「ふぁ〜……やっぱりこたつにミカンは最高だねぇ……」 などとのんきなことを言っているのは、プププランドのひとカービィ。これでも数々の悪党を倒した英雄的存在であったりする。 「ちょっと……ひとんちでくつろぎすぎじゃない?」 幸せそうな表情のカービィを呆れながら横目で見るのは、頭にリボンを着けているスライムの女の子チュチュ。カービィの友達のひとりである。どうやらカービィはチュチュの家に遊びに来ていたようだった。 (にしても……今日も寒そうだよね……) チュチュは、くつろいでいるカービィから窓越しの外景色に目線を置いた後、一息つく。 プププランドは四季の変化がはっきりと見られるのが特徴であり、春には花が満開に咲き、冬には雪が積もったりするときもある。今日は雪こそ積もらなかったが、とてつもなく寒い日であった。 それ故か……チュチュはふと気が付いたかのようにカービィにこんなことを言い出した。 「そういえばさ……カービィって年中無休で同じ格好じゃない? 服装とかに気をつかったりしないの?」 カービィは「へ?」とミカンを食べている手を止める。 「チュチュだってひとのこと言えない気がするけど……」 「わ……私は違うわよ! 外出するときはちゃんとマフラーするし……それにこのリボンだってブランドもので、しかも季節に合わせて度々変えているのよ?」 「本当に? どう見ても同じにしか見えないんだけど……」 「うるさい、ちゃんと違いがあるのよ! ……カービィはとにかく“ファッションセンス”を磨いた方が良いわ!」 チュチュの力説が終わると、しばらくふたりは沈黙し、ストーブから出る音のソロ演奏が始まった。 それからしばらくして、先に口を開いたのはカービィの方であった。しかも何故か笑みを浮かべている。 「チュチュは知らないの? 僕だって服装にはちゃんと気を遣っているんだよ」 こう言った後、すぐさま部屋にあったストーブを吸い込み、“ファイア”をコピーした! 「か、かーびぃ……」 カービィの頭上にはメラメラと炎が燃えている。彼はコピーする時にその象徴となる物を頭に被っているが、どうやらそれはカービィ自身の趣味であったようだった。 「どう? この頭の炎と額の青いエンブレム、カッコイイでしょ? この帽子の見た目は僕が全部考えたんだよ」 と得意げに言うカービィ。彼はコピー帽子に対してかなりの自信があるようだった。しかし―― 「……チュチュ、何でそんなに怒ってるの?」 何故か怒り顔になっているスライムを見たカービィは不思議に思い、おそるおそる訊ねる。するとチュチュは火山が噴火したかのようにいきなり怒りだす。 「……さっさと家からでてけぇ!」 そして、今にも殴りかかりそうな表情になった彼女を見て、怖くなったカービィは思わず逃げ出してしまった。 「プンプン。チュチュから誘ってきたくせに……なんであんなに怒られなきゃいけないんだ!」 ファイアをコピーしたカービィがそんなことを言いながら外を歩いている。 (うーん……何であんなに怒ってたんだろう?) 答えが何故か見つからないカービィは、何と無く青空を見てみた。日は丁度真上に佇んでいる。 丁度お腹も空いてきたし、まずは家に帰って昼ご飯を食べよう。そう思ったカービィは自分の家へ向かうことにした。その時―― 赤いベレー帽が特徴の少女アドレーヌがキャンバスに絵を描いているのを見つけた。 (この格好をちょっと見て貰おっと♪) そう決めたカービィは早速彼女の元へ寄った。すると―― ――アドレーヌは筆を急に止め、カービィを見て嫌そうな表情へと変わる。そして、キャンバスと画材を急に片付けて、一目散に逃げ出してしまった。 「え? ちょっと待ってよ! 何で急に逃げるの? 僕のこと嫌いなの?」 避ける彼女を追いかけるカービィ。するとアドレーヌは走りながら顔だけをカービィに向けて、こう言い放った。 「自分の姿をよく見てよ!!!」 (あ……) 誰も居なくなり、寂れた平野に佇んでいたカービィはアドレーヌ言われたことを何回も回想した後、確信した。 (僕のコピー帽子のセンスって実はとんでもなくひどかったりして……) チュチュがいきなり怒りだしたのも、アドレーヌが避けたのも、全てそれが原因だと考えると、不安がだんだんと忍びよる影のように大きくなっていくのが分かった。 今まで自信のあったコピー帽子のデザインが、実は自分の勘違いだったと考えると、また違う寒さがカービィの身に襲いかかった。 とにかくこのままではまずい。そう感じたカービィは―― 「それでワシの所に来たのか。しかもわざわざ昼飯時に……」 プププランド国王デデデが住んでいる城へ訪ねに行った。しかもそのついでに昼もごちそうしてもらったとか。カービィも随分ちゃっかり者である。 「お前の嗅覚には犬もビックリだな。……しかし、ワシは過去に何度もカービィと戦って、この前は一緒に冒険もしたが、決してコピー能力の時に被る帽子がダサイとは思わなかったぞ? それに、カッコイイという噂さえ聞く程だ。心配するな」 カービィは思わず「え?」と声を発す。噂もウソではないかとも勘ぐったが表情を見る限り、からかっている様子もない。 本当のことだと信じたカービィは、ひとまずホッとする。そして、ハンマー帽子は鉢巻きにすべきかヘルメットにすべきかで悩んだこと等、コピー帽子に沢山の時間を費やしたことも決して無駄でなかった、と安堵した。 「ありがとう大王。悩みが晴れたよ。お礼にこのストーブあげるね。この部屋寒そうだし」 カービィはお礼にファイアのコピーのもとであったストーブを口から出し、デデデ大王にあげようとした。だが…… (このストーブ、見覚えが……) どこかで見たような形、記憶に新しいストーブを見て、カービィは過去を巡ってみる。すると、それはチュチュの家にあったストーブだということが分かった。 (チュチュが怒ってたのは、自分がストーブを吸い込んだからだ。僕……何でこんなことに気が付かなかったんだろう?) カービィは非常に落胆した。それは、自身の“ひとつのことに目がいくと、周りが見えなくなる性格”に嫌気がさした瞬間でもあった。 しかし、そんなカービィにさらなる追撃が待っていた。 「お? アドレーヌじゃないか?」 開いたドアから、ベレー帽の少女が綺麗な風景画を持ちながら部屋に入ってきた。 「どう? 前から部屋に飾る絵がほしいって言ってたから描いてきてあげたわ」 「素晴らしい。流石だ!」 ふたりの会話を呆然と聞くカービィだったが、次に彼女がカービィに向けて放った言葉に大きな衝撃を受けた。 「あ、カーくんごめんね。良い絵にしたいからって神経質になって……呼びかけてくれたのに逃げて酷いこと言ったよね。“頭の炎がキャンバスに移る”と思ってつい……」 (……!) そう言って頭を下げたアドレーヌを見て、カービィは自分のとんだ勘違いに呆れるあまり、豪快に倒れた。 アドレーヌは決して悪いことをしていない。全て“自分の痛い勘違い”が原因なんだ…… デデデ城を出た後、ストーブをチュチュの家へ持って行き事情を話した所、彼女は笑って流してくれた上、「センスはあったよ」と褒めてくれた。しかし、それでもカービィは当分立ち直ることができなかった。 |
page view: 2103 この小説を評価する: (5) |