オリオンさんの小説

【イベント小説】まぼろしの村(第3回エピソードパズル)


「おかしぃなぁ……」
 数々の冒険を繰り広げた伝説の勇者であり、とある界隈では“ピンクの悪魔”と恐れられる強者――カービィが、頭を掻きながらしかめた表情で辺りを見回す。
 今現在彼がいた場所は、プププランドのある場所に存在する危険と誘惑で溢れる洞窟――マジルテ。洞窟に眠る宝を求め、挑戦する探検者も沢山いた。
 カービィは、この洞窟にかつて偶然にも落ちてしまったことがあった。しかし彼はこの状況を難なく乗り越え、果てには洞窟中の隅から隅までを行き尽くし、そこで見つけた宝を全てかっさらっていった……という“マジルテの覇者”と称えても良かろう経歴がこのピンク玉にはあったのだ。
 そんな彼が再びマジルテに足を運んだ理由、それは『まだ未発見の宝がある』という噂がプププランド中に広まったからで、洞窟中の宝を持ち帰った経験を持つ彼はその未発見の宝も我が物にと躍起になっていた。
 しかし、進展はゼロだった。
 <ちていの木々>、<水しょうの畑>、<古代の塔>、<しんぴの楽園>――と呼ばれるマジルテを構成してると言っても過言ではない四つの場所を順繰りに、そしてそれを何回も繰り返しながら隈無く探索をしてきた。
 そして、今彼がいた場所は<水しょうの畑>と呼ばれる場所でここにやって来たのはとうとう八回目だった。
 道中には沢山の美しく朧気な輝きを放つ水晶がまるで道端にある花のように突き出、今彼のいる真横には三つに連なったとりわけ大きな水晶の塊が二づつそびえ立ち、その真ん中には何者かが作ったと思われる水晶で加工された柵が堂々と佇む。
 下は透明がかった黄土色の地面、更にその下に紫色の鉱物らしき物質の塊がジグザグ状に地層のように連なっている。どのような物質でどのようにこの地形が出来たかは全く持って不明であり、その不可思議さがひとびとを誘惑するマジルテたる所以でもあった。
 そして、やはり洞窟だからか一日中薄暗い。その暗い中で僅かな光が道端の水晶に反映しているので、更に水晶の美麗さが増して幻想的気分も起こさせる。特に地平線の向こう側には沢山の水晶が星のように輝く絶景である。しかし、泥棒や暴走族が迂回していたりする結構危険な場所でもあり、カービィも初めてこの地に足を入れた時は猛攻撃を喰らったものだった。今でこそ彼の強さを知った者が増え、ケンカを売る者は減っていた。それでもまだ突っかかってくる連中の方が多かったが。
「もう、帰ろうかな……」
 カービィは途方もない探索を続けることに嫌気が差していた。上の方からタックが走り抜ける音が聞こえる。出て行くときに被っていた探険帽はもはや帽子としての役割すら碌に果たせない程ぼろぼろになっていた。
 もしかしたらプププランドに舞い込んだ例の噂はデデデ大王か誰かの悪戯かもしれない。元々ひとづてに聞いたものであるし、確定的な証拠も確認しないまま来てしまったことを思い出した。すると、もうやる気は風船の空気が抜けていくようにどんどん萎れていくのが分かった。
 そして、諦めることを決意したカービィは、何でも入り倉庫代わりになる口からピンク色の四角の物体を取り出す。
 それは、彼が普段持っている携帯通信機であり、登録した番号の仲間を呼ぶと、扉が現れ、自分と相手の場所を繋ぐことが出来る超優れモノであった。また、ワープスターを瞬時に呼び出すことが可能でその機能はマジルテ以上に広大な鏡の国を冒険する際に重宝した。
 カービィはボタンを押してワープスターを呼び出す。すれば、五芒星の乗り物がやって来て自分を乗せてこの洞窟から出してくれる――
 ――はずだった。
「あれ?」
 中々ワープスターがやって来ない。妙に感じながらもう一度ボタンを押すが――
「嘘でしょ……?」 
 半ば自棄になって何回も何回もワープスターを呼ぶ。しかし、やって来る気配は無い。鏡の国の地下で呼んだ時はちゃんとやって来たのだから、地下洞窟のマジルテで呼びだすのは不可能なんてことは無いはず。なのに我が相棒は全然来てくれない。
 もう自力で脱出するしかない。この直視しがたい現実がどんどんと迫ってきてカービィは全身が凍り付くような気分になった。ただでさえへとへとなのに、ここから更に自分の足で帰路を見いだせというのか。
(駄目だ……体が、動かないよ……) 
 肉体的にも精神的にも窮地に陥っていたカービィはとうとう座り込んでしまう。真横には星のようにキラキラした巨大な水晶が見下ろしていた。仄かな光に撫でられ、思わずうとうとしてしまう。まぶたが自然に重くなっていくのが分かった――


「うぅ……ここは……?」
 ふと目が覚めると、周りは個室に変わっていた。自分はそこにあるベッドに寝かされていたと気が付く。
「ようやく気が付いたか」
 何者かの声が聞こえてきたと共に、視界に顔面が入り込んでくる。
 その顔はある種見慣れたものであった。しかし、カービィが住む世界では、最近数が減少し中々見られなくなっていた。
 肌色の丸い顔に円らな瞳有し、首から下は黒い体をしている―― 
「君は……バウンダーだよね?」
 体を起こし、目をこすりながら訊ねる。
「まぁ、種族名はそうだ。その中でも私は“ソーラ”と呼ばれている」
 バウンダーは大人びた低く物落ち着いた口調で返事をする。カービィは『変な名前……』と突っ込みたくもなったが、そういえば自分の所にもデデデとかいうふざけた名前をしている国王がいたなと喉にまで出ていた言葉を飲み込む。
「それより、ここは一体どこなの?」
「ここはマジルテにある村だ。そこで私は独りで暮らしている。君はその近くで倒れていたんだ」
 聞いてカービィは頭上に疑問符を浮かべる。マジルテの中に村があるとはこれまで1ミリも想像していなかったからだった。
「……疑っているようだね」
「え? あっ……ばれた?」
 ソーラが微笑して聞いてきた。思ったことがつい顔に出てしまう自分の性を恥じてカービィは顔を赤らめる。
「そんなに恥ずかしがらなくて良いんだよ。……こんな辺境の地にひとが住んでいるなんて誰も思っていないし。そもそも、この村に外からのお客が来たのも君が初めてだ。名前はなんて言うんだ?」
「カービィ。プププランドからやって来た」
「プププランド……聞いたこともないが、それはどこにあるんだ?」
「マジルテの地上にあるんだよ」
「地上か。行ってみたいねぇ……」
 などと会話をしていた時であった――
 ――悲鳴が聞こえた。それは、カービィの丁度腹の部分からのものであった。
「君、お腹空いているようだね」
「あっばれた?」
 当たり前だ。カービィは素早いツッコミに思わず笑ってしまい、ソーラもそれにつられる。
「じゃあ、ここで出会ったのも何かの縁だし、今日は私が料理を作ってあげよう」
「えっ本当に?」
「初めて来てくれたお客様だ。歓迎させていただくよ」
 カービィは喜びのあまり飛び跳ねる。一時は疲れ果てジ・エンドになりかけたがこんな良いこともあるものだと感慨深くもなった。

「でも、そんなに期待しないでよ。味もあまり保証は出来ない」
 素っ気なく言うソーラに、カービィはハーイと軽快な返事を上げながら、においを楽しみにベッドの上で部屋の周りをずっと見つめていた。
 家の中には木で作られたイスやテーブルが点在。壁や床も木材で作られているようで、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
 そこから大分時間が経った後――
「わっ。すごい!」
 作られた料理は見たことも無いような物ばかりであった。薄切りのトマトを沢山盛り、みじん切りのタマネギをのせ、オリーブオイルをかけたもの。沢山の肉の串焼き、さらには野菜や挽肉、ソースを重ね合わせオーブンで焼いたもの等が並べられ、良い意味で期待を裏切られたと感じた。絵が下手と自称する先生の描く絵がとても上手だったというのと似ているかもしれない。
 料理があまりにおいしそうに見えたカービィは思いっきり吸い込みたくなる衝動に駆られたが、物知りでもある仮面の騎士がゆっくり食べるとその食べ物の良さが分かるという話をしていたのを思い出し、“彼にとって行儀の良い食べ方”を取ることにする。が――
「カービィ……君は素手で食うのか?」
 スプーンを右手に持ったソーラが呆れた目でこちらを見つめる。どうやら彼にとっては道具を使って食べ物を摂取することが普通のようだった。
 一方言われてしまったカービィは「じゃあ吸い込んでも良い?」と口を大きく開けて切り返そうとも思ったが料理自体が食べられなくなる可能性が生じると思い、素手で食べるのが普通の食べ方だと主張することにした。「なかなか面白い奴だな」と皮肉られてしまったが。
 作られた料理を口の中に入れていく。やはりおいしかった。デデデ城でのご馳走にも負けない美味さだとカービィは感じていた。毎日不器用ながら自分で必死こいて作る料理がまずく感じると懸念さえしてしまう程に。
 ソーラの方も、おいしそうに食べるカービィを見て明るい表情を示していた。
 食事を堪能した後、ふたりは外に出る。
「うわぁ……」
 桃玉はまた感嘆のあまり声を漏らす。ひとびとの住処と思われる木の小屋が点在し、広場で遊ぶ子供達の遊ぶ姿――バウンダーが見えた。どうやらここはバウンダー族が生活している集落のようだった。
 石を敷き詰めて作った綺麗な歩道が様々な場所を巡る。小鳥のさえずりや動物の吠える声が聞こえ、道端には草が生い茂り、田んぼや畑も沢山見られ、澄んだ色をした小川も流れる。ずっとここで見つめていたい程の美しい景色がそこにはあった。それに加え、ぼんやりとした優しい明るさと足に伝わる芝生が心地よい。プププランド以上に豊かで美しいと思われるこの景色と合わせてカービィの感受性をくすぐった。
「気に入ったみたいだね……私もここへ引っ越してきて良かったと思っているよ」
「引っ越し?」
顔を傾けて訊くカービィにソーラはにこやかな顔で答えた。
「実は……私は元々“マジルテ城”に住んでいたんだ」
「マジルテ城?」
「ここからずっと東に突き進んでいけばある凄く大きなお城なんだけど、そこにいた王様が悪政を行い民衆が反乱を起こして戦争になったんだ」
「せんそう?」
「色々な武器を持ってお互いを殺し合うのさ。そこで私は逃げるようにここへやってきたってわけだ」
「ってことは他のひとたちもここへやって来たの?」
 カービィが遊んでいる子供達を顔で指しながら訊く。
「……まぁそういうことになる。私とバウンダー族はここで村を立ち上げた」
「じゃあ、みんな一緒に逃げてきたんだね……」
「みんな一緒に……か……」
 この時、一瞬だけソーラの表情が曇ったかのようにカービィには見えた。
「……取りあえず、もうマジルテ城に戻るつもりは一切無いね。王様は亡命して何処かへ逃げて、戦争もおそらく終結したはずだが、何にも干渉されないこの場所の方が私は好きだ。私はここで一生を送るつもりさ」
 話を聞いて、マジルテにはまだまだ色々な場所があるんだなとカービィは感心する。
 その後じくじたる思いもこみ上げた。危険なイメージしかなかった<水しょうの畑>にもこんな平和な村があり、何処かには王様が住んでいるお城までもあるのに、たかが四つの場所を廻っただけでマジルテの全てを知っているような気分になっていたことが恥ずかしく感じられたのだ。
 お宝を友達に見せびらかせながら“洞窟の制覇者”を自称してた昔の自分が思い出される。もし今の自分がその場にいたら、昔の自分をぶん殴ってやりたい気分だった。
「……で、実は逃げる時、お城から持ち帰ったお宝があるのだよ」
 ソーラはそう言ってから家に戻り、ある物を持ってやって来る。
「これを見てくれ」
 と嬉しそうな表情で見せられた“それ”を見て、カービィは思わず飛び跳ねそうになるほど仰天した。
(し……信じられない……)
 彼が持ってきた物は、ピンク色のボディーにアンテナが付いている四角い機械――携帯通信機。なんとカービィが持っていたのと全く同じ物であったのだ。
「これはね。大昔に発見された、古代文明の遺産とも言われる代物。伝説では、携帯同士が繋がった時、自分のいる場所と相手の場所に繋がる扉が現れると言われているんだ。この説明をしても、信じてくれるひとは誰もいなかったけどね……」
 ソーラは言葉を失った桃玉を物ともせず語り始めていた。彼の話によると、この携帯通信機は古代の遺産であると言う。
「けどね。“僕”はこの携帯通信機に、ぜっっったいその伝説の機能があると思ってるんだ。だから、どこかに繋がるかもしれないって思ってこの携帯通信機に適当な番号を毎日かけて電話している。そうすれば、いつかは誰かの携帯通信機に繋がるじゃないかってね。もしかしたら繋がった先は違う星に住むひとかもしれない。異世界の住民かも知れない。そう考えると、凄く夢があると思わないか?」
 子供のように目を輝かせながら携帯通信機を見せるソーラに対し、カービィはただ愕然としていた。鏡の国で分裂させられた赤黄緑の、そしてシャドーカービィが持っていたそれは元々カービィ自身が腹の中に入れていたものがたまたまそれごと分裂しただけであり、完全別固体の物を見たのは初めてであった。
「……あっごめん。こんなくだらないこと言い出して……こんな噂、誰も信じないよね。所詮これはただのガラクタだ。先程のことは気にしないでくれ」
 驚きのあまり何も言えずにいたピンク玉を見てソーラはハッ我に返るように謝り出す。馬鹿馬鹿しすぎて言う言葉も出ないから黙ってたと勘違いしたのだろう。
 ソーラが凄く残念そうな表情をしているのを見て、カービィは早く本当のことを――自分も全く同じ物を持っていることを言ってしまおうと焦った。
「……待って! 全然くだらなくないよ!」
 目の前で俯いていたバウンダーの円らな瞳に輝きが生まれる。
「まさか……信じてくれるのか!」
「いや……信じるも信じないも無いよ。だってこれ……」
 カービィは口の中から――“ブツ”を取り出し見せた。
「僕も持っているんだもん。携帯通信機でしょ?」
 これを目にしたバウンダーは口をポカンと開け、カービィが持っていた携帯通信機をなめ回すように見た後、しばらく沈黙する。
 彼は一体何を思ったのだろう。早く答えを聞きたい気がしたが、ソーラは心を奪われたかのように立ちすくんだままだった。

 やがて、しばらく時間が経ってから、彼はやっと口を開き――

「汚いなぁ……口から物を取り出すなんて」
 ある意味予想外の突っ込みにカービィは豪快にずっこけた。あの長い沈黙はまさか自分があまりに汚らわしかったからなのかと少しショックも受ける。しかし、よくよく考えれば口から物を出すことはあまりよろしいことではなかったと気が付く。一番怖かったのは普段の生活でそれが悪いことと思わなくなっていた自身の感覚であったが。
「……でも凄い。まさか君が携帯通信機を持っていたなんて! 一体どこでそれを手に入れたんだ?」
 そう言われて、カービィはハッと言葉を失った。正直どこで手に入れたのかはよく分からなく、もしかしたらワープスターを自分で操れるように物心つく前からから持っていて、それに気が付いたのが鏡の国を救う冒険に出る少し前だったという淡い推測が可能な程度であった。確か巨大なワープスターを呼ぶ別の通信機も持っていて、リップルスターを救うために使ったことも覚えている。
 しかし、ソーラを納得させるような説得力のある説明が上手く出来ないような気がして、黙ったまま大分時間を使ってしまった。が、
「……まぁ、君も何処かで見つけたんだろうね。それより今は新しい繋がりを実現するのが先だ。是非……是非僕の番号と交換してくれないか!?」
 興奮しているソーラは黙りこくったカービィをお構いなしに凄い勢いで家の中に連れ込んだ。そしてそこで、通信機の番号を交換し合うことを迫られ、カービィも彼の熱意に圧されて成り行きで交換した。
 彼が持っている通信機の番号は“6611084274”という10桁の番号であった。
 カービィの番号は“1151081814”である。
「やった……やったぞ! カービィありがとう! この出会いは運命だ! 神様からの贈り物だ!!」
 番号を交換し終えたソーラの気分は有頂天となり、半狂乱になっている。
「よし! カービィ。君は家から離れて電話をかけてくれ。僕はそれに出るから!」
 彼の熱意ある頼みを聞き、カービィはソーラの家を出る。
「カービィありがとう。これでやっと僕の夢が叶う。この携帯通信機はきっと一生の宝物になるよ」
 家を出る時、震えた独り言が聞こえてきた。一刻も早く彼の願いを叶えてあげようと、どんどん家から離れる。
 そして、ある程度の距離になったとき、電話をかける。彼が電話に出れば、ふたりを繋ぐ扉が現れ、彼の喜ぶ顔も見られる。そう思っていた――
 ――しかしだった。
「え……あれ……?」
 周りの景色が歪み始める。そして、その景色はどんどんと自分から離れていく。
「……ちょ……ちょっと、ちょっと!!」  
 何がどうなっているのか分からないまま、カービィは奈落の底へと落ちていき――


「……!!!」
 ふと目が覚めると、沢山の顔が――見慣れた顔が目に入ってくるのが分かる。
「みんな……」
 飛び跳ねるように起き上がると、周りにはグーイ、デデデ大王、メタナイト、青バンダナを巻いたワドルディの4にんが心配そうにこちらを見つめている。周りを見渡すと、丸い大きな部屋であることが分かり、今自分は我が家にいたと悟った。そして――
「わわわっ!」
 ずんぐりした体のボディプレスと紺色おにぎりの舌がカービィを襲った。彼等は涙目になっていた。
「良かったぁ、目が覚めて……死んだかと思ったではないか……」
 デデデ大王が涙をすすりながらでカービィに抱きついてきた。グーイは長い舌で頬を舐め、ワドルディは笑顔で見つめている。
「ちょ……ちょっと待って! 僕ってどうなってたの?」
「カービィはマジルテに行ったままずっと行方不明だったんだよ。心配だからみんなで手分けして探して……それからしばらくして、<水しょうの畑>で携帯通信機を握ったまま気を失っているカービィをメタナイトが見つけてくれたんだ」
「ええっ!? 嘘だ!」 
 咄嗟に出たひとことはそれだった。マジルテで気を失ったのは認めることが出来る。しかし、グーイの言っていることが本当だとしたら、バウンダーのソーラが住んでいるあの村は一体何だったのか。頭の中ぐちゃぐちゃになりそうだったが、取りあえず自分が体験した出来事を端的に説明した。が――
「<水しょうの畑>にそんな村があるわけ無かろう。それに、そのソーラとやらがいきなり携帯通信機を出してきた時点で怪しさがプンプン漂ってくるわ。きっとおかしな夢でも見ていたのだよ」
「夢じゃないよ、デデデ! 携帯の番号だって交換したんだもん!」
 カービィは決定的証拠となるだろう携帯通信機に登録された6611084274の番号を見せた後、電話をかけるが――
「応答が……無い……」
 反応は一切無く、ツーツーと音が聞こえるばかりであった。
 あれほど電話が繋がるのを期待していたのに、何でこんな時に限って出てこないのか、カービィは気になってしょうがなかったが、
「ガハハハハ!! だから夢だったんだよ。その番号はお前が寝ながら勝手に作ったやつだ。お前には寝相のセンスがあるよ」
 デデデ大王はそんなカービィの気持ちをものともせず大声で笑い飛ばし、周りのひともそれにつられてドッと部屋中に大きな笑い声が立ちあがる。メタナイトだけは何故か怪訝そうな無表情で佇んでいたが。
 やっぱり夢だったのかもしれない。そう思うことにしようとした。しかし――
 ――カービィはどうにも忘れることができなかった。

『カービィありがとう。これでやっと僕の夢が叶う……』

 彼の――ソーラのとても嬉しそうな声は、今でも鮮明に蘇る。
 今までの体験は自分が寝ている時に見た夢でした。それで終わらせることもできなくはなかった。しかし……
 もし夢じゃなかったら? 自分が勝手に消えたせいでソーラのチャンスが消えてしまったとしたら?
 ソーラは一体どうなる? もう少しで掴めそうだった夢をまた逃して彼は一体何を思う?
 そのことを考えると、カービィはいてもたってもいられなくなった。誰も信じていない中、狭苦しい世界で唯一携帯通信機の力を信じていたソーラを喜ばせてやりたい。伝説上なんかじゃない、本物の力を見せてやりたい。もし電話が繋がったら今度は自分の住む世界にも導いてあげたい。そんな気持ちがカービィの体を支配してしまっていた。
「カービィさん、どうしました?」
 バンダナワドルディがカービィの顔をじっと見つめる。すると、桃色の玉は一回強く目を瞬き、
「僕……もう一度マジルテへ行く!!」
 と急に言い出し、もの凄い速さで家を出て行ってしまった。
「何だと!? ……おい、待て! またそこで気を失ったらどうするんだ! わしらにどれだけの迷惑をかけると思ってるんだ!」
 カービィが出て行った後、デデデは慌てて後を追いかけていく。ワドルディも大王に付いていくように家を出て行ってしまう。
 カービィの家に残った者は、グーイとメタナイトだけとなった。
「お前は追いかけないのか?」
 メタナイトがグーイに訊ねる。
「カービィは、普段は優しいけど自分が一回決めると後は中々譲らないんだよ。無理矢理止めようとすると凄く怒ることもある。だから僕は止めないよ」
「そうか」
 素っ気ない返事の後、しばらく間を開けてメタナイトがこんなことを言い出した。
「実は……言おうか言うまいか迷ってたんだが、あそこには……古代の伝記によると大昔には本当に村があったようなんだ」
「え……?」
 グーイはメタナイトの発言を聞き、言葉を失った。

「はぁ……はぁ……」
 プププランドのはずれにある洞窟の中を土煙立てて走り抜ける者がひとり。
 名はカービィ。かつてマジルテ中の宝を集めた者である。そんな彼が再びこの地に足を運んだ理由は――
「もう一度……もう一度あの村へ!!」
 絶命寸前だったカービィを助けてくれた村――の住民のソーラに会うためであった。
「電話が繋がらないなら……直接行くんだ! ソーラに……もう一度……!」
 カービィは、電話が繋がらないのは、ソーラが勝手に消えた自分を見て落胆し、もう夢を追いかける気が無くなったからだと考えていた。だからこそカービィはこのような行動に至ったのであった。

「その村を作った者は……名前は明らかになってはいないが、一説によるとマジルテ城から亡命してきた王様だと書かれている」
 夕焼けで色がかかったドーム状の家の中、メタナイトの話をグーイは真剣に聴く。
「その王様は凄く政治が上手で、最初は国を安定させ、様々な分野において技術を発展させる。……が、いきさつは不明だが、携帯通信機とその伝説の出会いをきっかけに異世界との交流実現に現を抜かすようになり、実質的な政策を疎かにして民衆の怒りを買った。そこで反乱が起きて、新たに『はおう』と呼ばれる者が王権を執ったといわれている。その間、前の王様は逃げて小さな村を作った。しかし……」
 この時、仮面で鋭く見える目がさらにどぎつくなったように、グーイには見えた。

「確か……この辺りに村があるはずなんだけど……」
 息を切らしながら、カービィは<水しょうの畑>を隈無く探していた。村を見る前に気を失った場所を――三つに連なった水晶の塊が二づつ、その真ん中に水晶で加工された柵が会ったポイント中心にだ。
 しかし、進展は無かった。
 今見ている<水しょうの畑>は相変わらず荒々しさと神々しさが入り交じった不思議な雰囲気を醸しだしていた。土地には草一本も無く、こんなところに自然で満ち溢れた村はやっぱり無いかもしれないと思わされてしまう。
 だが、その時であった。
(……!?)
 下に続く段差を、初めてやって来たときにはブロックでふさがれていた場所を下り、その辺りを見回した時――狭い通路の奥に、未開封の宝箱があるのが目に入る。
 カービィは不思議に思った。最初にマジルテへ入った時にも同じ場所に宝箱があり、その中に入っていた宝もちゃんとこの手で持ち帰ったはずだったからだ。その宝が何だったのかはもう思い出せなかったが、何やら禍々しい雰囲気が滲み出ていて、石のように堅いけど、あまり触れたくないものだったような気がした。

「前の王様を殺そうと躍起になった『はおう』を中心とした過激なひとたちは英知を結集して『周りを一辺に燃やす爆弾』を作った。そして空を飛ぶ機械で、前の王様がいた村を空から襲った。以降その場所は荒れ地となり、水晶が沢山生まれる土地と化したという伝説がある。焼け死ぬ前にも、王様は異世界との交流を目指したが結局は無駄な努力に終わったと書かれている……実に可哀相で愚かな奴だ。我が道を行く、それが孤独への袋小路になっていることに気が付かなかったんだろうなぁ」
 言い終えると、メタナイトは床に手をついて座り込み、ふうと一息つく。
「その王様は自分のやりたいことに目がいきすぎて、周りに嫌われて、最終的には自分が作った目的も達成できないまま死んでいった……でもそれが、カービィが体験した出来事と何か関係があるの?」
 ただ伝記の内容を述べられただけのような気がしたグーイは何と無く訊いてみる。すると、メタナイトは遠くに目をやった後、
「分からないならそれで良い。それに、この伝記の内容が事実という確証も無いからな。今私が話したことは、別にカービィに伝えても良いぞ」
 と言ってから、フフフッと微笑しながら家を出て行った。真っ赤な夕日が窓に入り込み、出て行くメタナイトとそれを見つめるグーイを照らしていた。

 カービィが見つめる先にある宝箱。今あるあの箱には何が入っているのか。カービィは操られたかのようにその方へ行き、ゆっくりとその箱を開けてみる。すると――
「これは……」
 思わず目を瞠った。宝箱の中には、“けいたいつうしんき”が安らかに眠っていた。布を敷き、とても大切そうに保管されていた。
 カービィはそれを取り出し、電源を付けて、壊れていないことを確認する。そこから、その携帯通信機に記録されている連絡先を見てみた。すると画面にはこう映っていた。

『1151081814…kirby』

 自分の番号が登録されているのを見て、カービィは目に涙を浮かべて――呟いた。
「ソーラ。ここにいたんだね……」
 カービィは宝箱から出てきた携帯通信機に頬ずりした後、自分の通信機を取り出して、横に並べる。

『1151081814…kirby』
『6611084274…sola』

 じっと見つめると、ソーラの通信機から声が聞こえてきたような気がした。

『カービィありがとう。これで僕の夢が……』
 叶ったんだね。カービィは直感的に感じ取った。そこで、あの時自分はちゃんとソーラの元に行けていたんだとすこぶる安堵した。

『この携帯通信機は一生の……』 
 宝物になったんだね。カービィは思わず涙をこぼした。それは、頑丈そうな宝箱に入っていたことが何よりの証拠であった。

 そして、携帯通信機に映っていた『sola』の文字を見て、
「もう……独りじゃないよ」
 と呟いた後、二つの通信機を手に抱え、その場を後にした。


 マジルテで新しい宝が見つかった。このことは、後にプププランドでちょっとした騒ぎになり、以降洞窟にはまだまだお宝があるかもしれないとマジルテに挑戦する者が相次いだ。
 カービィもまた度々洞窟に赴き、魔法の絵筆、三つ星の杖など、またも数々のお宝を発見するがこれはまた別の話。

 ――しかし、何度マジルテへ赴いても、あの時見た『自然に満ちあふれた美しい村』に足を踏み入れることは、もう二度と無かったのであった。
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