オリオンさんの小説

【イベント小説】無限、強欲(第4回お題)


 ポップスターからは遙か彼方の別世界にある星ハルカンドラ。
 今では、巨大な工場と険しい火山が佇む一言で言えば寂れた星であるが、大昔には大きな力を持った超古代文明が存在した――


 大昔。後に、宇宙をまたにかけて大活躍するヒーローも生まれていない程の大昔。ハルカンドラは、今では信じられないほどの豊かな自然に包まれ、平和な日々が送られていた。
「ねぇ、昨日はどんな夢見たー?」
「聞いて聞いて、お菓子の山に埋もれる夢見たのー!」
「ハハハ! おめーは食いしん坊だからなぁ!」
 子供たちの笑い声が響く、ハルカンドラのとある街。子供たちは毎晩素敵な夢を見て、成長していった。
 そう、スターロッドの力。ひとに夢を与える秘宝は、ハルカンドラの住民によって作られていたのである。


「みんなっ!」
 ひとりのおとなが、他のふたりのおとなに言い寄る。
「聞いてくれよ。僕らが作ったアイテムが他の星にも大好評だ!」
 作ったアイテムというのは言わずもがなスターロッドであり、やがて宇宙でも珍しく強い輝きを放っていると言われているポップスターにも送られることとなる。
「そりゃそうさ。なんたって俺たちハルカンドラ民族の技術は世界一、いや、宇宙一だ。しかも俺たちの仲間が長年懸けて作った“空間転移ができて、持ち主の心を反映することが出来る”夢のような宇宙船が、俺たちのアイテムを輸送してくれるからな」
 と、ひとりは照れを隠すような表情で言い、
「他の星でも、毎晩素敵な夢が見られていると思うと、私たちも幸せな気分になるよね。勿論、スターロッドを飾るための“夢の泉”の設計書も同梱でね」
 と、もうひとりは、楽しそうに話した。
 当時、この星にいたひとたちは、皆が活気に溢れ、生き甲斐を持ち、楽しく生涯を過ごしていたのである。


 古代ハルカンドラのひとたちは夢を諦めずに、誰もが欲しがるような素晴らしいアイテムを作り出し、星を豊かにしていった。
 技術力もどんどんと進化を遂げ、やがては、スターロッド及び夢の泉との連携を通して機械仕掛けの大彗星が作られた。それにはなんと“願いを叶える”という誰もが求めるであろう究極の力を持っていた。その代償として、七つの星にあるスターロッドの力を結んで発動させるという、大きな条件が必要となるが、それでも凄いことであった。
 
 
 ――しかし。


 やればできる。願望は沢山の努力を積めば実体にできる。その純粋な思いは、皮肉にも、ひとびとを暴走という名の線路に歩かせてしまった。加えてハルカンドラのひとたちの“異常”とも言える高度な技術力はそれを助長させ、果てには自分の利益のためだけに強力なアイテムを作るようなひとだらけとなってしまい、豊かな自然は工場のために破壊され、平穏に暮らしていたひとびとの笑顔は消え去っていき、変わりに、食いしん坊でのんきなヒーローが活躍する時代のハルカンドラ――工場と火山だけの寂れた星の面影が表れ始めていった。
 
 
「さあ、働け!!」
 ハルカンドラのある巨大な工場の中で響く命令。チームで分けられたひとびとが、沢山の細長いテーブルに並び、“王冠”らしきものを作っていた。周りには、失敗作と思われる形の崩れたそれが転がっている。
 命令しているのは、“ハルカンドラで最も裕福なひと”であった。彼の欲は底知れず、大量のアイテムを作っては、それを自分の私腹を肥やすために売りさばいたり、またはそれを悪用していた。その繰り返しで、彼は膨大な富を得て、王様の概念が無かったこの星で、事実上の最高権力者となった。
 しかし彼はこれで満足はしない。
 高度な技術を持つ星の頂点に立つ者の“欲しい物は手に入れたい”という気持ちは、何故か裕福になるにつれて大きくなり、やがては、こんなことまで考え始めるようになっていった。
 
 宇宙全てを我が物したい。
 
 数多の労働者により完成されたその王冠は、ハルカンドラで最も裕福なひとに「マスタークラウン」と呼ばれた。全てを支配する王冠。それには、ひとに“無限の力”を与える能力がある。彼はそれを使い、宇宙の金銀財宝、自然、星、を全て自分の物にしようとしたのだ。
「これで……全てが手に入る」
 沢山の資源、労力を費やし(無駄遣いし)、遂に手に入れたその王冠。やがて“宇宙で最も裕福なひと”になると考えると、彼は高揚を隠せなかった。
 マスタークラウンを被った後、ハルカンドラで最も裕福なひとは、空間転移が可能で心を反映できる船に乗り、周りの星を一挙に侵略にする。彼はマスタークラウンによって生み出される無限の力を使い、統治者を虐殺し、権力を強奪、そして住民の大量の命を奪った。
 無限の力を得た彼にとって、それは容易いことであった。彼は欲のままに侵略を続け、ハルカンドラは、彼により数多の星を支配下に置く巨大な権力を持つ星として成長してしまった。
「ハハハ! これが、無限の力かぁ……!」
 だが彼は満足しない。ハルカンドラ周辺の星を全て征服したら後は、宇宙船で空間転移を使い、手当たり次第に、他の銀河へ行っては、そこにあった星を同じように征服した。その繰り返しを何回も何回も何回も何回も何回も何回も行い……

「はぁ……はぁ……」
 僅か一日で様々な銀河を巡り、無限の力を以て数多の星を手に入れた。
 どれだけの星を手に入れたのだろうか。彼も流石に疲れを見せ始めていた。
 今日はもう終わりにしよう。彼はそう思った。だが……


 ……止まらなかった。
 

「……アレ?」
 彼はそこでやっと気が付いた。自分の行動は、自分の意志で行っていなかったことに。全ては、マスタークラウンから生まれる力が自分を動かしていたことに。
「トマラナイ……」
 自分とは違う意志が、自分の体で侵略活動を行っている。止めようとしているのに、今でも体はひとびとへ攻撃、そして侵略を続ける。
 

 全てを手に入れようとした彼は、代償に自分の心を捨ててしまったのだ――


 やがて、ハルカンドラで最も裕福だったひとは、マスタークラウンの力に完全に飲み込まれてゆき、破壊活動を永遠に繰り返す悪魔と化した。喜び、悲しみ、怒りといった感情も無く、ただひたすら自分の膨大過ぎる力を示すだけの生き物と。
 彼の暴走は、ハルカンドラに残っていた数少ない住民が大彗星を使って食い止めるまで、何十年も続いた。
 王冠の力を失い、死に至ったハルカンドラで最も裕福だったひとは埋葬され、マスタークラウンは「邪悪な心を持つ者の手に渡ると宇宙の破滅を招く」と恐れられ、ひとのように欲を持たなく、強い力を持っていた竜ランディアにそれを守らせるようにした。
 彼が乗っていた宇宙船もひとめにつかない場所に隠され、古代ハルカンドラのひとびとも、そこからすぐ後に滅亡してしまい、高度な文明を作りあげたひとたちの血筋は絶えてしまった。

 
 生き残ったのは色々な場所に住み着いていた小さな生き物たちだけとなったその星は、工場「エッガーエンジンズ」と真ん中にそびえる火山地帯「デンジャラスディナー」だけの廃れた星として、長い時を過ごすこととなった。
 マスタークラウンを長い間守っていた竜ランディアも、とうとう眠りにつき、“彼方からの旅人”と言われた青いフードを被った魔法使いの一族と思われる者が、ここを故郷として定住した後、無限の力を持つ秘宝に目をつけるまで、目覚めることは一度も無かった。
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