ヨツケンさんの小説

【短編小説】とある少女


ブルブルスターの工場、プレス機械が立ち並ぶ場所、そこに彼女は居た……


「(私は何なの……)」
気が付けばこの液体の中に居た。それ以前の事は覚えていない、肌に触れるのは何か判らない液体だけ、耳に聞こえるのは水流がぶつかる音だけ、鼻も口も液体に覆われ液体の感覚しかない。ただ唯一視覚だけは……
彼女が虚ろな目を開くとガラス越しに見える工場、毎日同じ動きを何千何万回と繰り返し、ただただ動き続ける、今日もまた同じ動きを何千何万回と繰り返し、それが時間の流れを遅く感じさせる。
「(そういえば……)」
脳の奥底にぼんやりと眠る一つの記憶に写ったのは工場を悪戦苦闘しながら走り抜けるピンクの球体。あの時は何時もと違った、彼に付いて行ってみたいと僅かながら思った。そういえば、彼と一瞬目が合った様な気がした。
「(でも……)」
それは単なる夢幻に過ぎなかったらしい。事実、自分は彼に付いて行くどころか、この液体の呪縛からすら逃れられていない。
「(いっそのこと感情など無ければ良いのに……)」
そうすれば、この死ぬまでに続くであろう時間も感じる事は無かったはずだ。そしたらこんなに苦しまなくてすんだのに。

----コン

ふと、水流と違う音を感じた。何時もは感じない音に思わず虚ろな瞳を開くと、ガラス越しにピンクの球体が写った。必死にガラスを叩いている。
「(〜〜〜〜!!)」
彼はガラス越しに何か言葉を発した後、後ろに下がった。咄嗟に私は彼の唇の動きを見た。そして彼は右手にハンマーを掲げると私に向かって地面を蹴った。私はようやく彼が先程ガラス越しに言った言葉が判った。

絶 対 助 け る か ら

ガラスが割れる音が響いた……
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