オリオンさんの小説

【たたかいの彼方に】 第12話 『切れないモノ』


第12話『切れないモノ』

『ドロッチェさん! 大至急アジトに戻って下さい! 変な黒雲達に襲われて、とにかく大変なんです!』
 そう言われて仲間の危機の悟ったドロッチェは、クリスタルを抱えながら、急いで極寒の星――ブルブルスターへ向かっていった。
 しかし、着いたところ、大変そうなことは何も起きてなかった。
 降り積もる雪と見紛うような、保護色を考えた白色の四角いアジトは、建てたばかりの時のように、立派に立っていた。
「おかしい……何も起きて無いじゃないか……」
 辺りを見回しても、"変な黒雲達"はどこにもいない。視界に写った物は、白銀の世界と、しんしんと降り続く雪。
 不思議に思いながら、やがてドロッチェは、まずは仲間の顔を見ようと、扉のパスワードを入力して――開けた。そして、地下室へと進んでいく。
するとそこには、いつものように、ドク、ストロン、スピン、そしてチューリン達がそれぞれ色々なことをしていた。
「……お! ドロッチェ殿。帰ってこられましたか……」
 見た目貧弱そうな眼鏡をかけたネズミ――ドクが彼の帰還にいち早く気が付き、彼に声をかけた。
「ああ。それよりも、アジトに異変があったのか? ここが大変な事になってるってストロンから聞いたから戻ってきたんだけど……」
 すると、大きな体を持ち、眼帯を着けている――ストロンが言った。
「ここのアジトは今日も全く平和でしたよ」
「え!? でも、通信で変な黒雲達に襲われて……とか言ってたじゃないか!」
「オラは、今日は通信なんか使いませんでしたけどなぁ……」
 そう言われたドロッチェは、ますますワケが分からなくなった。
 しばらくすると、サングラスをつけている小柄なスピンが、しんとしていた部屋の空気を破った。
「それよりも、ドロッチェ。クリスタルとかいう宝石が見つかったんだろ? そいつを見せてくれよ」
「……そうだったな。ほれ見ろよ。こいつがクリスタルだ。綺麗だろ……?」
 ドロッチェはスピンに盗んできたクリスタルを見せた。
 すると、スピンは急にその水晶を奪い取った。さらに、
「みんな! このドブネズミを捕らえろ!!」
 と声をかけた瞬間、他のメンバーが――仲間が、ドロッチェの身動きを取れなくするように抑えた。
「おっおい! どうしたんだ!?」
 叫ぶドロッチェに対してスピンが雄弁に喋る。
「どうしたもこうしたもねぇよ。テメーがどっか行ってる間に決まったんだよ。俺たちドロッチェ団とダークマターで同盟を組むことがな。
 同盟組む代わりに、クリスタルをダークマター側に渡せって言われたから、それに従ったまでだ!」
「おい! 俺がいない間に勝手に決めるな! リーダーは俺だろ!?」
 スピンがさらに顔を寄せて言う。
「テメーなんかリーダーじゃねぇ。俺等のリーダーは"ゼロ様"だ。もうテメーについて行く気など無いんだよ。クリスタル見つけ……ご苦労様でした!!」
 小馬鹿にするように言い、そして声に出して笑った。笑い続けた。
 しかし、その笑い声は急に攻撃を受けたときのような叫び声に変わった。ドロッチェは、力を振り絞り、抑えられていた手をほどき、
とっさに手にしたステッキから冷気を放つレーザーを、スピンの顔に当てた。
「つ……つめてぇ! 何しやがるこのクソネズミが!!」
「その仲間達から離れろ。さっさと"ゼロ様"の所に帰らねぇか……」
 この時、ドロッチェは既に察していた。それは――
「ククク……さすが泥棒。おつむの回転も速い、てことか。"我らの憑依能力"をこうもあっさり見破るとはね」
 そう言いながら第14番部隊長ことダーク・リムロが姿を現した。撤退してから、ドロッチェの帰る場所を探し、そこでクリスタルを奪う計画をしていたようだった。
「……お前は、あの妖精を追っていたダークマター達を指揮していた奴だろ。あんな小さい女の子を追いかけ回すとは、あまり良い趣味とは言えないぞ」
「もとより、我々は目的のためなら手段は選ばないんでね!」
 言い切ったすぐに、リムロが目から黒い光線を出す。ドロッチェもすかさずレーザーを放つ。しかし――
「くそ、レーザーが通らない!?」
「隊長の力を甘く見るなよ……!」
 黒い光線はドロッチェが予想もしなかったほど凄まじい威力で彼のレーザーを弾き――直撃した。

(痛い……くそ、上手く立てねぇ……)
 黒こげになって仰向けに倒れた。そんなドロッチェを見下すようにリムロが言う。
「馬鹿が。我々がお前如きに負けるはずが無いんだ。さあ、トドメを刺してあげよう」
「トドメ……か。……最後にお前の名前を聞いておきたい」
「冥土へのお土産として教えようか。我はダーク・リムロ。第14番部隊の隊長を務めている」
 名乗ってからリムロはさらにこんな事を言った。
「それに、我は少しサディストな所があってね……そこで、トドメはお前の仲間だったひとたちに任せる!
 フフフ……辛いだろう。自分の仲間に殺されるんだぞ? ……何か最後に言いたいことがあれば言ってよいぞ?」
 ドロッチェがゆっくりと言い返す。
「仲間に殺されることは辛くはない。……それより、仲間がいざ憑依が解けたときに何を思うかを考える方が辛くなる」
「そうか……いい強がりだ! ……さあ! 我らの手下達よ! こいつを殺せ!!」
 リムロの命令にあわせ、ドクがいつ作ったのか特製の銃を出し、それをスピンに渡した。これを見たとき、ドロッチェは
何とも言えない悔しさに覆われた。彼の仲間は――今、彼を欺き、敵の言うことを聞いているのだから。
 そして銃声がした。ついに殺される時が来たんだと、思わず目を瞑った。
(まだ色んなもの盗みたかったな……)
 色々な思い出が彼の脳裏に浮かび上がった。これを走馬灯とでも言うのだろうか。
 そしてドロッチェは無惨に――撃たれた。

「フハハハ! 計画大成功だ! 忌々しい赤マントのネズミは死んだし、クリスタルも手に入った! やはり我は天才だ!
 すぐキレるリムルや、馬鹿のリムラとは違うんだ!!」
 声高く笑うリムロ。やがて喜びがおさまった後、ずっと口を閉じている裏のスピン、ドク、ストロン、チューリン達に声をかけた。
「さあ、そのクリスタルを我に渡せ。こんな廃れた星に長居するつもりは無いからな」
 しかし、ドロッチェ団のメンバー――ドロッチェの"仲間"はこう言った。
「廃れるのはお前さ。何故なら団長がお前を倒すからだ」
 予想を上回る言葉を言われ、リムロはあっけにとられた。その直後。裏から凄まじい衝撃と冷気がリムロの黒く丸い体の裏から来る。
何事だ、と振り返る。するとそこには――先ほど銃で撃たれたはずのドロッチェがいた。
「な……なんだと!? 何故お前が生きている!? 何故動いている!!?」
「俺達は大いなる力を手に入れる怪盗団! あいにく、こんな所で負けるようなヘタレじゃないんでね!」
「……うるせぇ。ヘタレじゃない……天才なんダ! ヘタレはおマえダ! ざコノくせニ……バカのクセニ……ナマイキナンダヨ!!!」
「あばよリムロ。やっぱり聞いておいて正解だった。別れの挨拶に使えたよ……お前の名前」
 やがて、ダーク・リムロは、聞き苦しい断末魔をあげながらレーザーの中で消えていった。

 再び静けさが戻ったアジトの中に、ボロボロになったドロッチェと、仲間達がいた。彼はその仲間達に――
「ありがとうな。あの銃弾……体を回復させる弾だったろ? 撃たれた後、不思議に体力が戻ってきたんだ。あれがなかったらリムロは倒せなかった……」
「……ごめんよ」
 お礼を言おうとした時に、言葉が挟まった。声の主は、泣いているスピンだった。
「俺が……あんな黒雲に取り憑かれたせいで、ドロッチェに迷惑を……かけたんだ。俺、今もちゃんと覚えている……『テメーなんかリーダーじゃねぇ』って言ったこと。
 そして殺そうとした……。卑劣だろ? 最低な奴だろ? 俺は……仲間失格だ……俺を突き飛ばしてくれ!」
 体を張って叫んだスピンは――吹っ飛ばされた。そして、吹っ飛ばした団長が怒鳴った。
「馬鹿言ってんじゃねえよ! 何謝っちゃってるんだよ? 何勝手に失格とか言って逃げようとしてるんだ? 
 まずは、お礼の返事をしろ。お前は『礼はいらねーぜ』っていつもみたいに格好付けてりゃいいんだ!」
 言った瞬間、仲間達から歓声がわく。当の本人は何故かが分からなかったが。
 それからしばらくして、ドロッチェが尋ねた。
「……それより聞きたいことがあるけど、何で急に憑依状態から戻って来れたんだ? そうじゃなかったら俺は本当に殺されているはずだ」
 彼の言うとおり、ドクが持ってきた銃で回復弾を撃つ――ドロッチェを助ける、ということは、憑依された状態から戻ってこないとできない行動だった。
「……それは、クリスタルに秘められた力が発揮されたからです……」
 裏からドロッチェ団の中の誰でもない声が聞こえた。
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