オリオンさんの小説

【たたかいの彼方に】 第34話 『服従』


第34話『服従』

 余はかつて、ポップスターを我が物にしようとしたが、その目的はカービィにより邪魔され、そして倒され、残った物は未練に満ちあふれた魂だけ。

 その後、もう一度姿を取り戻した後、復讐を考えようと強大な力を秘めたクリスタルを狙ったが、またもカービィに阻止されてしまった。

 二回戦い二回負け、悔しさを秘めながら散っていく余に見えた物はいつも同じだ。  

 ――カービィとその仲間たちの“幸せそうな”姿だ……


「……ゼロ様?」
 名前を呼ばれ、親玉ゼロはハッとする。するとそこには、不思議そうな目で見つめる手下の人型のダークマターがいる。
 ゼロは夢を――昔カービィと戦って敗北していった夢を見ていた、とここで気づかされた。 
「……すまない。少し仮眠を取っていた」
 と部下に素っ気ない返事をした後、赤いひとつ目を瞬きながら、真っ暗な画面に景色を映し出させた。要塞ファイナルスター内のあらゆるカメラと繋がっている超高性能のモニターだ。
「……」
 大きな白い球体は黙ったまま、画面の奥に映る本拠地の外側にいる宇宙船を見つめる。ゼロは小さなピンク玉の仲間が侵入を試みているだろうとは踏んでいたが、兵を送り込んで返り討ちにすることもせず、要塞に貼られている強力なバリアに任せる考えを貫いていた。だが――
「ん? あれは……」
 ゼロは何かに気が付き目を凝らしてみる。
 そこで見えた物は、赤い帽子を被りマントを羽織ったネズミが、二つの武器を掲げながら宇宙船の前に佇んでいる光景であった。しかもその二つの武器は、なんと――
「ラブラブステッキ……それにスターロッド! 虹の剣と同等の、闇の力を弱める武器が二つも奴等の手に渡っているだと!?」
 スターロッドはかつてカービィがナイトメアを倒す時に使った強力な武器。ラブラブステッキはダークマターの親玉と戦う時に使われたこれもまた大きな力を秘めた武器だ。このまま放っておけばダークマター側にとっていずれ脅威になることは予想できる。
「ゼロ様……一体どうしましょうか?」
 モニターに映る様子を横から覗き込んでいた部下に言いかけられたゼロは、暫く間を取った後、言った。
「……奇襲を仕掛けよう。奴等の裏から回り込み、一気に襲いかかって奴等に壊滅的ダメージを負わせ、持っている武器を奪い取るのだ」
「成る程。しかし、戦力は……」
「まだ数部隊残っているはずだからそいつらを全て使わせる。相手はダークゼロに勝つ程の実力者だから慎重に行け。一歩間違えれば自滅で終わる」
「数部隊ですか……そういえば、幹部連のダークマインド様は今お忙しいのですか? 七星で一番強いあの方が付けば心強いのですが……」
 部下の言葉の後、ゼロは画面を見つめたまま、目を鋭くさせる。
「……奴には今は別の任務があるから、奇襲作戦には登用しない。……悪く思うな」
 ゼロの態度が若干変わったように見えた部下は一瞬不審の目で親玉を見たが、
「……了解しました」
 と返事をした後、何事もなかったかのように人型ダークマターは司令室を出て行った。


 一方七星の中で唯一生き残ったダークマインドは、ゼロからの特務でこれまで占領下にした星を巡り、ダークマターに反抗する勢力を鎮圧していた。
 彼は、七星こと幹部連の中でも一番の英知と力を持ち合わせ、侵略への貢献度も大きかった。しかし、親玉の命令への反発も少なからずあり、そしてある時、七星とダーククリスタルの関係を突き止めようとした彼は、ゼロの怒りに触れ、自分の意志を奪われてしまい、今やゼロの命令だけを淡々とこなす傀儡となっていた。
「あわわ……頼む! 命だけは奪わないでおくれぇ!」
 火山から噴き上がるマグマに顔をつけたような生き物――ヨガンが、傷だらけになりながら命乞いをする。
 コレカラスター内の一部では、そのヨガンが中心となってダークマターの侵略を阻止しようという運動が行われ、統治を行う方も困っていた。
 ――が、特務を受けてやって来たダークマインドはその厄介な勢力をいとも簡単に、しかもひとりの力で撃破していった。台頭のヨガンもわずか数分で瀕死に追い込まれ、醜態を晒さざるを得ない状況に追い込まれてしまった。
「ワレワレニサカラウトハ、オロカナ、イキモノダ……」
 赤みを帯びた球体はボロボロとなったヨガンを凝視する。相変わらず言葉からはマインド自身の意志は感じ取れなく、話し方に抑揚が無い。
「スベテハ、ダークマター……ゼロサマノ“イシ”。オマエモ、ダークマタート、ウンメイヲトモニスル“タミ”トナロウ。スレバ、サイダイノ、シュクフクガ、オトズレル……」
「……!」
 最大の祝福が訪れる。これを聞いたヨガンは、最早戦い続ける勇気も失せ、ダークマターへすがる気持ちの方が大きくなっていることに気が付いた。そして、
「……はい、ダークマターと、運命を共にします……!」
 と呟いたような小さな声で、服従の意を示してしまう。
 すると、ダークマインドの影から小さな体を持つ者が表れた。
 ――かつての、カービィの仲間が……!
「“リボン”ヨ、チュウセイヲチカッタ、コノモノニ、セイナルチカラヲアタエヨ……!」 
 ダークマインドにリボンと呼ばれた妖精は、ヨガンに向かって手をかざす。
 すると、妖精の小さな手から、水晶の形をし闇を表すような黒い色の物体が放出され、マグマ生物の脳天に直撃。
「……!!!」
 やがて、危険を顧みず戦った勇者は、自分の欲ばかりを考える下劣な生き物に成り下がった――

 星を超えた大規模な国家を作るためには、“全住民共通の信じる対象”を作らなければならないと考えたゼロは、手下のダークマターを送り込み、“暗黒物質は従う者を幸福に導く”と住民に洗脳させるようにした。かつて数々の悪行をしておいて幸せを導くとは実に滑稽な話であるし、勿論住民の中には識者もいるから事は簡単に行くわけがなかった。ましてやダークマターの知名度が特に高いポップスターでは、クラッコやウィスピーウッズ、そしてアイスドラゴンといった様々な実力者たちが、星の重要拠点を守るなどの活動を盛んに行っており、暗黒物質側も手を焼いた。
 そこでゼロは、ダーククリスタルを使って反乱を起こさせないようにしようと考えた。
 闇水晶の力を放出できるリボンを使い、支配下の星に住むひとたちにそれを撒いた。結果、力を受けた住民の善の心は消え去り、残った悪の心が表向きに表れるようになった。自分の欲のままに動くようになり、そうなってしまったひとたちを洗脳することはいとも容易かった。星に住まう住民に、マター一族と戦って勝てる程の力も持ってないので、自然と従う態度を取ってしまうのも理由のひとつであった。
 ダークマインドが特務で星の巡回をしていたのは、妖精のダーククリスタル攻撃から逃れ、影で反乱を起こそうとする勢力を潰すため。コレカラスター以外にも、これまで数々の反抗勢力が見つかり、その度に潰していった。リボンは潰した“隠れ反対派”にダーククリスタルの力を与えるべく、ダークマインドと同行をしたのであった。


「マインドさん。これで邪魔なひとたちは、いなくなったと思います」
 宇宙に佇むふたりのうちのリボンが平生のとは打って変わった冷たい声でダークマインドに言った。ふたりは既に支配下の星を何回も巡り、コレカラスターの大規模な反乱も鎮圧できていることから、彼女は任務は遂行完了していると考えていた。しかし、
「コレハ、ゼロサマノメイレイ。アタラシイ、メイレイガ、クルマデ、ワレラハ、ニンムヲ、スイコウシツヅケル」
 と表情何一つ変えずに言い返されてしまった。赤みを帯びたひとつ目は、まだ星を巡り続けると言った。
「……そう。それより、褒美は沢山あるんでしょうね? わたしは、お返し貰わずに働くつもりは一切ありませんからね」
 妖精が目を細めながらまた言う。彼女もまた、ダーククリスタルの力を受け、洗脳されてしまった生き物であった。故郷のリップルスターの事もその時から一度たりと考えたことはない。今やその星も、王女ではなくダークマターが統治する暗黒国家となってしまったが。
「……!」
 しばらくすると、ダークマインドが突然何かに気づいたような素振りをし始めた。目は遠い彼方を見つめている。
『マインドよ、ゼロだ。任務の調子はどうだ?』
 どうやら赤い球体は、ゼロからのテレパシーを受け取ったようだった。
「ジュンチョウ。テキハホボ、センメツ、シテオキマシタ。ソレヨリ、ワレニ、ナニカ、ゴヨウガアリマスカ」
『実は、もうひとつやってもらいたいことがある。重要な任務だ。よく聞いてくれ……』


「どうした……何故やって来ない!」
 ファイナルスターから少し遠くにある小さな宇宙船の上にいた盗賊団の団長が、スターロッドとラブラブステッキを掲げながら思わず叫ぶ。
 団長ことドロッチェとその団員は、ダークマターの本拠地への侵入を試みたが、強力なバリアに貼られていることに気が付き、一時は断念した。
 しかし、彼は闇の力を弱める星の棒と、ハートの杖を見せつければ、ダークマターが挑発に乗ってファイナルスターの何処かから襲いかかってくると考えた。
「バリアを張っているとはいえ、ダークマターが本拠地から出るには“穴”が必要になるはずだ。そこを狙って侵入できればいいんだが……」
 肝心のダークマターが一向に姿を現さない。凍える宇宙空間の中で、ドロッチェは焦りと苛立ちを感じていた。しかし――
「……!」
 刹那、場の空気が変わったかのように彼は思った。
「ドロッチェさん!!!」 
 宇宙船の中からストロンの叫び声が聞こえたと同時に、ドロッチェは確かに見た――
 ――米粒にも満たない、目を凝らしてやっと見える程の小さな黒いモノが、ファイナルスターの裏側から出てきている。その黒いモノがダークマターの軍隊なのは言うまでもない。
 確認した後、団長は一目散に戦艦へ潜り込み、
「ドク! 早くあそこへ行くんだ!!」
 と操縦席に座っていた大きな眼鏡を掛けた小ネズミに言い、それを受けたドクはひとつ頷いた後、操作を始め“ファイナルスターの裏側”を目指した。
 宇宙船はみるみる加速し、ファイナルスターとの距離も目で分かるほど近くなっていき、やがて沢山のダークマターが宇宙船の窓に映るようになった。それでもドロッチェ団を乗せた宇宙船は敵を恐れずに突き進んでいく。
「奇襲作戦失敗! 変な乗り物がこちらへ猛スピードで突っかかってきます!」
「やはりアレは挑発だったか……やむを得ん! 一斉に攻撃しろ!」
 隊長と思しきダークマターが隊員に命令を発した後、宇宙船への攻撃が始まる。
「かわせるか?」
「任せなさい……!」
 ドクが巧みな操作で必死に回避を行う。機動性に長けているこの宇宙船は戦いを想定して作ってなく、こうするしか手段が無かった。多少の損害は致し方ない。
 人型ダークマターの剣から放たれるビームと目玉型の爆弾の、怒濤の攻撃をかいくぐり抜け、とうとうファイナルスターと呼ばれる巨大な要塞が窓全体を覆い尽くすようになった。そしてそこには……
「おっ、おい! あれを見ろ!」
 声と共にスピンがどこかへ向かって指す。そしてその方を見た者は全員目を丸くした。
 宇宙船がギリギリ入れるほどの大きさの“バリアの穴”が見つかったからだ――
page view: 1654
この小説を評価する:                   (0)