オトモカービィさんの小説

【お題小説】気の向くままに(第3回エピソードパズル)


目を覚ますと、そこは何もない無の空間に立っていた。
ここは何処なんだろう。見渡す限り、白色で覆われている。
空もないし、水もない。……食べ物も。
気が付けば、お腹が空いていた。空腹にも気が付かないなんて、どれだけ焦ってたんだろう。
食べ物を探して歩いた。歩いてはいるのだけど、景色が変わらない。本当に進めているのかな。
背後に、人の気配を感じた。一応、振り向いてみるがそこには誰もいない。
「誰かいるの……?」
もちろん、返事が返ってくるはずはない。
再び歩き出そうとした時、何かにぶつかった。
目の前には大きな星が浮いていた。それがワープスターだと分かると、直ぐに飛び乗った。

自分の知っているものが近くにあると、何故か安心する。それに、今まで幾多の戦場を乗り越えてきた相棒なのだから。
ワープスターは、僕を乗せたまま急発進した。最初のころは上手く乗れなかったけれど、今では乗ったままコピー能力を使えるほどになっている。
「一体、どこへ向かうの?」
ワープスターは答えない。話す口がないから、答えることができない。
それでも、意思はあると思う。僕が望んでいるのとは、違う行動をとったりすることが稀にある。
そういう時は、大抵敵の攻撃をギリギリで避けられたりとか、そのまま突っ込んでたらやられている、危険な時だ。
僕は、ワープスターに乗って操縦をしているのと同時にワープスターに助けられている。
だから、僕はワープスターの意思を読み取ろうとして、様々な努力をしてきた。
ワープスターが瞬くと、言葉が脳へ直接送り届けられているような気がする。この感覚を利用して、会話をしてきた。
――気の向くままに。何処か遠くへ
「気の向くままに、か。それも面白そうだね」

そして、僕らはずっとずっと上を目指して飛んで行く。やがて、白いだけの空間を抜けて黒い空間にたどり着いた。
今度は何もない無の空間じゃない。星々が綺麗に瞬いている。宇宙だ。
「初めて宇宙に出たのはどれくらい前だったっけ」
その言葉に反応して、ワープスターも瞬いた。
――ナイトメアを追いかけた時以来だよ
懐かしい名前が出てきた。大王は、ナイトメアを夢の泉に封印するためにスターロッドを引っこ抜いた。
だけど、大王の言い分も聞かないでスターロッドを戻しちゃったから、封印が解かれたんだ。あの時は、大王に酷いことをしたなあ。
「ナイトメアの攻撃が当たって消えちゃったから、死んじゃったと思ったよ」
――僕は、カービィを守り抜くって決めたから。僕が死んでも守り抜くよ
そこまで言われると、何だか照れくさい。でも、ワープスターも僕のことを大事に思ってくれてると分かると、やっぱり嬉しい。
僕も君のことを守るよ。ずっと一緒にいようね。なんて、そんな言葉恥ずかしくて言えないや。

宇宙をあてもなく飛んでいると、シャインを見つけた。そのすぐ隣にブライトも居たけれど、何だか光が弱い。
ポップスターは夜なのかもしれないな。でも、シャインの顔が強張っている。何か良くないことが起きたみたいだ。
「おーい! シャイン、ブライトー!」
大声で二人を呼んでみたけれど、返事は帰ってこなかった。
無視されている。かつて、二人を勘違いでボコボコにしたのは悪かったと思っている。だけど、無視することはないじゃないか。
二人に近づくように頼んだけれど、ワープスターは無視してプププランドに向かった。
――二人の話を聞いても、悲しくなるだけだよ
その言葉の意味が分からなかった。なんで僕が悲しむことになるんだろう。距離はあったけど、すれ違いざまに二人が話している内容が聞こえた。
「カービィが行方不明になったらしい」

プププランドは騒然としていた。誰もが慌てふためいて、そこら中を走り回ったり、飛び回ったりしている。
皆、泣いたり叫んでいた。その中には、クーやリックたちの姿もある。唯一、冷静を保っている様に見える大王も、静かに嗚咽を漏らしていた。
「クー、どうしたの?」
返事はなかった。クーは振り向きもせず飛んで行ってしまった。
「カービィ、一体どこにいるんだ」
皆、僕を探しているようだった。僕はここにいるよ。と叫んでも、誰も気付いてくれない。
そろそろ我慢の限界だ。どうして皆、僕を無視するのか大王に聞こうと服の裾を掴もうとした。
すると、手は空をかいた。そのままの勢いで大王にぶつかりそうになったけれど、体は大王をすり抜けて転がっていった。
何かにぶつかって止まると、ワープスターが目の前に現れた。体がすり抜けるって、まるで幽霊みたいじゃない。
「僕…… 死んじゃったの?」
涙が溢れ出た。もう、皆とお喋りできないのかな。もう、皆と遊ぶことはできないのかな。
「もう、君と冒険することはできないの……?」
涙は、まん丸な僕の体を伝って地面に落ちた。一点にしか涙が落ちないから、僕の足元には小さな水たまりができていた。
ワープスターは、僕の問いに答えずに空高く飛び上がっていった。待ってよ。行かないでよ。
必死に手を伸ばして引き留めようとしても、ワープスターは止まってくれない。
――君は、まだ死んでないよ
ワープスターは、空高く舞い上がって薄暗い太陽と重なった。
――まだ、諦めちゃいけないよ
「何を、言ってるの……?」
何を諦めたらいけないのか、さっぱり意味が分からなかった。
僕が狂ってしまったのか。ワープスターが狂ってしまったのか。世界が狂ってしまったのか。
――何も、狂ってなんかないさ。また、皆とお喋りして、遊んぶんでしょ? 僕と冒険するんでしょ?
ワープスターは、そのまま僕に向かって急降下してきた。ぶつかる寸前のところで止まると、強く瞬いた。
――だから、諦めないで。目を覚ましてよ
次の瞬間、視界が歪んだ。大王の顔が歪んでいく。太陽が歪んでいく。皆が歪んでいく。わーぷすたーガ歪ンデイク。


体のあちこちが痛かった。背後から、強烈な威圧感を感じた。
振り向くと、岩が集まってできた巨大な顔があった。幾度とない敵と戦って覚えてこの感覚。明らかな殺気が漂っている。
そうだった。この岩の顔と戦ってたんだっけ。気絶しちゃってたのかな。
「これでお終わりだな」
真上に、巨大な岩が出現した。ものすごい勢いで振り下ろされる岩を、避けようと立ち上がる。
だけど、足に激痛が走って体勢を崩してしまう。これでは避けることなどできない。諦めかけたその時、僕の頭に大切な相棒の声が響いた。
――諦めないで。君なら勝てるよ
さっきとは比べものにならない速度で体が動いた。何故だか今は、ワープスターが傍にいてくれている気がした。
「ほう、これを避けるとな。しかし、次はどうだッ!」
突然、真横に先程と同じ岩が現れて僕に向かって突進してきた。同じく、僕もその岩に向かって突進する。
岩が目の前に迫った時に、地面を思い切り蹴って跳んだ。岩はすぐ足元を通過していった。
避けられると思っていなかったのか、岩は背後で急停止した。
「隙ありッ!」
剣を握る手に力を入れて、思い切り振った。それをひたすら連続で続けた。
一度で斬れないのなら、二度、三度と斬り続ければ何時かは斬れるはず。
案の定、体力の限界が来たところで岩は粉々になった。斬れはしなかったものの、砕くことはできた。
「何だと……ッ!」
驚き戸惑っている顔に剣を投げつけた。剣は額の飾りに深々と突き刺さった。
ダメージは想像以上のものだったらしく、岩の顔は大きな声で悲鳴を上げた。
「おのれエェェェエ!」
目の前に、先ほどと同じ岩が出現した。完全に油断していた僕の体に思い切りぶつかって、岩は砕けた。
怒りを表情に残したまま硬直している岩の顔は、少し間をおいて崩れ去った。

「終わった……?」
戦闘が終わったことを確信すると、どっと疲れが押し寄せてきた。腰の力が抜けて、その場に倒れこんでしまう。
もう、立ち上がることすらできないや。どうしよう。このまま、誰かに見つけてもらうのを待つしかないのかな。
見つけてもらうまで、どれ位かかるんだろう。誰にも見つけてもらえなかったらいやだな。
――よく、頑張ったね
また、ワープスターの声が頭に響いた。どこから僕に話しかけているんだろう。
――僕はここだよ
部屋が一瞬だけ光った。何だか暖かい光だなあ。ワープスターの光に似ている。
光はどんどん明確になり、遂には部屋全体を白く染め上げるほどに光った。目の前に現れたのは、洞窟で拾った“ほしのしずく”というお宝だった。
ワープスターに似ているから、拾っておいたんだ。ワープスターに見せたら喜んでくれるかなって。
――僕は何時も君を見守ってるよ
ほしのしずくが砕けた。残念だなあ。ワープスターに見せたかったのに。
「君に見せたかったのに。見せる以前に、君自身だったんだね」
砕けたほしのしずくの欠片は光となり、やがて更に大きな星をかたどった。そして、星は強く瞬いた。
――どんな時でも、どんな場所でも、君を守るよ
もう慣れたと思ったのに、正面から言われるとやっぱりまだ照れくさい。でも、今まで恥ずかしくて言えなかった言葉なら言える。
「僕も、君を守るよ。どんな時でもどんな場所でも。だから、ずっと一緒にいようね」
僕がそう言うと、ワープスターは嬉しそうに連続で強く瞬いた。

それから僕らは、マジルテを脱出した。僕の姿を見つけた時の大王は泣きながら抱き付いてきた。
心配してくれたのは嬉しいんだけれど、抱き付かないでほしい。皆がいる前で抱き付かれると恥ずかしいったらありゃしない。
マジルテで拾ってきたお宝は、持ち主がいる物は持ち主へ。持ち主がいない物は欲しい人に譲った。あっても邪魔なだけだし。
勿論、冒険の思い出ということで家に置いておくこともできた。でも、そんなことしたら手入れに時間がかかってまた別の冒険に出れなくなるから。

「今日は何処に行こうか」
僕が訊くと、ワープスターは強く瞬いた。
――気の向くままに。どこか遠くへ

-END-
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