オリオンさんの小説

【たたかいの彼方に】 第40話 『終焉と創始』


 カービィの仲間達は無惨にもゼロとの戦いに敗北。そして、身も心も完全に奪われたまま、牢屋へと閉じこめられてしまった。
 カービィ救出に関わっていたドロッチェ団も、ファイナルスターに入る直前に今は亡きダークマインドの奇襲により壊滅的な被害を受け、最早ダークマターに逆らえる者は誰ひとりいない状況であった。
 そして、とうとう“新たな闇の力”を手に入れたダークマターの勢力範囲は、ここから劇的な変化を遂げることになってしまうのであった。


 第40話『終焉と創始』


「……」
 ミルキーロードよりも更に遠くにある星の空高く上にある者がいた。ピンク色で球状の体を有し五芒星の乗り物に乗り、下を冷ややかに見下ろしている。
 やがて、その者――“マルルーモ”は黙ったまま、突然頭上に炎を浮かべ、何かを操る動きを取る。  
 すると、彼の裏側から――なんと、龍の形をした火炎が下にある星へ隕石のように降りかかった!
 ――まず、凄まじい爆発が起こる。緑色だった星は一気に荒れ地となり、そこにいた生き物も何もかも無に返した。
 すると今度は、沢山のダークマターの手下達がすぐさまその星へと向かう。星に壊滅的被害を負わせ、その隙を狙って原住民を服属させる方法をとっていたのだった。
 
「ククク。カービィ……いや、マルルーモの力がこれほどとはな。これによりダークマターが頂点となる銀河規模の宇宙国家は目前だ」
 司令室にてゼロは笑い声を上げる。マルルーモの力により版図は更に広がっていくことに、この白い球体はご機嫌のようであった。
 マルルーモ――新しい名前の持ち主――カービィはゼロの巧妙な策略により仲間への信用を完全に失ってしまった。そのボロボロになった心につけ込まれ、善の心を打ち消し、悪の心と体に眠る力を全て引き出す闇水晶の強化版“ネオ・ダーククリスタル”の力を受けてしまい、今ではこの世界を憎み全てを破壊しようとする邪悪となってしまっていた。今や闇の力を受けたカービィは、全てのコピー能力を無条件で使える上、そのコピー技の威力を圧倒的に上回る大技まで使えるようになっていた。
 しばらくして、扉が音を立てる。
 入ってきた者は桃髪の妖精リボン。闇水晶の力を受けて以来、生きたダーククリスタルとなった彼女はダークマインドの説得によりダークマター勢力に加担していた。
「おお、リボンか。……お前に少し訊きたいことがあって来て貰った」
 ゼロは座を離れないまま、顔も向けずに喋り出す。
「実は、リップルスターを統治していたダークマターから“クリスタルの復活及び真の力の発揮に大きく関わる書物”が見つかったとの報告があり、それが送られてきた」
 ゼロはそう言ってどこからか古びた分厚い本を念力で取り寄せ、開く。
「その書物……『水晶伝説』にはこう書かれている。『かつて世は絶望の淵へぞ堕ちにける。巨大な闇、全てを覆ひ、我らを蝕みにけり。その時、大いなる光、公明の勇者が現れぬ。希望へ導く七色の剣。慈愛を満たす愛の杖。夢を与えし星の棒。集いてひとつとなる三つの象徴を携え、我が星の秘宝たる“破魔の力を持つ水晶”と共に、やがて巨悪を討ちぬ』と。そして、最後の部分には『夢、愛、希望が重なりし時、水晶は真の姿と力を得ん。鍵を握るは、平和の乱れぬ永遠の星たる五芒星の惑星。そして、“勇者の心”なり』と書かれている」
 本を閉じて余所へ投げ飛ばした後、また続ける。
「七色の剣……これはメタナイトが持っていた虹の剣。愛の杖と星の棒はラブラブステッキとスターロッドを指すことは推測でき、いづれもドロッチェから奪い取った。スターロッドについては、ミルキーロードの星にあったものも全部手中に収め、水晶の復活は絶望的であろう。しかし……勇者の心。これは一体何なのかが全く考えられない上何やら気がかりでもある。物体なのか、心と言うから実体は持たないのか。リップルスターに住んでいたお前なら何かしら情報が掴めると思ったのだが……どうだ?」 
 ゼロの問いに、リボンはしばらく黙りこくっていた。そんな書物の存在はリップルスターで暮らしていた時は微塵にも知らなかったからだ。
「まぁ……そんなもの分かるわけないか」
 白い球体が珍しくも優しげな口調で諦めに似た問いをかける。これにリボンは軽く頷いてしまう。そして――
 ――ドシュッ……!
 彼女の頬に赤い光線が当たる。目の前には体中に赤い切れ目を浮かべる白い大玉。その中に埋まる深紅の瞳がこちらを凝視している。
「お前の任務は全て終了だ。もうお前に言うことは何も無くなった。これまでの数々の功績は称えてやろう」
 ゼロはそう言ってまた赤い光線を、殺さない程度に彼女の体に当てていく。
「ど……どういうこと? わたしは何も悪いことはしてません。正統な努力には報酬を与えるのが、ゼロの理想の世界であるはずです。こんなことを親玉がやっていたら、従うひとは誰もいなくなりますよ!?」
 傷を手で押さえながらこれに反論を加えるリボンを、ゼロは嘲け笑った。
「ククク……ダークマターが目指す世界は『努力の分だけ勝ち上がれる孤独な競争世界』……であると“未だに”思っているのか?」
 これを聞いた妖精は主旨がよく掴めず呆ける。
 この白い球体が言った『努力の分だけ勝ち上がれる孤独な競争世界』。これはゼロが復活時から提案してきた理想とする世界であり、手下のダークマターには勿論、幹部連七星にも伝えてきたことであった。七星のひとりであるドロシアはこれに非常に感銘を受けていた。
 しかし、先ほどほとばしった言葉はまるでそれを打ち壊すような物である。“未だに”とは一体どういうことか。
 まさか……と感づいた妖精は顔をひきつらせる。これにゼロは下劣にも追い打ちを加えた。
「余が提起した新しい世界……仲間というこの世の害悪なる概念を壊して、生き物は皆孤独であることを教え、ひとりひとりが強い意志を持つ世界。自身が生き残るために手段を選ばず周りの敵を蹴落として生き抜いた者が幸せになり、柄の貴賤も全て自身の努力で決まる……言い忘れていたが、余はそんな世界を作る気は更々無い」
「!!?」
 ゼロの言うことにリボンは顔を更にこわばらせる。
「お前は努力によって全てが決まる世界で新たな生涯を歩もうと思いここへきた。そして、そこで自身が頑張りさえすれば、たとえこんな場所でも明るい未来が歩めると考えたのだろう。しかしそんな未来は無い。お前は、ただダークマターの為に働き、利用され、動かされるだけの奴隷……いや、家畜となるのだ。これは支配下においた星の原住民共も同じだ。『ダークマターに従えばどんなひとでも必ず幸せになれる』と言う滑稽な教えを説き、逆らう者には壮絶な罰を与え、公開処刑にして恐怖を植え付ける。すれば行動を起こせない愚民共はやがて何も考えないままダークマターの為に動く駒へと化すだろう。その仕上げのために、ダーククリスタルの力が必要なのだ。一番厄介なのは、暗黒物質に反抗意識を持った屑同士の“結束による反乱”だ。逆境に立ち向かう強い心を打ち消し、悪魔の声に耳を傾け、物欲に惑わされ、のめり込んでいく堕落の心を育てるためにな!」
 一瞬だけ静寂が辺りを包み込んだ。一方妖精は目に涙を浮かべている。
「と言うわけで……リボンよ。お前は支配地にダーククリスタルの力を振りまく機械になってもらう。自分の心を捨て、全てを余、そしてダークマターに捧げるのだ!」
 言い放った後、ゼロが目を光らせると共に、一縷の稲妻が凄まじい速度でリボンの体に直撃した!
「げほっ……あぅ……」
 体中が焦げ、悶え苦しむ者を見て、ゼロは不敵な笑みを浮かべる。
「お前の強い意志をもぎ取るため、ありったけの痛みと恐怖を植え付ける。お前のその素晴らしい性質はダークマターの聖なる支配の為に一生利用してやろう。ありがたく思え!!」
 そしてまたもう一本の稲妻がリボンの体に当たる。体中は、もし傍に即死する毒薬があったら一刻も早く飲みたいほどの激痛に見舞われたいた。
 満身創痍となり、最早虫の息であったリボンはとうとうその場に伏してしまう。これを見たゼロは体中に赤い切れ目を浮かべ――念を送った。

 ダークマターに従えば、祝福が訪れる。何も考えずにただ従え。少しでも逆らえば天罰が下る。
 ダークマターに従えば、祝福が訪れる。何も考えずにただ従え。少しでも逆らえば天罰が下る。
 ダークマターに従えば、祝福が訪れる。何も考えずにただ従え。少しでも逆らえば天罰が下る。
 ゼロ様万歳。ゼロ様万歳。ゼロ様万歳。神の世界からやってきたゼロ様万歳。
 ダークマター万歳。ダークマター万歳。ダークマター万歳。全てを握る高潔な種族、ダークマター万歳。

 内容は暗黒物質を盲信するようにし向ける物であった。しかもそれを上手くいかせるべく、ゼロはわざわざ相手を極限状態にしてから行ったのである。
 一方、体中がじくじくと痛み、失神するかしないかの瀬戸際にいたリボン。ゼロの禍々しい赤い目玉に見下ろされ、痛みと恐怖で体はガクガクと震えていた。闇水晶の力を受けて以来初めて“恐怖”を感じていた。声を上げようとも上手く発せない。そして――
 やがて、桃髪の妖精は気を失ってしまった。
 ゼロは惨いと言うまでにボロボロに成り果てた妖精を物ともせず、手下を呼んで彼女を牢屋へと運ばせる。
「権力を掌握する物は、必ず純潔な暗黒物質でなければならない。他の生き物はダークマターのために動く家畜に過ぎない。頑なに嘘の世界を信じていたあの妖精は突然に絶望のどん底に突き墜され、そのまま気を失っていった。ククク……実に心が躍るではないか」
 運ばれていくリボンを見てまた不敵な笑みを浮かべて呟く。この白い球体の悪行と言動には卑劣なんて言葉では形容しきれない醜さがあった。
(これでマルルーモの“かつての”仲間全員はダークマターに屈する動物に成り下がった。ドロッチェ団とやらも妖精とマインドのおかげで壊滅した。ポップスターで蜂起したシャドーカービィとやらも捕まえたとの報告があった。そして、新たな闇の力も手に入った……)
 ゼロは思わず笑い声を漏らす。
「邪魔者は全員消え、準備も整った……いよいよだ。いよいよ余の銀河帝国が完成する時がやってきた! この日をどれだけ待ち望んだことか! ダークマターはここで完全な復活を遂げるのだ!! 全てを闇で覆い尽くす世界がとうとう現実となるのだっ!!!!」
 ゼロの笑い声が司令室中に響き渡る。巨大要塞であるファイナルスターを中心に、この世界――この銀河全体はダークマターが統治する暗黒国家として産声を上げていた。
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