ヨツケンさんの小説

【闇の聖母】第3話


限りなく本が並ぶとある空間、その間に1つだけ置かれた机に彼女は座っていた。一族
共通の灰色の髪とその間から生えた黒い毛に覆われた耳に黒いローブを纏う独りの女性。
しかし、本を片手に持つ彼女の姿は何故か透けていた。
「随分と久しぶりの来客だ」
廊下を通る足音に気付き彼女は本を閉じて机の反対側にある扉を見る、そこに現れたの
は見慣れた黒いローブを着た少女と目玉だった。少女は彼女を見付けると軽く頭を下げた

「お久しぶりです司書様」「あぁ、久しぶりだマナリティア」
そう言って抱きついてきたマナリティアの頭を彼女はゆっくりと撫でる、するとマナリ
ティアは微笑みを浮かべ更にしっかりと彼女に抱きつく。
「あ、あの……」
まるで親子の様に身を寄せ合う二人に、若干疎外感を覚えながらも、なんとかゼロは声
を掛ける。邪魔をしない方が良かったかと考えはしたが、それだと何時までも話が進まな
い気がしたからだ。
「マナリティア、こちらの方は?」
「私の大切な家族だよ」
ようやくゼロの存在に気付いた彼女はマナリティアを抱き寄せたまま軽く頭を下げる。
ゼロも頭を下げる変わりに目線を下げた。
「それで、今日はどういう本をお探しかな?」
「いえ、今日は本を探しに来た訳では無いんです……」
「なら何を?」
「少し見ていて下さい」
マナリティアはそう言うと彼女から離れ、机の前まで移動し、眼を閉じて集中し始めた。
そして、彼女が手のひらを天井に向け差し出すと、黒い何かが彼女の手のひらから染み出てきて丸く成った。
「なるほど、その能力がどういう物か知りたい訳だ」
彼女が問うと、マナリティアは頷いた。それを見て彼女はゆっくりとマナリティアの手の
ひらの黒い球体に触れる、少し驚いた表情を浮かべた後ようやく口を開いた。
「……成る程、座標が抜け落ちている」
「えっ?」
「簡単に説明しよう」
彼女の話の内容はつまりこういう事だった。全ての物質やエネルギー、空間が存在する
にはそれを受け入れる為の座標が必要であって、マナリティアの作り出す黒い場所では、
一時的にその座標が抜け落ちているという事らしい。ただ、彼女の身体からしか出せない
し、出せる量も1Lぐらいが限界とも言っていた。
「まぁ『あらゆる物の影響を受けない物質を自由自在に操る能力』とでも覚えておいてく
れ」
「座標が一時的に抜け落ちて……」
「あぁ、だから霊体状態の私でも触れた訳だ」
「なるほど……」
「さて、せっかく此処に来たんだ。何か本を借りると良い」
彼女がそう言うと、マナリティアは頷いて本棚の間を通って何処かに行ってしまった。
それを見て、後に残されたゼロにゆっくりと彼女が近付いて言った。
「君があの娘とどういう関係かは知らないが、あの娘を護ってやってくれ」
「はい?」
「あの娘は他人に優しすぎるそれによる苦労も背負い易い。だから護ってやってくれ……」
「はい……」
それから暫く本を読むだ後、2人はそこを後にして我が家のある惑星に帰って来た。街
を避け、夕暮れに包まれた道を進む、マナリティアの胸元には本が詰まったバックが抱え
られていた。
「いっぱい借りちゃったね」
「えぇ…」
マナリティアが嬉しそうに語り掛けるが、ゼロには司書に言われた言葉が重くのし掛か
っていた。
その時何処からか誰かの悲鳴が聞こえてきた。
「ゼロっ!!」
「はい」
声が聞こえた方にマナリティア達が行くと、数体のプラズマウィスプ族が青いローブを
着たシミラ族の少女を囲んでいた。シミラ族の少女はかかんで虹色のシールドを張ってじ
っとしている。
「なっ何をしてるのっ?」
「あぁ?なんだてめぇは邪魔だ!!」
マナリティアが叫ぶとプラズマウィスプ達が目線をシミラ族の少女から放しマナリティ
ア達を睨み付け、プラズマ波動弾を放った。
「きゃっ」
とっさにマナリティアは手から黒い物体を盾状にして防ぐ。プラズマは黒い物体に当た
りかき消えたが、マナリティアには何も感じられ無かった。
「我が主、御下がり下さい……」
「ゼロ……乱暴は駄目だからね?」
マナリティアが問うと、ゼロは頷く様に目を一度したに動かした。そしてマナリティア
とプラズマウィスプ達の間に入った。
「すまないが、退いてはくれませんか?」
「あぁ何だとコラ!!」
「……仕方ないですね」
「何が仕方ないんだよこっ!?」
その後の言葉は出なかった、ゼロの瞳から放たれた赤い光弾がプラズマウィスプ達を掠
めて横に有った岩を一瞬の内に消し飛ばしたからだ。
「退いては下さいませんか?」
「は、はひっ!!」
ゼロが睨むとプラズマウィスプ達はマリエルの子を散らした様に逃げて行った。それを
見てマナリティアがシミラ族の少女に近付き、優しく声を掛けた。
「もう大丈夫だよ」
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