オリオンさんの小説

【たたかいの彼方に】 第37話 『対決の時』


第37話『対決の時』

 虹の剣でとどめを刺したはずのダークマインドは一向に消滅しない。まだ戦えるのか、そんな不安さえリック達十にんの脳裏によぎる。
 しかし、赤い球体はやがて目を開けて、こんなことを言った。
「……我は、ゼロの為に働く気など……無い」
 その言葉を聞いた者は皆驚いた。今までカタコトで抑揚が無いマインドの口調が一気に変わったこと。そして、ゼロに一番忠誠を誓っているのではないかと思われたダークマインドがこの発言をしたこと。その二つであった。
「どういうことか、詳しく説明して貰おうか」
 メタナイトが剣をいつでも抜ける状態にしながら訊ねる。
「構えるな。我はもう戦うつもりはない。我は……ゼロによって洗脳魔法をかけられていた。我が触れてはいけないような重大な情報を手に入れてしまったから……」
「触れてはいけない?」
「……ゼロは我、ダークゼロ、ナイトメア、ドロシア、マルク、ギャラクティックナイトをただの道具としか見ていなく、ある計画のために最終的には全員殺すつもりでいたのだ。それを聞けば、皆ゼロの言うことなど聞かなくなるだろう。我はその真偽を確かめようとした故に、奴の魔法を受けてしまったのだ」
 口調が変わったことには皆納得した。しかし、ゼロにとって味方であるはずのダークマインドが殺される。一体どういうことなのか、聴いていた者達はそこがよく分からなかった。 
「ダークマインド。ある計画というのは、一体何のことだ?」
 メタナイトの質問に、赤い球体は淡々と答えた。
「まず、ダークマターの幹部連七星について説明しよう。ナイトメア、マルク、ドロシア、ギャラクティックナイト、ダークゼロ、そして我を含めた6にんの幹部は元々はカービィや手前に倒された者達。野望を阻止された、あるいは自分より強い者を倒せずに散った、未練に満ちあふれた者の集団だ。そして、我らの未練による負の魂は消えることなく現世にとどまっていた。ゼロはそこに目をつけ、自らの魔法で我らの魂を球状の物質に具現化。そこから肉体を蘇らせ、我らを復活させた。そして、死ぬ時も、再び具現化された球状の物質として戻るようにした……」
「復活させたってことは、オイラ達が頑張って倒したナイトメアとかも、何度も復活させられるってことか?」
「いや、そういうわけではない。元々死んだ生き物を蘇らせるなど、膨大な魔力がなければ成し得ないこと。ゼロに専属している下っ端の話だと、ゼロは我らを復活させる前と比べてかなり弱体化しているそうだ。しかし、侮ってはならない。現時点でもゼロは相当強い。戦うなら十分に覚悟を決めることだ」
「……それで、ある計画というのは結局何のことだ?」
 若干語気を強めて迫ったメタナイトに、ダークマインドは先程と変わらない情調で返す。 
「簡潔に言えば、七星を全員殺して球状の物質に戻し、それをダーククリスタルの強化に使う計画。ゼロ曰く、闇の力が秘められた六つの魂をダーククリスタルに取り入れることで強化が行われると言う。七星で生き残っているのは我だけ。我が死ねば、ダーククリスタルの強化が行われ、カービィを邪悪化できるようになるかもしれない……」
 『カービィを……』の辺りで周りの表情は一斉に変わった。
「できるようになるかもしれないというのは一体どういうことだ? と言うより、カービィはまだダーククリスタルの力を受けていないのか?」
 デデデ大王が訊ねた。強化以前に、闇水晶が完成されている時点で、カービィが邪悪化されている可能性は否定できなかったわけであり、リック達もその心配をずっとしていた。
 今まで誰も口に出さなかったのは、周りの士気を下げてはいけないといった考えがあったからだった。特にカインとリックは似たようなことで一時諍いになりかけ、ふたりやそれを見ていたひとはなおのことであった。
 ダークマインドは、大王の質問にこう返答した。
「そう、カービィはまだ牢屋に幽閉されたままだ。……これは極秘の情報なのだが、カービィには一度実験的に“強化されていない”ダーククリスタルの力を与えたらしい。しかし……その時、カービィの体が急に光り出して、ダーククリスタルの効果が打ち消されてしまったらしい。ゼロがダーククリスタルの力を受けやすいように、あらかじめとある場所に幽閉し、仲間に虐められる悪夢を見させ、カービィが希望を失うような様々なことをしたが、それでもダーククリスタルの力は掻き消されてしまった。そこでゼロはダーククリスタルを強化する方針を表し、手前共と戦わせるという形で、七星を殺そうとした……実に卑劣で、巧妙な作戦だ」
 リック、カイン、クー、メタナイト、デデデ大王、アドレーヌ、はナイトメアとドロシアの戦いを、ナゴ、ピッチ、チュチュ、はマルクと戦った時を思い出す。折角幹部を倒したと思ったら、実は相手の策にはまっていたとは。彼等は無駄な努力をしたと後悔の念に駆られた後、自分の味方を平然と殺そうとするゼロの考え方に畏怖さえ覚えた。
(カービィ、大丈夫かな……?)
 一方グーイの脳裏には、マルクやナイトメア達との戦いだけでなく、ゼロがテレパシーを使ってカービィを絶望させようとしている様子が浮かんでいた。『仲間達はもうカービィを信用していない』と嘘を吐き、カービィの心に傷を付けるゼロを思い出すと、はらわたが煮えくりかえるような気分になるのが分かった。
 それから長らく静寂が辺りを覆うが、これをダークマインドがまた破る。
「我はゼロの為に死にたくはない。我には我の目的がある。そして、手前共はカービィを助けたい。そうとなれば……」
「『私達と手を組んでゼロを倒そう』……と言いたいのか?」
 メタナイトが咄嗟に反応する。ダークマインドは少し黙り込んでから深く頷いた。
「……そういうことだ。後は手前共の意志。我を殺すつもりならば、この場で雌雄を決そう。言っておくが、我にはまだ戦える力は残っているぞ。どうする?」
 またも沈黙が空間を支配した。ダークマインドは試しているかのような表情を取っていた。
 しばらくして、グーイが言いに出た。
「……僕達と手を組もう。そして、共にゼロを倒そう。みんなもそれで良いよね?」
「そうだな。相手から手を組もうと言っている。これを断る理由も無い。第一、わしらの目的はカービィを助けることだからな」
「……ちょっと待ってくれ」
 ここで、今まで黙り続けていたクーがみんなを止めた。
「どうした? 何か問題でもあるか?」
 梟は一旦間を置いた後、毅然と返答してきたメタナイトだけに聞こえるように囁く。
「俺達とダークマインドがゼロを倒すまでは良い。だけど問題はその後。奴は自分にも目的があると言った。ゼロを倒した後、今度は俺達が標的になることだってあるんじゃないのか?」
 そのことを聞いたメタナイトは考えはじめると、咄嗟にこういった考えが出来なかった自分を心の中で叱咤した。確かに手を組むとは言っても、それは一時的な物であり完全な味方になったわけではない。ゼロを倒すという目的が達成されれば、ダークマインドは自分の信念だけを頼りに行動を取るだろう。その上、ダークマインドは元々プププランド上空にある鏡の国を支配しようとした悪者であり、自分の野望を達成できなかったという未練を抱いて復活している。ダークマインドの目的がどういったものなのかは想像に難くない。クーが言っている問題が起こる可能性も十分にあるのだ。
「……腹は決まったか?」
 マインドが言いかけてくる。が、ここでメタナイトはふと思いついたように待ったをかけた。
「もうひとつ聞きたいことがあった。ダークマインド……お前はカービィが捕らえられている場所を知っているか?」
「それを知ってどうするというのだ?」
「カービィはかつてゼロを倒している。カービィを最初に助け出した方がより有利に戦えるだろうと考えた。まだダーククリスタルの力を受けていないならば、それが可能なはずだ。知っているなら教えてくれ」
 そして、ギャラクティックナイトが消えていった時に残ったファイナルスター内の地図を赤い球体の目の前にかざす。
「……」
 ダークマインドは何故か黙り込んでしまう。先程の言動から見ても知っている可能性は非常に高い。しかし、この様子であった。
(やはり、奴にも考えがあるか……)
 これを見たメタナイトはクーが言っていることは正解だと確信した。カービィを助けることでゼロを確実に倒すか、ゼロを倒した後、自分が有利に戦えるように敢えてカービィを助けないようにするかで迷っているのだろう。あるいは、本当に居場所を知らないか。
 ――が、その時であった。
「!!?」
 突如、ダークマインドの体周りがカッと輝く。何かが起こる、とリック達は咄嗟に赤い球体から離れ、部屋の隅にまで寄る。すると――
 ――ダークマインドは大爆発を引き起こし、やがて闇となって消えていく。周りは目を覆い、体をうずくませる。それ程の迫力であった。 
 爆発による煙が晴れた後、各々が生きていることを確認しあう。そして、みんな無事であることが分かった。武器庫内がなかなかの広さだったのも助かった原因であった。
「……でも、何でいきなり爆発したのよ? ……戦うつもりは無いって言っていたのに」
「チュチュ、きっと罠ナゴ。僕達を警戒させないために嘘を並べ、自分を犠牲にしてまで被害を与えようとしたナゴ。もう少し反応が遅かったら、ひとたまりも無かったナゴ……」
『……フフフ。普通ならそう考えるだろうな』
「!?」
 突然のことであった。何者かの声が部屋全体に響いた。声色だけでも、とてつもない不気味さを放っている。
『マインドの奴め。余の魔法が解けた途端に言いたい放題言いおって。自爆プログラムの発動がもう少し遅ければ、謀反を起こされるところだったか……』
「余の魔法? マインド? ……ってことは……お前はゼロか!?」
 リックが天井に向かい叫ぶ。
『ククク……いかにも。余がダークマターの長であるゼロだ。余はダークマインドに洗脳魔法をかけてやった。そして、魔法が解けて一定時間が経った後に体が爆発するようにしておいたのさ。奴は余の方針に度々口を挟む上に、ダーククリスタルと七星との関係を探ろうとした。余は真実を教えてやった後、謀反を起こされないように魔法をかけた。その真実はもうお前達も教えてもらっただろう』
 ゼロの言葉を聞く限り、どうやら一連を見られているようだった。
「……ってことは、ダークマインドが言っていたのは本当だったナゴか?」
『そういうことになる。……とにかく、これでダーククリスタルの強化に必要な餌が全て揃った。しかし、ダークマインドを含めて七星は非常に見ていて憐れな奴等だ。死ななければならない運命に抗い続けて、利用されて死んでいく……』
 やがて、何が面白いのかゼロは笑いだした。武器庫内の十にんは何も言えず、ただ険しい表情で天井を睨み続けていた。
『……さあ、カービィのしもべ共よ。いよいよ対決の時だ。余は司令室にいる。……いつでもかかってくるがいい!』
 そしてこの言葉を最後に、ゼロの声は聞こえなくなった――

「みんな……聞いたか……今の?」
 メタナイトが周りに向けて訊く。
「自分の味方を自分で殺した上に笑っていた……性格が歪んでいるどころじゃない。七星は僕達を散々邪魔してきた嫌な奴等だったけど、あの話を聞いた後だと不憫に思えてくるよ……」
 カインが寂しげに答えてから、長らく無音の張り詰めた空気が漂った。
「とにかくだ。ダークマインドは死んだ。ダーククリスタルがパワーアップして、カービィが悪者になっちゃうかもしれない。オイラ達は一刻も早くゼロを止めるしかない! そうだろ?」
 リックが周りに向けて声を上げる。周りも皆「同じ気持ちだよ」と顔が言っていた。 
「ゼロを倒して……捕まったカービィさんを助けないと。カービィさんが邪悪化したら、それこそ僕達じゃあどうしようもできない問題になると思いますよ」
「ピッチの言うとおりだ。さぁ、準備は良いか?」
 リックの言葉を聞いて、周りは――グーイ、カイン、クー、ナゴ、ピッチ、チュチュ、メタナイト、デデデ大王、アドレーヌは一斉に頷く。
「行くぞ!」
 そして、一斉に武器庫を出て、カービィの仲間達は地図を頼りに司令室を目指した――


「ククク……いよいよだ」
 一方、司令室ではゼロとリボンがダーククリスタルとその周りにある六つの闇玉を見ていた。
 周りはモニターなど搭載された機械以外には何もない。ドロッチェから奪った武器は、ここや武器庫とは全く違う場所に保管していたようだ。ゼロに抜かりはなかった。
 六つの闇の玉からは、それぞれのとてつもない憎悪、未練の念が渦巻いていた。しかもそれは、見ていてすぐ分かるほどの凄まじさだ。
 そして――ゼロはこれらを合体させ、真のダーククリスタルを創り上げようとしていたのだ。
「六つの魂と……闇の水晶……七つの星は、今、ひとつになる!」
 ゼロは叫ぶと、体中に赤い切れ目が浮かび上がる。そして、闇水晶と六つの魂が朧気に輝く。すると――
「……!?」
 傍で見ていた妖精は絶句した。ゼロは魔法で、六つの玉と闇水晶をひとつに纏めようとしている。指令室内が、凄まじい闇のエネルギーで充満する。
 ゼロ自身からは、もの凄い気迫が伝わってくるのがリボンには分かった。真っ赤な目玉は普段以上に赤く染まっているようにも見える。
 やがて、闇水晶と六つの玉はひとつとなり――
「こ……これが……?」
 リボンはまた驚いた様子になる。ダーククリスタルと六つの玉は確かにひとつになった。しかし、見た目が前とは全然変わっていなかったのだ。
「ゼロ? これは……」 
「大丈夫。ちゃんと成功した」
 ゼロは、新しい闇水晶の間近へ寄った。
「完成した。……名付けて『ネオ・ダーククリスタル』……伝わる、とてつもない闇の力が。この力は、悪の心を増幅させるどころではない。悪の心が体を完全支配し、しかもその心は猛スピードで、且つ、永遠に膨張し続ける。これを受けた者は“純悪”として生きる道を辿ることになる。……さあ、時は来た。今度こそ、このネオ・ダーククリスタルで、新たな闇の力を創り上げる!」
 ゼロが気迫に満ちた声で言い切った。その時――
「!?」
 ――突然の爆音と共に、司令室の閉まっていた扉がたたき壊される。その後、そこから巨大なミサイルが凄まじい速さで突っ込んできた!
 やがてそのミサイルは司令室のモニターがあった場所に直撃して、爆発。機械は確実に故障しただろう。
「門番を付けておくべきだったか」
 周り中が煙で立ちこめる。そして、何者かが、しかも複数がゼロの体を攻撃した。しかし――
「……小癪な」
 ゼロは何食わぬ表情で体を回転させ、攻撃してきた者を吹き飛ばす。
 やがて煙が晴れればそこには――
「ククク……やはりお前達か。中々手の込んだ奇襲だったぞ」 
 ゼロが見る先に、武器庫にいたリックを始めとした十にんがいた。その十にんの中の誰かが攻撃をし、ミサイルはアドレーヌが描き、扉を壊したのはデデデ大王だったようだ。
「くそ……やはりこんな作戦でやられはしないか」
 虹の剣を構えていたメタナイトが白い目玉を凝視して呟く。彼等はとにかくゼロを倒すことに必死だった。
(……リボン? どうしてこんなところに?)
 次に、アドレーヌがリボンがいることに気が付いた。やがて他の者達も妖精を見て複雑な表情になる。自分たちの仲間が、相手側の元にいれば気になるのも当然だった。
「ねぇ、何でリボンはダークマター側についたの? それに、武器庫にいた他の妖精はどうしたの?」
 ベレー帽の少女が言いに出ると、桃髪の妖精は不気味な表情で答えた。
「他の妖精共は全てリップルスターに返しました。そして、あそこはダークマターの国になりました。私は、このファイナルスターで新しい生き方をすることに決めました。それだけですよ」
 ベレー帽の少女は言葉を失う。妖精の言動は余りにも冷静的だった。
 やがて、ゼロが彼女に付け加えるように答える。
「……そう、たったそれだけのことだ。お前達が口を挟む理由は無い。リボンはダークマター側に付くという賢明な判断をした。その上、たった今、ネオ・ダーククリスタルが完成した。これを使い、余は“新たな闇の力”を創造する……つまり、お前達の大切な仲間を闇に墜とすということだ」
 ネオ・ダーククリスタル――闇水晶は既に強化された状態となったのが分かり、リック達に緊張が走った。ここで止めなければ、大切な仲間――カービィは闇に墜ちてしまうかも知れない。彼等の背中にはとてつもないプレッシャーがのしかかっていた。
「ククク……怖じ気付いたところを悪いが、先ほどの不意打ちは、余への宣戦布告と取らせてもらうぞ。覚悟はいいな?」
「……勿論だ。そうでなかったら私達はここへやってきはしない」
 言いに出たのはメタナイトだった。こわばった表情は無く、重圧を押しのけるようなやる気が彼の目から満ちあふれている。
(流石……幹部共を倒してきているだけのことはあるか……)
 メタナイトに限らず、司令室へやって来た者皆が、先ほどの緊張した表情の面影も無く強い意志を持った顔つきでこちらを見ているのがゼロには分かった。
「ならば良い……」
 やがて言った後、ゼロは目を光らせる。それを見てしまったリック等はゼロの念力で司令室の中央に寄せられる。
「何をする気だ?」
 叫ぶリックをものともせず、ゼロはもう一度目を光らせた。すると――
「!?」
 床から急に音が鳴る。そこからしばらくすると、リック達とゼロの周りの床に円形の線が浮かぶ。
 なんと、そこから円形に刳り抜かれるように床が急に下へ落ち始め、どんどん下へと降りていく。どうやら別の場所とエレベーターみたいに繋がっていたようだ。
「ゼロ?」
「リボンはしばらく司令室で待っていろ。こいつらは余が直々に相手する」
 ゼロが言い終えると、落ちるスピードがさらに速くなったようにリック達には感じられた。
「……」 
 やがて床が止まると、周りは薄暗く、何もない空間で広がっていた。強いて言えば、右側の壁に見たところ開きそうにもないさび付いた扉があるくらいだ。ただ、戦いには十分最適な場所ではあった。
「さあ、カービィのしもべどもよ……対決だ。お前達は散々余の侵略の邪魔をしてくれた。このお礼はしっかりと返させてもらおう!」
 ゼロの言葉と共に、ダークマターの頂点に立つ者とカービィの仲間達の決戦の火蓋が切られた――
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