リラさんの小説

【リボンの伝説 神々のトライフォース】第3章 ププ村の財宝


 第3章 ププ村の財宝

 かくして、横暴を働いていた司祭配下の騎士団は去り、
 ププ村に束の間の平和が訪れた。戦いに疲れたカービィはこの日、
 ワドの家で一晩を過ごすことにする。そして次の日、
 村にはもとの活気が戻っていた。
「うーん、おいしい」
 村の人々で賑わう、朝の「白き翼の広場」。前日、激戦が行われたこの場所で、
 カービィはワドと一緒にのんびりとサンドイッチを食べていた。
 通りの露店で買った、マキシムトマトを挟んだ逸品である。
「今日は、ウィスピーウッズのところに行くのかい」
 ワドが尋ねた。
「うん、そのつもり。マスターソードのこと、聞いてこなくちゃ」
 大きなサンドイッチを頬張りながら話すカービィ。その傍らには規制線が張られ、
 前日ダークマターが破壊した石畳の復旧工事が行われていた。
「おーい、ここだー、石持ってこーい」
 作業に従事するキャピィ達は、キノコの帽子の代わりに「安全第一」と
 書かれた黄色いヘルメットをかぶっている。
「ねえカービィ、司祭を倒すための旅、僕も一緒に行かせてくれないかな?」
 ワドが言った。
「ありがとう。でもね、ワド達にはこの村にいて欲しいな。
 いつまた司祭の手下やダークマターがやって来るかわからないから。
 司祭をやっつけるまで、この村を守っていて欲しいんだ」
 ワドは少し残念そうな顔をしたが、カービィの頼みを聞き入れてくれた。
「わかった。他のみんなにもそう伝えておくよ」
「ありがとうワド」
「カービィがいなくても、悪魔達と戦えるようにしなくちゃね。
 村の魔法使い達にも相談してみるよ。
 ハートスターの力を込めた武器が作れないかどうか」
「うん、お願い」
「森へ行く前に、この村でしっかり冒険の支度を整えていくんだよ。
 最近グリーングリーンズの森にも盗賊や怪物が出るらしいから」
「わかった。そうするよ」
 2人が話をしていると、1人のキャピィが、カービィ達の前を通りかかった。
 古ぼけたベレー帽をかぶり、杖を手にしている。
「あ、村長、おはよう」
 ワドがキャピィに声をかける。キャピィはププ村の村長だった。
「やあワド、それにカービィ。昨日は騎士団の連中を追い出してくれて
 ありがとうな」
「村長さんはだいじょうぶ? 兵士達に変なことされなかった?」
 カービィが尋ねる。
「ああ、まあ危害を加えられはしなかったがね、
 カービィをかくまってるんじゃないかとか疑われて、家中ほじくりかえされたよ。
 おかげで片付けが大変だった」
「ごめんね」
「カービィが謝ることじゃあない。悪いのはあの司祭だ。
 昨日の晩クーから聞いたよ。あやつ、毛虫も潰さぬような顔をして、
 何でもゼロを復活させようとしてるって話じゃないか。とんでもないことだ」
 村長が声を荒らげる。外れそうになった入れ歯を、指先で整える村長。
 カービィは「毛虫」という言葉を聞いて背筋が寒くなった。
「村長、そりゃ『虫をも殺さぬ』じゃ……」
 ワドが突っ込む。
「コホン。ともかくだ。わしらププ村の住民はみんなカービィの味方だよ。
 昨晩、村の年寄り達にわしのところへ集まってもらって、
 みんなでカービィを応援しようって決めたんだ」
「ありがとう、村長さん」
「村の北西の外れにある古い井戸に行ってみるといい。あの井戸の中には、
 この村の宝が隠してある。それから、わしの家の敷地にある倉庫にも、
 ちょっとしたものがあるから持って行きなさい。きっと何かの役に立つはずだ」
「うん、ありがとう」
「それと、昨日君を騎士団に売り渡そうとした不届き者は、
 春風通りのリンゴの木に一晩縛り付けておいた上、
 わしのトゥーキー小屋の掃除をさせているからだいじょうぶだ。
 これに懲りて2度と君に悪さはしないだろう」
 コッケコォォォーー
 北の方角からニワトリの鳴き声が響き渡ってきた。
 それに呼応するかのように、
 南の空からたくさんのトゥーキーが北へと向かっていく。
 彼らの目は怒っているように見えた。
「ん? どうしたのかな、あのトゥーキー達」
 カービィが訝しんだ。
「あの馬鹿者が、さてはわしのトゥーキーをいじめおったな」
 村長が目を吊り上げて言った。
「くっ、ぷぷぷぷ……あははははは」
 事態を悟ったらしいワドがこらえきれずに笑い出す。
「ねえ、ワド、何がおかしいの」
 何も知らないカービィが尋ねる。
「いやいや、因果応報さ、あははははは」
 何だかよくわからないカービィであった。

 それからカービィは、ワドと村長に別れを告げ、
 村の北西にある古井戸に行ってみた。
 小高い丘の下に、その井戸はあった。石でできた囲いは半ば朽ちてしまっている。
 今はププ村にも水道がある。もう使う者もいなくなって久しいのだろう。
 カービィは思いきって井戸の中に飛び込んだ。
 井戸の底の乾いた地面に着地するカービィ。
 水はすっかり涸れ果てているようだった。カービィの前には横穴が開いている。
 星のカンテラを手にして先へ進んでみると、
 部屋のようになっている小さな空間があり、赤い宝箱が4つあった。
「わぁい、おたからおたから」
 一つ一つ宝箱を開けてみるカービィ。しかし、4つのうち2つの中身は、
 酸化しきった10ゴールド銅貨(通称「10円玉」)が2枚ずつ、
 3つ目の箱の中身は、緑青の吹いた10ゴールド銅貨1枚と、
 真っ黒い鉄鍋であった。
「……これが、村の宝?」
 さすがにがっかりしたカービィであった。昔のププ村は、
 10ゴールド銅貨をわざわざこんな所に隠すような貧しい村だったのだろうか。
 一応最後の一つにも手をかける。どうせろくな物は入ってないだろう。
 だが、意外な物が出てきた。黒い球形の物体が3つ。
 その上部には紐がついていた。爆弾だ。
 かなり湿ってはいたが、まだ使えそうだった。
 カービィはすかさず爆弾の1つを飲み込んだ。カービィの体が光に包まれる。
 カービィの帽子の色が、緑から水色に変わった。
 コピー能力「ボム」。爆弾を操る能力である。これは便利なものを手に入れたと、
 満悦のカービィ。しかし、村の宝というにはこの爆弾もまだ、
 物足りない気がする。
(まだ何かあるんじゃないかな)
 カービィは小さな部屋の中を星のカンテラで照らして調べてみると、
 壁に不自然なところを発見した。左右の壁は土でできているのに、
 奥の壁だけ石を積み重ねて作られている。これはいかにも怪しい。
 カービィは、古くからの友人の1人、ポピー兄弟の兄の言葉を思い出した。
「いいか、カービィ。冒険の心得その1、『怪しい壁は即爆破』だ。
 いわゆる隠し通路ってのは大抵壁の中にある。
 ダンジョンで行き詰ったらまず壁を調べろ。ヒビの入ってる場所がないか、
 念入りにな。怪しい壁にはすぐ爆弾を仕掛けるんだ。
 無ければ体当たりでぶっ壊せ」
 カービィは水色の帽子の中から火のついた爆弾を取り出すと、
 怪しい石の壁の前に設置し、手前の横穴へと逃げ込んだ。
 数秒後、爆弾が炸裂し、粉塵が狭い穴の中を満たす。
「げほ、げほ」
 カービィは咳き込みながら穴の奥の様子を確認した。
 爆弾を仕掛けた壁は崩れている。その奥には案の定、通路があった。
 少し進むと、通路を4つの大きな壷が塞いでいる場所があった。
 壷の中には残念ながら何も無い。カービィがそれらを一つ一つよけていくと、
 その奥に赤い宝箱が姿を現した。
(これがきっと、本当の村の宝だね)
 カービィは宝箱を開けた。中身は、大きな星のかけらだった。
 カービィの手ほどもある。これほど大きなものは珍しい。
「やった!」
 星のかけらは、夜空から降り注ぐ、星の輝きの結晶体である。
 発光する性質があるため照明にも使える他、魔法の道具の原料にもなるし、
 カービィが飲み込めばエネルギー源にもなる。
 これが村の宝なら納得だ。カービィは能力をソードに戻すと、
 意気揚々と古井戸を後にした。

 次にカービィが訪れたのは、村の北側に立つ村長の家。
 この場所はププ村全体を見渡せる丘の上にある。
 眼下に広がる赤い屋根の街並みが美しい。
「う〜ん、いい眺め」
 カービィはまず村長の家を訪ねたが、彼はまだ帰っていなかった。
 代わりにカービィを出迎えた奥方が、倉庫の鍵を渡してくれた。
 鍵を手にしたカービィは、太陽にきらめくププ村の街並みを眺めつつ、
 倉庫へと向かう。倉庫は母屋からは少し離れた場所にある。
 途中、トゥーキー小屋の前を通りかかると、
 ひどく汚れた、茶色くて丸い岩のようなものがあった。
 あちこちに、鳥の糞のような白いシミがある。1羽のトゥーキーが、
 その岩のようなものをクチバシでつついていた。周囲には、
 大量の白い羽根が散乱している。
「何だろこれ……」
 カービィが近づくと、それは人の声のような弱々しい音を発した。
「ああ、ごめんなさいニワトリ様、もう、剣で斬ったり、小屋に爆弾置いたり、
 デクの棒で殴ったりしませんから、もうたからないで、つつかないで、
 蹴飛ばさないで……死んじゃうから……ぐふっ」
 声の主が仰向けになって倒れた。頭上には小さなツイジーが舞っている。
 その者をつついていたトゥーキーが目を光らせ、勝ち誇ったような笑みを見せた。
「あわわ……しっかりして!」
 カービィが満身創痍のワドルディに駆け寄る。彼女は、
 前日カービィの存在を騎士団に知らせた「不届き者」であった。
 カービィは商店街で買ってきた元気ドリンクを取り出し、
 そのワドルディに飲ませる。彼女は少しだけ、体力を取り戻した。
「カービィ、まさかあんたに助けられるなんてね……」
「ひどい傷。もしかしてトゥーキーにやられたの?」
「ああ。あいつら化け物だよ。斬ってもぶっても死なないし、
 爆弾くらってもへっちゃらだし。終いには仲間呼んでたかってきやがんだ」
「トゥーキーが?」
 トゥーキー、恐るべし。もしかしたらダークマターより強いのかもしれない。
 しかし、たかだかニワトリに何の恨みがあってそこまでしたのか。
 もはや動物虐待というレベルではない。
「そうだよ。あの能天気な顔してコッココッコ言ってやがんの見ると
 ついいたぶりたくなっちまうんだよな。それでついやりすぎちまった」
「やりすぎなんてもんじゃないでしょ!」
 呆れかえるカービィであった。
 カービィは不届き者に、この場でできる限りの手当てしてやると、
 トゥーキー小屋の前を立ち去ろうとした。
「ちょっと待ってくれカービィ、倉庫へ行くんだろ?
 あたしも連れて行っておくれよ。
 村長のジジイに倉庫の掃除もやれって言われてんだ」
「え? まあ、いいけど……」
(村長さんも容赦無いなあ。僕はそんなにこの子のこと恨んでないのに)
 実際のところ、罰というよりは掃除の人手が欲しかっただけなのかもしれない。
 自分を司祭に売ろうとした奴とはいえ、
 不届き者を少し哀れに思うカービィであった。
 彼女を伴いカービィは、倉庫へと向かった。丘の上の林をしばらく北へ進むと、
 蔦に覆われた石造りの建物が見えてくる。
「ここが村長さんの倉庫だね」
 カービィは村長の奥方から受け取った小さな鍵を取り出すと、
 入口にある鉄の扉にかけられた鍵を開け、
 不届き者と共に建物の中へと入っていった。
 倉庫の内部は薄暗く、ひどく埃っぽかった。
 北側に設けられた2つの窓は小さく、他に照明らしいものは無い。
 割と広い建物の中は、何の価値があるのかわからない物体で埋め尽くされている。
 招き猫のような置物、錆付いた曲刀、ヌンチャクのような節昆、
「M」の字が書かれたブリキのバケツ、マネキン、
「DK」と書かれた大きな樽、ゴムでできたタイヤ……。
「げほ、げほ、なんだいここは。ガラクタばっかじゃねえか」
 不届き者がぼやく。長く使われていなかったらしい倉庫の中は、
 床にもガラクタの上にも、分厚く埃が積もっていた。手で床に文字が書ける。
 ここを掃除するのはトゥーキー小屋以上に大変そうだ。
「げほ、げほ、村長さんは、ここに『ちょっとしたもの』があるって
 言ってたけど……」
「けっ、どうせろくなもんじゃねえに決まってるぜ。
 あーあめんどくせえ、ジジイ、覚えてろよ!」
 乱暴に言い放ちながらも、部屋の隅にあったほうきとちりとりを
 手にする不届き者であった。
 カービィは無数のガラクタの中から、使えそうなものを探した。
 木箱の中に、ミスリル銀でできた立派な鎧がある。
 しかし、人間用の鎧だ。カービィの丸々とした体は入りそうにない。
 棚の上に、メタナイトの仮面を半分黒く塗ったくったようなマスクがあった。
 積りに積もった埃を払い、顔につけてみるカービィ。
「ねえねえ、見て見て」
 不届き者に見せつけてみる。
「あ? ははははは! 何じゃそりゃ」
「仮面〜」
 不届き者の方から見ると、白黒の仮面からピンクの手と赤い足が
 出ているように見える。
「似合わないからやめとけ。あははははは!」
 カービィは仮面を棚に戻した。再びガラクタの山を漁り始める。
 ふと横を見ると、大きな狸の置物がギョロリとした目で
 カービィを見下ろしていた。
「うわっ」
 驚いて思わず身を引くカービィ。その瞬間、
 カービィの足が何か硬い物に突き当たった。
 それは緑色の亀の甲羅だった。
 カービィの足から運動エネルギーを得るや否や、甲羅は暴走を始める。
 凄まじい速さで床の上を転がっていくと、壁やガラクタにぶつかって反射し、
 縦横無尽に部屋の中を転がり始めた。
「ぎゃあぁぁぁぁ、カービィ、あんた何しやがったんだい!」
「えっ、僕何にもしてないよ!」
 甲羅が何かにぶつかるたび、ドカドカという激しい打撃音が響き渡り、
 黄色い火花が散る。
「何もしないでこんなことが起こるかぐえっ」
 甲羅が「こてっ」という小気味良い音を立てて不届き者に衝突した。
 彼女は甲羅に弾き飛ばされ、頭から石の壁に突っ込んでいく。
 激しい衝突音が響いた。
「わあっ、だいじょうぶ?」
 床に倒れ伏す不届き者。甲羅の上に一瞬「100」という
 白い数字が浮かび上がった。
 甲羅の暴走は止まらない。予想もつかない方向から飛んで来る甲羅を、
 カービィは必死で避けて回った。
 どういうわけか、甲羅は物にぶつかるたびに少しずつ加速していくようだった。
 強い推進力を得た甲羅は、倉庫にある置物を次々と倒していく。
 招き猫が、Mのバケツが、DKの樽が、マネキンが、ゴムのタイヤが、
 次々と甲羅の犠牲になった。甲羅が物を倒すたびに、
 甲羅の上に白い数字が浮かび上がる。「400」「800」「1000」
「2000」「4000」……。
 そして、先ほどカービィを睨みつけた狸の置物が甲羅の前に屈服した。
「8000」。
 カービィは嫌な予感がした。
 何故か、数字が1万を超えると恐ろしいことが起こる気がする。
 甲羅を止めなければ。しかしどうすればいい?
「ひあっ」
 想像を絶する速度で飛んできた甲羅を、カービィはとっさに跳んで避けた。
 しかし、甲羅が壁に反射して戻ってくる。まずい、甲羅が直撃する。
 カービィは迫り来る激痛を想像して、思わず目を閉じた。
 しかし、カービィが床に着地しようとしたその時、
 カービィは足に不自然な感覚を感じ、体を軽く弾き飛ばされた。
 そして、「ピロリロリロン」という可愛らしい音が部屋の中に響く。
 埃だらけの床の上に着地し、恐る恐る目を開くと、
 そこには橙色の「1UP」の文字。甲羅はカービィの目の前で動きを止めていた。
 甲羅を見つめたまま、しばらくその場で固まっていたカービィ。
 数秒後、カービィはようやく事態を把握した。
 どうやらカービィは着地の際、跳ね返ってきた甲羅を踏みつけてしまったらしい。
 何故かは分からないが、それで甲羅は止まったようだ。
 どこからか「シュウウウウウ」という音がする。
 カービィが顔を上げると、白い湯気を上げる丸い物体が視界に入ってきた。
「あっ」
 カービィは不届き者のことを思い出す。
 倒れ伏すワドルディの前に慌てて駆け寄るカービィ。
 彼女の頭では、大きな瘤が白い湯気を立てていた。
 その上には、小さなツイジーが舞っている。
「だいじょうぶ? しっかりして」
「ふ、踏んだり蹴ったりだぜ……」
 不届き者の手当てを済ませると、カービィは緑の甲羅を慎重に棚の上に乗せ、
 不届き者と共にメチャクチャになったガラクタを整理した。
 それから2人は、気を取り直して掃除と宝探しを再開する。
 しかし、カービィは依然として大した物を見つけられなかった。
 甲羅を置いた棚の下の段に、筆字で「越後屋」と書かれた
 意味有り気な紙箱があったが、中身は欠けた茶碗。がっかり。
 その横には、人間の生首に足が生えたような形の、奇妙な像があったが、
 何の変哲も無い陶器であった。
「なあカービィ、いつまで探し続ける気だ? 
 どーせ偏屈ジジイのコレクションに大した物はねーよ」
 不届き者が、山のような埃の塊を黒いゴミ袋に詰めながら言った。
「う〜ん、でも、『ちょっとしたもの』っていうのが気になるなぁ。
 もう少し……」
「けっ、時間を無駄にして後悔すんのがオチだぜ」
 不届き者がそう言い放った直後、彼女は何か硬いものに蹴つまずいた。
「いてっ、何だこりゃ」
 足元にある物体を拾い上げてみる不届き者。それは錆付いた鉄の塊であった。
 まるで魚のような形をしている。
「クッソジジイ、何だってこんなもん地べたに置いてやがんだ畜生」
 不届き者はそれを後ろに放り投げた。
 直後、不届き者の背後で轟音が鳴り響き、閃光が薄暗い部屋の中を照らし出した。
 爆風が巻き起こり、粉塵が宙を舞う。
「げほ、げほ、なっ、何なんだい今度は?」
 目を丸くする不届き者。彼女が投げた鉄の塊は、不発弾だったらしい。
 爆風をくらったのか、先ほどの狸の置物の首が無残に吹き飛んでいた。
 その周りにあった幾つかのガラクタも、すっかり消し炭になっている。
「げっ、マジかよ、やらかしちまった」
 あまつさえ、石の壁には大きな穴が開いてしまっていた。
「あれ? ねえ、見て見て」
 カービィが壁に開いた穴を指し示した。穴の奥が、下り階段になっている。
「隠し通路か! ジジイこんなもんまで……」
「行ってみよう」
 カービィが階段を下りていく。
「おい、待てよカービィ」
 不届き者も後を追う。
 地下へと続く階段には明かりがなかった。
 カービィが星のカンテラを取り出して行く手を照らす。
「きっ、気色わりぃなぁ」
 不届き者が毒づいた。その声には既に威勢が無い。
 彼女の手はカービィの背中に当てられている。
「だいじょうぶだよ。魔物の気配はしないから」
「あたしは暗所恐怖症なんだよ! 悪いか畜生!」
 2人の声が、狭い通路の中に響いた。
 しばらく歩いていくと、不意に階段が終わった。
 そこは真っ暗で、カンテラの明かりの外はまるで見えない。
 だが、足音の反響する様子から、ある程度広い部屋だということがわかる。
 星のカンテラをかざし、ゆっくりと室内を探索していくカービィ。
 そして、カービィにぴったり寄り添って離れない不届き者。
「そういえばあのジジイ、いつだか言ってやがったな。
 この建物は昔、盗賊の隠れ家だったとか」
 不届き者が、震える声で語り始めた。
「ここが、盗賊の隠れ家だった?」
「ああ。その盗賊が、何て言ったか……
 そうそう、ワムバムとかって名前だったな。
 プププランド中を荒らしまわったろくでもない奴で、
 封印戦争の時にはゼロの手先になって、
 あっちこっちで悪事を働いていたらしい。
 騎士団もついにそいつを捕まえられなかったんだってよ。
 まあ、あのジジイの話だ。ほんとのことかどうかはわからんけどさ」
「ふうん。それで、その盗賊はその後どうなったの?」
「さあね。ジジイの言うことにゃ、ゼロが封印された後、
 グリーングリーンズの森に逃げて行ったきり、2度と戻ってこなかったってよ」
「そう。本当に最後まで捕まらなかったんだ」
「ジジイの話の通りならね。そしてその盗賊がだ、
 明るい所が大嫌いだったらしいんだよ」
「それで、ここには明かりが何もないのかな」
「かもしれないね。まったく信じらんないよ……おい、もう帰ろうぜ。
 暗いのはもうたくさんだよ。どーせジジイの倉庫にお宝なんか
 ありゃしないんだから……」
 数分前に自身が壊した狸の置物が、8150ゴールド相当のお宝であることを、
 この時は知る由も無い不届き者であった。
「あっ、見て、何かあるよ」
 カービィがカンテラで照らし出した場所に、星ブロックが積み上げられていた。
 いかにも何か隠されていそうな雰囲気だ。
「言ってるケツから変なもん見つけやがって……」
 既に顔面蒼白になっている不届き者をよそに、
カービィは星ブロックを1つ1つよけていく。
するとその奥から、4つの赤い宝箱が姿を現した。
「わぁい、宝箱!」
「マジかよ」
「おたからおたから〜」
 喜び勇んでカービィが宝箱のふたを開け放つ。
 しかし。
「何これ……」
 中から出てきたのは、緑色の埃がこびりついたような、汚い2枚の硬貨。
 いや、汚らしいだけのコインと見せかけて、実は値打ち物かもしれない。
 僅かな期待を胸に、表面を手でこすってみるカービィ。わくわく。
 だが、汚れの下から浮かび上がってきたのは、「10」という数字であった。
「これってまさか……」
「ああ。言うまでもないだろ……」
 しばしの沈黙。
「だから言っただろうが! 
 どーせこんな暗くて湿っぽくて埃だらけの場所にある宝箱なんざ、
 ろくなもんは入ってねえんだよ! おい、さっさと帰ろうぜ、
 ほんとにもう、やめようぜ……」
 不届き者はもう涙声になっている。
「まあまあ、一応他の箱も開けてみようよ」
 だが、現実は残酷だった。全ての箱が空になった時、
 カービィのカンテラは8枚の10ゴールド銅貨を煌々と照らし出していた。
「だから、だから暗い場所なんざ嫌いなんだよ……」
「待って待って、これはきっと、
 箱を開けた人をがっかりさせて追い出すための罠なんだよ。
 本当のお宝は、どこか別の、もっと見つかりづらい場所にあるんだ」
 西の古井戸にも似たような罠があった。
 ここの宝箱も同じ性質のものに違いない。
「勘弁してください。ほんと、マジで」
「ごめんね。もうちょっとだけ待ってて」
 今にも泣き出しそうな不届き者を慰めつつも、
 溢れ出す好奇心を止められないカービィ。
 すぐに壁のヒビを探し始めるのであった。
「むっ」
 ほどなくして、北側の壁にそれは見つかった。カービィの目が光る。
 不自然な壁のヒビ。「怪しい壁は、即爆破」。
 カービィは帽子を水色に変え、爆弾を設置する。
 数秒後、激しい音を立てて石の壁が吹き飛んだ。奥にはやはり通路がある。
「びんご〜」
「嘘だろ……」
 カービィが喜び勇んで隠し通路の中へと入っていく。1人では怖いので、
 渋々ついていく不届き者。
 通路の先の突き当りには、期待を裏切らず赤い宝箱があった。
「ほらね、やっぱりあったでしょ」
「早く開けろよ。これがカラクタだったら承知しねーからな」
 カービィは宝箱を開けた。
 中からは、赤銅色に輝く五角形の板が出てきた。
 銅でできているように見えるが、全く錆付いた様子がない。
 縁は金であしらわれ、その中央には、プププランドのシンボルである
 黄色い星の紋章が配されていた。
「これは……」
 板を裏返してみるカービィ。裏には小さな取っ手のようなものがついている。
 これは盾だ。
「げっ、カービィ、こいつはマジでお宝だぜ。こりゃ『戦士の盾』だ」
 不届き者が言った。
「戦士の盾?」
「ああ。昔ハッターのばあさんが読んでくれた紙芝居に
 これの絵が描いてあったぜ。こいつは、
 封印戦争の時代の戦士が使ってた盾だよ。
 妖精の魔法がかかってて、矢とか弾丸とかの飛び道具を弾き返すって代物だ」
「すごい!」
「全くあのジジイ、こんな趣味わりぃ場所にこんなもん隠してやがったのか」
 これは確かに役に立ちそうだ。「ちょっとしたもの」なんてものではない。
 カービィはカンテラを床に置き、能力をソードに戻すと、
 右手にメタナイトの剣を持ち、左手に戦士の盾を構えてみた。
 不思議としっくり来る。
「へえ、似合うじゃん」
「えへへ……ありがとう」
「さて、お目当てのブツは見つかったんだ。さっさとずらがろうぜ。
 あたしゃもう限界だよ」
「そだね」
 カービィは剣を鞘に収めると、戦士の盾をメタナイトの剣の鞘にひっかけ、
 不届き者と共に村長の倉庫を後にした。
「ああ、シャバの空気はうまいねぇ。地平に広がる青い空、白い雲、
 そして降り注ぐ日の光。そうだ。この明るさこそ、あたし達には相応しい……」
 不届き者が目を輝かせた。日はすっかり高くなっている。
 燦々たる陽光が目にまぶしい。
「そうだ、村長さんに挨拶していかなきゃ」
「げっ、あのジジイのとこにいくのかよ」
「盾、何も言わずに借りてくわけにはいかないし……」
「けっ、律儀な奴だ。勝手にしな。取って喰われても知らないぜ」
「きみこそ、お掃除が終わったこと、村長さんに伝えなくていいの?」
 不届き者は「あ」に濁点を付けたような声を上げた。
「ははは……ジ、ジジイもそろそろ帰ってる頃だろうよ……」
 そして、村長の家にやってきた2人。カービィが玄関の呼び鈴を鳴らす。
 しばらくして、村長が軒先に姿を見せた。
「おおカービィ、宝は見つかったかい?」
「うん。古井戸にあった星のかけらと、この盾! しっかり見つけてきたよ」
「ん? その盾はなんだい」
 村長が訝しむ。
「え? これ、村長さんの倉庫の地下にあったんだよ。隠し通路の奥の」
「地下? はて。あの建物は平屋建てのはずだが。それに、
 隠し通路なんて作った覚えはないよ」
「ええーっ」
 驚くカービィ。では、この盾は一体何なのか。
「くくく……カービィ、どうやらあんたは、
 倉庫の持ち主も見つけられなかったブツを見つけちまったらしいね」
 不届き者が笑う。
「どういうこと?」
「その盾はもともとジジイのもんじゃねえ。
 きっと、盗賊ワムバムの隠し財宝だ」
「これが?」
「いや〜こりゃたまげた。あそこにそんなものが隠してあったとは。
 それも地下の隠し部屋に。先代の村長からあの倉庫を譲り受けて
 10年以上経つが、ぜ〜んぜん気づかんかった」
「えっ、じゃあ、広場で会った時に言ってた、
 『ちょっとしたもの』っていうのは何なの?」
 カービィが尋ねた。この盾が「ちょっとしたもの」ではないなら、
 それは一体何なのだろうか。
「いやいや、あの倉庫には色々と値打ちのある物が置いてあるから、
 適当に持っていって冒険の資金の足しにしてもらおうと思ったんだよ」
「そうだったんだ」
「あの埃かぶったガラクタがかよ……」
 不届き者がボソリと呟く。
「そこ、何か言ったか?」
「いいえ、何にも……」
「ところで、カービィ、その地下の隠し部屋の入り口っていうのは、
 どこにあったんだい」
「それがね、くず……」
「崩れた壁の中に階段が」と言おうとしたカービィの口を、
 冷や汗まみれの不届き者が塞いだ。
 倉庫の中で不発弾を爆発させてしまったこと、
 そして、首ちょんぱになった狸の置物のことを、知られるのはヤバイ。
「そうだジジイ、倉庫の掃除、終わったぜ。これであたしも放免だろ?」
「うむ。もう2度と、我らがカービィを司祭に売ろうなどとは考えるなよ」
「わかってるってジジイ。じゃあな、せいぜい骨粗鬆症には気をつけるこった。
 あばよ!」
 不届き者はカービィの手から倉庫の鍵を強引に奪い取って村長に手渡すと、
 カービィを持ち上げたまま丘の下へと走り去っていった。
「ふう、まったく調子のいいやつだ。
 しかし、倉庫に地下室が見つかったとなると、
 これからまだ物を収納できそうだな。後で倉庫を見に行ってみるか」
 狸のバラバラ遺体が発見されるのは、時間の問題であった。

 その後カービィは不届き者と別れ、カワサキ食堂へ行って軽めの昼食
(とは言っても大盛りのヌラフ肉丼5杯)を取った。
 それから北の村門へ向かおうとしたところ、広場の隅で怪しげな露店を発見した。
「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい、
 何でも入る魔法の瓶はいらないあるか。100ゴールドでOKあるね」
 石畳に敷かれた茶色のじゅうたんの上で、
 白いターバンを巻いたキャピィの商人が、1本の瓶を掲げている。
「魔法の瓶?」
 少し興味を引かれたカービィ。
「やあやあそこの丸々ピンクの旅人さん、旅のお供に一本いかがあるか? 
 薬に蜂に魚に妖精、何でも入る魔法の瓶! 保存性抜群あるよ」
「その瓶が?」
 くびれた飴色の器に、黄色いふた。どこからどう見ても、
 元気ドリンクの空き瓶にしか見えない。
「その通りある。これこそ、古代の妖精達が作り出した究極の保存容器、
 名づけて『魔法瓶』ある」
「どこが魔法なの……」
「まあまあちょっと待つある」
 商人は脇に置いていた壷の中からポットとカップを取り出すと、
 カップに茶色い液体を注ぎ、カービィに手渡した。
「まずはこれを飲んでみるある」
 カービィは手渡されたカップの中身を飲んでみた。麦茶だった。
 よく冷えていて、うまい。
「さあさあ、よく見ているあるよ」
 商人は麦茶を、今度は「魔法瓶」の中に入れ、黄色いふたを閉める。
 そして、壷の中からガラスの小瓶を取り出し、
 中に入っていた黄色い油を「魔法瓶」に注ぐと、何やら呪文を唱え始めた。
「油過多油〜」
 商人の手の中で、瓶にかかっていた油が突然激しく燃え始めた。
「うわっ」
 驚いて目を丸くするカービィ。しばらくして火が収まると、
 商人は瓶を手に取り、カービィに差し出した。
「さわってみるある。熱くないあるよ」
 カービィは恐る恐る瓶を手に取った。瓶は熱くない。
「ほんとだ」
「中身を飲んでみるある」
 黄色いふたを取り外し、中に入った麦茶を飲んでみるカービィ。
 麦茶は、冷たいままだった。
「す、すごい」
「これでわかったあるね。今ならこの瓶がたったの100ゴールドあるよ」
「うん、買ってく」
 これが100ゴールドなら安い買い物なんてものではない。
 カービィは100ゴールド硬貨を商人に手渡した。
「おお、ありがとあるね。思いっきり頭の上に掲げるよろし」
 何となく、今はそうすべきなような気がする。
 カービィは「魔法瓶」を思いっきり頭上に掲げた。じゃじゃじゃじゃーん。
「また来るあるね」
「うん、元気でね。魔法使いのお店屋さん」
 また一つ強力な(?)アイテムを手に入れたカービィ。
 そしてカービィはいよいよ、グリーングリーンズの森へと
 旅立っていくのであった。
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