矢五さんの小説

アドとアドレーヌの対決・前編


ある晴れた日の事、ポップスターの空の近くに浮かぶ
雲の楽園、クラウディパークにて

「‥だから、カーくんは私と遊ぶって言ってるの!」
「何言ってるの、カーくんは私と遊ぶ予定なんだから!」
その日、一見、喉かで平和そうな雲の上のアトリエで
赤いベレー帽に緑の服を着た二人の少女が激しい言い争いを
繰り広げていました。

「ちょっと、アドちゃんもアドレーヌちゃんも落ち着いてよ!」
二人の少女に挟まれる形でカービィは喧嘩を止めようと
必死に訴えかけますが二人はお互いプイッとそっぽを向いて
とても話し合える雰囲気ではありませんでした。

二人の少女はそれぞれ緑色のエプロンを着て前髪が長い方がアド
緑のワンピースを着ていて前髪をショートカットにしているのが
アドレーヌと言ってお互いカービィの事をカーくんと呼ぶ
絵描きの女の子でした。

そして、別人の筈の二人は何故か名前も容姿も趣味も
殆ど全てが瓜二つに似てしまっていて
それがお互い気に食わないのか出会う度に喧嘩になってしまうのでした。

「‥貴方、いい加減にカーくんの手離しなさいよ」
「そっちこそ…いい加減、諦めたら?」
そして、今はカービィとどちらが遊ぶのかで喧嘩になっていて
二人ともカービィの手を左右で引いたまま一歩も轢かず
お互い降着状態を続けていました。

「‥そうだ!」
暫くしてアドレーヌは何かを思い付いた様に振り向き立てかけていた
自分のキャンバスに向います。

「カーくん、トマト描いてあげるね!」
そして、そう言ってアドレーヌは素早く筆を奔らせ
自分のキャンバスにトマトの絵を描くと自身の能力で
それを実体化させました。

「‥さあ、カーくん出来たよ!ほら遠慮しないでいつもみたいに沢山食べて!」
そしてアドレーヌはそう言ってカービィの口にトマトをグイッと押し込みます。

「もごっ!もががが…(アドレーヌちゃん、いくら僕がトマトが好きでも
無理に詰め込まれたら苦しいよ‥)」
カービィは必死で手足をバタつかせて声にならない声を上げますが
熱くなってるアドレーヌにそれはまったく伝わっていませんでした。

「何よ!それならこっちだって!‥」
そして、それを見たアドも自分のキャンバスにトマトの絵を描くと
それを実体化させ、カービィの口に自分が描いたトマトを押し込みました。
「ほら、カーくん!食べて食べて!」
「うが…もごっ!…(ア‥アドちゃんまで…僕もう駄目…)」
カービィは目を回してその場に伸びてしまいました。

「カーくん、私のトマトの方が美味しかったよね!?」
「いいえ!私の描いた方が美味しかったわよね!?」
しかし、二人に詰め寄られてもカービィから返事はありません。

「ちょっとカーくん、もしかして…気絶してるの?」
アドレーヌはカービィの肩を掴んで揺さぶりますがカービィは目を回したまま
返事は無く
其処でようやく二人はカービィが気絶している事に気が付きました。

「貴方が無理やり食べさせるからでしょ!」
「何よ!そっちだって真似したくせに!」
そのままアドとアドレーヌはカービィの体を跨いで、また睨み合いを
始めてしまいました。

「‥もう!いい加減にしてよ!二人とも!」
その二人の険悪な空気に気絶していたカービィは飛び起きて叫びました。

「張り合うのは止めて二人とも仲良くしようよ」
しかし、カービィのその言葉にアドはフンッと鼻を鳴らして言います。

「張り合うも何も此処は元から私のアトリエよ…私の邪魔をするんだったらそっちから出て行って欲しいわ」
「っ!‥もう良い!私、別の所で描くから‥アドちゃんなんて大嫌い!」
「あっ!アドレーヌちゃん!」
アドのその言葉を聞いてアドレーヌはショックを受けた様子でそう叫ぶと
アトリエを出て雲の向こうへ走り去って行ってしまいました。


「アドちゃん…」
「………」
それから数分後、アドレーヌが出て行ってからアドは俯いて塞ぎ込んでしまい
描きかけていた自分の絵にも一切手を付けていませんでした。

「‥カーくんもあの子の所に行ってて良いんだよ」
カービィはアドのその言葉に黙って首を横に振って言いました。
「アドちゃんはアドレーヌちゃんの何処が気に入らないの?」
「‥あの子、私より後にこの星に来たのに、はっきり言って私よりも絵が
上手だしカーくん達、皆と冒険したのも私じゃなくてあの子だったから‥
私、完璧に嫉妬しちゃってるみたいで‥あの子が目の前に居ると
上手く話せないんだ…」
俯いたまま、アドは涙声で呟きます。

「情けないよね…私の方が年上なのに全然、気を遣ってあげられなくて…」
「‥アドちゃんがそう思えるんだったら、まだアドレーヌちゃんと
仲良くなれる機会はきっとあると思うよ」
そう言ってカービィは自分の胸をぽんっと叩くと力強くアドに言いました。
「だから、何でも言って!僕、アドちゃんとアドレーヌちゃんが
仲良くなれるなら何でもするから!」
「‥カーくん…有難う…」
そのカービィの言葉を聞いてアドは顔を上げると涙が滲んだ目を
ハンカチで拭き、カービィにそう言いました。
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