guriさんの小説

【エピソードパズル】No.44『月の浮舟』


つん
  つん……

  つん

「う〜ん、むにゃ……あと5分……」

つんっ!

「寝かせろなのサー!!」

パチンッ

 乾いた音をたて、金色の片翼が安眠妨害をしてきた何かを弾き飛ばす。
 寝ぼけ眼で周囲を見渡す、どうやら浮舟の上みたいだ。形は三日月、色は金色。とても
柔らかく温かく、横になると心地よい。試しに力をこめて押すとふんわり戻る。それが夜
空をぷかりと漂っている。
「ぉー……星が綺麗なーのサ」
 星の瞬きを子守唄にうとうと二度寝、とぷんとぷんと天の川。月の浮舟は流れ星に押さ
れ、牛乳を零したようなミルキーウェイを漕ぎ下る。満天の星空はいつしか白い薄靄のよ
うなトンネルへと変わっていた。

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ガキンガキン

 意識が途絶えてどれくらい経っただろうか、眠りを妨げる騒音に起こされる。眼を開く
と白い空間が抜けるように広がっている。そこを一本の川が静かに流れていた。
「うっるさいなぁ、何の音なのサ」
 頭に乗せたピエロ帽子が浮舟から顔を覗かせると、濃い顔をしたオヤジがツルハシを一
生懸命振るっていた。仰々しいマントを羽織っているがあちこち擦り切れており、それが
哀愁の度を強めている。オヤジの周辺だけが色彩濃く、周囲から浮かび上がって見える。
「い、いい加減休ませてくれ……」
「不許可です。壊れた月が元通り真円を描くまで、貴方は働き続ける定めなのです」
 三日月に手足の生えたヤツが命令しているようだ。その眼差しは鋭く、怖い。

ガギンガギン

「関わり合いになりたくないのサ、寝たふりしてよーっと」

ガキンカキン……キン………ン…

 遠ざかる音にホッと溜め息。ふわぁ、まだ眠いのサ……。

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キャッキャッキャ

 惰眠を貪っていると、今度は子供特有の甲高い声に起こされた。
「お客さんだ」「ピエロー」「あははっ」
 気がつくと浮舟は止まって。黒い球体の一つ目が3つ、きょろんとこちらを眺めている。
「ふわぁ……。誰なのサ、眠いのサ」
「私リムル」「リムラー」「リムロッ」
 くるくると回転しながら次々と喋る、正直ダレがダレだか分からない。
「遊んで」「遊んでー」「遊んでっ」
 気にしないで寝ようにも浮舟は動かない。揺すっても水面に波紋が広がるばかりで、一
向に進もうとしなかった。
「ふぅ、仕方ないのサ」

 ……どれぐらい時間が経ったのだろうか、少なくとも太陽とお月様が一周するぐらいの
時間は過ぎた気がする。鬼ごっこや縄跳びに隠れんぼ、思いつく限りの遊びをやった。
「お子様の体力って底なしなーのサ」
 ぱてりと地面にへたり込む。そこらへんに居る、黒とか白とか赤の、でかい奴等に遊ん
でもらえばいいじゃないか。気持ちよさそうに寝てるケド。
「お兄ちゃん、ココでずっと遊ばない?」「いてよー」「うんうんっ」
「うーん、そういう訳にもいかないのサ。大事な用事があった気がするのサ」
 別に出まかせを言った訳でもなく、何となくそんな気がするカラ。
「じゃ、これあげる」「遊んでくれたお礼ー」「川から流れてきたの、キレーでしょっ」
 転がすように出してきたのはハートの器、淡く桃色に輝いている。連携の取れた調子で
放り投げられ、ダンクシュートの要領で浮舟に叩き込まれる。割れてなきゃいいケド。
「あ、ありがとなのサ」
 衝撃に反応したのかどうなのか、浮舟がゆっくりと動き出す。
「さようなら」「バイバイー」「がんばってねっ」
 ハートを枕にゴロンと昼寝。運動したからよく眠れるのサー。

---


ペタペタ……


カキカキ……

ヌリヌリ……

 今度は起こされなかった、とてもよく眠れて満足なのサ。止まった浮舟の縁から身を乗
り出すと、ローブ姿の女性が黙々とキャンパスに向かって黙々と筆を動かしていた。
「キミは何してるのサ?」
「見れば解るでしょ……」
 そう言いつつ、翠の絵の具をぺたぺたり。
「絵を描いてるみたいなのサ」
「そう……ずっと描いてる」
 そう言いつつ、紅の絵の具をぺたりたり。
「どれくらい?」
「1323日……」
 サラッと即答。
「えらく細かいのサ」
「1日1枚、絵を描いてるから……」
 言われて周囲を見渡すと、無造作に大量の絵が放置されている。瑞々しい草原の絵、神
秘的な水晶洞窟の絵、夜明けのお空の絵、ちょっぴり怖い海中の絵。多くの絵に混じって
桃色の絵が目に入った。なんだろう、見てると腹が立って腹が立って……

スッ

 おもむろに筆が一本突き出される。白亜の筆に紅い宝石が装飾されている。
「貴方も描く?予備の筆、あるから……」
 ありがたく受け取る事にする。貰える物は恨みだろうが憎しみだろうが、何でも頂く主
義なのサ。
「はい、紙……」
 画用紙を受け取り、さぁ何を描こう。ま〜るかいておまめがふたつおむすびひとつー
「そこは、こうするといいかな……」
「こうなのサ?」
 指示通りにすると、途端に見栄えがよくなる不思議。段々楽しくなってくる、そろそろ
半分ぐらい描けたカナ。

コトリ

 唐突に浮舟が軽い音をたて動き出す。乗らないと行かないと、そんな焦燥感に駆られる。
「筆はありがたく貰っていくのサ、描きかけだけど許してちょーよ!」
 浮舟にぴょんと飛び乗り波が立つ。
「描きかけだもんね、行ってらっしゃい……」
 女性は描く手を止めず、片手を軽く振り見送った。

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 薄く空けた瞼に光が差し込む、星々の煌めきの中、ポップスターがひときわ厳かに輝い
ている。意識の覚醒と共にそれは、段々と輪郭をはっきりさせてゆく。
 「ポップスター……ああ、そうか。ピンクのアイツに負けてボクは……」
 雄大に広がる星空の中、月の浮舟がただ静かに虚空へ浮かんでいる。何故ここに居るん
だろう、そんな考えが一瞬浮かび、溶けて、消えた。
 今ボクがやりたい事は、ただひとつ!
「待ってろカービィ!」
 ボクは勢い良く翼を広げ、豪華絢爛に舞い上がる。
「今度こそウルトラでスーパーでデラックスな悪戯をしてやるのサ!!」


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