オリオンさんの小説

【たたかいの彼方に2】第1話 『希なる望み』


たたかいの彼方に2


第1話『希なる望み』

 宇宙の忌み嫌われ者の一族――ダークマターは、世界を闇に染め自分たちの暮らしやすい空間を作りあげるべく、かつて銀河中の星、そしてそこに住まう生き物達の平和を何度も脅かした。
 その一族を出現の度に撃退に追いやった者もいた。その者こそが“星のカービィ”であり、彼は、この一族が再び勢力を取り戻し始めていることにもいち早く気付いていたが、一族の長ゼロの策略により捕らわれてしまった。
 一方、それを助けようとする仲間もいた。彼等は強い結束を以て様々な困難を乗り越え、強大な力を持つゼロの手下達を倒していき、後一歩の所まで来ていた。
 後一歩――あの時ゼロさえ倒せていれば、リック、カイン、クー、グーイ、ナゴ、ピッチ、チュチュ、アドレーヌ、デデデ大王、メタナイトの十にんはカービィを助け出すことができたのだ。
 しかし、一族の長の力は手下達とは比べものにならない程大きく、彼等はたちまち満身創痍に追い込まれた。そこに行きつくまでの過程は紙クズが燃えていくのを見るよりもたわいなかった。
 その上、ゼロは傷だらけになった相手を更に死ぬ直前にまで追い込ませ、そこから魔法で相手の体を回復させてまた痛みを味わせるという痛烈な拷問を繰り返した。そして、心身ともに極限状態だった仲間達の心にこう呼びかけた。『カービィが捕まっていなければ、お前達もこんな辛い目に遭わずに済んだ。度重なる辛い戦いもせずに済んだ』と。そして、侵略の段階で奪ったリップルスターの秘宝クリスタルを元に作られた、生き物の負の感情を引き出す“ダーククリスタル”を用い、結束を意識できる余裕の無い仲間達をカービィに恨みを持つように仕向けたのであった。そして生まれたのが――

「……いいぞ、“マルルーモ”よ! その強大な力を以て銀河を……宇宙を征服してみせよ! ガハハハハ!」
 頼れる者に裏切られ、茫然自失となっていたカービィの心につけ込むのはいとも容易かった。今の彼はもう伝説の勇者などではなく、破壊活動を繰り返す邪悪であった。そんな彼はマルルーモという新しい名を貰い、侵略に加担している。彼の圧倒的な力により、銀河帝国の版図はリック達がゼロと戦う前の数倍にも広がっていた。これもダーククリスタルの力のおかげであった。
 ダークマターの銀河帝国完成は目前となった。カービィを助けようとした者は全員倒され、闇水晶の元となった秘宝クリスタルは何千個にも砕かれて宇宙に放り出され、かつて悪者を駆逐した強力な武器さえもその悪者側の手中に収められている現状を見れば、これが時期に覆るなどとは考えないのが普通だろう。
 しかし、希望はまだ全て失われてはいなかった――

「はぁ……これからどうなっていくのかな……」
 ポップスターのあきれ返るほど平和な国にある洞窟マジルテで監禁されていた体色の黒いカービィ――シャドーカービィが途方に暮れる。ミルキーロードとポップスター周辺の惑星は既にダークマターの勢力下に取り込まれており、ここも例外ではなく、その平和な国も今は地獄そのものであった。
 ダークマター一族を頂点とする統治国家を立ち上げ、住民達は強制労働に駆り出された。住民の為の食料生産は一部のひとたちに任され、大多数はダークマターの為の建築物設立、土木工事、また仕事の為の仕事と思えるようなどうでも良い作業を延々とさせられていた。
 住民はこのことに文句一つも言わなかった。何故なら皆『ダークマターの為に働けば幸せになれる』という教えを見事信じ込んで居たからだ。彼等はもう考えるということを止めてしまっていた。
 幸せになれないと悟れば住民達も一斉に反乱を起こすのかと言えばそうでもない。反乱を起こせばダークマター達に鎮圧されることを知っているし、起こそうとする気も無いからだ。事実、不平を託った者、労働を放棄した者は公開処刑にさらされ、これまでに沢山のひとが残虐な方法で殺された。寧ろ生き残っているひとびとはそれを蜜の味として労働力の源としていた。自分さえよければそれで良い。これは、ダーククリスタルの力を受けた生き物に見られた考え方であり、実際、闇水晶に毒されたひとたちばかりとなっていた。こうなるのを見越して、ダークマター側は侵略地域の住民に闇水晶の力を与えておいたのであった。
「みんな、みんなダークマター側に付いていった。ヘビーモールもクラッコも、ワドルディだって……」
 マジルテに閉じこめられたのはシャドーカービィだけではなかった。彼はまず、ポップスターの秘宝を探していたドロッチェ団、ワドルディと出会い、そこからヘビーモール、クラッコを加えて、ポップスターを侵略する暗黒勢力の駆逐に加担していた。そしてその道中に幹部連七星のひとりであるダークゼロも倒した。
 しかし、問題はここからであり、秘宝を見つけ、残りがファイナルスターにあったことを知ったドロッチェ団が宇宙を飛び立った後、闇水晶に毒された住民達の手により4にんは捕まってしまった。やがて突然やってきた妖精に手より、彼以外の3にんはダークマターに服従。その妖精とはかつてのカービィの仲間リボンであり、ダークマターに捕まり闇水晶の力を受けた後、自身がその力を放出する能力を身につけた。彼女はこれを利用し、惑星の住民達に悪心をさらけ出す劇薬をばらまいて、侵略に貢献した。自身と共に暮らした他の妖精達も例外なく。
 こうして、抗い続けている者は彼ひとりだけとなった。とは言ってもそのシャドーカービィには武器も何もない。今や気持ちだけの戦いが続いているという状態だった。何故自分だけが残されたのかは疑問であったが、それよりも自分にできることを考えたいという思いが先立っていた。
 本当にダークマターが世界の覇権を握るのか。何かまだ希望は無いのか。模索する毎日が続いたが、心身ともに疲れ果てた彼には、それも無駄だと悟り始める境地にまで達してしまっていた。今や絶望のどん底であった。
 そんな中――
「……?」
 ――一筋の光を目にしたような気がした。目を凝らせば、自身とその元である者が愛用していた乗り物に似ている気がした。が、
 ――夢じゃないよ。
「!!?」
 どうせ夢だろう――と思っていたことを読み取られ、また脳裏に響いた声にハッとする。
(僕に喋りかけているのは誰だ?)
 警戒しながら当たりを見回す。すると――
《ボクだよ。カービィの体内にある心。度重なる戦いを経た勇者に生まれる心。今凄く大変なことになってるの》
 返事が来た。意思疎通できる何かが現れた。孤独からの解放によって込み上がる嬉しさを押さえながら、シャドーカービィは訊く。
(ダークマターが侵略の幅を広げていることは知っている。だから……まずは君が分かることを全て話してほしい)
《うん。まずカービィのことね。カービィはゼロに捕らわれた後、ずっと暗い牢屋に閉じこめられていた。それから、何者かに悪夢も見せさせられて苦しんでいた。それからしばらくして……その悪夢が本当になっちゃったの》
(! ……その悪夢は一体なに?) 
《カービィが仲間達に苛められる夢だよ。『お前さえ捕まらなければ、自分たちもこんな辛い目に遭わずに済んだ』と言って仲間達がよってたかってカービィを叩きのめすの。……凄く悲しかったよ》
 自分がマジルテに幽閉されている間にこのような惨事があったとは。シャドーカービィはいたたまれない気持ちとなる。
《それからまた時間が経つと……カービィの体に、“すごい力を持つ闇”が入り込んできた。今までもそういうことが何回もあってその度にボクが跳ね返したけど、今回はそれまでとは遙かに違ってた。跳ね返そうとすればそのまま取り込まれて消される程の力だった。だからカービィの体から逃げ出してきちゃった……》
(それで……カービィはどうなったんだ?)
《悪者になった》
 彼の背中に緊張と衝撃が走る。あの強く優しい英雄が今、悪に染まっていることが、聞いただけではにわかに信じられなかった。想像もしたくない。
《カービィが持ってるほんの小さな悪の心が闇の力によって暴走させられて、宇宙を壊す悪魔になった。どんな強者も一瞬で殺す程の巨悪になった。でも……ボクがいればまだ止められる。虹の剣とスターロッドとラブラブステッキとクリスタルとボクの力があれば止められる。キミは……鏡の力で生まれたカービィの分身だよね? ボクに協力して欲しいの》
(分かった。君もよく僕のところに来てくれた。一緒にダークマターを倒してカービィを助けよう。それで……なんて呼べばいいかな?)
 すると、突然現れた何かは、こう答えた――

「勇者の心……ふん、そんなものがあろうが、今や余にはマルルーモがいる。その上光の武器も全て奪ったのだ。勝ち目など無いに決まっている」
 ゼロは水晶伝説を何度も読み返し、最後の部分に書かれている『夢、愛、希望が重なりし時、水晶は真の姿と力を得ん。鍵を握るは、平和の乱れぬ永遠の星たる五芒星の惑星。そして、“勇者の心”なり』の一番最後の部分について考察していた。そして、ある程度の予測はもうついていた――
 ――が、ダークマターのための帝国がもうすぐ出来上がるという高揚感もあり、その勇者の心もろとも消し去ってしまおうという考えには至らなかった。そんなくだらないことのためなら、これからの統治について時間を費やそうという思いが時間が経つにつれて膨らんでいくことにもゼロは気付いていた。
「……」
 そのこれからの統治を行うための最後のステップ、とゼロはゆっくりとモニターに体を向け、何者かと通信を取り始める。
『……こちら、ポップスター統治区。ゼロ様が直々にお呼びになられるとは……どのようなご命令でしょうか?』
『お前のところに“もうひとりのカービィ”が捕まっているだろう。ネオの力でカービィを闇に堕とした今、奴にもその力を与え、闇に染めることができるはずだ』
 できるはずだ――これは、ゼロの、強化前の闇水晶の実験の失敗による、“カービィ一族は闇を跳ね返す力を有している”という思いこみからの発言であった。ヘビーモール、クラッコ、ワドルディは連れて行かれ、シャドーカービィだけがこうして幽閉されたままになった原因でもある。
 しかし、影の英雄に闇を跳ね返すことができる力は無い。何故なら――

(勇者の……心?)
《そう、沢山戦いをしてきた優しさと強さを併せ持つ勇者に生まれる心。キミは生まれたばかりだからまだ無い。でも器ではある》
 闇を跳ね返したのは、カービィの体内に存在していたこの謎の物体――勇者の心によるものだからだ。それが無いシャドーカービィには強化前の闇水晶の力を与えても、失敗に終わることはなかった。ゼロはそれを見破ることができない上に、思いこみで実験を放棄してしまったのだ。ダークマター一族の憑依能力ではカービィを操れないという事実がこの先入観を助長させていたのもあるだろうが、新たな闇の世界を創造する者としてはこれは重大なミスである。
 この間抜けな白い球体に“一度やってみたらどうだ”と圧せる者が居なかったのも原因であった。一番の策略家であり、手下の中でも唯一ゼロに意見を申したダークマインドも、この時はゼロの洗脳により、言うことを聞くだけの傀儡となっていた。
 こうして、シャドーカービィは圧倒的不利な状況の中でチャンスを見いだせる千載一遇の人材となった。ゼロの策略ミスによって生み出された希望がポップスターのマジルテ内にはあった。しかし――

『その闇の力を与える前に……奴を死ぬ直前にまで追い込んで欲しいのだ。できるだけ時間をかけて、痛みを与えるようにして、ダークマターに対する強い恐怖心を植え付ける。そうすれば、負の感情の矛先が余等に向かわなくなるはずだ。影ながらカービィだけあって時間はかかるだろうができるだけ早急に頼む。余は一刻も早く内政に力を注ぎたいのだ』
『了解しました』……「というわけだ。いよいよあの似非カービィを痛めつける時が来た。みなのもの、奴を瀕死状態にまで追い込み、我々に逆らえないようにするのだ!」
 
 ――ダークマターが自分たちへ向けて動き出す、魔の手がさし伸びてくるとは、この時のシャドーカービィと勇者の心には想像もついていなかった。
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