啓太さんの小説

【イベント小説】はじまりのルール



ぼくには、冒険をはじめる時に、いつも守るちょっとしたルールみたいなものがある。
あ、ルールって言っても全然難しいことじゃないんだよ。
誰にでもできる、けれども、もしかしたら、ぼくだけが守っているルールかもしれないけどね。



空に真っ黒なものが広がっていくのをみつけて、
なにかただ事じゃない予感がして、ぼくは冒険に出かけることにした。

「あ、グーイ、待ってよ! まだ、準備が…!」

「♪!」

グーイは冒険に出るのが、そんなにうれしいのか、
ぼくが準備をするのを見向きもせず、なんだか歌いながら飛び出していった。

「しょうがないなぁ、もうー。」

ぼくはいそいで「それ」を荷物の中に入れると、
グーイの後を追いかけた。

しばらく、グーイを追いかけて走っていく。
ぴょんぴょん跳ねながら、ずんずん進んでいくグーイ。
追いつこうと思っても、全然距離が縮まらない。
むしろ、広がっていっちゃう。

「はぁはぁ、早すぎるよ、グーイ!」

息をぜいぜいし始めたところで、
ぼくの顔にはなびらがくっついた。

「あ…きれいだなぁ。」

ぼくはそれをはがすと、それを眺めた。
そういえば、止まって気がついたけど、風がすごく気持ちがいい。
ちょっと汗をかいたぼくの体を冷やしてくれていた。

ぼくは、いつのまにやらグラスランドまで走ってきていたんだ。
そこは、ちょうど、ぼくが最初に行こうと思っていた場所。
グーイも、やっぱりぼくと同じ気持ちだったのかな?


「きゃあああああああああ!!」

突然、向こうから甲高い悲鳴が聞こえた。
ぼくは、はっとして声のしたほうへ走っていた。


「?」

着いた先には、グーイがきょとんとした顔で待っていた。
そして、まわりには、たくさんのチューリップさんたちがいた。
そのなかに一輪、泣いている子がいた。
周りのチューリップさんと比べて一番小さい。

「ど、どうしたの?」

ぼくがたずねると、3輪のチューリップさんが
顔を真っ赤にして…っていっても、もとから赤いから判りにくいか。
とにかく、すごく怒りながらそれぞれ言った。

「どうしたのじゃないわ!
 この黒い子が、チュリップちゃんをふんづけちゃったのよ!」

「女の子を踏みにじるなんて、男として最低…。」

「そーよ、そーよ!」

「??」

グーイは、状況がよくわかってないみたいだった。
うー、一番の当事者のはずなのに…。
えっと、つまりこの4輪は姉妹か何かのチューリップなのかな?
それで、その中でいちばん小さい末っ子の子をグーイがふんづけちゃって…。
あ、なんとなく整理できてきたかも。

よし、とりあえず、ぼくがなんとかしないと。

そう思ったぼくは、荷物をおいてチュリップと呼ばれていた子をなでてあげた。

「ごめんね、チュリップ。
 グーイにはきっと悪気がなかったんだ。
 つい、元気が有り余っちゃってふんづけちゃったんだ。
 だから、グーイを許してあげて。
 …ほら、グーイもチュリップにあやまって。」

「g」

・・・言葉はよくわかんなかったけど、グーイなりにちゃんと謝ってるみたいだった、たぶん。
…これで、許してくれるかな?

「……。」

チュリップはまだ、涙をうかべている。
けれども、泣くのはもうやめたみたいだ。
許してくれるっていう言葉を聞いたわけじゃないから、まだ判らないけど、それを見てちょっとほっとした。

だけど。

「いいえ、チュリップちゃんにこんなひどいことしておいて許すもんですか!」

「言葉じゃなくて、行動でみせるのが男というもの…」

「そうよ、そうよ!」

う…、この人たち、なんだかすごい迫力だなぁ…。
チュリップも、今のところは小さくてかわいいけど、
ゆくゆくはこうなっちゃうのかな…って。

「あ、なにするの!」

ふと見ると、一番大きいチューリップ(たぶん長女?)が、
ぼくのにもつを葉っぱで、ひょいと持ち上げてしまった。

「私たちの出す試練をクリアできたら、この荷物は返すわね。」

「どんな試練でも、乗り越えて見せるのが男というもの…」

「そーよ、そーよ!」

な、なんでそうなっちゃうわけ・・・?
っていうか、「男」っていわれても・・・。
っていうか、さっきから、「そーよ、そーよ」しか言ってない子が一人いる…!!

でも、この試練をクリアしなきゃ、荷物は取り返せないんだ。
その荷物には「あれ」も入ってるんだ!
だから、がんばらなきゃ!

「よし、いくよ、グーイ!・・・・・あれ?」

「z」

グーイは走り続けたからなのか、疲れて眠っているみたいだった。
寝息がすごく気持ちよさそう…。

・・・あれ、ぼく一人でクリアするの?

「いくわよ、チューリップ4姉妹の試練!」

えーい、こうなったら、当たって砕けろだーーー!!

ぼくが意を決してチューリップ長女のほうをみると、
ぼくは顔にいきなり何かをかけられた。

「うわ!!」

これは…花粉かな?
急に目がかゆくなって、目をあけられなくなった。

目を手でこすって、ようやく見えるようになった時、
周りの状況が一変していた。

「あ、あれ!?」

目の前の景色がみんな大きい?
チューリップ4姉妹も、あ、グーイまで。
ん、そういえば荷物も大きくなってる?

…違う!

「ぼく、小さくなっちゃったの!?」

そう、ぼくが聞いてみると、
ものすごい地響きのように声がとどろいてきた。

「正解〜。私たちの試練の内容は簡単よー。」

そう言うと、チューリップの3輪のお姉さんたちは、
くっくっくと、笑い始めた。
…下のアングルから見てるからかな、こんなに不気味なのは。

「あなたが私たちの攻撃をよけられたら、あなたの勝ちよ!」

「!?」

次の瞬間、大きくなった葉っぱが地面にたたきつけられる!
ぼくはそれを間一髪でよけた!

「む、無理だよ!こんなの!」

ぼくがそういうけど、今度は妹たちも攻撃し始めた。

「どんな無理をもくつがえすのが、男というもの…」

「そーよ、そーよ!」

そうか、きっとこれは、いつもふんづけられている花の気持ちをわからせようっていう試練なんだ。
言葉だけで謝っても、説得力がないって…。

でも、それにしては。

「そーれー!そーれー!そーれー!」

3輪とも、すごく楽しそうなんじゃ!?

「S」

そのとき、グーイが寝言のようにつぶやいた。
けど、ぼくにはなんていったのか、聞こえていない。

と、とりあえず、相手は花なんだ!
だから、きっと根っこが生えていて動けないはず。
その外側までいってしまえれば!

ぼくは必死になって、
3輪から外れるところにダッシュした。
でも、そんなことで試練がクリアできると思ったぼくは甘かった。

「あら、どこへいくつもりかしら?」

「敵前逃亡とは、男らしくない…」

「そーよ、そーよ!」

次の瞬間!!

「え、ええええええええええ!!??」

3輪のチューリップさんは、地面から根っこをだして動き始めた。
そんなの反則じゃ…。

「覚悟しなさい!!」

「潔いのが男というもの…」

「そーよ、そーよ!」

3輪はとどめ、といわんばかりに、その葉っぱをおもいっきり振り上げた。

万事休す!
ぼくがあきらめかけた時…

「もうやめてよ、お姉ちゃんたち!!」

チュリップの声に、攻撃がやんだ。

「チュリップ…」

「もう私は平気だよ?だから、もうこの子をいじめるのはやめてあげて。」

そういって、チュリップは葉っぱの上にぼくをのせて持ち上げてくれた。

「でも、チュリップ、私たちはあなたのために!」

「妹が泣いていたら全力で助けるのが姉というもの…」

「そーよ、そーよ!」

チュリップのことを大切に思ってるのが、ぼくにはよくわかった。
きっと、このお姉さんたちはチュリップが大好きなんだ。
だから、泣いているチュリップを見て、どうしても許せなくて…。

気づくと、グーイがチュリップのそばにいて、
グーイがふんでちょっと汚れてしまったところを
グーイが丁寧になめてきれいにしてあげていた。

それをみて、お姉さんたちの顔が急に優しくなっていった。

「ごめんなさい。ちょっとカッとなっちゃったみたいね、私たち。」

「あ、ぼくはべつに・・・」

首をふろうとしたとき、体がだんだんと大きくなっていった。
どうやら花粉の力が消えたみたいだ。

チュリップはグーイのおかげでぴかぴかになったみたいだった。

「チュリップ、グーイのこと、もう許してくれる?」

ぼくがそう聞くと、チュリップはにっこりと笑った。

「うん!でも、もう今度はふんづけないでね!」

「*」

グーイは照れているようにほっぺたが赤くなった気がした。

すると、チュリップからなんだか不思議な光がとびだした。
一回またたくたびに、ハートとスターが交互に現れるなんだかきれいな光。
なんだかそれをみると、すごく優しい気持ちになった。

「それはハートスターね。」

「ハートスター?」

ぼくが聞くと、チュリップのお姉さんたちは教えてくれた。

「だれかに優しい気持ちを表した時にでてくるのよ。」

「誰にでも優しくするのが男というもの…」

「そーよ、そーよ!」


そうだ。ぼくはいつもどんな気持ちで冒険にでかけているのか。
みんなの平和を守るためなんだ。
そして、その平和を守ることは、ただ悪いやつを倒すことだけじゃない。

こうやって、みんなに優しくすることも平和を守るのにとっても大事なことなんだ。


返してもらった荷物からぼくは、「あれ」を取り出した。

冒険の始まりのルール。

「ねえ!みんなで写真撮ろうよ。グラスランドの写真!
 グーイも、チュリップも、お姉さんたちも一緒に!」

「G!」

グーイはチュリップの周りをとび跳ねながら喜んでる。
チュリップも最初とは違うすごく明るい顔だ。
そして、お姉さんたちはそんなチュリップのことを穏やかな顔で見守っている。

そんなみんなを見ながら、ぼくはカメラをセットする。

そう、ぼくは冒険に出るって決心したら、
最初の場所は、風の気持ちいい草原って決めていたんだ。

そして、そこで写真を撮る。

一番大好きな風景をずっと忘れないように。
どんなに大変なところに行っても、
冒険に出た時のこの気持ちを大切にするために。


「それじゃあ、いくよ!はいチーズ!」


いつもは風景だけだけど、この写真はなんだか賑やかな写真。
だから、今回の冒険は、いつもよりずっととっておきの始まりのような気がする。
きっと、今回も楽しい冒険になる。
きっと、平和は守れる。
ぼくは、はっきりとした根拠もないけど、そう確信していた。

そのとき、はなびらが風にのって、またぼくの顔にくっついた。

ちょっとくすぐったい。

はるかぜのいたずらが、なんだかとても心地よかった。



おしまい