポピーに手渡した。
「これで、一件落着だね」
 と、カービィ。
「うん。じゃあ、ウィスピーのところへ行こうか。すっかり遅くなっちゃったね」
 ポピーが、笛を麻袋の中に収めた。
「ちょっと待ってくだせえ、あんさん達、森の長老の所へ行くんでがすか」
 タックが驚いた様子で尋ねた。
「うん。マスターソードのこと、聞きに行くの」
 カービィが答える。
「なら、しかと気をつけることでがす。
 近頃、長老の木の近くはひどく嫌な感じがするんでがす。
 怪物も出るもんで、あっしらでもうかつに近づけないんでさぁ」
「ウィスピーの近くに?」
 カービィが言った。
「ええ。最近あの木を見たって奴の話じゃあ、
 何かに取り憑かれたような恐ろしい形相だったとか」
「わかった。ありがとう。気をつけるね。じゃあ、行こうかポピー」
「うん」
 盗賊の隠れ家を後にするカービィとポピー。
 そして、2人は再びグリゾーの背に乗ると、森の奥へと進んでいった。
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