オリオンさんの小説

【20周年記念作品】ときの目印


 
 プププランドにも暦があり、365日を周期とするそれは宇宙のどこかにあるといわれる水と自然の星で使われるものと殆ど同じである。
 さてそれはともかく、4月27日という日はある者にとって特別な日であった。それは――

「誕生日おめでとう!」
 日は真上に佇み、のどかな光が差し、風になびかれる草原が一面に広がるプププランドのとある所にある白いドーム型の家の中から声が聞こえてくる。その中には、家の主カービィと同居している黒いおにぎりのような姿をしたグーイが色々なお菓子が並べられている円台で向かい合うように居座り、その一方であるグーイが祝福の声をあげていた。
 ――カービィの誕生日。カービィが初めてここに訪れた日を、誕生日として祝っていたのだ。
「カービィも、もう20歳かぁ……早いねぇ……」
 グーイがしみじみと呟いた。カービィは照れくさそうに頭をかく。今年は誕生日の中でも節目の年であった。
 それからカービィがすぐさま円台に並べられていたお菓子に手を出す。クッキーやらキャンディやら……まんじゅうもあるようだ。
「ああっ 全部食べないで! まだ、みんな来ていないし。僕の努力の結晶が……」
 お菓子をどんどんと口に入れていくカービィをグーイが止めた。このお菓子は全部グーイが――買ってきた物であった。
「そういや、他のひとたちはまだ来ないのかな? ちゃんと誘ったのに……」
「今年は誰を誘ったの?」
「まずはリック達でしょ。メタナイトでしょ。それからアドちゃんに、大王……」
 カービィが次のひとの名前を言おうとした時であった。
 ――バンッ!
「!?」
 突然、ドアが爽快な音を立てて開き、カービィとグーイはその方へ目を向ける。
「うい! 今年もちゃんと来てやったぜ!」
「おいおい、ひとんち入る時くらい礼儀を正したらどうだ? ……おじゃまします」
 そしてそこから、話にしていた仲間達の中の三にんがやってきた。調子よく声をかけるリックに、冷静にツッコミを入れるクー。そして、無言ではあるが嬉しそうな表情で入室するカイン。
「今年も来てくれたんだね……」
 カービィは笑顔で迎え入れる。
「当たり前だ。おいら達がカービィの誕生日を忘れるわけが無いだろ」
「……なんて言ってるがこいつ、招待状が来た数日前の日まですっかり忘れてたぞ」
「おい、クー! 忘れてなんか無いぞ。日付の把握をしっかりしていなかっただけだ!」
「似たようなものだ。言い訳は見苦しいぞ」
 と焦りを顔に表すリックと相変わらず落ち着きがあるクーを見て、笑うカービィとグーイ。カインは半ば呆れながら見ている。にぎやかで和やかな雰囲気が家の中を充満させていた。
「カインごめんよ、お菓子ばっかりで。もっとクラゲや小魚とか食べたかったでしょ?」
「僕はマンボウであってマンボウじゃないから大丈夫だよ、グーイ」
「あはは……じょーだんだよ」
 三にんは、円台に座り、並べられていた物を食べ始め、色々なことを話し始める。特に話題に挙がったのは、虹の島々を救う冒険に出た時のこと。そしてその時に初めてグーイと出会ったこと。今いるメンバーだからこそ、深く語り合えた。
 やがてしばらくすると――
「やっほー、カービィ。誕生日おめでとう! 今年もちゃんと来たわよ!」
「チュチュさん。いくら友達でもいきなり扉開けて入るのは……」 
「まぁまぁ、細かいことは気にしないナゴ」
 またも爽快な音を立てながら、チュチュ、ピッチ、ナゴの三にんが家へやって来た。会話がリック達三にんのそれと似ているのは気のせいだろうか。
「ささ。みんなこっちに来て!」
 カービィが、ナゴ達三にんを円台へ誘った。これで、カービィの部屋は、かなり賑やかになった。
「あっ! お菓子あるじゃん。食べて良いよね?」
「うん、勿論だよ」
 カービィの言葉と共に、伸びる手でお菓子を食べ始める。
「うー、凄くおいしい……」
「食い気に定評のあるチュチュが早速お菓子に手を出している……」
「カイン、余計なこと言わない!」
 毒づくマンボウを強く睨み付けるスライム。ナゴ、ピッチ、チュチュが加わったことで、円台に豪勢に並べられていたはずのお菓子はみるみると姿を消していく。
 飛び交う話題の数も更に上がる。特に、ポップスターの平和を守るためにみんなで一緒に冒険したこと。その時に起きた色々なことの話が顕著であった。
「……確か、グラスランドのどこかにチュチュに触れられて喜んでたひとっていたよね?」
 カービィが何となく訊ねる。これを聞いた者みんな、緑色のケツの形をしたような謎の生物を思い出した。
「あー、ムチムチね……あいつ、私が触ったら突然ニヤニヤして……何考えてるのって思わず言っちゃいそうだったよ」
「きっとチュチュのことが好きナゴ。付き合うことをお勧めするナゴ」
「いっそのこと結婚しちゃえよ。まだ間に合うかもしれないぞ」
 そう言われるや否やチュチュはナゴとリックを引っぱたいた。
「食い気ばかりだけでなく暴力も振るう……本当に女の子なのかな?」
「カインはいちいちうるさい!」
 色々なひとにからかわれ、ムキになる紅一点。しかし、本気で怒っているわけでもなさそうだった。だからこそこんな会話が成り立つのだろう。
 そんな中、緑色の小鳥ピッチが呟くように言った。
「あの、そろそろカービィさんにプレゼントを渡した方が良くないですか?」
 一斉に会話が止まり、一瞬だけ無音の空気が辺りを覆う。
「……そうだったな。よし、まずはおいらから渡そう」
 リックがそう言うと共に、カービィ以外のみんながプレゼントを用意する時であった。
「なんか、外が賑わってないか?」
 クーがふと扉の方へ目を向けて呟く。扉の先から何やら喋る声が聞こえてくる。
「僕が見てくる」
 カービィが一目散にその方へ向かい扉を開ける。するとそこには――
「カービィ。わしも例年の如く祝いに来てやったぞ。ありがたく思えよ」
 ドアの向こう側にいたのは若干上から目線な国王デデデ。右隣には青いバンダナをつけたワドルディが手を振っている。
「ふん。私も本当は忙しく行く気など全く無かったのだが、デデデ大王に来いと言われて仕方なく来てやった」
 大王の左隣にいたのは普段と変わらず凛と佇んでいる仮面の騎士メタナイト。こんな言い方をしているが、何気に常連だったりする。
「カーくん、遅くなっちゃってごめんね」
「カービィの誕生日会、しかも今年は20回目。俺達ドロッチェ団にも祝わせてくれ」
 やって来たのは無論このふたりだけではない。赤いベレー帽のアドレーヌと大王の横にいたのとは違うワドルディ。違う星に住む故、顔が出せないこともあったリボンもちゃんと来てくれていた。更には盗賊団の長ドロッチェとそのメンバー達、鏡の国にいるはずのシャドーカービィまでも来ている。これだけのメンバーが“揃う”のは今年が初めてだった。
「みんな、来てくれてありがとう!」
 外にいる皆に向けて、カービィは家を出ながらお礼を言う。後から出てきたリックたちは、ただ外の面々に圧倒されている。
「まっ堅苦しい挨拶は抜きだ。わしの城へ来い。今年も色々用意しておいた。期待しておけ」
「本当!? さっすが大王。ふとっぱら!」
「まぁ、実際腹は太いですしね」
 青バンダナの鋭いツッコミにデデデ大王は唸りながらも城を目指した。

 デデデ大王の城の中には、カービィが全部吸い込みたくなるような素晴らしいご馳走が用意されていた。たかがひとりの誕生日会をここまで盛大にやっていいものなのか、とさえ思ってしまう程である。
 それからカービィは、色々なひとからプレゼントを貰った。先ほどカービィの家の中で渡そうとしていたリック達七にんからは、カービィが象られた木彫り、スカーフ、茶器、湯たんぽ、万華鏡、扇子、勾玉が送られた。
「はい、今回は自信作よ」
 緑色の服の少女からは、とても上手に描かれたカービィの絵。自分とそっくり、と感激する桃玉を見て、良かった、と安堵する。
「カービィさんに似合うと思って持ってきました!」
 桃色の髪の妖精からは水色の白玉模様のナイトキャップ。お礼の言葉を聞いた妖精は、嬉しさのあまりか顔を赤らめてたどたどしい返事をしてしまう。
「俺達全員からの送り物ってことにしておけ。大丈夫、本物だ」
 盗賊団からはなんと金の延べ棒が。目を瞠る桃玉を見て、団長がフッとクールに一息つく。
「僕からはこれを上げよう」
 黒色のカービィが持ってきたのは枕。今日からこれで寝よう、という言葉を聞いて嬉しげな表情となる。
「私からは……これをあげるとしよう」
 メタナイトがそう言って渡した物は――自分の仮面の複製だった。一瞬気まずい空気が漂ったが、カービィは受け取るや否や仮面を付け、楽しそうにはしゃぎまわった。
「よかったな。あんなふざけた仮面を喜んでくれるとは」
「私のナイスな仮面がふざけているだと? お前のツラも大概だと思うぞ」
 仮にも王様である者に向かってとんでもない毒を吐いた仮面に対し怒り出すデデデを止めたのは青いバンダナのワドルディ。
「まぁまぁ。そんな野蛮なことは止めて、カービィを呼んでエナジースフィア収集の旅についてでも語りましょうよ」
「ああ、そういや今回の冒険も大分辛かったな。でも、どんなに辛くても過ぎれば懐かしい思い出と化す」
「あのマホロアも生きていたら多分ここに来ていただろうな……奴の素性は結局分からないままだったが、わしには何となくそう感じる」
 この話を皮切りに、またも思い出話が盛んとなっていった。クリスタル収集の旅、鏡の国の出来事、宝箱争奪戦等……本当に色々なことがあったのを、みんなで話し合った。
 そこからしばらくしてのことだった。
「思ったんだけどさ……カービィってこれだけのひとをみんな誘ってきたの?」
 グーイが何と無く訊ねた。すると桃玉は大きく頷いて言った。
「今年はね、やっぱり節目の年だからみんなに来て欲しかったの。だから出来る限りのひとを集めた。こんなに来てくれるなんて、思ってもなかったけどね」
「なるほどな……でもどうしてそんなことを?」
 リックの言葉にカービィは真剣な表情で答える。
「僕は……本当は20歳じゃない。もっと沢山生きていて、どれだけの時間を生きてきたのか今だと全然分からなくなっちゃってる。でもね、プププランドに来たことで僕は色々な意味で生まれ変わったような気がする。沢山の友達ができて、一緒に遊んだり、笑ったり、冒険したりもした。ここに来る前はずっと独りぼっちだった記憶しか無いから、みんなとの思い出は、すごく大切な物なの。僕が20歳になれたのは、絶対、ここへ来てみんなと出会ったおかげ。だから、みんなとの出会いをもう一度確かめたい……」
「何くさいことを言ってるんだ? らしくないぞ」
 カービィの言葉を遮ったのは、デデデ大王だった。
「わしが誕生会を楽しみにしているのは、お前を祝うことだけじゃなく、こうやって色々なひとと一緒になれる数少ない機会でもあるだからだ。ひととの繋がりは出会った瞬間に生まれて、そしてそれは確かめ合うことで強くなるとわしは信じている。カービィ、お前もそれが言いたいんだろ?」
 見透かされたような気がしたカービィは顔を赤らめる。
「うん……今回は本当に沢山のひとが来てくれて、すっごく嬉しい。僕が“プププランドのカービィ”として生まれて、過ごしてきた日々を、そこで起きた出来事を、出会った仲間を、ずっと忘れないでいたい。だから――」
 カービィは最後の言葉を言い切らずに城を出て、すぐ近くにあった丘に立ってみる。 
 日はすっかり沈み、夜空にはひときわ輝く星が散らばっていた。その様はこの地で生きてきたことを祝福してるかのようであった。そしてそれは、これからを生きていく彼に向けての、導きの光のようでもあった。
 20歳とは、ある星では完全な大人と認められる年齢、ある種の区切り。
 カービィはこれからも今までと同じように様々な出来事を経験するだろう。様々なひとに出会い、別れを言うだろう。しかし、そのようなことをしていく内に、今この瞬間もいつしか時の波に飲み込まれてしまうかもしれない。
 ただ、それを防ぎ、印す手段は十分にある。どんな時でもすぐに見つけられる目印は、灯になって辺りの記憶を瞬く間に蘇らせてくれるだろう。生まれて20年の歳月を経た今こそが、その印をもう一度作るにふさわしい時だとカービィは感じていた。
「僕からのおねがい! ここで、みんなの写真を撮ろう! 今までの出会いが一目で分かる写真をさ!」
 彼は大声で、城を出てきたみんなに呼びかけた。
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