オリオンさんの小説

【イベント小説】夢のデート(第2回エピソードパズル)


 レインボーリゾートにある夢の泉は、ポップスターのほとんどのひとが知っているであろう有名地であった。
 そしてその場所は、生き物の夢や希望が集まる縁起の良い場所であったので、よく"ふたりきりの思い出の場所"、いわゆるデートスポットにされて、沢山のカップルがよくここへ訪れた。今までも、そしてこれからも。

「ふぅー。今日も夜風が気持ちいいな」
 夢の泉より少し離れた樹に留まって佇んでいるのはカービィの仲間であるクー。夜の涼しい風に当たっていた所であった。日も沈んで大分経ち、輝く星が空を彩っている。
「やっぱり夜は良いな。静かで、星が輝く夜空は綺麗だ。それに、この涼しい風がたまらない」
 なんてことを言いながら、クーは夜を満喫している。その時――
(ん? カインがいるぞ……)
 夢の泉の所にカインがいるのをクーは見つけた。夜行性のクーと違ってカインは夜を寝て過ごし、夜に外出など滅多にしない。
(それなのに……あいつは何やってるんだ?)
 そんな疑問を抱きながら、木の陰から見えるカインをこっそり観察することにする。するとだった。
 クーはとんでもない光景を見てしまった。そしてそれは、クーにとって意外なダメージでもあった。
(カ、カインのやつ! ガールフレンドがいたのかよ!)
 カインの横には、ピンク色のマンボウがいる。見た感じ、ふたりはデートをしているようだ。
「やっぱり夢の泉は、綺麗ね……」
「でも、"マイン"の方がもっともっと綺麗だよ」
 そんな会話が聞こえてくる。クーは唖然としてしまった。あのボーとしているカインにも付き合っている女の子がいたのか、と。
 しかし、カインとマインの関係は付き合っているというレベルでは無かった。
「じゃあ、これからも幸せな"夫婦生活"が続くことをこの夢の泉に御願いしようかな……」
「ずっと幸せでいましょうね、カイン」
 "夫婦生活"……カインの、その言葉にクーは頭に大岩が落ちるほどの大きな衝撃を受けた。
(……カインの野郎! 結婚してたのかよっ!!!)
 今日この日までクーはそれを知らなかった。声にして叫びそうになるのを抑え、クーは、ふたりの幸せそうな光景を見つめた。見つめると、何故か寂しい気持ちになった。

「はあ、何か嫌なものを見てしまったなぁ……」
 カイン達がいなくなり、また静かな夜に戻った後、クーは、何故かこみ上げる寂しさにため息をついた。
 しかし、クーの悪夢はここでは終わらない。
(あれは……リック!)
 クーが留まっている所から見える夢の泉に、今度はリックが歩いてくるのを見つけた。そして横には……
(げげ! あいつも彼女いるんかいな!)
 やはり、リボンを着けたリックのガールフレンドと思われる女の子がいた。
「ここが夢の泉。静かな場所で良いね……」
「だろ"ピック"? ふたりきりに丁度良い場所だと思ったんだ」
 いつもはお調子者のくせに、誰だお前は、と突っ込みたくなるくらい格好いいオーラを出しているリックとそんな彼に寄り添うピック。そんなアツアツな光景を見つめると、今度はクーは何故か悔しい気持ちになった。
 
 そしてリック達がいなくなるのとすれ違うかのように、今度はナゴと――
(くそ! やはり彼女がいた……)
 白い猫と一緒に歩いてきた所を見て、クーはまたも落胆した。どうして自分の周りはそんな充実した関係を築けているのか、と疑問すら抱きはじめる。
「やっぱり夢の泉はいつ来ても素晴らしいわね……」
「本当。何回来ても飽きないナゴ」
 そして、またお決まりの会話が聞こえてくる。見ているクーも、3回もそのような光景を見ていると、流石に飽き、寧ろ苛立ちすらこみ上げた。

 ナゴ達がその場所を過ぎた後、やがてクーは、悔しい気持ちが大きくなっていくのが分かった。リックやナゴは噂では聞いていたが、カインが独り身ではなかったことには本当に驚いた。というよりクーが知らなかっただけであるが。
 もしかしたら仲間達の男でガールフレンドがいないのは自分だけではないのか。今までそんなことは全然意識しておらず、一匹狼を貫いてきたクーであったが、今日夢の泉で見た光景を見てからだと、そんなスタンスもボロボロに崩れ去れ、強い不安がよぎる。
(……でも待った。ピッチはまだ母親と暮らすほど小さいし、カービィみたいな鈍感に彼女がいるとは思えない。そうだ。俺だけじゃないはずだ!)
 などと考え、自分自身をホッとさせるクーであった。確かにピッチはゼロを倒しに行った仲間達の中でも一番幼く、カービィも性格は良い意味で幼く純粋で、恋愛などには全く興味無さそうに見える。 

 しかし、そんな考えは見事に覆されてしまうことになる。

 しばらくすると、噂のカービィが夢の泉へ歩いてくるのを見つけてしまい、クーは息を飲んだ。
(カービィ! お前はそんな奴じゃ無いはずだ! 英雄として夢の泉に調査に来たんだろ? そうなんだろ!?)
 クーは変な期待をしながらカービィを観察する。しかし、まさかカービィも相手とデートしに来たのでは、という嫌な予想が浮かび上がる。そしてその予想は――
(なっ……何故だあああああ!!)
 見事に当たった。しかし、くじが当たったとか羽カッターが当たったとかそんな爽快感があるものではない。そして確かに見た。桃色の髪の妖精リボンと一緒に夢の泉へやって来るのを。あの恋愛に疎そうなカービィですらガールフレンドがいたことに、クーは絶大なショックを受けた。
「どう? ここの夢の泉は、僕の大好きな場所だけど……」
「わたしも気に入りました。とても綺麗です!」
 そんな楽しそうな会話を、クーは独りで聞く。
(……でもカービィ達。カイン達のような仲って感じがしないな……)
 なんか普通の友達みたい。聞いていてクーはそう思った。もしかしたらお互いそこまで意識していないのかもしれない。
「じゃあ、わたしはリップルスターに帰りますね」
「うん、ばいばいリボンちゃん」
 といって別れを告げようとした時だった。リボンが急に立ち止まり、カービィに背を向け、何故か顔を赤らめる。
 なんか先程と雰囲気が全然違うことが気になり、こっそり見ているクーも、より注意深く聞くことにした。
「あの……今日は誘ってくれて……ありがと」
 緊張しているのか、妙に声を震わせながら言う。
「ううん。そんなお礼言われるほどじゃないよ。とにかく、この場所が気に入ってくれたならそれでいいからさ」
 カービィが言い返すと、リボンは急に振り返ってカービィのとこへ寄り、少し俯き気味に言った。
「あの、今日……すっごく嬉しかったです。わたし、いつかしてみたいと思ってたんです……ふたりだけで……こうして時間を過ごすのを……」
 そう言われてカービィも顔を赤らめ、しどろもどろになってしまう。
「え!? そそそれは……どういう、こと?」
「だから! ……もうちょっとここにいていいかなって思って……」
 そう言われて、しばらく黙り込んでしまったカービィだったが、やがて息を整えて言った。
「……いいよ。じゃあ僕ももう少しここにいるよ。実は僕も思ってたんだ……こんな時間がずっと続けばいいなぁって……」
 その言葉を聞いて、リボンは溢れる笑顔でカービィのもとへ寄り添った――

(おいおい。何だよあのふたり!)
 その一連を見たクーは悟った。あのふたりは、お互い特別な感情を抱いている、と。
 そしてクーの悔しさは最高潮に達しついに発狂――まではいかなかったが、暴れ狂いたい気持ちになった。いっそ滅茶苦茶にしてやろうかとも考えたが、そこまで空気が読めないフクロウではなかった。

「あっクーさん、こんばんは」
 しばらくして、クーを呼ぶ声がした。そして、その方へ振り返れば――
「おや、ピッチじゃないか。何しに来たん……」
 最後まで言おうとした時、クーは目を疑った。ピッチの後ろにはオレンジ色の小鳥がいる。
「散歩してたんですよ。"ふたりきり"でね。さっ、いこ」
 そう言いながらオレンジ色の小鳥を連れ、夢の泉への方向ではなかったが、何処かへと飛んでいく。
 まさかピッチまで! 衝撃が大きすぎてクーは目の前が真っ暗になっていった――

 ハッと目が覚めると、辺りは薄明るく、日が顔を出そうとしている。夢の泉からはカップルの会話など無く、流れる水の音が聞こえてくるばかり。そこで、クーは今までのことは全て夢だったと悟った。
(夢の泉の傍で悪夢を見るとはな……)
 眠る住民に良い夢を見せる夢の泉のおかげで、この星に住むひとが悪夢を見ることは天文学的な確率となっている。しかしそれに当たってしまったクーは、そんな自分の不幸を嘆いた。
(でも、夢に出ていたカップル共は、本当に夢だけのカップルなのか?)
 夢から覚めたのはいいものの、彼の心にはひとつの疑問が残った。クーとしては是非とも夢だけであって欲しいと思っていたが、いざ考えるとそれが気になってしょうがなかった。

 しばらくして、赤いベレー帽が特徴のアドレーヌがやってくるのが見えた。まさか彼女も、と不安になるクーだったが、それは杞憂だった。 
(なんだ。絵を描きに来ただけか……)
 画材道具を広げ、キャンバスに筆を走らせる。その光景を見て、ホッとする。と同時にそんな自分を残念な奴と嘲る。
 そして、先ほどの疑問を彼女にちょっと聞いてみよう、と思ってクーは飛び立ち、彼女の元へ向かった。
「あ、おはよう。クーも早起きだね」
「アド。ちょっと聞きたいことがあるんだが……カインとかリックとかに、奥さんや付き合ってる女の子がいるっていうのを知っているか?」
 と夢をまるで聞いた噂かのように尋ねた後、クーは息を飲んだ。真相は、彼女の答えで分かる。最も知ってればの話だが。
 そして、クーの願望は見事に砕け散った。
「……そういえば、カインにはマインっていう奥さんが、リックにはピック。あと、ナゴにはシロっていうガールフレンドがいたね」
「じゃあ、カービィとリボンは? ピッチにもガールフレンドがいると聞いたが……」
「ピッチにはいないけど、カービィとリボンは最近夢の泉にデートしに行ったわね……どうしたの?」
 落胆するクーにアドレーヌが尋ねた。
「俺は夢を見たんだ。夢の泉でそのカップルがデートする所を、俺は独りで悲しくこっそり見る夢を。それを見てから、なんか自分が情けなくなってな。なんで俺の周りの殆どは、そんな良い関係を築けているのかなって……」
「そういえばクーにはガールフレンドいなかったっけ? でも意外だよね。あの中ではクーが一番モテそうな感じがするのに。クールでかっこいいし」
 あの中というのは、カービィ、グーイ、リック、カイン、クー、ナゴ、チュチュ、ピッチの8にんを指している。
 何でだろう、と言わんばかりに黙り込むクーに対し、アドレーヌが続けた。
「でも、クーにもそんな感情があったんだね。一匹狼ってオーラ出してて独りが好きって印象があったから、あたしはちょっとびっくりしちゃった。……それより、夢の泉って良い所だと思わない? すごく落ち着く場所だし、デートスポットになるもの頷ける。それに……」
 ひと呼吸おいてから、彼女は言った。
「……クーもいつか出会えるよ。一緒にここへ来ることのできる相手と」
 そう言われてクーは表情を緩める。
「ありがとう。なんか気が楽になったよ」
 そして、その会話を最後にクーはアドレーヌと別れを告げ、夢の泉を飛び立った。
 
 飛んでいる時、クーはアドレーヌに最後に言われた言葉を思い出していた。
(そうだ……別に他がどうであろうと焦る必要なんて無い。ましてや妬むなんてもってのほかだ)
 自分は自分なんだ。クーは、ようやく落ち着きを取り戻し、大空を駆けていった。丁度その時、レインボーリゾート一辺に日の光が差し込んだ―― 
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