リラさんの小説

【リボンの伝説 神々のトライフォース】第2章 ププ村の仲間達


 第2章 ププ村の仲間達

 明くる朝。前日の激しい嵐はすっかり収まり、
 プププランドは青空に包まれている。
 エンジェルはリボンとカービィに、おいしい朝食を用意してくれた。
 その中に、クリームチーズとりんごのコンポートが入った、
 平たい円柱形の柔らかいパンがあった。これが大変な美味で、
 カービィはかご一杯に用意されたこのパンを、
 あっという間に全部平らげてしまうのだった。
「ごちそうさま〜」
 と、カービィ。テーブルの上には、空になったミルクティのカップ。
 その底には、溶けきらなかった少量の砂糖がたまっていた。
「ふふ、おそまつさまでした」
 と、エンジェル。
 それから、カービィの旅立ちの時がやってきた。
 カービィは再びソードの能力を発動すると、緑色の三角帽子をかぶり、
 メタナイトから受け継いだ橙色の剣をしっかりと鞘に収めた。
「じゃあ、行ってくるね」
「うん、気をつけて。ここであなたの無事をお祈りしているわ」
 リボンが言った。
「カービィちゃんに、星々のご加護がありますように」
 エンジェルが手を合わせる。
「ありがとう。またね」
 こうしてカービィは天使の塔を後にし、
 ピーナツ平野の草原地帯へと歩き出すのであった。
 涼やかな風が、カービィの三角帽子を揺らす。草地が波を打つようにそよいだ。
 なだらかな丘が続くピーナツ平野は、どこまでも豊かな緑に覆われている。
 カービィはまず、グリーングリーンズの森の南にあるププ村を目指した。
 天使の塔からグリーングリーンズの森まで行く場合、通り道になる。
 ププ村にはカービィの多くの友人達がいた。
 彼らも、司祭打倒のための力になってくれるかもしれない。
「いたぞ! カービィだ! 捕まえろ」
「カービィ、逃さんぞ!」
「妖精をさらった極悪人め!」
 ピーナツ平野を東西に走る街道は、
 至るところでデデデ城の兵士達が見張っていた。
 カービィは彼らをできるだけ避けて歩いたが、
 視界を遮る物の少ない平原の道である。
 やむなく彼らを斬らねばならないこともあった。
 しつこく追ってくる兵士達を退けながら、カービィは西へと進んでいく。
 太陽が真南に差し掛かる頃、連なる丘の向こうにププ村が見えてきた。
 道の脇には、「この先、ププ村」という看板が立てられている。
 そして「PUPU VILLAGE」と書かれた木製のアーチ門をくぐると、
 カービィはププ村へとたどり着いた。
「久しぶりだなぁ。みんな元気にしてるかな」
 石畳の舗装道路を歩いていくカービィ。
 通りの左右には、木組みの壁に三角屋根を頂いた小さな家々が立ち並んでいる。
 民家の庭は、どこも季節の花で飾られていた。可愛らしい村である。
「おお、カービィや、久しぶりだねぇ」
 民家の軒先から、カービィに声をかける者がいた。
 黒い三角帽子をかぶった黄色い体の彼女は、ほうきで庭の落ち葉を掃いている。
「ハッターばあさん。こんにちは」
 カービィが駆け寄って挨拶した。彼女は、ブルームハッターのハッターばあさん。
 カービィがこのプププランドに住み始めた頃からの、古い知人であった。
「よく来たね。昨日は城から妖精を連れさらったという話じゃが、
 わしはあんたを信じとるよ」
「昨日の夜のこと、知ってるの?」
「ああ。今朝城の兵隊が村にやってきて、あんたのことを調べまわっておったわ。
 あやつら、何かただならぬ気をまとっておった。気をつけるんじゃよ」
「うん、わかった」
 司祭は既に、この村にも手を回しているらしい。気をつけなければ。
「それと、ワドやリックがあんたに会いたがっていたよ。訪ねておやり」
「そうするよ。じゃあ、またね」
「したらな」
 カービィはひとまず、町外れに住んでいるワドルディのワドを訪ねることにした。
 ワドはパラソル使いの達人だ。マジルテ洞窟の探検を始め、
 いくつもの冒険を共にした親友であった。
 町の北側の住宅地を抜け、街道筋の商店街へと差し掛かかる。
 ここに来て、カービィは急に不安になった。嫌に人が少ない。
 いつもならこの通りはたくさんの行商人や買い物客で賑わっているはずだった。
 しかし、この日は通る人もまばらで、しかも皆暗い表情をしていた。
 嫌な予感がする。
 通りの反対側に、見覚えのある人物を見つけた。ワドだった。
 買い物の帰りなのか、その手にはパンの入った紙袋を抱えている。
「あっ、ワド。久しぶり」
 カービィがワドに駆け寄った。ワドは驚いた様子でカービィを見つめる。
「カービィ、良かった、無事だったのか」
「うん。僕はだいじょうぶだよ。ワドも昨日の夜のこと、知ってるの?」
「知ってるも何も、この村は朝から君のことで大騒ぎだ。これをごらんよ」
 ワドは「星読新聞」の朝刊をカービィに手渡した。トップの横見出しは、
「妖精リボン氏、誘拐される」
 この見出しは記事2段分のスペースを割いていた。
 その下には、カービィがリボンの手を取って、
 デデデ城の2階へ逃げ込む時の様子を写した写真が、
 デカデカと掲載されている。一体誰が撮ったのだろう。
 ププ村の村長選挙の記事でさえ、こんな大きな扱いをされることはなかった。
「な、何これ」
 本文の前に置かれた縦見出しは、
「下手人カービィ、真夜中の犯行」
 記事の内容もひどいものだった。
「今日未明、デデデ大王の客人としてデデデ城に招待されていた7妖精の一人、
 リボン氏が城から誘拐されるという事件が発生した。
 犯人は、グラスランド県風ヶ丘村の自由業、『ピンクの悪魔』こと、
 星のカービィ容疑者(年齢不詳)。
 騎士団は同容疑者を全国に指名手配すると共に、リボン氏の捜索を続けている。
 〈大王の側近、司祭マギウス氏の話〉
 今回の事件は誠に許しがたい犯罪です。
 大王様の大切な客人を夜闇にまぎれて誘拐するなど、人倫にもとる行為です。
 我々は総力を上げてカービィを探し、必ずや正しき法の裁きにかけることを、
 国民の皆様にお約束したいと思います」
「ひっどい、嘘ばっかり」
 カービィは憤慨した。
「ほとんどの人はこんな記事信じちゃいないよ。
 おおよそ司祭の検閲が入ってこうなったんだろうし」
 それにしたって、あまりにも露骨すぎる。
「あっ、お尋ね者のカービィだ! 兵隊のみっなっさぁ〜ん!」
 通りの向かいにいたワドルディが大声で叫んだ。
「あ、まずい、カービィ、こっちだ」
「ほえ?」
 ワドはカービィの手を取って、建物の間の細い路地に連れ込んだ。
 路地に置かれた樽に隠れて、通りの様子を伺う。
「カービィめ、どこだ? どこにいやがる?」
「やっぱりこの村に来てやがったか」
「逃がすな、俺の部隊はこっちを探す。お前達はあっちを探せ」
「わかった」
 ソードナイトやブレードナイトの集団が、二人の前を通り過ぎていった。
「城の兵隊……あんなにたくさん」
「そうだよ。やつら、大勢でこの村にやってきて、
 朝からカービィを探し回ってるんだ。この村には、
 カービィと一緒に冒険した仲間がたくさんいるからね。
 奴ら、勝手に人の家に上がり込んで家捜ししたり、
 あっちこっちで人にカービィのこと根掘り葉掘り聞いて回ってるんだ」
「じゃあ、通りがやけに静かだったのも……」
「うん。みんな、兵隊を怖がって外に出てこないんだよ」
「そんな、僕のせいで」
「自分を責めることはないよカービィ。みんな君の味方さ。
 たまにさっきのワドルディみたいなやつもいるけどね。
 でも、君が本当に悪いことをしたんじゃないってことは、
 心ある人達はみんな知ってるよ」
「ワド……」
「今朝ちょうど、みんなで集まってこれからのことを考えようって
 話をしてたんだ。カワサキ食堂に君の仲間達が集まってるはず。
 そこで詳しい話を聞かせて」
「うん、わかった」
 カービィはワドと共に細い路地を縫って西へと進んだ。目指すは商店街の隅、
「白き翼の広場」に面した場所にある、コックカワサキのレストラン
「カワサキ食堂」だ。
 2人は幾つかの商店の裏を通り、食堂の裏手にたどり着くと、
 勝手口の扉を開けて店の中へと入っていった。
「おいみんな、カービィを連れてきたよ」
 ワドが言うと、カービィの仲間達が次々と勝手口に集まってくる。
「おおっ、カービィ」
 最初にカービィを出迎えたのは、ハムスターのリック。
「よく無事だったな」
 カービィの兄貴分、フクロウのクーもやってきた。
「んぼ」
 マンボウのカインも、嬉しそうな表情を浮かべている。
 三毛猫のナゴ、スライムのチュチュ、ウグイスのピッチも、
 カービィを温かく出迎えてくれた。
「みんな、心配かけてごめんね」
 カービィは、仲間の一人一人に目をかける。
「よく来たねカービィ。ワドもお疲れ様。とりあえず座りなよ。これはサービスだ」
 店主のカワサキが、新鮮なマキシムトマトの輪切りをテーブルに置いた。
「わぁい」
 喜び勇んで席に着き、大好物のトマトに手を伸ばすカービィであった。
 それからカービィは大量の注文をした。大盛りチャーハン、カレーライス、
 オムレツ、果てはラーメンまで。デザートのアイスクリームも欠かさない。
 カワサキの料理を平らげながらカービィは、
 司祭のこと、昨夜デデデ城であったことを仲間達に話した。
 司祭の手によって地下牢に閉じ込められ、
 生け贄にされそうになっていた妖精リボンを助け、
 天使の塔のエンジェルに預けたこと。
 司祭が7妖精の封印を解き、悪魔ゼロを復活させようとしていること。
 城の兵士達は皆、司祭の魔術に操られてしまっていること。
 そして、陰謀を察知したメタナイトが、司祭に殺されてしまったこと。
 デデデ大王も恐らく、亡き者にされてしまっていること。
「なるほどな。司祭マギウスか。前々からいけ好かない奴だと思ってたぜ」
 クーが顔をしかめた。
「それにしても、あのメタナイト卿がやられてしまうなんて……」
 クーの傍らで、弟分のピッチが言う。
「ひどいナゴ、司祭、許せないナゴ」
 その向かいに座っていたナゴが、毛を逆立たせる。
「んぼ」
 カインが円い口の中から一枚の紙を吹き出した。
「あ、そうそう、これこれ!」
 チュチュが触手を伸ばしてその紙をつかみ、カービィに手渡す。
「見て、カービィ」
 それはカービィの手配書だった。最上部には「WANTAD」(手配中)
 の文字。中央には、目の部分を吊り目に加工したカービィの写真が配され、
 その下には「DEAD OR ARIVE G 800000」
(生死問わず 懸賞金80万ゴールド)と書かれている。
 さらにその下には、小さい文字で、
「お尋ね者、カービィ 妖精リボン氏を城よりさらった極悪人 
 見つけたら大声で知らせよ」と記されていた。
「僕、こんなに目つき悪くないよ!」
「ひどいでしょ。村中の掲示板に貼られているのよ! 
 まったく司祭ったら、自分でさんざんひどいことをしておいて、
 カービィを悪者にするなんて!」
「ほんとだよ。司祭を倒す方法はないの?」
 ピッチが尋ねた。
「天使の塔でエンジェルちゃんから聞いたんだけど、古い伝説に出てくる、
 マスターソードっていう剣が必要らしいんだ」
「マスターソード……『退魔の剣』か」
 物知りのクーが言った。
「クー、マスターソードのこと、何か知ってるの?」
「ああ。詳しいことは忘れちまったけどな……。今から遥か昔、
 このプププランドには、妖精の一族が栄えてたらしい。
 この国には、その妖精達が残した宝の幾つかが隠されているって話でな、
 マスターソードはその中でも、魔の力を持つ者に対して、
 特に鍛えられた剣だっていうことだ。そして、その剣は今も、
 グリーングリーンズの森の奥深くに、静かに眠っているって話だぜ」
「グリーングリーンズの森に……」
「まあ、詳しいことはウィスピーウッズに聞いてみな。
 俺が知ってるのはここまでだ」
「ありがとう、クー」
「おいら達にも何かできることがあったら言っておくれよカービィ」
 カービィに負けず劣らず食いしん坊なリックが、
 ヌラフ肉の骨を皿に置きながら言った。
「このまま司祭の好きにはさせないナゴ」
 と、ナゴ。
「うん、みんなありがとう」
 改めて仲間達の心強さを感じるカービィだった。
 だが、そんな仲間達との楽しい食事は、長くは続かなかった。
「星のカービィに告ぐ! 今すぐ武器を捨てて出頭せよ!」
 外から、マイクで拡大された何者かの声が響いてきた。
「城の兵隊か?」
 クーが食堂の入り口に目をやる。カービィも窓の外を覗くと、
 おびただしい数の兵士が広場からこちらを睨んでいた。
「繰り返す! 武器を捨てて出頭せよ! その店は完全に包囲されている!
 従わなければ仲間共々命は無いぞ!」
「あわわわ……大変だ」
 巨大なオムレツの乗った大皿を抱えながら、慌てふためくカワサキ。
「くそっ、司祭め。どうする、カービィ?」
 クーが尋ねた。
「司祭のことよ。捕まったら、どのみち殺されちゃうわ」
 とチュチュ。
「城の兵士達は司祭に操られているだけなんだ。
 兵士達を傷つけたくはないけど……ここで捕まるわけにもいかない。戦う!」
 カービィは立ち上がり、メタナイトの剣を抜いた。
「みんなはここで待ってて。絶対みんなのこと、守るから」
「何言ってやがんだ。俺達も戦うぜ」
 クーが大きな翼を広げて言った。
「おいら達はいつだって、カービィの味方だ」
 と、リック。
「んぼ」
 カインもやる気満々だ。
「ワタシも、ワタシも戦うよ!」
 カワサキが、愛用のフライパンを手にして厨房から戻ってきた。
「店長、これ借りるよ」
 ワドが、玄関の傘立てに誰かが忘れていったビニール傘を手に取る。
「準備万端だ」
 カービィに向かってウインクしてみせるワド。
「みんな……よし、行こう!」
 カービィ達は、真昼の村の広場へと飛び出した。
「最終通告! 今すぐ武器を捨てて出とぐはっ……」
 出頭を呼びかけていたウォーキーの腹に、カワサキが投げた白い皿が命中した。
「食事の最中にいけないことすると許さないよ」
 カワサキがフライパンを構えて言い放った。
「ひぇ〜」
 ウォーキーが後方へ逃げていく。
「くっ、やはり投降する気はないようだな。者共、かかれ!」
 指揮官と思しき、黒い鎧のブレードナイトが号令する。
 兵士達が雄叫びを上げてカービィ達に向かってきた。
 ソードナイト、ブレードナイト、アックスナイト、トライデントナイト、
 ジャベリンナイト。騎士団の精鋭部隊だ。
 それに加えて、たくさんのワドルディ兵が槍を構えて突進してくる。
 しかし、カービィ達も百戦錬磨の冒険者だ。雑兵が束になってかかってきても、
 そう簡単にはやられない。カービィの剣が、ワドのビニール傘が、
 カワサキのフライパンが、次々と兵士達を打ち倒していく。
 リックは自慢の足技で兵士達を文字通り蹴散らして回った。
 クーが激しく羽ばたくと、突風が巻き起こり敵を吹き飛ばす。
 カインの口に吸い込まれてしまったワドルディ兵は、
 足だけを出してもがいていた。顔面をチュチュに取り付かれたアックスナイトは、
 視界を失って倒れている。
 得意の3段ジャンプから繰り出されるナゴの飛び蹴りをかわせる者はいなかった。
 カービィが一瞬、危うく背後を取られそうになると、
 ピッチが上空からカービィをつかみ上げて救った。
 次々と襲い来る兵士達を退け、カービィは黒い鎧のブレードナイトに迫る。
「ここまでだよ。さあ、この村から手を引いて」
 ブレードナイトにメタナイトの剣を突きつけるカービィ。
「くっ、貴様如きに屈する筋合いはないわ! いくぞ!」
 ブレードナイトが斬りかかってきた。その重い一撃を剣で受け止めるカービィ。
 すかさず反撃に転じようとするが、ブレードナイトが素早く切り返してくる。
 カービィは跳び上がって白い剣をかわした。やはり普通の兵士とは太刀筋が違う。
「はあっ」
 体勢を立て直し、ブレードナイトめがけて突きを放つカービィ。
 しかし、隙を見せたかに思えたブレードナイトがカービィの剣を弾いた。
 ブレードナイトが剣を突き出してくる。
「うわっ」
 カービィは側転して、きわどいところでその剣をかわした。
「どうした、星の戦士とやらも所詮はその程度か。ならばここでくたばるがいい」
 ブレードナイトが目にも止まらぬ速さで剣を繰り出してくる。
 カービィはその斬撃を受け止めるので精一杯だった。
(強い。このままじゃやられちゃう。どうしたら)
 その時、カービィの心の奥に、メタナイトの言葉が蘇ってきた。
「剣に力をためるのだ。そうすれば、
 星の戦士の一族にだけ使える秘剣が使えるはずだ」
「カービィ、お前ならできる……」
(剣に、力を)
 カービィはブレードナイトの剣に渾身の力で自身の剣を当て、
 一瞬ブレードナイトの攻勢を止めると、すかさず後ろに跳んで間合いを取り、
 剣に力を込めた。メタナイトの剣が、橙色の輝きを増していく。
「む、何だこの力は」
 ブレードナイトが身構える。
「えーいっ」
 カービィが勢いよく剣を振り下ろした。メタナイトの剣から、
 剣の形をした橙色の光線が放たれていく。
 これこそ、星の戦士の秘剣「ソードビーム」だった。
「なにっ!」
 慌てて光線を避けるブレードナイト。しかし、
 カービィはその動きを読んでもう一発光線を打ち込んだ。
 今度は避けきれなかったブレードナイト。剣を振るって光線をかき消すが、
 そこにカービィが飛びかかってくる。
「たあっ」
 カービィの剣が、脳天からブレードナイトを切り裂いた。
「ぐあぁぁぁぁぁぁっ」
 ブレードナイトが断末魔の叫び声を上げる。
「た、隊長が……」
 倒れたブレードナイトを見て、残った兵士達は統率を失い、
 散り散りになって逃げていった。
「やったか」
 クーがカービィの方へ飛んできた。
 他の仲間達もカービィのもとへ駆け寄ってくる。
「ううん、まだ終わってない」
 両断されたブレードナイトの黒い鎧が、邪悪な波動に包まれていた。
「お、おのれカービィめ……生かしてはおかぬぞ」
 辺りが急に、闇に包まれた。ブレードナイトの死体は黒い光を放ち始めると、
 浮かび上がりながらその姿を変えていった。大きく、黒い球体に。
 その中央には血走った一つの目玉、そして、
 その周囲は橙色をした球形の物体に覆われている。
 その姿に、カービィは見覚えがあった。
 かつて虹の島々を脅かした巨悪、暗黒星雲からの侵略者、邪悪な意思の集合体。
〈邪眼暗黒球 ダークマター〉
「ダークマター、そんなバカな、あいつはダークキャッスルで死んだはず」
 ワドが驚く。
「ワド、多分あいつは、別の個体だ。ダークマターは一体じゃないんだ。
 悪魔ゼロは、世界中の人々の心の闇が集まる暗黒星雲から、
 たくさんのダークマターを生み出して手下にしたって言われてる」
 クーが言った。
「クハハハハ……その通りだ。これまでは太陽と月の力の影響で、
 このポップスターには容易に侵入できなかったが、
 ゼロ様の封印が弱まり、闇の力が強まりつつある今なら、それも容易い事」
 かつてカービィは虹の島で一度この魔物を退けている。しかし、
 あの時は虹の剣という特別な武器があった。それ無しで、
 この強力な悪魔に勝てるのか。
(負けられない。みんなで力を合わせれば、きっと勝てるはず)
 やるしかない。カービィはメタナイトの剣に力を込めた。剣が強く輝き出す。
「星の戦士よ、貴様もここで終わりだ」
 ダークマターが目から黒い稲妻を放った。
「はうっ」
 カービィの剣が稲妻を受け止める。剣から発せられる精気の光が、
 辛うじて邪気の電流を防いだ。
「やあっ、えいっ」
 カービィが反撃に転じる。光り輝く剣を斜めに振りかざし、
 2発のソードビームを宙に向けて放った。
 しかし、ダークマターの眼前に現れた黒い波動がその光を打ち消す。
 血走った目が、再び黒い稲妻を放った。
 カービィが側転して稲妻を避ける。邪悪な波動は地面に当たって爆ぜ、
 広場の石畳に大きな穴を開けた。
 カービィが剣を構え直そうとしたその時、
 ダークマターの周囲を覆っている橙色の球体が本体を離れ、
 弾丸となって四方八方からカービィに向かってきた。
「カービィ!」
 ワドがカービィの前に立ちはだかり、ビニール傘を振り回して、
 次々と襲い来る球体を破壊していく。
 しかし、後方から飛んできた一つを捉えきれなかった。ワドに球体が直撃し、
 ワドは激しい衝撃を受けて吹き飛ぶ。
「うわあっ」
「ワド!」
 カービィが叫ぶ。
「だいじょうぶだ。早くダークマターを」
 ワドが痛みをこらえて立ち上がりながら言った。カービィは剣を構え直し、
 ダークマターへと向かっていく。ダークマターの橙色の球体は再生していた。
「みんな、続け!」
 クーが皆に呼びかけると共に、自慢の翼から衝撃波を放つ。
 チュチュが2本の触手でカインを左右から勢いよく叩くと、
 強烈な空気砲が発射された。風圧で一瞬、
 ダークマターの動きが止まったところに、リックとナゴが鋭い飛び蹴りを放つ。
 直後、ピッチのクチバシがダークマターの一つ目をえぐった。
 ワドの傘とカワサキのフライパンがそこに追撃をかける。
 そして、カービィの剣がダークマターに襲いかかった。
 メタナイトの剣がまばゆい光を放ち、ダークマターを捉える。
 カービィには確かな手応えがあった。しかし、これだけの攻撃を受けてなお、
 ダークマターは悠然と宙に浮いている。
 ダークマターの一つ目が再び黒く光った。
 カービィの体を黒い稲妻が直撃する。今度は防ぎきれなかった。
 カービィの体を激しい衝撃が襲う。
「わあぁぁぁぁぁ」
「カービィ!」
 ワドが叫んだ。
「クハハハハ……そのような武器で私を倒すことはできぬ。
 ポップスターの住人達よ、闇の力の前に屈服するが良いわ」
 ダークマターが禍々しい声で嘲笑った。
 ワドに支えられて、カービィが立ち上がる。
「カービィ、しっかりして」
「だいじょうぶ、まだ、戦える」
 しかし、普通に攻撃しても通用しない。
 どうすればこの悪魔を倒すことができるのか。
 ダークマターがまた、黒い稲妻を放ってくる。
 カービィはワドの手を取って跳び上がり、危ういところで稲妻をかわした。
(どうすれば……)
「カービィ、光の心を集めるんだ」
 クーがカービィに寄り添って言った。
「光の心?」
「そうだ。妖精族の古い言い伝えだ。
 妖精の時代の騎士団はゼロの悪魔と戦う時に、
 ハートスターっていうものを武器に込めて使っていたらしいんだ」
「ハートスター?」
 ダークマターが稲妻で追撃をかけてくる。カービィがワドを突き飛ばして逃がし、
 クーがカービィを足で持ち上げて空中に避難させた。
「ああ。このハートスターってのが何なのか、さっきからずっと考えてた。
 今、わかったぜ。あいつら悪魔族は、心の闇の塊だ。それに対抗しうるものは、
 光の心……誰かを大切に想う気持ちだ」
「誰かを、大切に想う気持ち……」
「そうだ」
 クーはダークマターの攻撃をかわしつつ、仲間達に呼びかけた。
「みんな、カービィに力を貸してくれ。みんなの、光の心を、カービィの剣に!」
「どうすればいいんだ!」
 リックが叫んだ。
「念じるだけでいい! みんながカービィを、
 このプププランドを大切に想う気持ちを、分けてくれ!」
 カービィの仲間達は、強く念じ始めた。すると、
 ハート型の赤い光が彼らの体から発せられ、カービィの剣へと集まっていく。
「ほう、ハートスターの秘法か。しかし無駄なことだ。
 長い時を経て蓄えられたこの強大な闇の力に、敵うものはない」
 ダークマターの目に、闇の力が集まっていく。
「カービィ、負けるなよ」
「うん、きっとだいじょうぶ」
 ダークマターが強烈な闇の波動をカービィに向けて放つ。
 同時に、クーの足がカービィをダークマターの一つ目に向かって投げつけた。
 ダークマターの闇の力と、カービィの剣から放たれる光の力が衝突し、
 凄まじい力場が空中に出現する。
 そして、カービィの剣が闇の波動を少しずつ切り裂いていき、
 ダークマターの瞳へと突き刺さる。
「なっ、そんなバカな……ぐわあぁぁぁぁぁ」
 辺りが真っ白な閃光に包まれた。そして、視界が開けた時、
 ダークマターの姿は跡形もなく、邪悪な闇は晴れて、
 いつもの村の広場に戻っていた。
「やった……」
 カービィは、光り輝く剣を手にしてそこに立っていた。
 剣の柄には、不思議なぬくもりが残っていた。
「やったなカービィ!」
 ワドがボロボロになったビニール傘を手に駆け寄ってくる。
「ダークマターをやっつけた!」
「すごいぞカービィ」
「勝った〜」
 他の仲間達も次々とカービィのもとへやってきた。
「えへへ、みんな、ありがとう」
 安堵して微笑むカービィ。それから、皆で久々にカービィダンスを踊った。
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