アカツキさんの小説

【番外編】 タックの盗掘大作戦


いにしえの洞窟マジルテ。

プププランドの地下に存在するという、広大な洞窟で、地底湖、古代遺跡などが数多くある。
だが、その洞窟の入り口は幾人もの学者や盗掘目的の者達がいくら束になってかかっても見つかることはなかった。
プププランドではその洞窟の存在は伝説のように語られている。


いにしえの洞窟マジルテ。
密林の中に存在する地底湖には、いにしえより鯨が棲み、
我が目を疑うような水晶の畑を抜けた先には、枠に囲まれた3人の番人が立ちはだかり、地底にその存在感を示す塔には、己が体の色を自在に変える生き物が棲み、

そして、神秘の楽園と呼ばれる園を抜けた先には、マジルテを支配する魔人が君臨す。

マジルテは金銀財宝と水晶の聖地。
されど、それらは魔人の所有物なり。
マジルテから持ち出そうとすれば、魔人が其の目の前に現れ、怒りの鉄槌を下すであろう。


以上がプププランドに伝わる、洞窟マジルテの伝承である。
いつ、誰がつくったかは誰も知らない。
ただの伝説だと言う者もいれば、洞窟の存在を信じる者もいる。

泥棒稼業で名が知れた、タック一族の1人は、そんな洞窟の存在を信じる1人であった。




「おー、大漁大漁♪」

背負っていた唐草模様の風呂敷を下ろし、自分が盗んできたものを検分したタックは、軽く口笛を吹いた。
唐草模様の風呂敷が広げられた上には、様々な盗品が並べられている。
金メッキの招き猫、真珠のネックレス、太陽を模した飾りがついた指輪、果ては陶器製のブタの貯金箱まで、その種類は多種多様であった。
女物のドレスや、明らかにおもちゃと見て取れる、魔法ステッキや変身ベルトまである。

「こんだけありゃあ、半年は楽に暮らせること間違いなし!っと」

タックは慣れた手つきで盗品を風呂敷の中にまとめて結んで背負う。

時間は真夜中。
黒子のように黒ずくめの格好で、しかも常時忍び足のタックに気づく者は非常に少ない。
気づくといったら、偶然足元にいた虫達ぐらいのものである。
あるいは、気配を読み取ることに長ける武人・・・あの仮面の騎士あたりならば気づくかもしれないが、常人が真夜中にタックに気づくというのは非常に難しい話なのだ。

なので、タックは意気揚々とアジトへの帰路についた。
だが、しばらく歩かぬ内に、突如踏んでいたはずの地面が消失した。
上機嫌であったため、足元への注意を怠ってしまった結果だった。

「ぬおっ!?ま、まさか!」

落とし穴、と気づいた時はもう遅い。
タックは落とし穴へ真っ逆さまだ。
咄嗟にタックは伝家の宝刀ぬすみのてを伸ばした。だが、ナックルジョーの技よりも射程と威力に自信があったそれは、虚しく空を掴んだだけに終わった。

盗品の重量が加わっている分、落下スピードが速いタックは落とし穴の底に激突する、と思わず目を瞑ったが、いつまで経っても底に到着しない。
恐る恐る瞼を開ければ、見えたのは急速に小さくなってゆく月と夜空―穴の入り口だった。

「う、嘘だぁーっ!?」

こんなに深い穴があるはずがない、という思いを込め、悲鳴混じりにタックは叫んだが、その悲鳴を聞き取った者は無論、誰もいなかった。





「う、うう・・・」

気がつけばタックは、見かけない熱帯植物の上に、盗品を落下の衝撃から庇うような形で倒れていた。
そこはプロの泥棒。
盗品の安全を優先したがために、背中から落ちる羽目になったが、幸い植物がクッションとなってくれたお陰でタックは何とか事なきを得たのだった。

「こ、ここドコ・・・?見慣れない場所じゃん」

キョロキョロと辺りを見回してみる。
見慣れぬ木々や植物が鬱蒼と生い茂っており、視界はあまりいいとは言えない。
取り敢えずタックは、盗品の無事を確認した後森を進んでみることにした。


不思議な国、というのがタックの最初の感想だった。
穴に落ちた先が見知らぬ場所で、天井は一面岩。太陽もないのに周囲は昼のように明るく、植物が手付かずのまま育ちっ放しなのである。
そして、生物もいる。
頭上を仰げばブロントバードが飛び、地上では鉢巻をしたクマ、グリゾーが気持ちよさげに昼寝をしていた。

(穴に落ちた先にあったんだから、こりゃ地底世界か!?)

タックの予想は大方当たっている。
あの、岩の天井を見れば信じざる得ない。
地底世界なら、きっと手付かずのスゴイお宝が眠っているに違いない!
泥棒の勘でそう思ったタックは、早速獣道を進み、何かないか探し始めた。




「うっひょー!こりゃすげぇや!」

泥棒の勘が見事に当たり、見つけたお宝の数々にタックは大興奮だった。
純金のメダルに小判、本物の水晶の珠に立派な刀などが次々と見つかるのだ。
どれもご大層に宝箱に入っていたが、宝箱についていた鍵などタックにとってはあってなきようなものだ。
やがて、海と見紛う広大な地底湖に出た。
そこで、タックは驚いた。

巨大なクジラが悠々と泳いでいるのだ。時折、豪快にジャンプを決め、そのダイナミックさに見合う膨大な量の水飛沫があがった。
そのクジラは何故か、水兵が着ているようなセーラー服の上着だけを着ていて、水に棲む生物なのに立派なパイプをくわえていた。

「こ、ここここここここって、まさか!?」

その光景を見て、やっとタックは自分がいる地底世界が何なのか、気がついた。
密林の中に存在する地底湖。そこに棲むクジラ。

「いにしえの洞窟、マジルテぇ!?」

タックは目を擦って遠くに泳ぐクジラを凝視する。
段々と状況が掴めてきたタックは、喜びが間欠泉のような勢いで吹き上がってきた。

「う、うおおお!ずっと、ずっと夢見て探してきたマジルテ!まさかまぐれでここに来ちまうなんて、あっしはなんって幸福者なんだ!」

狂喜乱舞のタックは、地底湖に申し訳程度に作られた桟橋を駆け抜ける。
クジラが生み出す、大波の如き水飛沫を持ち前のすばしっこさで避けながら、タックは対岸まで駆け抜けた。

「地底湖があるってぇなら!この先にはきっと水晶の畑がある!!」

洞窟に入り、備え付けられたトロッコに乗り、その洞窟を抜けた先には・・・



「ど、どひゃあああああ!!」

タックの興奮は、最高潮に達した。
洞窟を抜けると、そこは我が目を疑うほどの水晶、水晶、水晶・・・かの言い伝えにある、水晶の畑が広がっていたのだ。

「す、すすすすげぇ!ほ、本物の水晶がこんなに!こりゃ取りきれないぜ!」

にやにや笑いが止まないタックは、手ごろな水晶を、どこからともなく取り出した折り畳み式のピッケルを使って削った。


それからも、次々とお宝を発見し、風呂敷がどんどん大きくなり、重くなっていった。
だがそこはプロ。お宝の重さなど、あまり気にならない。
ちなみに、タックの行く手を阻む者は、伝承通りに現れた。
枠に囲まれた3人の番人、バトルウィンドウズ、古代の産物らしき塔に棲むカメレオン、ガメレオアーム。
まともに戦えば、タックに勝ち目はなかっただろう。
タックは、持ち前のすばしっこさと、一族伝来の奥義、タックハイドを駆使して戦わずにそれらを切り抜けた。
バトルウィンドウズに至っては、ただウィンドウの後ろを通り過ぎただけである。
そうしてお宝を次々と発見して行き、遂に神秘の楽園を呼ばれる園にタックは辿り着いた。

「うひょー、神秘の楽園ってだけはある。すんげぇお宝がてんこ盛りだぜ」

タックは、宝箱から見事なつくりの日本刀を見つける。
やがて、遺跡らしき建物に入り、どこか神々しい黄金の三角体が、タックがマジルテで見つけた最後の宝となった。

(さぁて、こんだけ見つけりゃ充分だ。あとは出口出口・・・)

タックは、広い空間に出た。
遺跡らしい、古めかしい壁や柱は見えるが、あとはほとんど闇である。
タックがそこをすたすたと通り過ぎようとしたその時。


「宝を置いていけ〜」


重低音の声が、空間に響き渡った。

「!?な、なんだ!?」

思わずタックは立ち止まり、辺りをキョロキョロと見回すが、誰もいない。

「宝を置いていけ〜」

すると再度声が響き、暗闇に顔が浮かび上がった。
ぎょろりと大きい双眸に、大きな唇、頭の飾り・・・タックはまさかと思い当たる。

「ま、まさかっ!まさかあんた、マジルテを支配する魔人って奴か!?」
「その通〜り。マジルテを支配するのは、我らワムバム一族なり〜。我はワムバムロックだぁ〜」

げっ、とタックは漏らす。
タックは、一番会ってはいけない相手に見つかったのだ。

「へん!どこに宝を置いていけって言われて素直に従う泥棒がいるんだよ!」

勝ち目はない。逃げるが勝ちだ。
タックは、脱兎の如き速さでそこから駆け出すが、不意にタックの体が宙に浮いた。

「へっ?」

岩石でできた、巨大な手がタックを摘まんでいた。ジタバタもがくがどうにもならない。

「ワムバムの宝、返してもらうぞ〜」

暗闇から、岩石の手がもうひとつ現れ、風呂敷とタックをいとも簡単に分離した。

「あぁ〜!!あっしのお宝!このっ、返せーっ!!」
「盗人猛々しい!」
「ぐはっ!」

ワムバムロックは、タックを床に叩き付けた。さらに、タックに岩が雨あられと降ってくる。

「いてっ!あいたっ!」
「出て行け〜」

ワムバムロックは強烈なパンチでタックを吹っ飛ばす。
タックは壁に叩きつけられ、気絶してしまった。


「我らのものを盗むとは、愚かな盗人よ・・・」

そう言いながら、別の魔人が現れた。
豪奢な宝石の飾りに、ダイヤモンドの手、そしてぎょろりと動く三つ目。
ワムバム一族を統べる王、ワムバムジュエルだ。

「我らの宝ではないものも入っていますよ〜」

ワムバムロックがタックの風呂敷の中身を検分し、それを王に見せる。
やがてワムバムジュエルは、いくつかの盗品に目をつけた。

「ほう。この指輪は美しい。この煌びやかこそ、わたしに相応しい」

指輪やネックレス、陶器製の狸の置物、ジョウロなどを選び抜き、ワムバムロックは気絶したタックを摘み上げると、地上への穴まで持って行き、まるでごみでも扱うように人差し指で勢いよく弾き、地上へ摘まみ出した。



その後、気がついたタックは今まで盗んだものが、お宝と一緒になくなっていることに気づき、失神しかけた。
必死になってマジルテへの穴を探し回ったが、不思議なことに見つかることはなかった。
ただひとつだけ、彼は伝説は本当だったという真実を持ち帰っただけに終わった。

一方ワムバム一族は、宝を入れた宝箱に鍵をかけただけでは駄目だということで、宝箱をブロックの中に隠したり、様々な仕掛けを配備し、誰も近づけないようにして改善した。





偶然迷い込んだピンクの悪魔が、台風の如く・・・そう、天災の如く、立ちはだかる者すべてを薙ぎ倒し、コピー能力を駆使して仕掛けすらもすべて突破。
ワムバム一族の宝をすべてを手に入れ、阻止しようとしたワムバムロックも打ち破り、意気揚々と脱出するのはそれからかなり後の話である。
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