オリオンさんの小説

【たたかいの彼方に】 第27話 『悪の心』


第27話『悪の心』

「さあ、余のしもべ達よ! あの忌々しいピンク玉に全ての恨みをぶつけてくるのだ!」
 ゼロは、善の心を打ち消し悪の心を露わにするダーククリスタルの力を、牢屋に捕まった、ナゴ、チュチュ、ピッチ、リボンの4にんに使った後、こう告げた。
 曰くあの忌々しいピンク玉は今、ダークマターが作った星……というより構造は要塞に近いファイナルスターの深奥にある真っ暗な牢屋に閉じこめられている。
(これでカービィは完全に仲間に対する信頼を無くすだろう。そして残り4つの駒が死に、ダーククリスタルが真の力を手に入れた暁には、"新たな闇の力"が完成する!)
 と表情には表さないが、ゼロは心を躍らせていた。残り4つの駒というのは、ナイトメア、ドロシア、ダークマインド、ダークゼロのことであり、味方であろうと、利用できるまで利用し、最終的には殺し、殺すことで生まれる七星達の"闇と憎悪の力"をダーククリスタルに取り込み、更なる力を得ようと考えていたのだ。
 やがて、ゼロは4にんをカービィが閉じこめられている牢屋へ連れて行きだした。しかし――
「おっおい、待て!」
 4にんが突然動きを変え、カービィが閉じこめられている所とは全く別の通路を急速に走っていく。追いかけようにも追いつけず、結局ゼロは、せっかく捕まえたひとたちを野放しにしてしまった。
(何故だ?)
 いなくなってしばらくして、原因が分からないまま、ゼロは司令室に入り、もとの位置に居座る。すると、その様子を見ていたダークマインドがおそれながらも言い出した。
「お言葉ですが、ダーククリスタルは、確かに生き物に少なからずある悪の心を浮き彫りにするものです。……しかし、闇の力を受けた者を、ゼロ様の手下に出来るたぐいのものではないのです」
 ダーククリスタルは、本物のクリスタルの構造を模倣して、そこに闇や負の感情などを閉じこめた物――クリスタルの反対となる物を作っていただけで、生き物を従わすのはまた別問題であり、ダークマターが持っているような憑依能力も秘められてはいなかった。
 闇水晶の実験の最初の被験者だったグーイは、同じ種族という偶然があったからこそ、ゼロに忠実に働いていただけなのだ。
 とは言っても、ダーククリスタルには、本物のクリスタルには無い恐ろしい力がただひとつあった。それは、生き物が持っている力を最大限に引き出し、覚えている技能を全て思うままに操れる能力が付与されるものであった。ゼロは最終的にそれを様々なコピー技を使えるカービィに使おうとしている。
 そして、最初は、自分の不注意だったと悪の親玉らしからぬ弱気な表情を見せていたゼロだったが、しばらくすると、何かを思いついたのか、悪い笑みを浮かべ始めた。
「いや、寧ろこのままの方が余にも"KD計画"にも良いことに気が付いた。しばらくあの4にんを野放しにしておこう……」
「待って下さい!」
 ダークマインドがすぐさま言いに出る。
「脱獄者は、ダーククリスタルの力を弱める"虹の剣"を持っています。もしあの4にんが脱獄者共に出くわしたなんて言ったら、……最悪の事態になるのでは!?」
「大丈夫だ。もしあの4にんが正気を取り戻したとしても……」
 肝心のその後を言わないまま、ゼロは不気味に笑いだした。何を考えているのか分からなかったダークマインドとダークゼロも、取りあえずはゼロの言うことに従おうと決めた。
 
 リック、クー、カイン、メタナイト、デデデ大王は、ギャラクティックナイトが残した地図を頼りに、ゼロのいる司令室へと向かっていた。
 生き物の細胞のような模様をしているファイナルスター独特の床に、赤がかかった不気味な壁を5にんは突き進んでいく、すると――
「おい! 前に何かいるぞ!」
 先頭を切っていたメタナイトが何者かの存在に気が付く。
「カイン、スパークだ!」
 クーの言葉を聞き、咄嗟にコピー能力"スパーク"を使い、ファイナルスター内の通路を照らした。リック、カイン、クーは武器庫で手にした"コピーのもと"のおかげで、カービィやグーイがいなくてもコピー技が使えるようになった。といってもひとつだけだが。
 そして、明るくなった通路の先には、先のひしゃげた帽子を被った魔法使いの格好をした者がいた。
「お前は誰だ!?」
「わたくしはダークマター軍の幹部を務めるドロシア。どうぞよろしく御願いします」
 と、まるで客を相手にするかのように、ひとつお辞儀をした。
 そして、深く被っている帽子の隙間から見える白い目を光らせながら、急に声のトーンを低くして、
「……さて、わたくしがあなた達にすることは……分かるわね!?」
 言い終えた瞬間、どこからか筆と額縁を出し、そこに爆弾を高速で描いていく。すると、絵から10個もの爆弾が一気に飛び出し、5にんに向けて放たれた。ドロシアはアドレーヌやペイントローラー以上に実体化能力を上手く使えた。
 しかし、その爆弾はクーの"カッター"によって当たる前に全部爆発させられる。
(自分の羽をあんな風に使うなんて!)
 ドロシアはひとつ舌打ちをし、爆発による煙を利用し、5にんの後ろに回り込み、体から、圧縮された球状のエネルギーを放出させた。
 すると、今度はメタナイトがまるで攻撃を読んでいたかのように振り返り、手に持っていた虹の剣で――ドロシアの攻撃を跳ね返す。
 跳ね返された球に直撃してしまい、態勢を崩したドロシアに、リック、カインがさらに攻撃を加えていき、最後にデデデ大王がハンマーで渾身の一撃を与えた。
「……どうだ?」
 怒濤の攻撃を喰らわされ、悶え苦しむドロシア。この調子で行けば、この戦いはすぐに終わりそうだと5にんは思っていた。だが――
「この程度でやられるなら幹部じゃないか……」
 とカインがため息混じりに呟く。先程攻撃を散々喰らわされていたはずのドロシアは悶え苦しむ――振りをしていただけで、やがてホホホ、と笑いはじめた。
「……成る程。少しはやるみたいね。でも、幹部を……七星を見くびっては困るよ?」
 ドロシアは声高く笑いながら、また魔法で額縁を出現させた。しかし、ドロシアは絵を描こうとしない。
「今のうちに攻撃しろ!」
 メタナイトの言葉に続き、5にんはこの隙を見逃さず、一斉にドロシアに向かって攻撃を仕掛けようとした。
 ――その時!
 額縁が突然、光を発し、体が思うように動かなくなり、だんだんと額縁の中に向かって――
「吸い込まれている!?」
「その通り。わたくしは絵を実体化させるだけではなく、実体を絵にすることもできるのよ!」
 ドロシアはこの魔法を使うことで、クリスタルを奪い、ダーククリスタルを作り出す案に、大いに貢献した。
 予想外の出来事に、あわてふためくが、5にんの体はもうキャンバスと接触間近であり、もはやそれどころではない。
 折角牢屋から脱出したのに、あっけなく終わってしまうのか、折角ゼロを倒そうと意気投合し居場所も掴んでいたのに、と5にんは大きな後悔を胸に、額縁に閉じこめられて――

 ――は、いかなかった。

 突然5にんは体の自由を取り戻し、床に落ちる。一体何が起こったか、と辺りを見渡せば、壊された額縁と、その下にいた"懐かしい"面々が彼等の目に入った。
(ナゴ、チュチュ、ピッチ?)
 何故バリアが貼られているファイナルスターに侵入できたのか、と疑問に思うひともいたが、それよりも再会を喜ぶ気持ちの方が大きかった。
「みんな、久しぶりだな! また会えて本当に良かったよ」
 リックが3にんに声をかける。しかし、3にんは――
「良くないわ。元々、あんた達がカービィを探す競争に誘わなければ……なければこんな面倒くさいことにはならなかったのに」
「カービィなんて……別にいなくても僕達には関係ないナゴ」
「君たちだけでやっていれば良かったのに……」
 リック達5にんにとって信じられないことを言い放った。最初は何を言っているか分からなかったが、カービィがいなくなった時のことを思い起こせば、主旨が見えてきた。
(確かに、おいらたちはチュチュたちを無理やりカービィを見つける競争に誘った。……でも!)
 何故そんな言い方ができるのだろうか。友が危険な状況に遭っているのに、何故関係ないなんて言えるのか。
 秘めたる悪の心を引き出すダーククリスタルの存在を知らないのもあって、疑問と溢れる怒りにまかせ、リックがついに口を開いた。
「なあ、なんでそんなことが言えるんだよ? お前達はカービィが心配じゃないのかよ!」
「ないわ」
 短いのに、とても辛辣だったその一言。これを聞いたリックは今にも殴りかかりそうな表情だった。その時――
「あなたたち……仲間割れしちゃってるの?」
 とドロシアがあやすように言いながら、いつの間にか修復されていた額縁にトゲの絵を描いて、床から出るそれで攻撃を仕掛けた。
 不意を突かれながらも、5にんは何とかかわしきる。しかし、その隙を――
「ピッチ! 何をするんだ!?」
 クーが呼んだ緑の小鳥は突然刃のような形になって高速で5にんを斬りつけ始めた。そしてナゴが手を擦り合わせ電撃を、チュチュが無数のトゲを出して攻撃にかかる。
「こいつら……!!」
 カービィやグーイと合体せずにコピー技が使え、しかもナゴはカインと、ピッチはクーと同じコピー技を使えることから、コピーのもとデラックスで得た力ではないということが分かる。
 先ほどの言動も踏まえ、ナゴ、チュチュ、ピッチの雰囲気は明らかに異常であった。
 しかし、3にんとも、言葉遣いは普段と殆ど同じで、かつてリックがダーク・リムルに憑依された時のような不審な動きもなく、ダークマターによる憑依能力とは考えられなかった。
 そんな原因不明の事態の中、カインだけはミスティックマター……もといグーイと戦った時のことを糧に、ある考えを見いだしていた。
 虹の剣を使うことである。
「……メタナイト。虹の剣を使って。そうすれば、グーイの時みたいに、ナゴたちも元に戻るかもしれない」
 様子がおかしいのは、何か別の力が体に取り込まれているのが原因だと考えたカイン。
 そして、メタナイトは持っていた虹の剣を抜き、3にんに向かって構えた。力を発揮させれば、3にんを親しい仲間へ戻せると信じて。
 ――しかし、その希望は見事に崩されることとなる。
「虹の剣が!!」
 持っていた七色の剣が突然強力な力により引っ張られ、思わずメタナイトも手放してしまう。
 そしてその剣はドロシアの額縁の中へ高速で向かっていき――虹の剣が堂々と描かれている"絵"が出来上がった。
「これが虹の剣ね。喜んで頂戴いたしますわ」
 ドロシアは"絵"を光にして体に戻す。これでは奪い返すこともできない。
 よくも虹の剣を、と攻撃の対象をドロシアに変える。するとその背後から、ナゴ、チュチュ、ピッチの攻撃を喰らってしまう、まさに、挟撃状態であった。
 このままでは負けてしまう。そんな危険な状況に冒された中――
(ここは、あの技を使うしかないか……!)
 遂にメタナイトが本気の動きを見せた。
「まずは私を倒してみろ!!」
 真ん中に立って、ドロシアとナゴたち3にんを挑発すると、狂ったかのように一斉にメタナイトへ攻撃にかかる。
 その瞬間を見逃さず、メタナイトは虹の剣と別に持っていた……武器庫で見つけることができた宝剣ギャラクシアを構え、体を高速で回転させた。
 するとどうだ。彼の体から竜巻が起こり、襲いかかった者達は皆、見事に直撃して、多大なダメージを受けて地に伏した。
「メタナイトに続け!」
 体力の消耗から跪くメタナイトを通り抜け、残りのリックが火を吹き、クーが羽を高速で飛ばし、カインが見た目からは想像できない殺傷力を持つ電球を吐きだして、ドロシアへ怒濤の攻撃をお見舞いする。
「とどめだ!」
 そしてデデデ大王が、ハンマーに炎を纏わせ、ドロシアの頭を目がけて振りかかる。
 ――その時だった。
 無数の星がデデデ大王に向かって飛び、彼は避けることができずに直撃し、結局攻撃は失敗に終わってしまった。
「ふむ。こんな奴等にやられそうになるとは、七星の面汚しですよ、ドロシア」
 と、今までいたひと達の中の誰でもない、落ち着いた且つ低めの声が聞こえてくる。
「その声は……ナイトメア!」
 聞こえた瞬間、昔起きた夢の泉事件で既に見知ったデデデ大王がすぐさまその名前を呼んだ。すると漆黒の緞帳から、ドロシアよりも一回り大きく、体の9割をマントに包み、サングラスをかけた者――ナイトメアと呼ばれた者が現れた。

 一方、ナゴ、チュチュ、ピッチ……と共にいたはずのリボンはナゴたち3にんとは全く別の行動を取っていた。そして彼女は、アドレーヌ、グーイ、そして、リップルスターに住んでいた妖精達がいる武器庫へと向かっていった――
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