オリオンさんの小説

【たたかいの彼方に】 第38話 『心に潜む闇』


 
 捕まったカービィを助けるべく立ち上がった仲間達は、数々の苦難を乗り越え、とうとうダークマターの親玉ゼロと戦う所までやってきた。
 一方ゼロはダーククリスタルを強化することに成功。新たな闇の力の創造は最早時間の問題となっていた。
 一刻も早くゼロを止めなければならない。その想いを胸にカービィの仲間達はゼロに挑む。
 そしてその戦いは、司令室の下に繋がっていた“ファイナルスター地下室”で、今――始まろうとしていた。


 第38話『心に潜む闇』


「この戦い……オイラ達は絶対に勝つ!」
 リックのかけ声に対し、ゼロは黙ったまま、真っ白な体から赤いレーザーを発射する。
(速い……!)
 リック達はそれぞれの方向へ逃げて躱すことに成功する。が、リックが呟いたようにレーザーの速さは尋常ではなかった。ダークマインドが発射するレーザーとは比べものにならないほどだ。
 裏側に回り込んだ爆弾姿のピッチとハンマーを構えたデデデ大王がそれぞれゼロに攻撃を謀る。が、白い球体は全てを見切っているかのように、振り向き、レーザーをピッチに当て、傍にいたデデデ大王を爆発に巻き込ませた。
 煙が立ち上がり、目くらましになった所を狙い、メタナイトが虹の剣をゼロの目玉に突き刺そうとする。が――
(体が……動かない……!)
 ゼロの目が光り、それを見てしまったメタナイトは身動きが取れなくなる。ゼロには念力が使えた。
 殺しにかかるゼロを、後ろからクーがカッターを飛ばし、カインが電球を吐き、壁に張り付いたナゴが手裏剣を投げ、リックが炎を吐き、ストーンになったグーイでチュチュが“岩石落とし”、と猛攻撃をかけようとする。しかし――
「甘い」
 ゼロは体中に切れ目を浮かべた後、赤いレーザーを全方向に且つ大量に発射。なんと攻撃を全て阻止した。
 念力は解けたものの、ゼロの傍にいたメタナイトも、もろとも攻撃を受けてしまい、結局ゼロには傷ひとつつけることができなかった。
 ゼロは、今度は目玉から真っ赤で巨大な光線を浴びせていく。リック達九にんが立ち上がれない所をさらにたたみかけたのであった。
「ククク……お前達の力はそんなものかね? 見せてみろ。仲間の強さというものを」
 ゼロは優越感に浸るかの表情で、瞬く間に傷だらけとなった者達を凝視して、続ける。
「……所詮、仲間だ友情だと喚いているような奴等に限り、いざというときに体が震えてしまうものだ。独りでも立ち向かえないような奴等が集まって団結しても、結局は自分を優先し、繋がりは崩れる。……あの小娘のようにな!」
 ゼロが目を向ける方へ、他の者達も目を向けると、壁の隅で座り込んでいるアドレーヌの姿があった。彼女はまだ、一回もゼロに攻撃を仕掛けてなかった。その上、キャンバスも持たずに、筆だけ持っている有様であった。
「おい、どうしたんだ? ここに来て怖じ気づいたというのか!?」
 デデデ大王が咄嗟に声をかける。しかし、少女には全く届いていない。
「アド、怖がるな! まだ希望はあるんだ。こんなところで諦め……」
 クーも大声で呼びかける。しかし、ゼロは声をかけたふたりを赤いレーザーで痛めつけ黙らせて言った。
「無駄だ。こうなってしまってはもうどうしようもない。余がしっかりと殺してくれよう!」
 ゼロの体から切れ目が浮かび、そこから発射されたレーザーが少女に向かい、直撃。爆発音と共に煙が立ち上がった――
 ――しかし、渾身の一撃が直撃したはずなのに、相手の断末魔が聞こえてこなかった。その上、怖じ気づいたように見えたリック達が急に立ち上がり、少女のことなど全く気にしないかのようにゼロに襲いかかり始めた。
 ゼロは咄嗟に空中浮遊でリック等の攻撃を避ける。すると、そこに一縷の稲妻がゼロの視界へ真っ直ぐ飛んできた!
(喰らったか……)
 稲妻は――本物のアドレーヌが描いたクラッコが発したそれは、見事ゼロの目玉に当たった。ほんの僅かだが、反応を見せてしまった。
 アドレーヌは忍者のように壁と同じ色の紙を使って隠れながら、自分の分身を実体化させ、自身の位置とは逆の方向へ歩かせて、ゼロを騙した。この作戦は、ゼロと戦う前に、あらかじめ練っておいたものであり、クーやデデデ大王は演技をしていたのだ。
 クーが羽のカッターを飛ばし、ピッチがボムになってゼロに爆撃を与えると、ゼロは辛そうな声を上げながら墜ちる。そこをリック、カイン、グーイ、ナゴがコピー技で、デデデ大王、メタナイトが武器でゼロを囲むように攻撃を加える。チュチュは天井に張り付きながら爆弾姿のピッチを投げつけ、クーは上空からカッターを飛ばし続ける。
「みんなどいて!」
 ベレー帽の少女の声を聞いた皆がゼロから一歩下がると、クラッコの稲妻と、みんなが戦っている間に召喚させたブライトの熱光線がゼロの体を貫いた。
「はぁ、はぁ……どうだ?」
 全力の攻撃をゼロにお見舞いしたリック達。いくら相手が相手とはいえ、それなりの痛手は貰っただろう、と確信していた。しかし――
(!?)
 彼等は思わず目を凝らす。あれだけ攻撃したはずなのに、ゼロの体にはなんと傷ひとつ付いていない。どうなっているのかさっぱり分からなかった。
「失望した……」
 やがて、ゼロが呆れた表情で言い出す。
「お前達には、はっきり言って落胆させられた。まぁ、ダークマインドごときに手こずっていたような奴等だからそこまで期待はしていなかったが……それにしても弱すぎる」
「何で……私達の攻撃が効かないの?」 
「余は、七星を復活させるほどの魔力を持っていたことは存じておろう。余にはもうその程の魔力は無くなったが、自分の体を再生させる位ならいとも容易いのだよ。……それはともかく、お前達からは強さが全く感じられない。その上作戦も反吐が出るほど稚拙。あのアドレーヌが偽物など、すぐに分かる。本物が壁に隠れているなど、戦いが始まった時から知っていたぞ」
「じゃあ、何故わざとオイラ達の作戦に引っかかったんだ? 本当は、攻撃を喰らった言い訳がしたいだけじゃないのか?」
 これを聞いて、ゼロは嘲笑する。
「……馬鹿な奴め。引っかかった振りをして、お前達に希望を与えさせたのだよ……より絶望を心に深く刻むためにな!」
 瞬間、ゼロの体中から見て分かるほどの凄まじいオーラがあふれ出す。これを見た瞬間、体がずんと重くなったのが彼等には分かった。恐怖というものであった。
 白い球体が真っ赤な目を光らせると、周りにいた全員は何らかの力で壁に強く叩き付けられた。物が反発する力、すなわち斥力が働いたように見えた。
「ここからは本気を出させて貰おう。復活して強くなったのは七星だけではない。余も復活したことで闇の力を大量に手に入れ、魔法と言われる技も沢山身につけてきた。とくと見よ!」
 そう言ってゼロがまた目を光らせると、リック達の足下に赤い雷が落ち、大ダメージを受けた。
 ゼロは、相手が構え直すのを待たずにもう一度目を光らせる。すると今度はそれぞれの場所に小さな光が灯った後、大爆発が起こった。攻撃を喰らった者は先ほどの雷も相まって全身大火傷となり、激痛に耐えかね、瞬く間に地に伏せてしまった。

(つよ……すぎる……)
 ゼロに攻撃が当たって喜ぶのも束の間。相手は圧倒的な力でリック達をしかも一瞬で倒してしまった。技の多彩さは、ミラクルマターやダークマインドにも見られたものであるが、ゼロは技の一撃一撃がそれらとは比にならない程重かった。一回技を喰らうだけで気の遠くなるような激痛が走る程だ。
 ゼロは恐ろしく、彼等が予想していたより遙かに強かった。仮にダークマインドが一緒に戦ってくれたとしても勝てるかどうか怪しい。ダークマターの長という地位は伊達ではなかった。
 ゼロがこれだけの技が使えるようになったのも、長らく身を潜めて力を蓄え続けたのが原因であろう。ダークマターの手下がポップスター侵入に失敗し、自身が自ら赴いたがカービィに倒され、怨霊となってリップルスター侵略を試みるが、またもカービィに倒され、未練に満ちあふれたゼロは、今度は時間がどれほどかかろうが本当の体を取り戻す完全復活を遂げてから、自分の野望を必ず達成させようと考えていた。結果、マルク、ナイトメアといった巨悪を復活させるほどの膨大な魔力を手に入れ、様々な技も習得した。
(こんなところで……終わるのか?)
 痛みに耐えながら、荒い息を立てるリック達十にん。捕らわれたカービィを助けるために、ここまで頑張ってきたのに、自分たちの想いは届かないのか。諦められないのに、体は動かない。彼等は悔しい気持ちでいっぱいだった。が、その時――
(体中が……痛くなくなっていく?)
 攻撃を受けた者誰もがそう感じた。傷がどんどんと癒え、力が沸いてくる。これは、七星と戦ってきた時に起きた現象である。
 今度こそ反撃しよう。地に伏していた者達は、次々に立ち上がろうとする。が――
 ――現実は甘くなかった。
「がぁあああ!!!」 
 その瞬間、ゼロはまたリック達がそれぞれいた場所の近くで爆発を引き起こさせ、猛烈に痛めつけた。
 彼等の傷が癒えたのは、虹の剣ではなくゼロの魔法によるものだった。再生魔法で治癒しながら、攻撃。この繰り返しで痛みをとことん味わせようとしたのだ。
 痛烈な叫び声を上げながらもがき苦しむ者達を、ゼロは無表情で見つめながら、治癒しては攻撃、の繰り返しを行った。その所業はまさに拷問と同等、否、それ以上であった。
「いだい……ぐる……じい……」
 激痛のあまり、今にも狂いそうな表情となっているリック達。気を失う寸前で体を再生され、また痛みを味わう。この繰り返しをされては、精神もおかしくなって当然だ。
 痛すぎるのに、死ぬことは許されない。楽にはなれない。このことは、彼等に恐怖をも植え付けていた。
 ゼロは何回も何回も虐め続け、虐げられる者の表情からも、気力いうものが全く伝わってこなくなった。
 何で自分たちがこんな目に遭わないといけないのだろう。リック達は痛みと恐怖のあまり、やがてこういうふうに考えるようになってしまっていた。
 そして、彼等の怒りの矛先は、とうとう捕らえられたカービィにまで向けられてしまっていた。カービィが捕まりさえしなければ、自分たちもこんな辛い目に遭わずに済んだかもしれない。何回も戦わずに済んだかもしれない。そんな思いが、気の遠くなるような痛みの中でも、ふつふつと沸き上がるのが分かった。
「ククク……お前達は余の侵略を散々邪魔してくれた。ただでは死なせないぞ。もっと痛みを感じろ、そして苦しめ」
 ゼロが言いながらリック達の体を再生するが、彼等には反撃しようという意識は既に無くなっていた。何も言わずに呆然と佇むその様子は、まるで次に来るであろう攻撃を待っているかのようである。
 それからまた相手を虐げる。すると、拷問を喰らっていた中のひとり、クーが消えてしまいそうな小さな声で呟いた。
「殺して……くれ」
 これを聞いた白い球体は不敵な笑みを浮かべ、「死にたいのか?」と敢えて聞き返した。
 相手は先ほどと全く同じ言葉を返事にした。これを見たゼロはわずかに笑みを浮かべる。まるで、この時を待っていたと言わんばかりの表情だった。
 そして、白い球体はこんなことを言い出した。
「ククク……しかし、お前達もつくづく不幸だ。カービィがヘマをして、余に捕らわれさえしなければ、こんなことにはならなかったのになぁ……」
 カービィの仲間達は一斉に顔を上げた。しかし、表情は全く無かった。
「余から言わせて貰えばカービィは弱い。ひとまえでは正義のヒーローぶるくせに、どんな困難でも乗り越える絶対的な力は持っていない。その甲斐性の無いカービィを慕ってしまったお前達は不幸にもこんな目に遭ったのだ。……ひとというはそんなものだ。絶対というものが無い。それなのに他に信用されたがる。繋がりたがる。……全く愚かな生き物だ」
 ゼロは攻撃を止め、今にも気を失いそうな者達に向けて言う。
「カービィさえ捕まらなければ、お前達はこんな目に遭わずに済んだ。カービィが絶対的な強さを持っていれば、余が初めてポップスターに訪れた時点で、余を完膚無き勝利で成仏させることができ、今も平和な暮らしができただろう。しかし、奴にはその力が無い。お前達は知っているのか分からないが……カービィには、“どんな相手にも心配できる優しさ”がある。そして、そこが弱みとなっている。だから、余も何度も復活できた! 七星を復活させる条件も整っていたのだ」
 リック達は淡々とゼロの方を見つめている。
「……今まで数々の巨悪を倒しておいて、辛い状況を救ってくれるヒーローだと周りに期待させておいて、いざとなれば失態を犯す。そんな奴が許せるか? カービィは巨悪に立ち向かうにはあまりにも優しすぎる。お前達は、そのくだらない優しさの所為でこんな目に遭ってしまった。……お前達はそれが許せるか? カービィの弱さを見過ごせるのか? このまま奴の失態に巻き込まれたままで良いのか!? お前達にとってカービィというのは、“平和を守ってくれる道具”であろう。その役目を果たせなかったカービィが、憎くはないのか!!?」
『ふざけるな! カービィは道具なんかじゃない。大切な親友だ! カービィが立ち止まった時は、自分たちが背中を押してやる。それが仲間だ。カービィの優しさを踏みにじって悪事を働くような奴にそんなこと言われる筋合いは無い!』
 いつもなら……誰かがこんな風に言ってゼロに反論していただろう。
 しかし、彼等にはもうそんな考えができる余裕が無く、正常な思考もできなかった。身も心もボロボロになった状態でこのようなことを言われれば、自然とその声に耳を傾けてしまうものであった。彼等もまた、心の弱い生き物であったのだ。
「今こそ、カービィへの復讐の時だ! 今こそ、カービィへの復讐の時だ!! 今こそ、カービィへの復讐の時だ!!!」
 ゼロは声高に言い放つ。これを聞き続けたリック達の心には――

 許さない……

 ――カービィを恨む気持ちが表れ始めていった。

 やがて、ゼロの言葉を聞いたまま、リック、カイン、クー、ナゴ、ピッチ、チュチュ、グーイ、デデデ大王、アドレーヌ、メタナイトの十にんは気を失った。
 ゼロはリボンを地下室へ、ネオ・ダーククリスタルを持ってくるように呼び出す。
「流石です。こうも簡単に、やっつけてしまわれるなんて」
「何も言うな……リボンよ、余からひとつ命令を下す」
「何をするのですか?」
 白い球体の体に赤い切れ目が浮かぶ。
「こやつらには、カービィを恨む心が生まれているはず。そこでダーククリスタルを使えば、自ずとカービィへ恨みを向けるだろう。……今から、カービィへの復讐を行う。そこで、リボンもそれに加わって欲しいのだ。すれば、カービィにより大きなダメージが与えられるだろう」
 ゼロが言い終えると、妖精は不敵に笑いだし、
「……良いでしょう。カービィを虐めればいいのですね。わたしは闇の力を受けてから、今はもう、ひとが苦しむ姿を見るのが一番の幸せになりました。それが一番の褒美ですから、わたしも行きますよ」
 リボンの平生を知っている者がこの発言を聞けばどれほど驚くのだろう。ダーククリスタルの力を受けてから、一旦は元に戻ることができたナゴ、ピッチ、チュチュとは対照的に、リボンはその時からずっと力を受け続けている。先ほどの言動は、悪の心が少しづつ肥大化している証拠でもあった。
 ネオ・ダーククリスタルの力とは、その肥大化していくスピードがもの凄く速くなったもの。加えて、限界が無く、永遠に膨張し続けるのである。
 ゼロはまずメタナイトから、闇の力を弱める可能性がある虹の剣を奪い、他の手下を呼んで別の場所へ保管させた。
 それから、念力で何も無い大広間の隅にあった錆び付いた扉を開け、倒れている者を持ち上げ、リボンは付いていく形で扉の向こう側へと入っていく。
 しばらくして、丁度真っ暗で何も見えなくなった辺りで行き止まりになる。すると、下の床がエレベーターのように下へ降り始めた。
 地下室から更に地下へ――“ファイナルスター深奥部”へ降り、そこから少し進むと、ゼロの全長をも超える巨大な鋼鉄の扉があった。その扉の中に、カービィはずっと閉じこめられていたのだ。
 ゼロはリック達を扉の前に一旦置いた後、ネオ・ダーククリスタルの力を与える。闇水晶のどす黒い輝きと共に、闇線が彼等の体に当たる。
「……では、リボン。後は頼んだぞ」
 ゼロは頷く妖精と気を失っている者達を残し、元の場所へと戻っていった。
 それからしばらくして、カービィの仲間達十にんはゆっくりと起き上がった――
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