オリオンさんの小説

【たたかいの彼方に】 第17話 『新たな闇の力』


第17話『新たな闇の力』

 ファイナルスターの深奥部には1つの牢屋がある。関係者以外の立ち入りも禁止されており、警備も厳重だった。そして、その牢屋の中は、真っ暗で何も見えなく、入った者は暗闇の中に閉じこめられるような感覚を覚える程のそれであった。
 そんな不気味な場所に、ダークマターによって、捕らわれたカービィは入れられていた――
 深奥部の牢屋の中で、カービィは目を閉じて眠っていた。しかし、顔は気持ちよさそうではない。何かにうなされているように見えた。涙を流し、見てる方も辛くなるほどの表情をして――夢を見ていたのである。

 リック……何で僕を殴るの? 友達だよね?
 クーも、カインも、ナゴも、チュチュも、ピッチも、何でよってたかって僕を痛めつけるの?
 グーイ……僕じゃなくてダークマターを選ぶの? なんでそんな姿になったの? その剣をしまってよ…… 
 デデデ大王……メタナイト……アドちゃん……リボンちゃん……みんな、何でそんな恐い顔をするの?
 僕のせいで、悪者に狙われた? 僕さえいなかったらポップスターは平和? リップルスターにも影響は無かった? みんなも辛い思いをしなかった? 
 だから殴る? 虐める? そして……殺そうとするの? おかしい……絶対おかしい!!
 お願い……こんなの嘘だよね? 僕達は――

「あああああ!!!」
 突然目を開け、カービィは飛び上がった。体中、嫌な汗で濡れている。そして今までのことは全て夢だったと察す。それにも少し時間がかかったが。
「……なんて嫌な夢なんだろう……みんなが僕を虐める夢……しかも殴られたとき、すごく痛かった……」
 普段見る夢とは比べものにならないほど現実味があり、夢から覚めてもホッとすることはなく、また新たな恐怖が心底から沸いてくるのが分かった。
(本当に……リック達がそんなこと思ってたらどうしよう……)
 カービィには思い当たる節があった。カービィの姿に化けたマルクが、仲間達に向かって悪口雑言を言ったことだ。もしそれを、相手側が本当にカービィが言ったこととして根に持っていたら、と考えると、見た夢の通り、仲間達は自分に対して嫌悪という感情を持っているのではないかと思ってしまう。
 そう思ってしまうと、そこからさらに悪いことを考えてしまう。自分は必要とされてないんじゃないのか、助ける価値もないひとじゃないのか。
(こんなの……もう、嫌だよ……)
 カービィは、四方八方真っ暗で何も見えない恐怖と、夢からの大きな不安から、とうとう体をうずくませた。
『居心地はどうだ? カービィ……』
 しばらくすると、カービィの脳裏に声が入った。その声は、ダークマターの復活の元凶と思われる者の声。カービィにとっては、ある種聞き慣れてしまった声だった。
「良いわけがないでしょ……早くここから出して!」
 カービィが震えた声で言うと、声の主は笑って言った。
『ククク……それは無理だ。それより、お前にいいことを聞かせてやろう……クリスタルは、ダークマターの物となった。そして、お前の仲間達も全員捕まえた。これでもう、ダークマターの邪魔をする者は皆身動きが取れなくなった。時は来た。クリスタルを利用し、余は"新たな闇の力"を創造する。そのために必要なのが……お前だ、カービィ!』
(新たな闇の力?)
 そう言われたカービィは頭上に疑問符をあげる。声の主……ゼロは一体何が言いたいのか、カービィには全く理解できなかった。
『恐れることはない。この計画によって、お前は苦しみから開放される。本来の、ありのままの自分を取り戻せるのだぞ』
「ありのままの自分?」
 すると、ゼロはこんなことを言った。
『最近、お前は仲間達に対して恐怖を抱いているだろう』
 カービィはハッとする。
『自分さえ捕まらなければ、他の仲間達にも迷惑がかからずに済んだ。そんな自責の念に追いやられているだろう。 そして、マルクがカービィに化けてお前の仲間達に言ったあの言葉は、見事に効いているぞ!』
 この時、カービィは、体中が恐怖で動かないような感覚に陥った。ゼロに言われたことから、今日見た夢の事がまた思い浮かぶ。
「やっぱり……リック達、僕のこと嫌いになっちゃったのかな?」
 震える声でカービィは聞いた。すると―― 
『無論。お前の仲間達は、お前に対する信頼を失った。リックとやらが、もうあんな奴信用できない、なんて言ってたかな……グハハハ! 残念だったな、カービィ!!』
 信じたくない事が本当になってしまった、とカービィはやがて、声を上げて泣き出した。

「……ゼロ! 何であんな嘘をついた!? 僕達は、カービィのことそんな風に思ってないし、偽物も見破ってたぞ!」
 司令室の中では、ゼロと問いかけるグーイがいた。ゼロは、ここからテレパシーでカービィと会話をしていた。そして、グーイがその会話を聞いていたようだった。
「余の念が読み取れたとは、やはり同じ一族だからか……では逆に問うぞ。なぜ、カービィに、仲間達は今でもお前に絶大な信頼を抱いてる、なんてことを言わないといけないのだ?」
 言われたグーイは言葉に詰まる。
「……あいつは、仲間を好きになりすぎて、臆病な心が大きくなってしまっている――独りでは何も出来ない、戦えない。戦えたとしても、今のあいつは、そんな腐った精神を持っているが故に本来の力が引き出せてない。だから!!」
 ゼロが体から赤い筋を浮かべ、目を見開く。
「だから……カービィには、本来の強さを取り戻してもらわないといけないのだ。"KD計画"によって、"新たな闇の力"を創造することに成功した暁には、カービィは本来の強さを取り戻す! そして、その強大な力を利用し、ダークマターの銀河制覇を成し遂げるのだ!!」
 ゼロの声が司令室に響く。やがて、グーイがあることに気が付いたように尋ねた。
「そんな……じゃあ、"新たな闇の力"っていうのは……」
「今頃気が付いたのか……余は、カービィ(Kirby)を、闇(Dark)に堕とし、強大な力を手に入れる計画をしていたのだよ。そのために――」
 言いかけた時、扉から、ゼロと似ているが体は赤みを帯びているダークマインド、黒い星形で目は桃色のダークゼロが慌てた様子で入ってきた。
「ゼロ様。"例のブツ"が完成しました。是非、御高覧を……」
 言いながらダークマインドが、"例のブツ"を見せる。そして、それを見たグーイは言葉を失った。
(何これ……クリスタルが……真っ黒……)
 ダークマインドが見せた物は、リボンが持っていたクリスタル――と形が非常に疑似していて、色はまるで闇そのものを現すような真っ黒い色をしていた。
 横にいたゼロが言った。
「そのために、強大な力を固体として保つクリスタルの構造を利用し、"ダーククリスタル"を作る案を出したのだ。そして……完成した!」
 ダーククリスタルを作るために本物のクリスタルが必要だった。この時、グーイは思った。ドロッチェが言ったことは、ほぼ当たっていた、と。
「じゃあ、本物のクリスタルはどこへやった?」
「壊した」
 横から言ったダークゼロに、えっ、とグーイが呆気にとられる。
「壊したんだ。俺の力で、何百、何千もの小さいクリスタルに分けた! そして、宇宙に放りだした! 見つけるのは難しいぜ!」
 本物のクリスタルは、ダークゼロによってバラバラにされ、宇宙のどこかへ捨てられた。グーイは、今までしてきたことが全て無駄になった、と絶望に駆られた。
(そんな……そんな……!)
 うなだれるグーイの背後から、低く、恐ろしさを秘めたゼロの声がした。
「もう、お前達に勝機などない。これからは、余が、ダークマターが覇権を握る、暗黒の時代に入る。このダーククリスタルによってな! さて、まずは実験として――」
 グーイは、ゼロの言った言葉を最後まで聞き取れずに、何故か"気"を失ってしまった。

「どうしよう……やっぱり涙の絵だと、本物に出来ないのかな……」
「慌てるなよ。ここで取り乱したら終わりだからな」
 デデデ大王、アドレーヌ、そしてリップルスターに住んでいた妖精、とその女王が捕らわれた牢屋ではとある行動が起きていた。
 アドレーヌが持つ、絵画実体化能力を使って、脱獄する計画を立てたのだった。そして、そのために、涙で絵を指で描き、それを実体化させようとしていた。しかし、絵は描けたのはいいものの、それを本物にすることはできず、描いては実体化ができず、の繰り返しで、50分が立っていた。
 残り10分で、この牢屋にいるひと達は皆殺されてしまう。クリスタルが入手でき、用無しとなったリップルスターの妖精達は斬首刑。デデデ大王とアドレーヌも、捕らわれたカービィに、見せしめとして死体を見せるために、殺されることになっていた。
「結局、私たちは殺されちゃう……どうせなにやっても無駄なのよ!」
 絶望のどん底にいた牢屋のひと達には、もう逃げられないことを認めて、こんなことを言い出すひともいた。
「その絵、結局本物にできてないじゃない! このままじゃ、死んじゃうのよ! 分かってるの?」
 橙色の髪の妖精が、アドレーヌに対して言う。
「分かってるよ。でも、出来ない物は出来ないの!」
 そっけなく返事を返したアドレーヌだったが、顔は横にいたデデデ大王が見ても分かるほど凄く辛そうだった。
「出来ないなら最初からそんなこと言わないでよ! 期待させておいてさ!」
 そうだそうだ、と他の妖精も、次々に心ない言葉を発し始めた。
 
 結局、55分が経って、やっとできたものが、ごく普通の赤色の金属棒だった。始めに絵の具の絵を本物しようと考え描いた絵だったが、実体化に失敗し、結果出来たものがそれだった。
「ごめんね、みんな……こんなのしか……出来なかった……」
 ずっと絵を描いていたアドレーヌは、みんなの役に立てなかったことに、すごく心を痛め、うずくまって泣いていた。他の妖精達は、これからやってくるだろう死に恐怖していただけだった。
 そんな時、デデデ大王がハッと気が付き、床に置いてあった、アドレーヌが作った棒を拾い上げた。
「……心配するな。わしらは脱獄可能だ!」
 そう言った直後、どうせ無理だ、と妖精達の声が飛んでくる。が、彼はこの声を沈めた。
「どうせ無理? なぜそんなことが分かるんだ!?」
 彼は妖精達に言った。
「……そう言って喚く暇があるなら、もっと他にやることが有るだろう。一所懸命に絵を描いてたアドにも、もっと別の言い方があっただろうが! 何が『期待させておいて』だ! ……わしらはな、団結しないといけないのだぞ。わしらがここで揉め事をやっていたらどうしようもないだろう!!」
 自称とはいえ、国王らしい口調で、ここに居たみんなに言った。
「じゃあ、その棒で何が出来るか教えてよ……」
 橙色の髪の妖精が指摘する。すると、大王は赤い金属棒を――鉄格子で磨き始めた。素早くこすることで、みるみる先端が鋭くなっていく。
「ダークマターとはいえ、牢屋の扉を開けないと、わしらを連れて行くことはできないだろう……だから、この棒を使ってその隙を突くのだ。一瞬を狙う。もたついていると、ダークマターは何をしてくるか分からないからな」
 そう言って、デデデ大王は、先端が鋭くなった棒をみんなに見せた。橙色の髪の妖精も、成る程と、頷いた。
「絶対……成功させてね……」
 やがて、青髪の妖精が弱々しく言ったのに対し、デデデは任せろ、と大きく胸を叩いて見せた。
 そして、時は来た。
「待たせたな。今から、妖精達は処刑場に来てもらう。ペンギンと赤い帽子の小娘には、別の場所に来てもらうことになるので、まずはそのふたりから牢屋に出てもらおう」
 牢屋の前に来た人型ダークマターは、やがて、鍵を取り出し、扉を開ける。その瞬間――
「ぐああ! 目が! 目がぁあっ!」
 目に鋭利な赤い棒が刺さったダークマターが叫びながらのたうち回る。デデデ大王の作戦が成功したのだ。
「よし、見事的中だ。みんな、脱獄だ!」
 そして、デデデ大王、アドレーヌ、そして妖精達は、目が見えずうろたえるダークマターを差し置き、牢屋を抜け出した。
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