オリオンさんの小説

【たたかいの彼方に】 第39話 『友情の存在』


 痛い……苦しい……
 何で……自分たちだけがこんな目に遭わないといけないのだろう……
 ……そうだ。カービィが捕まったからだ……
 カービィ……何で捕まっちゃったんだ……捕まりさえしなければ……こんな酷い目にも遭わなかったのに……
 それに、何で……自分たちは居なくなったカービィを探そうと思ったんだろう……?
 そんなことしなければ、辛い戦いもせずに済んだかもしれないのに……何でだろう?
 助けたいって思ったから? ……でも、今は凄く後悔している……
 カービィは自分たちと一緒に何をしたんだろう? それさえも分からなくなってる……
  
 ただ……今は、カービィが憎いことしか分からないんだ……

「……!!」
 気が付けば、目の前に巨大な鋼鉄の扉が佇んでいる。
「……」
 やがて、その者達は何も言わないまま、扉を開けて中へ入っていった――


 第39話『友情の存在』


 ファイナルスター深奥部には、ひとつの牢屋がある。真っ暗で何も見えなく、そこに入った者は、大いなる恐怖に蝕まれるだろう。
 捕らわれたカービィはそこへ幽閉された。それに加え、仲間に虐げられる夢をナイトメアに何度も見せられ、だんだんと友情というものを疑い始めていた。
 それでも、カービィは仲間への希望を捨て去ることが出来なかった。
 仲間が自分を助けてくれる信じて、広大な牢屋の中でずっと時を過ごしていた。
 しかし、その希望は、見るも無惨に崩されてしまうことになる。
(誰か……来る)
 しばらくして、扉が開き、何者かが歩いてくるのが分かった。足音はだんだんと大きくなっていく上、ひとりではない。
 やがて、姿が把握できるほどの距離になった時、カービィは驚愕した。
(リック……みんな!)
 やってきた者は、自分の仲間達。虹の島々、ポップスター、リップルスターを守るために共に冒険した者達。そして、長きにわたるライバル的存在でもあるメタナイト。
 カービィはこれも悪夢ではないのかと勘ぐり、思わず頬をつねった。が――
(……夢じゃない)
 瞬間、カービィはとても嬉しい気持ちになった。自分を助けに来てくれたんだ、と光を見たような気分になる。
 ――しかしだった。
 ……ドガッ!
 突然カービィは宙を浮き、やがて真っ暗で見えない床に叩き付けられた。何事か、と起き上がると――
 ――リックが凄まじい形相で、拳を握りながらこちらを睨み付けていた。
「リック……何で殴るの? 友達だよね?」
 声を震わせながら訊ねると、今度は後ろから衝撃が走り、倒される。ここでカービィは、仲間達が自分を助けるのではなく、痛めつけるために来たのだと理解した。
 立ち上がる隙も無く、カービィは仲間達に虐げられていく。
「やめてよ! クーも、カインも、ナゴも、チュチュも、ピッチも、何でよってたかって僕を痛めつけるの?」
 必死に叫ぶが、相手は表情も変えずにカービィを攻撃する。
(……グーイ?) 
 赤い剣を携え、赤い瞳を持つ剣士型のダークマターがカービィの目に入る。これはグーイの真の姿――ゼロからはミスティックマターと呼ばれた。カービィがすぐに理解できたのは、ナイトメアの悪夢で既に見ていたからだった。
 グーイによって顔面を斬りつけられ、後ろからはデデデ大王とメタナイト、加えてアドレーヌとリボンまでもがカービィに危害を加えた。
「グーイ! なんでそんな姿になったの? その剣をしまってよ! デデデ大王、メタナイト、アドちゃん、リボンちゃん、みんな、何でそんな恐い顔をするの!?」
 カービィは涙目になりながら、みんなに問う。しかし、答えは得られず、すべてが攻撃で返ってきた。
(何で……何で?)
 カービィの目に朧気に映る仲間達はまるでいつもと様子が違う。今まで見たことの無いような鋭い目で凝視されられ、思わず身震いする。
「みんな! 何で僕を苛めるの? 僕に何か恨みでもあるの?」
 恐怖でいっぱいの中、力一杯に声を出して聞いてみると、口元を抑えられてしまう。それを行ったのはリックだった。
「おおありだ。お前のせいで、オイラ達は散々な目に遭ったんだ。お前がきちんとゼロの息の根を止めないから、何度も復活した。そして、オイラ達は辛い思いをした。……この苦しみをお前も味わえ!!!」
 そう言う彼の瞳からは、苦しみとか憎しみとか、そういった負の感情を凝縮したグロテスクなものが感じられた。
 そして、横からはクーがカービィをどつきながら言い出す。
「カービィさえ捕まらなければ、危険な冒険に巻き込まれなかったし、今の状況も生まれなかった。俺達もこんな面倒くさいことをしなくてすんだんだ!」
「だから殴る? 虐める? ……おかしい。そんなの絶対おかしい!」
 言い分を聞いてもらえないまま、カインのスパークで感電するも、カービィは必死に立ち上がって訴えた。
「意味が分からないよ! 僕は今まで、みんなのために頑張ってきた! 沢山の悪者を倒してきた! 今回も、僕はゼロを倒そうとして、虹の剣を取りに行った。……僕はそこで捕まっちゃったけどね。でも、何でそれだけで、ここまで言われないといけないの?」
 カービィが言ったことは、リック達は知らないカービィの真実。
 リック達がカービィを探し始める少し前の時点で、カービィはダークマターの復活に気が付いていた。そして、ダークキャッスルへ行き、虹の剣を持って行こうとしたところ、上空にいたゼロに催眠魔法をかけられ捉えられてしまった。これが、行方不明者の真相である。
 しかし、それを聞いてもなお、仲間達は反応を一切見せずに心ない言葉をカービィに浴びせた。
「そんなもの、誰もがお前を“危機を救ってくれる道具”としか見ていないからに決まっているだろ」
 言ったのはカービィの眼前に剣を突き付けたメタナイトだった。
「自惚れるなよ。自分は英雄で、みんなに愛されてると思ったら大間違いだ。お前みたいな単純で、鈍くさく、マヌケな奴を何故大切に思わなければいけないのだ? お前の取り柄は平和を守ることだけ。それを利用していたまでだ。星の秩序を保つために、ここにいる皆は媚びを売っていたに過ぎないのだよ」
 すると周りは一斉に頷く。この様子とメタナイトの辛辣な言動を見てしまったカービィは、一気に目の前が真っ暗になるような絶望に覆われるのが分かった。
「そんな……嘘だよね? 僕たちは……友達だよ……ね……?」
「さっきメタナイトが言っただろ? 友達なんかじゃない……お前は“利用されてくれる道具”だっ!」
 グーイの一声と共に、周りが一斉にヤジを飛ばす。これを見たカービィは、あまりの衝撃にやがて言い返すのも止め、かつての仲間にひと思いに虐げられていった。
「今こそ、裁きの時だ!」
 かつての仲間達は、声を一致して、カービィを虐げていく。ポップスターの英雄は、痛烈な暴力、罵声を大量に浴びながら、やがて気を失ってしまった――

「ククク……ガハハハハ!!!」
 ゼロはモニターで深奥部の牢屋の様子を見ながら、大いに笑っていた。ミサイルによって壊されたはずだが、専属の手下達によってある程度修復されたようだ。
「……ガハハ! 上手くいった! かつての仲間は自分可愛さにカービィを裏切り、虐げている。そしてカービィの悲しそうな表情、言動、全てが見ていて快感だ! 痛快だ!」
 ゼロは狂ったのかと思わせるほど笑っていた。普段は感情を露わにしないだけに、普段とは違う不気味さが漂っている。
 やがて、ずっと傍にいた剣士型ダークマターが呼びかけた。
「ゼロ様。この動物たちは、これからどういたしましょう?」
 すると、ゼロは笑うのをぴたりと止めて言う。
「お前や他の奴等で、ひとりづつそれぞれの牢屋に入れておけ。『ゼロの命令だ』と言えば、奴等は従うはずだ。後、桃色の髪の妖精はここへ連れてこい……奴にも痛めつける時が来た」
 従うはずだ――その理由は、言うまでもなく、ネオ・ダーククリスタルの力を受ける前のことであった。ゼロは戦いで負けたリック達に痛みを長時間与え、心を不安定な状況に陥れた。そして、彼等の心の隅にある闇に――仲間でありながら『困った時はカービィに任せておけば良い』という不純な考えを持ってしまう心の弱さにつけこんだ。結果、闇水晶の力もあって、カービィへ恨みを向けさせることも簡単にできた。それと同時に、恐怖による心の支配も、壮絶な痛みを与え続けることでできると考えたのであった。
 手下が司令室を出て行った後、ゼロは目を彼方へ向けて呟く。
「ひとの心はとてつもなく弱い。些細な事で折れ、甘い考えへ身を寄せる。そんな奴等が口を揃えて言う“仲間”という言葉ほど嘘臭いものはない。事実、カービィの仲間達は、いとも簡単にカービィを裏切った……」
 その後、ゼロはモニターへ目を移す。カービィが気を失ってもなお攻撃を続けるリック達の姿がそこにはあった。
 やがてしばらくすると、仕事の早いダークマター達がリック等を連れて行く様子が見えた。彼等は反抗もせずに、ダークマターの言うことに従っていた。不気味なほど、ゼロの思い通りに事が運んでいる。
(余の恐怖による支配は無事に効いた……さて、いよいよ準備が整った)
 体に切れ目を浮かべながら、まずは、カービィが気を取り戻すまでを待つことにした。そして――
(……来た)
 やがて、カービィがゆっくりと起き上がる。これを見たゼロは座を離れ、ネオ・ダーククリスタルを念力で運びながら、深奥部へと向かっていった。


「……」
 一方カービィはやっと気を取り戻す。リック達は消え、またいつもの静かな牢屋となっていた。周りは相変わらず何も見えず、仲間に苛められたことが相まって、恐怖が体中を駆けめぐるような気分だった。
 体には沢山の傷跡があるのが分かった。そしてそれは、気を失う前のことが本当であるという証拠であった。
「みんな……僕のことが……嫌い……」
 カービィの頬に涙が伝う。冒険の時はいつも『カービィが立ち止まりそうなときは自分たちが押してやる』と声をかけてくれた。冒険が終わったときも、一緒に喜び合った。沢山遊んだし、色々なことを一緒にやってきた。酷いことをされた後でも、仲間達の笑顔を浮かべることはできた。
 そんなことを思い出すと、ますます涙が止まらなくなる。何でこんなことになってしまったんだろう。ナイトメアに見せられた夢が現実になってしまったことが、カービィには未だに信じられなかった。
 ――その時だった。
『ククク……憐れな奴等だ』
 何者かの声が聞こえた。その正体は、ダークマターの親玉のテレパシーであった。
「ゼロ……僕の友達に何をした? 魔法をかけて……僕を騙そうとしたって無駄だよ!? みんなが僕を裏切るはずはないんだ!」
 熱心に叫ぶカービィの表情は引きつっていた。その言葉を受け取ったゼロは語調を全く変えずに返した。
『残念ながら、余は何もしていない。先程リック達が言っていたことは彼等の本心だ。余はしかと見させてもらった。お前の仲間が、自分可愛さに裏切っていく様子をな!』
「じゃあ……みんなは……」
 ゼロは突き放すように、カービィに向けて言葉を送った。
『お前など、誰にも愛されてはいなかった、ということだ』
「……!!」
 これを聞いたカービィは、床に泣き伏した。彼がそこから顔を上げることは無かった。
 カービィはずっと真っ暗な牢屋に入れられ、外部の音も何もかも遮断されていた。つまり、心の隅に眠る闇の心を暴き出すダーククリスタルの存在を知らなかったのだ。知っていれば、状況は変わっていたかもしれない。
 ゼロの方も『何もしていない』という真っ赤な嘘をつき、ダーククリスタルの存在も敢えて伏せていた。これも、カービィを闇に堕とす計画を効率よく進めるためだった。
 泣き伏すカービィの聴覚にゼロの声が入り込んでくる。
『ククク……辛いか? 仲間に裏切られるのは。……でも所詮ひとなどはその程度だ。結局自分が一番可愛いもの。いくら親しい仲だと思っていた相手にも裏切ることが出来る。自分のためなら相手を殺すことさえ出来る。自分さえ良ければ良い。それがひとの本性なのだ』
 カービィはずっと泣き続け、何も言わない。その一方でゼロのテレパシーは続いていく。
『……友情など、結局はエゴのシーソーゲームでしかないのだよ。ましてや相手を信じるなど愚の骨頂。信じることができるのは常に自分のみだ。……カービィ。お前は幸運にも、その現実を目の当たりにした。これで、仲間というものが、ひとの心がいかに不安定なものかが分かっただろう』
 ゼロは一旦念を送るのを止める。そこからしばらくして、カービィは顔を伏せたまま消えてしまいそうな声で呟いた――
「仲間なんて……作らなきゃ……良かった……」
 ――紡がれたその言葉はとてつもなく重かった。裏切られ、傷ついた憐れな者の心の叫びであった。だが、ゼロはこれに同情することもなく、
『……そうだ。その通りだ! 仲間の存在など一瞬に過ぎぬ。孤独に生きる。それこそが自身を強くするのだ! よく気が付いたぞ、カービィ!』
 言い終えると共に、牢屋の扉が開かれた。そして、そこからゼロが近づいてくる。しかし、カービィは見向きもせず、ずっとうつぶせたままだった。その姿は、普段の天真爛漫なカービィとは全く違う、対極のものであった。
(ネオ・ダーククリスタルよ……今度こそ、カービィの心の闇を暴き出せ!)
 ゼロは声に出さないまま、ネオ・ダーククリスタルの力を発動させる。これより前に一度だけ、カービィが眠っている隙を見計らい闇水晶の力を与えたことがあったが、カービィの体が突然輝きだし、力は失われてしまった。
 しかし、今回のダーククリスタルは七星の憎悪の心を取り込み、強化されている。今度こそ、闇水晶の力がカービィの心に影響を与えるかもしれない。
 闇水晶から暗線が発射され、カービィの脳天を直撃。すると――
(またあの時と同じ現象が……)
 カービィの体が突然輝きだし、暗線は跳ね返されてしまう。その様子は、まるで闇の侵入を拒んでいるかのようだった。
 しかし、ネオ・ダーククリスタルはこれに負けじと、どす黒いオーラを放ちだし、より太い暗線がカービィの体中を包んだ。そしてその時――
(……何だっ!?) 
 ――ゼロは思わず動揺した。カービィの体から――突然、魂のような輝く物体が抜け出したのだ。
 パッと見た限り、姿はカービィが愛用している乗り物を小さくしたようなものであったが、その物体は猛スピードで牢屋中を駆けめぐった後、床をすり抜けるようにどこかへと行ってしまった。
「……」
 そして元の寂れた真っ暗な牢屋に戻る。あれは一体何だったのか。ゼロには見当がつかなかった。取りあえず分かることは、ダーククリスタルの力が打ち消された原因ということだけ。
 しかし、ゼロのその疑問もすぐに記憶の彼方へ飛んでいった。何故なら――

 ――とうとう、新たな闇の力が完成したからだった。

「……」
 ピンク玉は何も言わないまま、ゆっくり立ち上がる。青く澄んでいたはずの瞳は闇のような色に染まっている。そこからは、絶望、憎しみと言った負の感情が溢れ出ていた。
「カービィよ……お前は今の世界に不満があるか?」
 ゼロが訊くと、カービィと呼ばれた者は、深く頷いた。そして、
「僕は……全てを……消す。そして、新しい世界……孤独の世界を……作る」
 途切れ途切れに、呟いた。声のトーンは平生と比べて低く、禍々しさが帯び付いていた。
「それなら……まずは余と共に、今の世界を破壊しよう。……お前は、ダークマター幹部連の総称たる七星の“本当の七番目”という地位を与える」
 七星に所属していた者は、ダークゼロ、マルク、ドロシア、ギャラクティックナイト、ナイトメア、ダークマインドの六にん。そして、一時的に闇の力を受けたグーイ……もといミスティックマターが加わっていたが、所詮それは偽物であり、本当の七番目はカービィである、とゼロはあらかじめ決めていた。そして、それが今現実となった。
「そして……お前には、新しい名前……『マルルーモ』という名前を与えよう。お前はこれから、この名前と共に一生を過ごせ」
 これを聞いた新たな闇の力は――なんと笑みを浮かべて頷いた。新しい名前を受け入れたのであった。
 カービィを助けようとした仲間達は、ゼロの策略により、親友であるはずのカービィを痛み付け、自身達はゼロの恐怖により心を支配されたまま、牢屋へと連れて行かれるという残念な末路を辿った。
 そして、ゼロのカービィを闇に堕とす計画が遂に達成されてしまった。世界は本格的に暗黒時代へと入り、ゼロの野望である銀河制覇は、最早時間の問題となっていった。

 戦って、戦って……戦ってその先にあったものは――
――敗北、友情の決裂、そして、世界の崩壊の始まりであった。
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