星のユービィVさんの小説

【読みきり】魔女の子と絵描きの子(前編)


私は魔女の子である。
唯一、箒で飛ぶことができるだけの小さな魔女。
シルバーの髪に猫の耳、真黒な服が私のトレードマークだ。

小さいころから両親にかわいがられて育ってきた私は、心優しい少女だった。
決して裕福な暮らしではなかったが、とても幸せな時間を過ごしてきたものだ。

ところが、その幸せは長く続かなかった。
両親が通り魔に殺されたのであった…。

両親を失い、親戚の家に引き取られることになった私を待っていたのは過酷な運命であった。
伯父は私を奴隷のように扱ってきた。
毎日休みなしで働かされているにも関わらず、食事は1日一食のみ。
挙句の果てに私を殺そうとまでしていることがわかった。

さらに、伯父が両親を殺した通り魔ではないかという疑惑まで出てきた。
そこで夜中にこっそり話を聞いたところ、伯父が伯母とこのような話をしていた。
「魔女の子どもの標本は外国に高く売れるからな、楽しみだ」
「全くねぇ、でもあの女の子どもなのに未だに魔法を使う様子はなし。 おかしいと思わない?」
「なぁに、どうせそのうち正体を明かすさ。 俺があいつの親を殺したことを話せば怒りにまかせて魔力が暴走する。
そしたら捕獲して売り飛ばすまでさ」

私はショックだった。
こいつらは私の両親を殺したばかりか、私を売ろうとしているなんて…。

こいつらは、こいつらは人間じゃない…。 悪魔だ。

ある嵐の日、私は心に決めた。
このようなところにいつまでもいるぐらいなら、いっそのこと何処かへ消えてやろうと。
伯父と伯母のワインに睡眠薬を入れ眠らせた後、家中を荒らしまわり必要なものを集めた。
お金、旅路で食べる物、衣類など必要なものを探しだした。

荷物がまとまったら、二階の窓を開き箒にまたがった。
そして嵐の夜空へと飛び立ったのだった。

箒は嵐の中を風に流されながら飛んだ。
激しく体を打つ雨、轟く雷鳴。
今自分はどの方角へ向かっているのか、どこを飛んでいるのかすらわからなかった。
このまま何処か誰も知らないところへ消え去ってもいいとさえ思ったりもした。

ふと前方を見ると、うっすらと明かりが見える。
小さな町があるようだった。
すこし寄ってみようと思い、箒を町へ向けた。

しばらく飛んでいくと、足元に広い草原が広がっていた。
とても高い山や美しい海も見える。
まるで楽園のような素晴らしい場所だった。

その時、突然ものすごい強風がつらぬいた。
私はバランスを崩して、箒から振り落とされた。
そして森に向かって真っ逆さまに落ちていった。 もうだめだろうと思い、私はそっと目をつぶった…。


気がつくと、私はベッドの上で寝ていた。
私はあたりを見回した。 あちこちにたくさんの紙や絵の具、キャンバスが転がっている。
壁も天井もボロボロの家だったが、なぜかとても温かく感じた。
箒、私の箒は?
辺りに箒は見当たらない、持ってきた荷物も見つからなかった。

ふと、下に降りれる階段があることに気がついた。 窓の外を見て、ここは二階であることもわかった。
一階に下りると、そこは妙に煙だらけだった。
煙が出ている元を見ると、私と同じぐらいの女の子が窯の中を覗き込んでいた。

「おかしいわねぇ、なかなか火がつかないじゃないの…」
女の子が顔を上げた。 そして突っ立っている私に気がついた。
「あら、気がついたの! ごめんね、まだ朝ごはんの準備ができてないのよ。 火がつかなくて、窯が使えないの」
私に声をかけてきた女の子は、精一杯の笑顔を見せた。
だが、私は彼女の顔をしっかり見ることができなかった。

彼女の服はつぎはぎだらけで、手足もとても細かった。 顔もこけていて一目で栄養失調であることがわかった。
そういえばこの家はあちこちが壊れている。 明かりもランタンが使われているし、まともな家具すらなかった。
ふと、私の今までの暮らしとこの子の暮らしとどっちが悲惨であるか考えてしまった。
いけない、私はなんて愚かなのだろう。 このようなことを考えてしまうなんて。

未だに窯に悪戦苦闘している女の子の様子を見て、私はついに我慢できなくなった。
「ちょっと貸して」
呆気にとられた女の子をよそに、私は薪を調べた。
「どれも湿ってるじゃないの。 これじゃ火はつかないわ」
よく見たら薪はめちゃくちゃに突っ込まれていた。
このような方法では火が付きにくい。
「ねぇ、何か乾いたものってない?」
そう言いながら私は薪を一旦全て出した。
見ていた女の子は「二階に紙ならあるわ、ちょっと取ってくる」
と慌てて二階に駆けあがっていった。

やがて彼女はたくさんの紙を持ってきた。
私はそれを一枚一枚丸めると、きれいに並べた薪の間に入れた。
それに火をつけると、注意深く空気を送った。
ようやく薪は景気よくパチパチと音を立てて燃え始めた。
「ほら、火がついたわよ」
私は女の子の方を振り返って言った。
女の子はちょっぴり恥じらいながら「あ、ありがとう」とお礼を言ってきた。

女の子は窯の上にフライパンを出すと、その中に卵を割って焼き始めた。
あっという間に2つの卵焼きが出来上がり、彼女はそれをパンの上に乗せて持ってきた。
「お待たせ、遅れちゃってごめんね」

別にあなたが謝ることじゃない、私こそあなたにお世話になっているのですから…。
部屋の中を見回すと、ここにもあちこちに絵の具やキャンバスが置かれていた。
1本だけ大きな筆もおかれている。 その筆には小さく『ado-leine』と書かれていた。

「…アド・レーヌ」
と私は小さくつぶやいた。
女の子も私の目線の先に気がつき、うなずいた。
「そう、私の名前。 アドレーヌっていうの。 …そういえばあなたの名前は?」
目の前の女の子、アドレーヌに言われて私はこう答えた。

「…ケケよ。 よろしくね」


後編へ続く

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