オリオンさんの小説

【たたかいの彼方に】 第33話 『向き合って』


第33話『向き合って』

「これは……どういうことだ……」
 モニターに映った光景を見て、ゼロは思わず驚く。それはゼロが全く予想していないことだった。
「……何故だ? 闇の力を弱める虹の剣は、ドロシアが封印したはず。なのに何故“あの三匹”が脱獄者共の味方をするのだ? まさか……!」
 生き物の悪の心を肥大化させるダーククリスタルの力は、ひとりでは絶対に打ち破れないと思っていたゼロにとって“そのこと”は大きな衝撃となっていた。

「お……お前たちは!!」
 ナイトメアは、見て思わず驚いた。瀕死にまで追い詰めたリック、カイン、クー、デデデ、メタナイト、アドレーヌの六にんにトドメを刺そうと、星型弾を発した時に、今まで気を失っていたナゴ、チュチュ、ピッチが急に立ち上がり、六にんを庇って、ナイトメアの攻撃を受けたからだ。
「ああ……お前等……何故?」
 クーが震えた声で三にんに言いかけると、それにナゴが手で体を抱えながら振り返り――質問で答え返した。
「何で? ……リックたちがやられそうになったとき……体が……勝手に……」
 チュチュもナゴに向かって軽く頷き、
「私も……なんでだろう。リックたちが危ない目に遭いそうになった時、急に助けなきゃって……おかしい。こんなのおかしいわよ!」
 などと、何かにうなされるような表情で、苦しそうに言っている。
(これは……ダーククリスタルによる支配力が、弱まっている)
 三にんの様子を見てグーイが悟る。自身もダーククリスタルの力を受けた身だったから、三にんの、“かつての仲間に憎悪を感じても、心の隅では親友として扱ってしまう”複雑な気持ちをよく分かっていた。そして――
「ナゴ、ピッチ、チュチュ!」
 三にんの名前を呼び上げた後、戦いによる激痛を物ともせず、その元へと寄っていく。そして、彼等の闇のように黒ずんでしまった瞳をまじまじと見つめた後、真剣な目つきで言い放った。
「僕たちは敵同士じゃない! 一緒に遊んだり、冒険したりした仲間、親友だ! お願い、目を覚まして!!」
 言われた三にんは行動を暫く止め、呆然と立ちつくす。
 ――が、結局その言葉が三にんの心に届くことはなく、その中のピッチが、普段では絶対に言わないだろう罵声を放ち、グーイをはじき飛ばしてしまった。ピッチの平生を知っている者は、腫れ物を見るような、または畏怖とも取れる表情となる。
 そしてこの一連を見たナイトメアが嘲笑う。
(フフ……ダーククリスタルの力は絶対だ。あがいても所詮自分の首を締めるだけだというのに……このまま少し滑稽な様子でも見ていようか)
 などと考えながら、しばらく観察をし始めた。これは、殺そうと思えばいつでも殺せるという絶対的な自信の表れだった。
 ピッチがグーイをはじき飛ばした後、今度はチュチュが何本もある触手の様な手でエネルギーを溜め始め、それをグーイに向ける。これは、過去に使った技能を全て習得するダーククリスタルの力を得て身につけた“スパーク”能力であった。
「グーイ!」
 チュチュが細い光線を放った瞬間にリックがボロボロになった体を気にせず、すかさずグーイを庇う。そして、グーイを押しつけた状態で言いかかった。
「……何やってるんだ! ナゴたちは、まだ様子が変なままなんだ。うかつに近寄っては駄目だ!」
 すると、傍にいたカインとクーも、グーイに向かい言い出す。
「リックの言う通りだよ。かつての友達でも、今は敵。そんなふざけたことしていたら僕たちがやられてしまう!」
「そうだ! 俺たちも、もう、戦う気力は無い。ここは、みんなで一旦逃げるぞ!」
「……リック、カイン、クー。何で君たちがそれを言うの?」
 グーイはそう言う三にんに、失望を込めた返事をした。三にんは最初は、どういうことなのか全く分からなかった。
「僕は、ダーククリスタルの力を受け、リックたちを傷つけたことは今もはっきり覚えているし、思い出したくもない。でもね、それだけじゃないんだよ……」
 少し間を置いた後、グーイはまた口を開く。
「……嬉しかったことも、僕はちゃんと覚えていたんだよ。カインは変わり果ててしまった僕をすぐに見破ってくれた。……リックは攻撃する僕に恐がりもせずに『目を覚ますまで絶対に放さない!』って言って僕を止めてくれた。勿論クーも熱心に……でもそれが、ピッチたちにはできないの?」
 そう言われた三にんは、先ほどの言ったことに対する恥ずかしさがこみ上げてくるのが分かった。そして気が付いた。今までの長い戦いで精神も不安定になり、心の余裕が無くなっていたことに。
「……そうだったな。ナゴたちとも熱心に向き合わないといけなかったよな。おいらがグーイを助けたように、ナゴたちも絶対に元に戻してやる。ここからは、気力で戦ってやる」
 そう言うリックの横でカインとクーが、同じ気持ちだよ、と目で伝える。
「ほ……本当にこれでいいのか? わしらも、もうだいぶ疲れているはず。このままだとみんなやられるのがオチだぞ……」
 リック等の後ろではデデデ大王が不安そうにメタナイトに囁く。しかし、仮面の騎士は何食わぬ表情で、
「良いんだ……あいつらを止めるのはできないし、何より危険に強い。こうなれば、私たちも一緒に戦ってやろうじゃないか、な?」  
 大王にそう言ってやった。横ではアドレーヌも微笑して頷いている。
「……大した自信だ」
 そこに、ナイトメアが突然入り出す。
「そんな大口を叩こうが、結局は喋る力くらいしかお前たちには残っていないだろ。私とドロシアで、お前たちの小さな希望を思い切りたたき壊す! そして、巨大な絶望を味合わせてやる!」
 言い終えた後、ナイトメアはまたサングラスを光らせた。リック等はそれを直視してしまい――
「あぁ……これは……」
 今度は自分たちの体の皮が変色し、ドロドロに解けていく幻覚を見せられ、リック等は平常ではいられなくなってしまった。
 ナイトメアとドロシアはこの隙を狙い、トドメを刺そうとした。
 ――しかしだった。 
「グ……グガガガ」
 突然、今まで事を発さなかったドロシアソウルが急にうめき声を発する。
「な……何だ! どうした!」
 ナイトメアが驚きながらドロシアの様子を見る。彼がよく見れば、ドロシアの体の中心辺りから“七色の光”が強く漏れ出ている。
(まさか!)
 ナイトメアが悟った瞬間、七色の光の正体――虹の剣が、体を突き抜けて宙に出た。そしてその後、辺りに目映い光をもたらした。 
「体が……元に戻っている……」
 虹の剣の力により、リック等の幻覚は解けていった。そして今度は、体に力がみなぎってくるのが分かった。
「よし! 反撃だ!!」
 リックは虹の剣を使い、カイン、クー、グーイはコピー技を、デデデ大王、メタナイトは持っている武器で、アドレーヌは実体化させた生き物で攻撃を加えていく。
「くっくそぉ! こんなことが!」
 ナイトメアとドロシアソウルはリック等の猛攻に反撃をしようとするが、数で押されてしまい、長期戦で体力を消耗してた故か、結局何も出来ないまま消滅していった。
「かっ……勝った……」
 七にんが同時に胸をなで下ろす。負ける可能性が高いと思っていたとてつもなく長い戦いが勝利で終わったことに対する喜びからなるものだった。
 ひとびとの強い心が、秘宝の力を引き起こし、またも奇跡を起こしたのだ。
 そして、そんな彼等の前では、ダーククリスタルの力を失った三にんが呆けていた――

「ナイトメアとドロシアはやられたか。……まさか虹の剣が封印を破って出てくるとはな……」
 司令室の中、二つの魂が戻り五つになった闇の玉を見てゼロがつぶやいた。脱獄者の進展は止まらず、虹の剣もその手に渡った。かつてダークマインドが言っていた最悪の事態になってしまった、とゼロはまじまじと感じていた。
 だがしばらくするとゼロは寧ろ、この時を待っていたと言わんばかりに、不気味な笑みを浮かべはじめていた。
(……でも、これは決して残念なことではない。ふたりが死んだことにより、あとはマインドが死ねば、ダーククリスタルのパワーアップが可能となる。クリスタルよりも完全に“格上の存在”となるだろう……)
 ゼロはナイトメア、マルクといった強力な悪者を復活させる際、まずは死んだ者たちの憎悪の心から生まれる力を使い、強大な魔力を持った玉を作った後、そこからそれぞれの肉体を宿した。そして、死んだときも再びその玉になって戻ってくるようにしていた。
 そのようにした理由も勿論存在する。マルク、ナイトメア、ドロシア、ギャラクティックナイト、ダークマインド、ダークゼロの六にんの七星と呼ばれた強大な力を持つ幹部連は、元々は復活させないまま、闇水晶の強化に使うだけのつもりであった。
 ダークマインドとダークゼロによって作られたダーククリスタルも、本当はゼロ自身が作る予定であったのだ。
 しかし、銀河制覇を目標として掲げ、活動を続けていくうちに、ゼロとその手下たち、ダーク三兄弟、ミラクルマターだけでは足りないことに気が付き、ポップスター以外の星にもヨガンなどの実力者が少なからずいることにおそれも感じていた。
 そこで、巨悪たちを急遽復活させ、侵略に利用させた。殆どの七星たちは復活させてくれたお礼、と忠実にゼロの言うことに従い、カービィの仲間たちに苦しまされながらも、見事ミルキーロードの星、リップルスターやその近辺の星、そしてポップスターの侵略を成功させた。
 今では生き残ってるのはダークマインドだけという状況であるが、ここまで勢力範囲を広げることができたのは、間違いなく七星のおかげだと、ゼロも認めていた。
(だが……余には、銀河制覇とは違うもうひとつの目的がある……)
 ゼロが考えているもうひとつの目的は、カービィを連れ去った理由、そして彼と共に旅をした冒険者たちと深い関係が存在していた。
(カービィのしもべどもは、ナイトメアとドロシアに見事勝ち、反撃を進めている。……とうとう、あやつらに本当の地獄を見せる時が近づいてきたようだな)
 ゼロは体に赤い切れ目を浮かべ、司令室の中、宇宙の遠い彼方を見つめていた。

 ファイナルスターのある通路にて、ナイトメアとドロシアも消え去り、ナゴ、ピッチ、チュチュは虹の剣の力により自我を取り戻していたが、三にんはしばらく黙ったままだった。
 リックやアドレーヌが話しかけても何も言わず、頷きもせず、目も合わせようとしない。
 デデデ大王とメタナイトも心配そうにその光景を見つめている。
「ナゴ、ピッチ、チュチュ……」
 グーイは、その三にんの気持ちが痛いほど分かっていた。悪の心を増幅させるダーククリスタルの力を受け、自分が持っていた闇の部分が引き出され、親友に大きな傷をつけてしまったことを。自分はこんなにも親友と思っているはずの相手を嫌っていたのか、と自分に絶望してしまい、誰との関わりも避けたくなる気持ちを。
 しかし、ナゴ、ピッチ、チュチュにはそうなって欲しくない、一刻も早く笑顔を取り戻して欲しい。そんな思いを心に秘めたグーイが口を開く。
「……そんなに落ち込まないでよ。僕たちは君たちを嫌ってなんかないよ。だから……」
「だから!?」
 チュチュがグーイを待たずに強い声で返した。目にはいっぱいの涙が浮かんでいた。
「グーイが嫌ってなくても……私はみんなのことが嫌いだったみたい。……だって……あんなひどいことを……平気で……!」
 そこから涙声で言葉が途切れてしまう彼女。そしてそれを皮切りに、今度はピッチが泣きながら、叫ぶように言い出した。
「僕も! ……『親友だ』って言ってくれたグーイさんに、あんなことをしてしまった……みんなを、本気で殺そうとしていた……! 親友だと思っていたみんなが……あの時は消えて欲しい悪者に見えた……そんな僕たちを友達だなんて本当に見ることができるんですか!?」
「出来るに決まってるだろ」
 クーが前に出て、三にんに向かって言い出す。
「例えお前たちがどう思うと、俺はずっと親友として見る。だいたい、ピッチたちがそうなったのは、ダーククリスタルっていう悪い心が大きくなる力が働いたからだろ? ちゃんと原因は分かってるんだ。それに……」
「そうじゃないナゴ!」
 今までずっと黙っていたナゴが、口を開く。
「そのダーククリスタルで、僕は心のどこかでリックたちを嫌っていたことが分かったのがショックなんだナゴ。親友だと思っていたのに、心のどこかでは嫌な奴と思っていたのが……」
「……それで別にいいんじゃないか?」
 言い切る前に、クーがぶっきらぼうに返す。
「友達ってのは本当に全部を好きでなきゃいけないものか? 勿論それが一番良いだろうけど、本心でぶつかり合えるのだって友達じゃないのか? 俺とお前は違う。リックやカインとも違う。だから異なる考えがあったり、嫌なところがあってもそれは普通なんだ! ……それでも信じ合えるのが、本当の親友じゃないのか?」
 クーが言い終えた後、ナゴたち三にんは顔を上げ、何かに気が付いたような顔をする。今度はカインが、
「僕たちだって今までに諍いや言い合いも少なからずあった。でもその度に結束が強くなっていく気がした。だから、逃げないで。今度も僕たちの結束を確かめ合おうよ。じゃなきゃ絶対に損するよ」
 励ますような目で見つめながらそう言った。彼に限らず、他の者たちももナゴ、ピッチ、チュチュの三にんに熱い眼差しを向ける。
「……嬉しい」
 やがてチュチュが涙を拭いながら呟く。
「私たちは……仲間。それでいいんだよね? みんながこんなに熱心に向き合ってくれるのに……逃げようとしてごめんね」
「……そうだ。おいらたちは仲間だ」
 今度はリックが自信たっぷりに言いに出る。
「ハルバードに乗ったメンバーが全員揃ったんだし、ポップスターを発つときの頃に帰ってもう一度目的を確かめようぜ。おいらたちでカービィを助けるって!」
 ハルバードに乗ったメンバーであるクー、カイン、グーイ、メタナイトが強く頷き、デデデ大王とアドレーヌも頼もしそうな表情をしている。
 そんな彼等を見たチュチュに、笑顔が咲き始めた。勿論それは三毛猫と小鳥にも。
「……うん。絶対助けようね」
「僕たちの力で……」
「カービィさんを!!」
 周りから、敵の本拠地だということも気にせずに歓声がわく。
 英雄と冒険を共にした者たちの結束は、これまでよりもはるかに強くなっていた。
 そして、ここでもう一度新しいスタートを踏もうとこの場にいた者全員で誓った。

 ――しかし、彼等はこの後、耐えきれない絶望を味わう未来が待っているとはこの時は誰も思ってはいなかった。
page view: 1559
この小説を評価する:                   (5)