オリオンさんの小説

【たたかいの彼方に】 第28話 『闇に染まり……』


第28話『闇に染まり……』

「アドさん。私たちは、ちゃんとリップルスターに帰れますよね……?」
「もちろんよ。あたしはそのためにここに残った。ゼロはさっきまでいたあの5にんが倒してくれる。ここに来た敵も、あたしの絵の魔法があれば怖くない」
 武器庫内に残ったアドレーヌとリップルスターの妖精たちは、元気づけるため、互いにこうした会話をしていた。ファイナルスターを抜け出すため、もと居た場所へ帰るため。
「……それよりさ。あの黒い子ずっとあんな感じだけど本当にどうしちゃったの?」
 オレンジ髪の妖精が黒い子と言ったグーイも武器庫内に残っていた。しかし、彼は誰とも口をきかないので、真相は誰にも分からず、アドレーヌも妖精の質問に対して首を横に振ることしかできなかった。
 ――そんな時だった。
(……リボン?)
 壊されたドアの入り口から見える通路の先に妖精リボンがいたように見えた。しかし、距離が近づくほど、憶測は確かなものとなる。桃色の髪に赤いワンピースは、まさしく彼女の姿。
「久しぶり……!」
 やがて武器庫内に入ってきた相手に、アドレーヌが最初に声をかけた。しかし、リボンはその言葉を無視して通り抜け――
「いやぁ!」 
 突然ひとりの叫び声が聞こえた。そして振り返ったアドレーヌはまたも目を疑った。
 ――リボンが、ものすごい剣幕でリップルスター女王の胸ぐらを掴んでいた。
 とんでもない光景を見てアドレーヌは思わず後ずさり、その他の妖精たちも動揺を隠せない表情をする。暴行に出たひとは元々そういったことを滅多にしない性格なだけになおさらだった。
 そして、息苦しそうに唸る王女に向かい、リボンはゆっくりと口を開く。
「あなたは……なんでわたしばかりにクリスタルを守る命令を出したの? はっきり言って面倒くさかったし、そもそも秘宝の存在にも嫌気がさしていたの……」
 彼女の口からでた信じられない言葉に動揺を隠せない表情に変わる女王だったが、素っ気無さそうな口調で、返事をする。
「それは、正義感の強いあなたが一番任せられるからですよ」
 すると、リボンは闇のように濁っている瞳で見つめ、
「それが理由ね。でもクリスタルは無事ダークマターの物になった。もう守る物は何も無くなったのよ!」
 と言った後、不気味な笑みを浮かべながらリボンは手から黒い四角い何かを、リップルスターの妖精たち全員に向かって大量に放出した。
 そして、それに当たった妖精たちは、次第にどんよりとした目に変わり――
「そうだよね……もともとクリスタルなんてものがあったから、ダークマターにも狙われた。だからこんな辛い目にあった!」
「あんなもの。無くても私たちには関係ないよねぇ……」
「守る物が無くなると……こんなに気楽になれるんだぁ……!」
 などと言い、不気味な声で彼女等の星の秘宝をけなし、笑いあう妖精たち。そんな光景を見たアドレーヌはゾッとしていた。
「さあ、あなたも、闇に染まろうよ? 気持ちいいよ?」
 やがて、リボンがアドレーヌに視線を向け呟いた後、またも手から黒い物体を放出させた。その時――
「アド! 逃げよう!」
 そう言われた彼女の腕には、長い舌がまかれ、出口の方へ引っ張られていく。
「グーイ?」 
「理由は後で話す!」
 その言葉を聞いたアドレーヌは、グーイの言うことに従い、妖精たちがいる武器庫から逃げ出した。 

「はぁ……はぁ……ここまで来ればいいかな……」
 武器庫から大分離れたファイナルスターのある通路で一休みしていたアドレーヌとグーイ。妖精たちは何故か追いかけることもしなかったから、逃げ切ることは容易かった。
 しばらくして、彼女が息を整えてからグーイに問いかけた。
「それより、リボンの様子が何かおかしかったけど……あれは一体……」
「ダーククリスタルの力だよ」
 グーイがいつにない深刻そうな表情で答えた。
「さっきリボンが言っていた通り、クリスタルはダークマターのものになった。そして、ダークマターはクリスタルの構造をまねて、善の心を打ち消し、悪の心を肥大化させるダーククリスタルを作りあげたんだ」
 驚く彼女を見ながら、彼は一息吐いて続ける。
「まず、ダーククリスタルの恐ろしいところは、覚えている技、自分が持っている力が条件無しに思うままに使えるようになること」
 リボンが妖精たちに使った能力は、かつてカービィがゼロツーと戦う際に使った"クリスタルの力"を弾として発射する能力であった。リボンは、そんな彼の飛行を助けていただけであったにも関わらず、何故かカービィが使用した能力を思うままに使っていた。一緒に戦ったことが経験として蓄積でもされていたのか。
 加えて彼女は、"ダーククリスタルの力"でその能力を使ってしまったため、他の妖精たちにも、その力を与えてしまった。結果、妖精リボンは"生きたダーククリスタル"に変貌を遂げていったのだった。
「……そして力が手に入る代わりに、思いやりや愛といった心が消えて、仲間との絆をも平気で踏みにじれるようになる。僕は、ミスティックマターになってリックたちを傷つけた。あの時は本気で殺そうとしていた。今でもこのことをはっきりと覚えている。だからそれをやったことが今でもずっと怖いんだ……」
 故にグーイは最初は誰とも口をきくことができなかったんだ、と聴いていた彼女は納得する。
「でも、今思えば後悔してるよ。何であの時、勇気を出してリックたちにダーククリスタルのことを言えなかったのかなって。他にも話したいことはたくさんあったのに。でも、このまま逃げるのも嫌だった。君がリボンに襲われそうになったときは、皮肉にも勇気を出す良い機会になったよ……」
 そう言われた彼女は返す言葉がなかったのか軽い頷きで返した後、何かに気が付いたかのように彼に尋ねた。
「待って。……クリスタルを使って、ダーククリスタルが作られたって言ってたけど、本物のクリスタルはどうなったの?」
 言った人にとっては何気ない質問のつもりのはずが、彼は突然目に涙を浮かべはじめた。
 これを見た彼女は薄々感じていた。クリスタルはかつてリップルスターが襲われた時みたくバラバラになってしまったんだ、と。
 そしてその予想は嫌なまでに当たっていた。
「……本物のクリスタルは、"何千個"にもバラバラにされ、宇宙に放り捨てられたんだ……」
 聞いた彼女は驚いた。かつてリップルスターを救う冒険に出たときでさえ、数十個程度に分けられた程度であり、しかもそのクリスタルを集めるのにすら、膨大な時間がかかった。
「それを何千個って……集めれるわけがないじゃない!」
「そう。だからクリスタルはおそらくもう元に戻らない。ダーククリスタルの脅威がこれから宇宙に広がっていくんだ……」
 言い終えた後、色々な思いに圧されるように俯くグーイとそんな姿を見るアドレーヌに、長い沈黙が
 ――訪れはしなかった。 
 突然、遠くの方から音が響いた。何やら叫び声も聞こえてくる。
「この声は……」
 グーイが叫び声を聞いてハッと気が付く。彼に限らず、アドレーヌにとっても遠い彼方から聞こえる叫びは聞き慣れた物であった。

「おやおや、この程度かね?」
 呆れた表情をするナイトメアの先には、ボロボロとなっているリック、カイン、クー、デデデ大王、メタナイトがいる。戦いはナイトメアとドロシアの圧倒的有利であった。
「それに、仲間に攻撃されるのはやっぱり心に響くかしらね」
 そして、ドロシアが笑う先には、殺意のこもった目でリック等を見つめる、ナゴ、チュチュ、ピッチの3にん。結果的にリックたち5にんは、ナイトメアとドロシアだけでなく、ナゴたち3にんとも相手をしなければいけなかった。
 ナゴ、チュチュ、ピッチはリック、カイン、クー、グーイの4にんに突然消えたカービィを探す誘いを受けた時、心の何処かで面倒くさい、と思っていた。しかし、大切な友達であり頼れる存在であった、カービィへの"心配"の方が大きくなり、やがてその感情も薄れていった。
 しかし、ダーククリスタルの力を受けてしまったナゴ達3にんの心には、そういった感情も全く消えゆき、残った悪の感情が肥大化し、やがて自分たちを面倒くさい目に遭わせたリックたちに復讐しようと考えるようになってしまった。
「まだ諦めないぞ!」
 しかし、5にんはそんな状況をものともせずに、果敢に攻撃を繰り出す。しかし――
「無駄よ」
 ドロシアが額縁にトゲを描き、床から出るトゲで攻撃をする、これを喰らった5にんが無防備になっている所を、ナイトメアが骨秀でた手から出る星を当て、倒れているところをナゴたち3にんが、"リック、カイン、クー"を重点に攻撃を仕掛ける。理由は違えど、七星ふたりと、かつての仲間3にんの連携攻撃には、全くの隙がなかった。 
「くそ、強すぎる……」
 地に伏したメタナイトが思わず言葉を漏らした。他の4にんも疲れ果てているのか、ただ息を切らすばかり。
 やがて、この光景を見ていたナイトメアがこんなことを言い出した。
「……さて、私の"大技"であなたたちを苦しめながらとどめを刺してあげましょう」
 そして、ナイトメアのサングラスが光り出す。
「やめ……!」
 声を上げる暇もなく、5にんはナイトメアの光に包まれていく。すると――

(なんだ……ここは?)
 周りが突然不気味な景色に変わった。床には骸骨がそこら中に転がり、壁は血によるものなのか、真っ赤に染まっている。
 しばらくすると、床から不気味な動物がうじゃうじゃと出て、上空からは見たこともない虫が彼等の視界を覆った。
「く、来るなあ!」
 彼等はそれを必死に払うも、生き物はどんどんと5にんを取り囲んでいき、やがて5にんの体に噛み付きはじめた。
「痛いい!!」 
 噛み付かれた5にんは、体がえぐられるような激痛に襲われ、その場に倒れ込み、必死に暴れ回った―― 

「えげつないよねぇ……」
 一方ドロシアは、"何もない床"で、のたうちまわる5にんを見て、クスッと笑う。5にんが見ている骸骨や虫といったものは、ナイトメアの魔法によるものだった。
「寝ている者に悪夢を見せる力を極めた結果、起きている者にも幻覚を見せられるようになった。生き物にとって目から入る情報はとても重要。それを上手く利用すれば、どんな強者も太刀打ちできなくなるもの。このまま幻覚を見せ続け、動く気力も無くなった所を殺してやる」
 そう言ってナイトメアは、5にんの苦しむ姿を愉快そうに観続けた。その時――
「……どうした、ドロシア?」
 急に殺気づいたドロシアが気になったナイトメアは尋ねてみた。すると――
「近くに……敵がいる!」
 そう言ってドロシアは辺りを見回すが、ナイトメアは落ち着いた口調でこう言った。
「敵か……だが、幹部がふたりもいれば、大抵の敵は怖じ気づくだろう。この場で待っていればいい」
「そうはいかないわ!」
 ドロシアが強く出た。
「わたくしたちはゼロ様に選ばれた幹部! ひとりでも十分敵はやっつけられるわ。それに脱獄者は全員殺せと命じられているのだから、見つかればすぐにそこへ行くのが普通でしょう……」
「駄目だ」
 ナイトメアが苛立ちを秘めた口調で言う。
「私が来るまでにやられそうになっておいて、よくそんなことが言えるではないか、ドロシア。ゼロ様に油断はするな、と言われているだろう。相手側の各個撃破で、私たちがやられてしまえば、ダークマター軍は壊滅的損害を受けるのだぞ?」
 言い返せなくなったドロシアは、相手に分からないように軽く舌打ちをして、
「いいでしょう。ここは、あなたの言うとおりにしてあげますわ」
 と言っておいた。これを見て、してやったりの表情をしたナイトメアにドロシアは苛立ちも覚えたが。
 それから、しばらくした後のことだった。
「ほう、こやつらが敵か……」
 そう言うナイトメアが見つめる先には、向かってくる黒いおにぎりのような物体をした者と赤いベレー帽と緑の服の少女がいた。
page view: 2063
この小説を評価する:                   (0)