虹翼さんの小説

【オレ等の天敵? もちろん桃色の悪魔だよ】1. 本屋さんにて


ベッドから一人起きたグーイを迎えたのは、昇りきった輝く朝日とひんやりと冷たい空気、そして小鳥の小さい鳴き声だった。
「ふわぁ……。もう朝かぁ」
大きなあくびを一つして、壁にかかったアナログ時計を見る。針は8時を指していた。
グーイは自分のすぐ横を見た。そこにはすーすーと可愛らしい寝息を立てているブロッブと、ガーゴーとやかましいくらいのいびきを掻いているカービィが寝ていた。
その騒音のあふれ出る口をガムテープで塞ぎたいという衝動に駆られるが、すぐに思い留まる。
(昨日は、日付が変わる寸前まで起きていたからなぁ)
そう思いながら、2人を起こさないように朝食の準備をし始めた。
といっても、食パンをトースターでこんがりと焼き、その上にバターを塗るだけというシンプルな作業だが。
台所の冷蔵庫を開き、食パンとバターを取り出そうとする。が、あるハズのバターがなかった。
(しまった。バター無かったんだった。って、アレ? カービィに買出しに行かせたような……)
横目でカービィを見る。あいかわらず、カービィはガーゴーと気持ち良さそうに寝ていた。
「しょうがない」グーイはそう呟き、冷蔵庫から食パンだけを取り出し、トースターへ。そしてセット。
焼きあがるまでの間、グーイは今日の予定を考えることにした。

まず、家の横を流れる川にそってひたすら沿ってみる。こういう時にしか、そんなこと出来ないのだから。
そういえば、確か川を辿った先の近くに大きな本屋さんがあったはず。ちょっと立ち寄っていくのも悪くない。
ということで、少しお金を持っていくことにした。千円札を持って行けば、問題はないだろう。
デデデ大王にも会いに行こうかな。なんか、行くと大王喜ぶし・・・。

そこまで考えたとき、少々狭い家中に甲高い音が響き渡った。食パンが焼きあがり、トースターのベルが鳴ったのだ。
静かなときにトースターの音は大きすぎる。二人が目覚めないか心配だったが、トースターの音はカービィのいびきにすぐに打ち消されてしまった。ここまでくると、呆れを通り越して感心してしまう。
食パンを皿に乗せ、何もつけずに食べる。焼きたてのパンの味が口に広がる。こういうのも、たまには良いかもしれない。
食べ終わり、皿をササッと洗う。食パンを一枚乗せただけなので、そんな面倒な作業ではない。
清潔な布で水気をふき取り、食器棚へしまう。
ふと時計を見ると、8時半だった。さすがのカービィもそろそろ起きてくるだろう。
千円札を持って、グーイは家を出た。外出ついでにバターを買って帰ろうと思いながら。


* * *


一方、あの洞窟では。
「うおおぉぉお! 負けてたまるか!」
「いよっしゃー! 赤コウラゲット〜♪ 覚悟しろー!」
「うわあぁぁあ〜」
「アレ? このトゲの生えた青コウラなんだっけ?」
「げっ。減速減速……」
「ちょ……っ。減速しないでよぉ! ああぁー!!」
にぎやかにわいわいと、朝から皆でマリオカートやっていた。
「ううっ……。負けた、ゼロのせいでビリだよ! どーしてくれるの!」
3DSをテレキネシスでブンブン振り回すダークゼロ。ちなみに、一族は皆がテレキネシスが使えたりする。
「ちょ、危ない! やめろ、ダークゼロォ!」
全力疾走するゼロ。そんなことが出来るほど、この洞窟は広いのだ。いや、深いというべきか。
「そういや、リムラ。お前、本屋行くんじゃないのか?」
そんな“いつもの”光景を見ながら、ダークマターは隣で爆笑しているリムラに話しかける。リムロは涙を目に浮かべ、笑をこらえながら答えた。
「へぇ? あぁ、そうやな……。すぐにかわえーコが見つかるとは限らんからな! そろそろ行ってくるわ!」
「無事に買えたら、マターさんにも見せたるで!」と言い残し、リムラは慎重に洞窟から出て行った。ダークマター一族にとって、日の光は特に害ではない。
別に見せてくれなくてもいい。そう思いながら、ダークマターはリムラを見送った。どうか、道中でカービィと出くわしませんように、とも思いながら。

そういえば、グーイは元気にしているだろうか。
7年度前の事か。自分達がまだその心に支配欲しか宿っていなかった頃。あいつは相当孤独感に浸ってしまっていただろう。だから自分達の所から逃げ出したのだ。たった一人の妹を連れて。
後を追いかけ、ここポップスターに来た。だが、見つからなかった。うまく隠れたもんだ。
来たついでに支配しようと考えたら、この星に住み着いていた星の戦士――カービィにあっけなく倒された。あの丸い姿、見た目年齢から弱いと決め付けてしまったがとんでもない。心は悪魔並みだ。
命からがら逃げ、ゼロ様に報告した。一年後、ゼロ様と一緒に再びこの地を訪れた。あのカービィに復讐するために。この星を手に入れるために。
が、予想外の事が起きた。グーイがカービィの味方をしていた。……無理矢理されているような感じだったが。
しかも、カービィと同じ能力がグーイには使えた。そのせいで、自分は飛んでくる弾と無駄に硬い鈍器で何度も殴られ気絶。ゼロ様も戦ったが結果は同じ。二人が去った後、自分達はなんとか意識が戻りフラッフラになりながら自分達が住んでいた星・ファイナルスターへ帰った。
ボロボロの自分達を見て、皆はビックリしていた。リムルなんか、顔を真っ赤にして激怒していた。
それから、ツーがダーク三兄弟を引き連れ別の星へ侵略しに行ったが、カービィに見つかり返り討ちにされた。
とうとう一族全員が倒され、あいつに勝つのは無理だという結論に出た。そして、自分達は心を入れ替えた。グーイがいつ帰ってきても良いように。……まあ、早々帰ってこないとは思うが。
今じゃ、どこかハズれた集団になってしまった。ゼロ様も、すっかりリーダー格を失った。
でもこれが、今のダークマター一族の良さなのかもしれない――……。

「 また会えますように 」
ダークマターは、洞窟の入り口から差し込んでくる外の光にそう願った。





 * * *




「くぅ……。疲れる……」
コチラはグーイ。ひたすら川に沿って歩いている。ちなみに、家を出てからすでに1時間経っていた。
グーイの歩幅は小さく、40分ほどの道のりは1時間かけて歩くハメになってしまう。
飛べればいいのに……と、こういう時グーイはよく思う。……まあ、一応飛べるのだが。
そんなグーイの前に、突然巨大な洞窟が現れた。誰も近づかないという、あの。
実は、グーイにとってここは”特別な場所”である。グーイは、恐る恐る洞窟の前を通る。
その時、妙な風が吹いた。近くに生えていた樹が、葉をザワつかせる。
その風が吹き止んだとき、グーイの姿が変わっていた。紺色の丸い体を一周するように、刃物のような黄色い楕円型のものが生えている。
(また……か……)
グーイは、この前を通るとなぜか変化(へんげ)してしまう。そう、ダークマター一族の姿に。
だが、しないときもある。するときしないとき半々だ。特に条件は見当たらない。
こんな事が、もう何年も前から起きている。なぜかは分からない。カービィは、この事をまだ知らない。もちろん、ブロッブも。
グーイは冷や汗を垂らしながら、その浮遊している体で洞窟の前を通り過ぎる。
通りきり一息つくと、グーイはいつもの体に戻っていた。どうやら,変化するのはこの洞窟の前限定らしい。
それは助かっていた。誰かにあんな姿見られたら、確実にカービィにこの話が伝わってしまう。

――……あれ?

               何でこの事が、カービィに伝わっちゃいけないんだ……?――

「…………」
考えてみても、分からない。とりあえず、グーイは本屋へ急いだ。



* * *



十数分後。グーイは漫画雑誌を一冊頭に乗せ、レジに並んでいた。さっきの考えは忘れた。
忘れたことにした。
自分の番が来て、雑誌と千円札を店員に渡す。そしてふと店内を見渡すと、店の隅にある“大人の本のコーナー”に一人のケケ族の女の子がたたずんでいるのを見た。……嬉しそうな目つきでニヤニヤしながら。
直感で不審に思ったグーイ。そして、『何か』を感じた。定員から雑誌を入れた青いビニール袋とお釣りとレシートを貰い、そのケケ族の女の子の方へ向う。
その女の子に近づけば近づくほど、奇妙な『何か』が強くなってきた。いや、元々奇妙なオーラを発していたが、そんな感じではない。
――ダークマター一族の気配だ。
その考えが確定した。グーイは恐る恐る声をかける。女の子は「ん? キミ、誰や? こんなトコ来たら、あかんで?」と、大阪弁と作り笑顔で振り返った。その外見とは不釣合いの鋭い目付きは、間違いなくダークマター一族のものだった。
「……僕はグーイ。君、ダークマター一族なの?」
グーイはそういいながら、相手の表情を伺った。もし戦闘になるのなら、どうやって店から出そうかと考えながら。
グーイの言葉を聞いて、相手の表情が笑顔から真顔へ変わった。グーイは、いつ戦いが始まってもいいように構える。コピーの使えない今の自分が、どれだけ戦えるか分からないが。
その時、急に相手が頭を抱え込み「う〜っ」とうなり始めた。予想外の行動に、グーイは思わず驚いた顔を隠せなかった。
「う〜ん……。グーイ、グーイ……どっかで聞いたことあるんやけどなぁ〜。なぁなぁ、グーイさんよ。もうちょっと自己紹介してくれんか?」
へぇ!? と思わず声を上げる。が、心を落ち着かせて口を開く。
「……7年前ファイナルスターから逃げ出した、14歳の出来損なえダークマターだけど?」
その言葉を聞き、女の子は「あぁ!」と思い出したように小声で叫ぶ。
「そうや! 前にマターさんから聞いたわ! 『7年前に逃げ出した兄妹がいる。兄の名前はグーイ、妹の名前はブロッブ』って! そーか、キミやったんかぁ。にしてもよー抜け出せたなぁ♪ 初めましてぇ。アレ、そんときウチもいたっけ? アハハハハ!」
一人笑い出す相手に引きながらも、そういう自分はなんなのかを聞いた。女の子は「あ、すまん」と一言謝り、自己紹介を始めた。が、開きかけた口を閉じ「ちょっと、待っててぇな」とグーイに向かってウインク、目の前においてあった雑誌を手に取りレジへ。
その姿のまま行くのかとツッコミたかったが、もう会計し始めてしまったので時すでに遅しだった。
会計を終わらせ、ウキウキで帰ってきた女の子。何も言ってないのに「キミにはまだ早すぎるで?」と人差し指を立て横に振る。
「じゃ、店の外で話そっか」


* * *


本屋さんを少し行った道の茂みの後ろで、女の子は「ここらでええかな?」と歩みを止め、グーイのほうへ向き直った。
「じゃ、ウチの自己紹介を始めるわな。……っと、その前に」
その言葉と共に、女の子の体は一瞬黒く光り、そして何か黒い球体が出てきた。女の子はそのまま倒れこんでしまった。
「あらら。ちょっと長く憑依しすぎたかな……? まあ、この子が起きる前に自己紹介を済ませちゃええか」
黒い球体に一つ目が、苦笑いをする。そして、コホンッと喉を鳴らし、話し出す。
「えー、ウチはリムラ。三兄弟の一番上で16や。覚えとき!」
決まった……。と一人輝いているリムラをスルーし、グーイは呟く。
「やっぱりダークマター一族だったんだ。でも、何? このテンション。前はもっとこう……」
「ん? ウチのノリ、気になるんか? まあ、そーやろぉな♪」
しまった、聞かれた。まあ、別にいいが。そんなことより、またリムラが大きな目を瞑りうなっていた。が、すぐに「そうや!」と声をあげ、茂みから出る。
「ウチ等の家に案内するわ! グーイは一族の一人やし……ええやろ? ゼロもマターさんも、きっと快く迎え入れてくれるで?」
「はぁ!?」
リムラは自分と一族の関係を知っているのか? 入った瞬間、袋叩きということにはならないだろうか?
「大丈夫や。別に心配せんでええよ? なんかあったら、ウチがあいだに入るさかい。信用してくれてええよ?」
グーイの心を読み取ったかのように、リムロが笑顔で言う。さすが、三兄弟の長男である。
……リムラの言うことに嘘は無いだろう。その優しく、かつ真剣な目で分かった。
「分かった。行くよ」
「ほんまか! 良かったわぁ。もし行かないなんて言ったら、憑依してでも連れて行こうと思ぉてたんよ。まあ、一族同士じゃ憑依出来ひんけどな!」
そんな話をしながら、2人は人目を避けながらその『家』に向かった。



* * *



「こ、ここ?」
「そうやで? かなり立派な洞窟やろ?」
グーイの目の前、正確には一歩手前には、来るときに前を通ったあの洞窟があった。
「ほら、何立ち止まってんねん。はよ入ってみてぇな、心配せんでええから!」
リムラはニコニコしながらグーイの背中をつつく。思わず、グーイが一歩踏み出してしまう。

そして。辺りを妙な風が駆け抜けた。
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