麻刈 透さんの小説

【ダークマターさんち​】第1話 彼は不良ぶっているだ​けなんです


今日も呆れかえるほど平和。
そんな国、プププランドはもうすぐおやつの時間を迎えようとしていました。
そんな時―――

「みんな逃げろー!ゼロが来るぞーー!!」

誰かの叫びで辺りの空気は一変しました。

「ゼ、ゼロ!?」
「今度は一体なんだっていうんだ……!?」

やがて、つい先程まで晴れていた空には暗雲が立ちこめ……

「―――ギャハハハハハハ!!!」

赤い単眼を持つ白い球体が姿を現しました。
ゼロと呼ばれたその球体は攻撃的な眼差しで逃げ惑うプププランドの人々を睨みつけます。

「ギャハハハハハハ!プププランドの民共よ!!泣けえ、叫べえ、そして苦しめえええ!!だがな、どうしてもって言うなら……」

ゼロは言葉を発します。しかし……

「キャーーッ!!ゼロよーっ!!」
「助けてくれええええええ!!!」

それは必死に逃げようとする民衆の声にかき消されてしまいます。
でもゼロはめげません。

「…で、でもな、貴様らがどうしてもって言うならなぁ……」

そう言いながら民衆の群れへ近づいていきます。しかし……

「キャアアアアアアアアア!!!」
「く、来るなああああああ!!!」

ゼロの言葉を聞く者は誰もおらず、帰ってくるのは悲鳴ばかりです。

「どうしてもって言うなら…俺様と……」

それでもゼロは民衆へ向かって声を発します。
「みんなあああ!こっちだあああああああ!!」
わあああああああ………

しかし、人々はたちどころにゼロの下から逃げていきます。
やがて―――


「……一緒に……お…おやつでも食べてやってもいい……ぜ………?」

ゼロの周りにはワドルディ一人たりともいなくなっていました。


すると物陰から、ゼロへ近づいていく一つの影がありました。
それを横目で認識したゼロはすぐさまさっきの台詞を口にしようとします。

「き、貴様ら!どうしてもって言うならなぁ………」
「―――えーっと……申し訳ございませんが主、僕です」
「え!?」

ゼロは驚いて、影の正体を見据えました。

「……何だ、ダークマターじゃねぇか」
「何だとは随分と酷い言いようですね、主」

ダークマターと呼ばれた黒の剣士はこなれたかのように冷静に答えを返します。

「あーはいはい!悪かったな!!」
「そんな心の籠もっていない詫びの言葉など不要ですよ………それより主、早く帰りましょう」
「んなこと言われなくても帰ってやるよ!こんなつまんねぇ星!!」

更に悪態をつくゼロ。その様子はまるで、子供が負け惜しみを言っているかのようです。
そんなゼロにダークマターは

「あ、それと主」

思い出したかのように言いました。


「涙、お拭きになられた方がよろしいかと」
「…………ぐすっ」

ゼロは泣いていました。

――――

ゼロ達、ダークマター一族の住み家はプププランドのあるポップスターではありません。
ポップスターとはわりと離れた暗闇の星、ファイナルスターで一族は暮らしています。
ダークマター族は他の族とは姿形が大きく異なる上に、闇を好むという特異な性質を持つために他の族と関わりを持つことが少ない一族です。
そのため世間一般では「孤立した一族」という認識を持たれています。
しかし、実際の生活スタイルは他の族と何ら変わりありません。
他の人々のように家を造り、一族みんなで身を寄せ合って生活しています。

ゼロとダークマターは彼らの住まいである巨大な屋敷に帰ってきました。

「ゼロ様のお帰りだぞゴルァ!」
「主、どうか普通に『ただいま』と言ってください」

ダークマターはやれやれという様子でゼロをたしなめます。
そんな二人を迎える者がありました。

「あ、兄さんにダークマター!お帰りなさーい」

それは黒い星形にゼロと同じ赤い目を持つダークマター・ダークゼロでした。

「只今帰りました」

丁寧に頭を下げるダークマター。

「出迎えが遅せぇぞ、雑魚弟の分際で」

チッ、と舌打ちじみた音を出し悪態をつくゼロ。

「はいはいどうせ僕は優秀なお兄様とは違って雑魚ですよーっと」

そんなゼロの態度を気にもとめず、ダークゼロはさらりと流します。

「よし、それでいい!」

しかし、そんな皮肉すら褒め言葉受け取り、すぐにパッと笑顔になる兄なのでした。

(単純……)

ダークマターとダークゼロはほぼ同時に溜め息をつきました。

屋敷の中に入るとダークマターは日誌を書くべく、自らの部屋に戻りました。
一族の記録を記す、それが「はじまりの暗黒物質」である自分の使命だと勤勉な彼はそう思っています。

―――

「そういやダークゼロ!他のクズ共はどこ行った!?」

ダークマターと別れたゼロはというと、怒鳴るような口調で言いました。
どうやら彼はこのような話口調でしか話せないようです。

「えーっと…リムラ達はブルブルスターに雪遊びに行ってて……あ、そうそうミラマタも保護者としてついていったよ」
「雪遊び……?んなことはどうでもいいんだよカスが!」
「兄さんが聞いたんじゃないかー!」

ダークゼロは思いました。
全てが理不尽なこの兄にとっての二人称は「カス」、三人称は「クズ」なのか、と。

「俺様が聞きたいのはんなことじゃねぇ……そんなこと、分かってるよなぁ?」
「そんなの知らないよ……」

凄みを利かせるゼロに対してダークゼロは呆れたようにそう答えます。
するとその瞬間、ゼロの真っ赤な瞳がカッと見開かれ、ダークゼロに迫りました。

「あの忌々しいクソ野郎は『まだ』いやがるのかっていう話をしているんだよ……俺様は!!」
「『忌々しいクソ野郎』………?あ、もしかしてそれって族ちょ」
「黙れえええええええええええええええ!!」

ゼロの突然の咆哮にダークゼロはビクッと体を震わせました。
ゼロははぁはぁと息を切らせながらダークゼロを睨みつけます。

「今お前は何と言った?ん?族長?あのクソ野郎が?族長??」
「い、いや…だって兄さんがいつも言っている『忌々しいクソ野郎』っていうのはゼロツ」
「その名を口に出すなああああああ!!聞いただけで虫唾が走るわ!!そもそも『アレ』が族長だなんて誰が言った!?一族の長はこの俺様以外にいねぇだろうがよ!」
「………」
「何だ?何か文句あんのかよ?」
「いいえ………」

ダークゼロは黙ることにしました。この兄には何を言った所で無駄なのはもう分かりきっていたからです。

(さて、僕も自分の部屋に戻るとするか……)

ダークゼロがそう思い、ゼロと別れようとした、その時でした。
二人が今、歩いている広い広い廊下。その先からこちらに向かってくる者があります。
それは、天使の輪のようなものを頭に戴く、赤い翼を持った白い単眼の球体―――。

それを認識した瞬間、ゼロの真紅の瞳が妖しく輝き、

「―――――ゼロツーか」

地を這うような声がしました。


――――

「ダークマター!ダークマターってばああっ!!」

二階にあるダークマターの部屋の前で大声を張り上げる者がありました。ダークゼロです。
すぐさまダークマターが飛び出してきました。

「主!どうされたのですか!?」
「だからその『主』って呼び方やめて………じゃなかった、一階が…一階が大変なことに………」
「……!?」

今にも泣き出しそうなダークゼロ。
突然のことにダークマターは呆然としています。

「と、とにかく一階に来て!」

ダークゼロはダークマターをその「大変なことになっている一階の部屋」……大広間へ連れて行きました。


「はわわわわ…ますます激化してる……」
「…………」

その状況にダークマターは頭を抱えました。
呆然と、というよりは唖然とするしかありません。

(――嗚呼、またこの状況か……)



「このクソ野郎がぁ………っ!これでも食らいやがれえええええ!!」

ゼロは天井の高い大広間の豪勢なシャンデリアの真下まで浮かんで、赤いレーザーをゼロツーに向けて放ちました。

「……やだ」

それをゼロツーはひらりとかわします。

「……へっ、たまたまかわされただけだ!今度こそ、食らええええええ!!」

しかしゼロはめげません。先程のプププランド襲撃でもそうだったように。

「だから先程から嫌だと言っているだろう」

けれども、ゼロツーはこれまたゼロの攻撃を華麗に避けます。
数度に渡る渾身の攻撃を全て難なくかわされたゼロはさらに激昂し……

「ぐぬぬぬぬ………!テメェ!!あまり調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」

一気にゼロツーのもとまで急降下。
いつも以上に赤味を帯びた瞳でゼロツーをギロリと睨みつけました。

「別に調子に乗ってはいない」

すると、ゼロツーのその冷静な口調が彼の血管にトドメをさしました。

ブチッ

「!?
……ダークマター、今何か変な音が聞こえなかった?」
「ええ………何やら妙な音がしましたね」

何やら嫌な予感がした二人がは互いに顔を見合わせます。
するとその次の瞬間でした。

「………この………

ド畜生がああああああああああっ!!」

ゼロはけたたましい怒号を上げ、

「うらあああああああああああっ!!」

今まで放っていた赤いレーザーを目にも止まらぬ速さで連射し出したのでした。
それはまさに、赤い流星群のよう。

「大体いつもいつもテメェばかりがいい思いをしやがって……何が『妖晶零弐』だ、何が『偽天使』だ、何が『酸素』だああああああああああ!!!」

今や血走っている所ではなく、禍々しい邪気を放った瞳を更に大きく見開き、ゼロは咆哮しました。

「……あ…あれはゼロツー兄さんのあだ名達………」
「………単なる嫉妬?」

それを固唾を飲んで見守るダークマターとダークゼロ。

「今度こそ、死ねええええええええっ!!!」

先程よりも威力、速度ともに強化された赤い光線。それら全てがゼロツーに向かっていきます。
しかし、今度のゼロツーは動く気配を全く見せません。
堪りかねたダークゼロは叫びました。

「兄さん!ゼロツー兄さん!!何やってんだよ!!早く避け………」

その時でした。


「――――黙れ、通称『グロ注意』」


それは、静かでありながら凄まじい重みを持った声。
ゼロのものでもなければ、ダークマター、ダークゼロのものでもありません。

途端、ゼロの猛攻、そして動作が硬直しました。
さっきとは一転して突如として訪れた沈黙。

「な…何?どうして急に……」

恐る恐る、ダークゼロが言葉を発します。

「………?」

ダークマターも突然の静寂に思わず身構えます。

(主……いや、ゼロの暴走が始まったら何としてでも止めなくては……でないと僕は……)

しかし、二人の心配は思わぬ形で裏切られることとなりました。


「………うう」

「?」

ゼロが発した小さな声。
皆が不思議そうにゼロを見た、次の瞬間でした。


「……うわああああああああああああん!!」

「!!?」

大広間に響き渡る子供のような泣き声。

「え……?」

それは、ダークゼロ達に驚く隙すら与えずにやかましく鳴り続けます。

「なんだってんだよ…なんだってんだよおおおおおお!!俺様は、俺様はあっ……

うわああああああああんっ!!」

キュイイイイイン、バタンッ!!


ただただ呆然とするしかない暗黒物質達の突っ込みを待たず、ゼロはとてつもない速さで大広間から出て行ってしまいました。

残った物もまた、沈黙。
不意にゼロツーが呟きました。

「………やれやれ、今日も平和だな」


――――

○月×日
今日も平和とは程遠い、騒がしい一日だった。
……いつもながらのことなのだが。
まあ、唯一の救いはあのやんちゃトリオとミラクルマターがこの騒ぎの時にいなかったことか。
いつもより小規模に終わって本当に良かったと思う。
やっぱりゼロツーはゼロとは大違いだ。
凄く静かで大人。
でもあのマイペースさはまるで――


―――そこまで書いて、ダークマターは溜め息をつきました。

窓を開けると、そこには澄んだ夜空が広がっています。
三日月の放つ、柔らかな白い光が漆黒の暗黒物質を包みました。
そして、彼は思わず呟きました。


「ゲレグ………」


〈つづく〉
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