オリオンさんの小説

【たたかいの彼方に】 第29話 『仲間の強さ』


第29話『仲間の強さ』

「ほう、こやつらが敵か……」
 そう言ったナイトメアの視界には、アドレーヌとグーイの姿があった。武器庫から逃げ出したこのふたりは、仲間の叫び声を聞いて、ここまでやって来た。しかし――
「みんな、どうしたの……?」
 グーイがリック、カイン、クー、デデデ大王、メタナイトの狂う様を見て、何とも言えない怖さを感じ、思わず声を漏らす。
「これは、君たちがやったの?」
 それからグーイは、宙を浮いて佇む、ナイトメアとドロシアを見て言った。すると、一方のサングラスをかけた者が声高く笑いながら、
「……そうだ。こやつらに幻覚を見せてやったのさ」
 と言った後、ナイトメアはサングラスを輝かせた。相手は不意を打ってグーイにも幻覚をかけようとしていた。しかし、
「ぐ!?」
 突然、雷が顔に直撃し、思わず声を発すナイトメア。何事か、と辺りを見渡せば、キャンバスと緑服の少女の上にひとつ目の雲のような生き物がいるのを見た。少女アドレーヌが絵を本物にする力を使って出現させた生き物だ。
 小癪な奴め、とナイトメアはひとつ舌打ちをし、ひとつ目の生き物に星を当てようと構える。だが、
「ナイトメア! マントを広げないで!」
 ドロシアの声が聞こえたと思った瞬間、体にとてつもない痛みを覚えた。突然現れた足の短い恐竜らしき生き物が冷気を吐き、ナイトメアのマントの内部を攻撃している。
 痛みに耐えられずに、ナイトメアは瞬間移動を使って、距離を取る。しかし、そのことに気を取られてしまったせいか――
「魔法が解けてしまったか……」
 ゆっくりとリックたち5にんが立ち上がって辺りを見回す様子を見て、ナイトメアはまた舌打ちをした。かけていた幻覚が解けてしまったようだ。
 グーイとアドレーヌは、気色悪い幻覚を見せられていたせいか険しい表情をしている5にんの元へ駆け寄った。
「うぅ……景色が……戻ってる……」
「む? 何故、アドがこんな所に……」
「それよりも、早くあのふたりを倒すのが先よ!」
 半開きの目で尋ねるデデデ大王にアドレーヌが、クラッコとアイスドラゴンを従えながら、素早く答えた。
「あ……グーイ。元気になったんだね……それより、カービィはどうなったか分かる?」
 しばらくした後、気色の悪い幻覚を見ていた後にも関わらず、カインが笑顔を作ってグーイに言いかけた。その言葉を聞いて嬉しくなった彼だが、
「カービィはやっぱりダークマターに捕まっていた。今は、この悪者を倒して、一刻も早く助けだそう」
 現状を見て、冷静に簡潔に言うことにした。話したいことはたくさんあったが、今はそれどころではない、と。
 しかしその時、ナゴ、チュチュ、ピッチの3にんが、集まった7にんに向かって攻撃を仕掛けた。7にんは避けきれずに攻撃を喰らってしまい、傷を負った。
「何であたしたちを攻撃するの?」
 仲間であるはずのナゴ、チュチュ、ピッチの信じられない行動にアドレーヌが言いに出ると、
「……あんたムカツクのよ。せっかくリックたちが苦しんでいる姿を見て楽しんでいたところを邪魔してさ」
 と言いながらチュチュがどす黒い瞳で睨み付けてきた。
「仲間が苦しんでいるのを見ているのが楽しいって……あなたたち正気なの!?」
「正気に決まっているじゃないか」
 今度はナゴが、アドレーヌの疑問に答える。
「この世界は今にダークマターのものになる。どうせならその波に従って、抵抗する奴の邪魔をしようと思ったナゴ。特にリック、クー、カイン……そしてグーイは、カービィを探すなんてくだらないことに僕たちを誘った。あんな“食いしん坊の愚図”のために何故動かないといけないんだ、って今になって凄く後悔しているナゴ」
「あんなに頼もしいカービィによくそんなことが言えるね……それに、この世界が本当にそうなったら、あなたたちはゼロの奴隷。生きることさえも否定されるかもしれないよ!?」
「そんなことはありませんわ」
 ドロシアがアドレーヌとナゴたち3にんの会話に挟まった。
「ゼロ様はこう言いました。仲間というこの世の害悪なる概念を壊して、生き物は皆孤独であることを教え、ひとりひとりが強い意志を持つ世界を作るのだって。周りはみんな敵で、自身が生き残るために手段を選ばず他を蹴落とし、生き抜いた者が幸せになる。柄の貴賤も全ては自身の努力にある。実に素晴らしい世界ではありません?」
「ただ自分の幸せのためだけに生きる世界なんて何処が素晴らしいのよ? 一緒にいてくれる、喜びを分かち合う仲間がいない世界に本当の幸せがあるとは思えない!」
「……果たしてそうかな?」
 ナイトメアが奇妙な笑みを浮かべながら割り込む。
「生き物は、結局自分が一番可愛いものよ。お前だってそうだろう。親しい仲間にも、時には恨み、憎しみといったものを感じるはずだがな……」
 これを聞いたアドレーヌは何故か黙り込んでしまった。そして、それを見たナイトメアは口を開けて笑い始める。
「……ハッハッハ! 仲間同士の絆なんぞ、結局はエゴには勝てないものさ。さあ、お前もおとなしく私たちに従え。カービィは捕らわれた、ミルキーロードの星も、リップルスター等もダークマターの占領下になった。心の何処かで勝ち目は無いと思っているはずだ! あんなピンク玉1匹の為に辛い戦いを続けるのか? それなら自分の身を守るために、このナゴたちのように私たちに跪いた方が得策だとは思うがなぁ……」
 などと言いながらナイトメアが顎でナゴ、チュチュ、ピッチがいた方を指した。しかし、その時だった。
「……みんな騙されないで」
 グーイが突然何かを言い始めた。
「ダークマターはリップルスターの秘宝クリスタルを手に入れることに成功した。そして、クリスタルの構造を模倣してダーククリスタルを作ることに成功した。そして……」
「「それ以上喋るなぁ!!!」」
 とナイトメアとドロシアが突然もの凄い剣幕で一斉にグーイを攻撃するが、足も無いはずの体で上手に躱されてしまった。
「グーイ、一体どういうことなんだ?」
「ダーククリスタルには、善の心を打ち消し、悪の心を肥大化させる力がある。ナゴたちもきっとその力に取り込まれているんだ!」
 グーイは少し慌てた表情で言い切った。すると、ナイトメアが、ゼロでさえもたじろくのではと思うほどの形相をして口を開く。
「……ダークマター族の汚点の分際で、全てを知ったような言い草をしおって……御託はここまでだ! お前たちを皆殺しにしてくれる!」
 そして、ナイトメアは手をかざす。するとそこから何本もの稲妻が飛び出し、相手に向けられる。
「あたらねぇよ!」
 幻覚魔法から解けた直後の時とは全く違う覇気のある表情をしたリックが前に出て、炎を吐き、ナイトメアの雷をかき消した。
 一方ドロシアはリックの隙を突こうと、体から自身の小さな分身のような者を大量に出した。分身たちは一斉にリックに襲いかかり、他の6にんの横からは、“かつての仲間3にん”が狡猾に攻撃を仕掛けてきた。
 しかし、7にんはこれでたじろきはしなかった。
 まず、クーが“カッター”でナゴ、チュチュ、ピッチの脳天に羽を命中させ、気を失わせた。襲いかかる小さいドロシアの分身には、デデデ大王が自慢のハンマーを使い、体ごと回転させて蹴散らし、グーイがコピー技を、アドレーヌがクラッコとアイスドラゴンを使って、分身を次々に倒していく。
「お前……あやつらは仲間じゃないのか!?」
 これを見ていたナイトメアは、仲間相手に気を失わせるような攻撃を行ったクーに驚き、思わずこう言いかけるが、クーはあっさり返事をした。
「仲間だから攻撃できない、なんて甘ったれたことはしないさ。相手がその気なら俺も全力でぶつかってやる。でも、ピッチ達が正気に戻れば俺がやったこともわかってくれるって信じている。ダーククリスタルなんてものを使って、ナゴたちの悪の心を映して俺たちを動揺させようとしても無駄なんだよ」
 クーが言い終えると、今度はナイトメアが嘲るように笑い、口を開いた。
「お前はおめでたい頭をしているな。ダーククリスタルを使ったとしても、結局は彼等自身の思いには変わりないんだぞ? 心の何処かでは、カービィを探すのが面倒くさいと思っていた。この事実は不変だ!」
「そりゃ面倒くさいさ」
 この一言を聞いたリックたちが、一斉にクーに視線を向けた。
「おい! クーまでそんな言い方を……」
「誰もが面倒くさいと思っているさ。なんで捕まっちゃったんだ、とか色々なこと考えるのは当たり前だ。でも、その面倒くさいという気持ちを大きく超えて、“助けたい”っていう思いが生まれるんだ。頼れる親友だから、大切な仲間だから! ……生き物は皆自分が可愛い? そんな自己中ばっかりの世界が出来上がっても、繁栄なんて訪れるわけがないだろう!」
「……弱い奴はみんなそう言って、弱い奴同士で傷を舐め合う。本当に強く立派な者は、孤独に耐えられる者。孤独こそが生き物を強くする。お前の思想なんぞ、ゼロ様にこの宇宙の覇権を握らせることで、粉々に崩してやる!」
 そう言ったナイトメアはまたもサングラスを光らせる。
 また幻覚を見せられる、と察したクーは思わず羽を覆う。
 ――が、カインの口から電球が素早く飛び、相手のサングラスに直撃させ、ヒビをも入れた。結果、ナイトメアの幻覚攻撃は失敗に終わってしまった。
「僕たちは、カービィを助けるために君たちを倒す。“仲間の強さ”というのを教えてあげるよ!」
 カインが言い終えた後も、ファイナルスターのとある通路にて、熾烈な戦いが続いていった――

「ククク、やっているな……」
 ファイナルスターの司令室では、ゼロが七星ふたりが戦っている様子を画面で見つめていた。
 しばらくすると、そばにいたダークマインドがゼロにこんなことを問いかけた。
「ゼロ様、よくよく考えたのですが、何故ダーククリスタルなんてものをわざわざ作ろうと思われたのですか? 悪の心を利用して意志を操るダークマターの憑依能力を使えば、カービィの力を利用することなど簡単と思いますが……」
「……それでは不可能なことを、お前がよく知っているはずだがな」
 とあきれ気味に言われた後、ハッと気が付いたダークマインド。鏡の世界を征服したときにできあがった、カービィの悪の心を映してできたシャドーカービィを考えてみると、彼がいかに善の塊かということを、憑依も難しいかということを思い知らされた。
「カービィに邪悪な心は殆ど無い。だからこそ、悪を“増幅”させるものを作ろうと決めた。しかし、それだけでもまだ駄目だ。勘の良いお前なら気づいてるかもしれないが、何故今すぐにダーククリスタルの力を利用してカービィに使わないのか、という疑問があるはずだ」
 何故分かった、とダークマインドは心の中で唸る。
「……カービィには、仲間に対する憎しみを植え付けなければならない。信頼などという感情を持っていると、ダーククリスタルの力も弱くなってしまう。仲間に対する信頼を完全に失ったときにこそ、悪の心はみるみると大きくなっていくだろう。そして、そのためにはダーククリスタルも……」
 のところでしまった、と喋るのを止めたゼロ。一方ダークマインドが不審そうな目で見つめてきたが、
「……いや、何でもない」
 と軽く流し、またもとの位置に居座り、再びモニターで戦いの様子を見はじめた。
(このままナイトメアとドロシアが死ねば、こちらにも好都合。まあ、ここで負けてしまったら、相手がその程度だったで終わるがな……)
 などと考えていた時――
「ゼロ様! 悪報です!」
 ひとりの人型ダークマターが慌てた様子で指令室内に入ってきた。
「用件は何だ?」
「ポップスター征服に携わっていた第20番部隊長ミラクルマターがやられ、部隊全体も打撃を受け、撤退を余儀なくされる状況にあります!」
 これを聞いたゼロが目を丸くする。部隊長でありながら七星と横に並べる程の強さを持っていたミラクルマターが消えたことは更なる衝撃でもあった。
「……そんな馬鹿な! ポップスターの残りカス共にダークマターが負けているというのか?」
「いえ、どうやらそこらを旅している“ドロッチェ団”なるものが、我々の侵略を邪魔しているようで……」
「ドロッチェ団? ……マルク討伐に関わってた奴等か」
「とにかく、我々にとって脅威であることに変わりありません。一刻も早く奴等の失脚を謀らなければいけないと思われます」
 すると、司令室の奥でこの会話を聞いていたダークゼロが唐突に挟まった。
「ドロッチェの駆除なら、俺、行ってやるぜ! 俺、あいつに一度勝った。だから行かせてくれ!」
 そう言われて、しばらく黙っていたゼロだったが、
「……分かった。では、お前にドロッチェ団の殺戮を任せよう」
 と許可した。これを聞いたダークゼロは、お礼と了解の返事をした後、司令室を出て行った。
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