リラさんの小説

【リボンの伝説 神々のトライフォース】第1章 嵐の夜


  第1章 嵐の夜

 それはある秋の日の出来事だった。
 その日は朝から大嵐。空一面に真っ黒な雲が広がり、
 一日中雷が鳴り響いていた。プププランドには滅多に無いことである。
 ベジタブルバレーのププ村へ友人達を訪ねに行こうと思っていた
 カービィであったが、さすがにこの日は出かけるのを止めた。
 窓の外を眺めていると、骨がありえない方向に曲がった紅白縞柄の
 パラソルが宙を舞っているのが見える。
 こんな日に外に出れば、自分も風に飛ばされてしまいかねない。
「あ〜あ、ざんねん」
 落ち込んでいても仕方が無い。カービィは古びたラジカセのスイッチを入れ、
 音楽を聴きつつ日がな一日、漫画を読んだり、キャンディを舐めたり、
 絵を描いたり、ケーキを食べたりして過ごした。
 しかし、ちっとも楽しくない。
 グリーングリーンズの明るいメロディも、
 フロートアイランドの爽快なメロディも、
 この日は心を弾ませてはくれなかった。
 だがレインボーリゾートの悲しげなメロディは、
 一層重苦しく感じられるのである。カービィはCDを止めた。
「つまんないや」
 テレビをつけてみるが、このところ平和なプププランドのことである。
 大したニュースはない。
 リップルフィールドで爆弾ココナッツの収穫が始まったことなどが
 トップニュースになっていたくらいだ。
 あとはグルメレースのシーズン記録の更新や、
 騎士団のメイダス中将のヘソクリ疑惑などが報じられていたが、
 さして興味を引く内容ではなかった。 
 そんなものを見ているうちに、日はすっかり落ちて夜がやってくる。
「今日はもう寝よ」
 退屈すぎて疲れてしまったカービィは、この日は早めに床につくことにした。
 明日もこんな天気だったらどうしよう。道や畑がメチャクチャになって
 みんなも困るよね。クラッコにお願いして天気を変えてもらおうかな。
 そんなことを考えているうちに、うとうとして眠ってしまうカービィであった。
 そうして夜も更けた頃……。
「助けて、助けてください」
 どこからか、カービィを呼ぶ声がする。女の子の声だった。
「私は、お城の地下牢に捕えられています。私の名前はリボン。
 6人の生け贄が捧げられ、私が最後の一人。
 城にやってきた司祭マギウスは、生け贄を使い、
 7妖精の封印を再び開こうとしています。私は、お城の地下牢の中。助けて……」
 カービィは目を覚ました。夢だったのだろうか。
 しかし、はっきりと記憶に残っている女の子の声。夢とは思えない。
「行かなきゃ……!」
 カービィはベッドから飛び出し、
 使い古したカンテラに星のかけらを詰め込むと、
 嵐の中へと飛び出していった。

 深夜のグラスランドは騒然としていた。
 ベジタブルバレーとデデデ山をつなぐ街道は騎士団が封鎖している。
 しかも街道に駐留しているのは、
 平時に領内の警備を担当するワドルディ兵団ではない。
 本来なら宮殿とその周辺を警護しているはずのソードナイトやブレードナイト、
 それにブキセットといった精鋭の兵士達がうろついているのだ。
 尋常なことではない。
「やっぱり、城で何か大変なことが起こってるんだ。何やってるんだろう兵士達」
 カービィは木陰に隠れて兵隊の様子を伺った。
 指揮官と思しきブレードナイトが、兵士達に命令を下している。
「良いか、誰も城に近づけてはならぬ。警戒を怠るな」
「はっ」
 兵士達からは何か重々しいものが感じられた。
 彼らを見ていると、どこか不安になるような、
 ともすれば恐怖に近い感情が沸き起こってくる。
「これは、ナイトメアやダークマターと戦った時と同じ感じだ。
 みんな、悪いやつに操られてるんだ」
 表だって動くのは危険らしい。カービィは慎重な足取りでその場を離れると、
 アポロの森の中に入って密かにワープスターを召喚し、空へと飛び立った。
 冷たい雨がワープスターに打ち付ける。デデデ大王の城がある山が近づくにつれ、
 形容しがたい嫌な空気が感じられた。
「デデデや城のみんなは大丈夫かな。みんな、無事でいて……!」
 山の頂にデデデの城が見えてきた。
 このままワープスターで進入するのは多分まずい。
 カービィは城の裏側に回り、山の中腹に着陸すると、
 山肌を覆う森の中を通って城に近づいた。
 城はやはり厳戒態勢が敷かれている。全ての城門がしっかりと閉じられ、
 城壁の周りはソードナイトが巡回していた。
 城壁の上にはヤバンの弓兵隊の姿もある。
 ワドルディの砲兵がシャッツオを構えているのも見えた。
 まるで、これから戦争でもするかのような布陣だ。
(どうやって城の中に入ろうかな…)
 その時、先ほど眠りの中で語りかけてきた女の子の声が、心に響いてきた。
「お城の東側に秘密の入り口があるわ……」
 城の東側。
 カービィは城壁の東に回りこみ、ソードナイト達に見つからないよう、
 慎重に辺りを調べて回った。
 すると、北側の一角に不自然に丈の高い草が生えている部分がある。
 カービィはその草むら入り込むと、
 星のマークが描かれた立法体のブロックを発見した。
「ここかな……」
 そっとブロックをよけてみると、その下には底知れぬ深い穴がある。
 これがきっと、秘密の通路の入り口だ。カービィは星のカンテラを手に、
 穴の中へと飛び込んだ。
 たどり着いた場所は、石の壁に囲まれた、暗い地下通路だった。
 星のかけらの明かりを頼りに、恐る恐る先へ進むカービィ。
 しばらく進むと、カービィの足に何か硬いものが当たった。
「うわっ、こ、これ」
 ソードナイトの死体だった。それも一つではない。
 おびただしい数の兵士の亡骸で、狭い通路は埋め尽くされている。
 しばらく見ていると、この惑星の死者がみなそうなるように、
 死体は星になって消えてしまった。
「いったい誰が……」
「誰か、誰かそこにいるのか」
 通路の奥から、低い声がする。カービィがその方向へと進んでいくと、
 闇の中から声の主が姿を現した。白い仮面と群青色のマントを身にまとい、
 橙色に輝く剣を手にして、その者は倒れていた。
「メ、メタナイト卿」
「うう、カービィ、お前だけは巻き込みたくなかった。
 もうお前だけに、戦いの重荷を背負わせることはしまいと、
 心に誓っていたのに……」
 どうやら彼は、操られた兵士達と戦い続けていたらしい。
 傷だらけのメタナイトは息も絶え絶えであった。
「しっかりして」
「この剣を持って行け。よく聞け、剣に力をためるのだ。
 そうすれば、星の戦士の一族にだけ使える秘剣が使えるはずだ。
 カービィ、お前ならできる……。リボン様をお救いするのだ。
 お、お前は、彼女の……」
 メタナイトの体が光に包まれていく。
「メタナイト卿、メタナイト卿!」
 メタナイトは、星となって消えていった。
「そんな……」
 カービィの目に涙が浮かぶ。しかし、悲しんでいる暇はなかった。
 リボンという女の子を助けなければ。メタナイトを死に追いやった悪いやつを、
 倒さなければ。カービィはメタナイトが残した剣を飲み込んだ。
 カービィの体が光に包まれ、次の瞬間、
 カービィは緑色の三角帽子をかぶった姿でそこに立っていた。
 右手に橙色に輝く剣を手にして。
 コピー能力「ソード」。剣を自在に操ることのできる能力だ。
 剣を手にするのは久しぶりだった。デデデ大王主催の武闘会以来だろうか。
「メタナイト卿、仇は取るよ」
 カービィは、暗い地下通路を進んでいった。
 しばらく進むと、上り階段があった。長い石段を上っていくと、
 鉄の扉に突き当たる。カービィは扉を開けた。
 激しい雨がカービィに降り注ぐ。扉の先は屋外だった。
 どうやらここは城の中庭らしい。カービィは、以前この城に遊びに来た時、
 中庭の隅に変な小屋があったことを思い出した。
(そうか。ここは万が一の時に使う秘密の抜け道だったんだ)
 デデデも案外しっかりしているなと関心するカービィ。
 草むらを剣でかきわけながら、警備の兵隊に見つからないように進んでいく。
 しばらく歩いていくと、本丸の通用門へとたどり着いた。
(よし、行こう)
 カービィは、重い扉をゆっくりと開いていく。
 雷光が、その姿を照らし出していた。

 デデデ城の中は異様に殺気立っていた。
 廊下や広間はソードナイトやブレードナイトが巡回し、
 要所にはトライデントナイトの衛兵が仁王立ちしている。
 サーキブル兵がカッターを構えている場所もあった。
 彼らは皆、冥い波動を身にまとっている。
 普段は温厚な使用人のワドルディたちも、目を吊り上げ、
 怒り狂ったスカーフィのような形相だ。ただ事ではない。
(まずは、地下牢にいかなくちゃ)
 カービィはリボンという名の女の子を助けるべく、地下牢を目指した。
 以前1度だけ、デデデに地下牢を見せてもらったことがある。牢獄は地下3階だ。
 もともとプププランドは平和な国で、
 凶悪な犯罪者などそうそう現れないのだが、
 この城には頑丈な鉄格子でできた無駄に立派な牢獄があり、
 デデデもそれを自慢していた。「ここから逃げ出せる奴はそうそういないぞ。
 お前達もこんなところに入れられたくなかったら、
 悪いことなんかするんじゃないぜ」と。
 しかし、今はその牢獄が、悪いやつに使われてしまっている。
(待っててねリボンちゃん、今行くよ)
 カービィは大広間を東に抜け、長い廊下を北へと進むと、地下への階段を下った。
 途中、何度か警備の兵に見つかってしまい、やむなくカービィは彼らを斬った。
 ソードをコピーしたカービィは、
 騎士団長のメタナイトに勝るとも劣らぬ剣客である。
 ほとんどの兵士達はカービィに傷一つつけることができなかった。
 だが、メタナイトは彼らの手にかかって倒れた。
 この城で一体どれほど激しい戦いがあったのか。考えるだけでも恐ろしかった。
 牢獄へと続く、細く暗い道を進んでゆく。
 地下1階と地下2階は吹き抜けになっていて、
 しかも 通路の端に柵はない。油断すると地下2階に真っ逆さまだ。
 一体何故こんな構造に作ったのか。やはりデデデの考えることはわからない。
 壁のある通路の角から、突然、ドクロの顔が姿を現した。
「うわあっ!」
 肝を潰し、思わず声を上げるカービィ。相手も驚いたようだった。
「お前はカービィ! 牢へ行くつもりだな、ここから先には通さんぞ!」
 ドクロの正体はアックスナイト。ドクロの眼窩が赤く光り、
 顔から伸びた白い手が、カービィめがけて斧を振り下ろした。
 バック転して、斧の切っ先を紙一重で回避するカービィ。
 体勢を立て直すと、右上から袈裟斬りをかけた。
「えいっ」
 カービィの剣を斧で受け止めるアックスナイト。
 しかし、カービィは素早く手を回して切り返し、
 アックスナイトの斧をその手から弾き飛ばすと、
 間髪を入れずに超高速で連続の突きを放つ。
「はあっ」
 カービィの必殺技、「百烈斬り」だ。次の瞬間には、
 アックスナイトは星屑と化していた。
「ごめんね……」
 兵士は悪者に操られているだけだったのだろう。
 カービィの心に一抹の罪悪感がにじむ。
 しかし、立ち止まるわけにはいかなかった。
「急がないと……」
 カービィはさらに先へと進み、地下2階へ至る階段を下りていく。
 地下2階から地下3階への階段はそのすぐそばにあった。
 再び階段を降りると、通路の両脇に鉄格子の牢獄が姿を現す。
 階段の隣には、テーブルの置かれた看守の控え室のような部屋があったが、
 誰もいなかった。ただ、古風な陶器の壷が3つ、奥に並んでいるだけだ。
 そのそばの牢には誰も入っていない。恐る恐る奥へと進んでいくカービィ。
 通路の奥から、鎧のきしむ音がする。カービィは剣を握る右手に力を込めた。
「きみは……」
 闇の中から姿を現したのはメイスナイトのメイダス。騎士団メタナイツの中将で、
 メタナイトの信頼厚い部下だった。カービィも以前に何度か会ったことがある。
 その手には、巨大な鉄球が握られていた。
「うおっ、カービィ、何故こんなところに……
 さてはリボンちゃんをさらいにきただスね」
「メイダス、きみも操られているの? おねがい、目を覚ましてよ!」
「ぶっコロスだス」
 凄まじい殺気を感じる。戦うしかないようだ。
 メイダスは力任せに鉄球を振り回し、カービィめがけて投げつけてきた。
 カービィはすんでのところで後ろに跳んでかわすが、
 メイダスは凄まじい力で次々と鉄球を投げつけてくる。
 カービィの避けた鉄球が鉄格子に当たって、激しい金属音が地下に響いた。
「逃がさないだス」
 鉄球を避けたカービィが体勢を崩したところに、さらに鉄球が追撃をかけてくる。
 とっさに剣を構えて身を守ろうとしたが、
 巨大な鉄球の重さに耐えられるわけもなく、剣は弾き飛ばされて手を離れ、
 カービィに鉄球が直撃する。
「うわあっ、ああっ」
 カービィは激痛と共に、後方へ弾き飛ばされた。
「け…剣」
 カービィは床に転がった剣を拾おうと後ろに退いたが、
 そこにまた鉄球が飛んでくる。カービィは横に跳んで、
 先ほどの看守の部屋に逃げ込んだ。
「ここまでだスね、カービィ」
 メイダスの足音が近づいてくる。廊下に落ちた剣までは遠すぎる。
 ここで終わりか。
 その時、部屋の隅に置かれた三つの壷が目に入った。
 そうだ、これを使えば……。
「さあ、観念するだス」
 メイダスが看守の部屋の前に姿を現したその時、
「えいっ」
 カービィが大きな陶器の壷をメイダスに投げつけた。
 壷は彼の顔面を直撃し、乾いた音を立てて砕け散る。
「がっ……!」
 メイダスが苦悶の表情。そこへ、続けざまにもう一つ壷を投げつけた。
「ぐほっ……!」
 メイダスは完全に気絶して動かなくなった。
 カービィは廊下に出て自身の剣を拾い上げ、茶色の鞘に収めると、
 メイダスの懐から牢の鍵を取り出し、通路の奥へと向かった。
 一番奥の牢に、誰かが入っていた。カービィの体色に似たピンクの髪をした、
 小さな女の子。赤いドレスを身にまとい、頭には真っ赤なリボンをつけている。
 その背中には、透き通った4枚の薄い羽がついていた。
 彼女は、牢の入り口に背を向けて、祈りを捧げているように見える。
 カービィは牢の鍵を開け、彼女に呼びかけた。
「リボンちゃん、助けに来たよ」
 小さな妖精の女の子は、振り向いてカービィを見た。
 その愛らしい瞳は、希望に輝いているように見えた。
「ありがとう、カービィ、あなたが近づいてくるのを感じていたわ」
 妖精リボンは、小さな両手でカービィの手を取った。
「カービィ、よく聞いて。この城の兵士達はみんな、
 司祭マギウスの魔術に操られているの。」
 その名には聞き覚えがある。近頃何かと悪い噂のある人物だった。
「マギウス? 最近デデデ付きの司祭になったっていう、
 あの魔法使いのこと?」
「そうよ。城の人達はみんな、彼の魔術に支配されてしまったの。
 そして、デデデ大王は、多分、もう……」
「デデデが? そんな、まさか」
 信じ難いことだった。デデデにはメタナイトを始めとして、
 強力な部下がたくさんいる。デデデ自身も優れたハンマーの使い手だった。
 それなのに、城の人達みんなが、一人の魔法使いにやられてしまうなんて。
「司祭の魔力は計り知れないわ。私達妖精でも太刀打ちできないほどなの。
 それに、司祭は人間ではないわ。強い力を持った悪魔よ!」
「悪魔……」
 きっと恐ろしいやつに違いない。
 ナイトメアウィザードの魔力を退けたデデデでさえ、
 ひとひねりに倒してしまうくらいなのだから。
「でもきっと、何かその悪魔をやっつける方法はあるはずだよ。
 とりあえず、ここから出てその方法を探そう」
「ありがとうカービィ。あなたならそう言ってくれると信じてたわ。
 じゃあ、司祭に気づかれる前に急いで逃げましょう。
 私、秘密の抜け道を知ってるの」
「えっ、さっき僕が通ってきた道以外にも秘密の抜け道があるの?」
「ええ。万が一の時のためって、前にデデデ大王が教えてくれたの。
 ひとまず、1階のホールまで私を連れて行って。さあ、急いで……」
「わかった。行こうリボンちゃん」
 カービィはリボンを伴い、再び歩き出した。2つの階段を上り、
 地下1階の危うい廊下を抜け、地上へ。衛兵達の目をかいくぐり、
 1階の大広間へと戻ってきた。
「この上、デデデ大王の玉座の間に、天使の塔へとつながる通路があるわ」
「天使の塔……。そうだ、エンジェルちゃんならきっと力になってくれるね」
 デデデ山の麓には、古い時代の魔法使いが立てた塔があった。今はそこに、
 小さな天使が住んでいる。かつてカービィは、
 彼女が失ってしまった羽根を集めて、再び飛べるようにあげたことがあり、
 以来、その天使と仲良くしているのだった。
 大広間を北側の奥へと進んで行く。だが、
 2階へと続く階段に差しかかろうとしたその時、
 後ろから何かがカービィめがけて飛んできた。
「カービィ、危ない!」
 カービィは素早く振り向きながら剣を抜くと、
 回転しながら飛んでくる金属の板を剣で叩き落した。
 カッターブーメランだった。
 カービィの視線の先には、一体のサーキブル兵。
 どうやら気づかれてしまったらしい。
「くっ、仕留め損なったか。おいみんな、カービィだ! 
 妖精を連れて逃げようとしてるぞ、捕まえろ!」
 サーキブルが叫んだ。左右の通路から、次々と兵士達がやってくる。
「しまった!」
「急ぎましょう」
 カービィは2階へと続く階段を駆け上がった。そして、
 大きな扉を開けて玉座の間に入り込むと、リボンが魔法で扉に鍵をかける。
「これでしばらくはだいじょうぶ。カービィ、玉座の後ろの飾り棚を調べて」
「わかった」
 部屋の入り口から続く赤いじゅうたんの先に、
 デデデ大王の大きな玉座がある。そしてそのさらに奥の壁沿いに、
 太陽と月をかたどった模様が刻まれた、大きな飾り棚があった。
「この飾り棚が開くはずよ。何か明かりはある? 中は真っ暗で、
 何も見えないの」
「だいじょうぶ。星のカンテラがあるから」
 カービィは、緑の帽子の中にしまっていたカンテラを取り出した。
「それがあればだいじょうぶね」
「うん。それで、この棚どうやったら動くの?」
「左から押せば動くわ。力を貸して!」
 カービィは渾身の力を込めて飾り棚を押した。
 ズルズルと音を立てて棚が動き、その奥に下り階段が姿を現した。
「よし、行こう」
 カービィは左手に星のカンテラを掲げると、
 リボンと共に暗い階段を下りていく。階段を少し進むと、背後で鈍い音がして、
 玉座の間から差し込む光が見えなくなった。
 どうやら何かの仕掛けで飾り棚が閉まったらしい。
 これで追っ手の心配をする必要はなさそうだ。
 しかし、油断はできない。長いこと使われていなかったらしい隠し通路は、
 怪物の住みかになっていたのだ。
 階段を下る途中に突然、
 目が3つある大きなクモのようなものが天井から降りてきた。
 クモの怪物、「コモ」だ。
「きゃあっ」
 カービィの傍らを飛んでいたリボンが、コモに糸を吹きつけられ、悲鳴を上げる。
「リボンちゃん!」
 リボンが階段の上に落下し、クモの糸に絡みつかれてもがいている。
 だが、まずはこの怪物を倒さなければ。カービィがコモに斬りかかかる。
 しかし、弾性のあるコモの体がカービィの剣を跳ね返した。
(あ、そうだっ)
 カービィは思い出した。この怪物の弱点は腹だ。
 軟らかい腹には、剣が刺さるはず。
 剣の一撃を受けてコモの体がひっくり返った瞬間を、カービィは見逃さなかった。
「えいっ」
 カービィの剣が、コモの茶色い腹を切り裂く。
「ギエェェェギエエエエエッ」
 おぞましい叫び声と共に、怪物コモが星屑となって消えていった。
「だいじょうぶ?」
 カービィがリボンの羽にからまったクモの糸を、丁寧に取り除いた。
「うん、ありがとう」
 再び、長い階段を下りていく。階段が終わると、広い空間に出た。
 細い通路の奥には、淀んだ水の流れがある。
 そしてこの場所は、凄まじい悪臭が漂っていた。
「ううっ、ここ、もしかして下水道……」
 カービィの声が石の壁に反響する。
「そうなの。この水路を抜ければ、天使の塔まであと少し。
 気をつけて行きましょう」
 鼻の曲がるような(とは言ってもカービィに鼻は無いのだが)
 臭いをこらえながら、2人は先へと進んでいく。
 通路の突き当たりまで進み、曲がり角にさしかかろうとした時、
 バサバサという音と共に天井から何かが降りてきた。
「バブットよ。吸血コウモリだわ。気をつけて」
 黒い体に赤い翼を持った吸血コウモリの集団は、
 カービィの周りを激しく飛び回った。
 隙あらばカービィとリボンに噛み付こうとしてくる。
「リボンちゃん、危ない!」
 カービィはバブットの牙に捕まりそうになったリボンを抱きかかえ、跳んだ。
 バブットの牙が空を切る。着地の瞬間カービィは、
 危うく汚水の流れに落ちそうになった。
(どうしよう、このコウモリ達をやっつけないと先へ進めない)
 だが、空中を飛び回る相手に、剣では狙いを定められそうになかった。
「そうだ、あれを使おう」
 カービィは帽子の中から金属の板を取り出した。
 先ほどのサーキブルが投げてきたカッターブーメランだった。
 何かの役に立つかもしれないと、逃げる時に拾っておいたのだ。
 カッターを飲み込むカービィ。直後、カービィの体が光に包まれ、
 緑色の三角帽子が鉄の兜に姿を変えた。兜には一枚のカッターが付いている。
 コピー能力「カッター」。ブーメランのように、
 投げると手元に戻ってくるカッターを操る能力である。
 カービィはカッターを兜から取り外して手に取ると、
 バブットに狙いを定め、投げつけた。空中を飛んでいたコウモリの一匹が、
 ネズミのような甲高い声を上げて絶命する。
 そして、カッターは弧を描いてカービィの手元へと戻ってきた。
 カービィは同じ要領で、次々とバブット達を倒していく。
 そして、吸血コウモリの群れを全て退けると、
 カービィは再びソード能力に戻り、先へと急いだ。
「すごいわ、カービィ」
「カッター、持ってきててよかったよ」
 複雑に入り組んだ下水道の中を、リボンの指示に従って進んでいくカービィ。
 いくつかの曲がり角を曲がった後、カービィは上り階段を発見する。
「着いたわ。これが天使の塔へ続く階段よ」
「この階段だね」
 長い階段を上っていくカービィ。階段が終わると、もう下水の悪臭はしなくなり、
 小さな部屋の中に出た。他の部屋に続いていると思しき扉は閉まっている。
 そして床には、黄色い星の印がついたピンクのスイッチが2つ。
「この先が塔の中なの。この部屋のスイッチを押すのよ」
「どっちのスイッチを押すの?」
「え? あ、ええと」
 リボンが急に慌てふためいた。
「もしかして、忘れちゃった?」
「ごめんなさいカービィ。ここだけは覚えてないの」
「ええーっ」
 カービィは強烈な不安を覚えた。この手の仕掛けの性質は決まっている。
 どちらか一方だけが正解で、不正解の方の仕掛けを起動すると、
 恐ろしい末路が待っている……ましてやあのデデデのことだ。
 一体どんな悪質なカラクリを用意しているのか、知れたものではない。
 それにしても、緊急時の脱出ための隠し通路に、
 わざわざこんな仕掛けを用意するデデデの考えは、本当に理解に苦しむ。
「こうなったらいちかばちかに賭けるしかないね」
「ごめんなさい、本当にごめんなさい」
 カービィはカンテラを床に置くと、部屋の中央の床に剣を突き立て、手を離した。
 剣が倒れた方向は……左。
 2人の運命は決まった。
 カービィは剣を鞘に収めると、左側のスイッチの上に飛び乗った。
 スイッチが仕掛けを動かす、ガタリという音が部屋に響き渡る。そして……。
 ブブー。
 どこからともなく、変な音がした。それは何かを否定する響きのように思われた。
 2人の顔が青くなる。
 直後、天井に開いた穴から無数のゴルドーが部屋の中に落ちてきた。
「うわあぁぁぁぁぁぁ」
「きゃあぁぁぁぁぁぁ」
 部屋の中を跳ね回るゴルドーの群れ。
 その鋭利な鉄のトゲが石の床や壁に突き当たるたび、
 鈍い音が部屋の中に響き渡った。必死でその鉄球を避けるリボンとカービィ。
 そして、終いにはゴルドーが入ってきた穴の中から、
 ピースサインをしたデデデの描かれた板が出てきた。
 罠にかかった愚か者をあざ笑うかのような、ギョロリとしたその目。
 デデデが国中の食べ物をかっぱらった時も、
 夜空の星を全て私物化してしまった時も、
 デデデを許してやったカービィだったが、
 今回ばかりは本気でこの国の暴君を恨んだ。
「デ〜デ〜デ〜! 許さないぞおっ」
「カービィ、早く反対側のスイッチを!」
 カービィはゴルドーの群れをかわしながら右側のスイッチに近づき、
 飛び乗る。一瞬、オルゴールのようなきれいな音色が響いてきて、
 それに合わせて閉じていた扉が開いた。扉の向こうは、
 また上り階段になっている。
「急ごう!」
 カービィはリボンの小さな手を取り、床に置いたカンテラを回収すると、
 一路階段室へと逃げ込んだ。
 階段を上りきると、1枚の壁に突き当たった。
 しかし、壁には取っ手のようなくぼみがある。
「これを、左に」
 リボンが言った。カービィは無言で頷くと、壁を力一杯左に引く。
 カービィを明るい光が包んだ。壁の先にあったのは、
 白い石壁に囲まれた小さな部屋。そしてそこには、金色の髪の、
 可愛らしい女の子がいた。純白のドレスに身を包んだ彼女は、
 背中に鳩のような白い羽根を持っている。
 彼女はカービィ達がやってきたのに気づくと、カービィの方へ駆け寄ってきた。
「ああ、リボンちゃん、無事だったのね。よかった。
 カービィちゃん、あなたが助け出してくれたのね」
「エンジェルちゃん。やっと会えた」
 カービィは彼女の笑顔に安心して、背中から剣の鞘を下ろした。
「あなたも無事でよかったわ」
 リボンがエンジェルの手を取る。
「エンジェルちゃん、今回のことは本当にカービィのおかげよ。
 司祭が言ってたの。『最後の生け贄のお前を捧げれば、妖精の封印は開く』って」
「妖精の封印……」
 それはカービィも聞いたことがあった。プププランドに語り継がれる古い伝説。
 遥かな昔、闇の力でプププランドを支配しようとした悪魔ゼロを、
 7人の妖精が「聖地」と呼ばれる場所に封印したという話だ。
「そう。ねえカービィお願い。このプププランドの国を、
 司祭なんかに渡さないで。7妖精の封印が解かれたら、
 魔の力がどっと押し寄せてくるわ。その前に、その前に司祭を倒して! 
 この国を守って! あなたならきっとできる。あなたなら……」
 リボンがカービィに訴える。
「うん、まかせてリボンちゃん。きっと司祭をやっつけてみせるから」
「ありがとう、カービィ」
 リボンはその小さな両手で、カービィの手をもう一度しっかりと包み込んだ。
 カービィもリボンの手を両手で包んで、強く頷く。
 それからカービィは、エンジェルに尋ねた。
「エンジェルちゃん、司祭を倒すにはどうしたらいいかな」
「うーん、どうやら司祭には魔物がとりついているみたいね。
 司祭を倒すには、退魔の剣『マスターソード』が必要になるわ」
「マスターソード……封印戦争の伝説に出てくる剣だね。
 リボンちゃん、その剣のこと知ってる?」
 カービィが尋ねた。
「ええ。マスターソードを作り出したのは私達7妖精なの。
 けれど、ゼロの封印のあと剣がどうなったのかは、残念だけどわからないわ。
 封印の魔法で力を使い果たした私達は、それから長い間眠りについていたから」
「そうだったんだ。エンジェルちゃんは、何か知らない?」
「詳しいことは私にもわからないの。けれど、グリーングリーンズの森の長老が、
 封印戦争の時代のことを知っているって。まずは森の長老を訪ねるといいわ」
「グリーングリーンズの森の長老……ウィスピーウッズのことだね。
 わかった。じゃあ、夜が明けたら森へ行ってみるよ」
「でも、気をつけて行ってね。
 今頃はお城の兵隊がカービィちゃんを探し回ってるわ。
 ワープスターもしばらくは使わない方がいいと思う。目立っちゃうから。
 リボンちゃんはここにかくまっておくわ。
 この塔には結界が張ってあるからだいじょうぶ。
 兵士達は入ってこれないから、心配しないでね」
「うん」
「じゃあ、2人とも今日はもう休んで。塔の一番上に客間があるわ。
 そこにベッドが用意してあるから」
「ありがとう」
 こうして、長い夜の冒険が終わった。
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