Dein(D-in-G)さんの小説

【お題小説】食欲 - Episode of the Kirby -(秋)


 国民の大半以上が“地獄”と口を揃えていた猛暑は過ぎ去った。
今年の夏は別格であった。 既に蝉が鳴いてもおかしくない時期に米が不作だ、台風がくるだ……。
もういい加減涼しくなれとでも叫びたい時期に蝉が喧しく鳴り響き、果物の成長が遅いと夕方のニュースにも取り上げられていたり……。
プププランドも例外ではなかった。 更にあろう事に一国の主である筈の“糞デブエロペンギン(某絵描き少女談)”が熱中症になってしまって国政が遅れるわ、全国住宅のエアコンの6割が暑さで故障するなどと大騒ぎになったのである。
そして――そんな人々の愚痴が過熱し、留まる事を知らなかった猛暑は過ぎ去った。 現在では国民の殆どが秋と言う季節を満喫している。

「リンゴにミカン、ブドウに梨に桃に……」
プププランドの城下に発展する小さな村、名はププビレッジ。 その村の外れの丘にはお茶碗を逆さまに返したような小さな家に一つの球体がジューサーミキサーに多様の果物を抱えていたカゴから取り出して、片っ端から突っ込んでいる。 既に中身は膨れ上がり、今にも果物が飛び出してきそうなそれを、居候の少女は不安げに眺める。
「……大丈夫なの? それ」
そんな少女の言葉に耳も傾けないまま、少年は陽気な鼻歌を歌いながらミキサーの隅々にまで果物を入れていく。 やがて、彼の手にしていたカゴには果物が一つも無かったがミキサーにはまだ少し余裕が残っている。
「うーん……これだけじゃ、物足りないなぁ……」
既にどこをどう見れば物足りないのか……様々な角度から見ると、バナナにミカン、リンゴにブドウと梨と柿……充分過ぎるほどのその容量は見ている方も不安と言う衝動に駆られていく。
「……よし、冷蔵庫にあるサンマ、牛乳、ケチャップ、氷……ある物ぜーんぶ入れましょう♪」
事もあろうに少年はそこにとどめを刺すかのように調味料や魚を投入していく。
見ているほうも、おぞましいその光景は一つのミキサーの中に果物と生ものが混入していると言う夢のタッグ。 上手く蓋を閉めた後に、彼は片手で蓋を抑えて恐る恐るスイッチを押す。 ――見事に回り始めたミキサーの内部は、最初はオレンジ色の綺麗なジュースを表現してくれていたが、やがて少しずつねずみ色がかってくる。
「でーきた!! カービィ特製健康ジュース!!」
「……健康?」
見ている方も、思わず聞き返したくなるそのジュースは既に青汁以上に見る者を不快にさせるものである。 それを少年は平然とミキサーからコップへ注いでいく。 魔女の薬の方が、まだ美味しそうに見えてしまいそうなそのねずみ色がかっているジュースを……彼は笑顔で手にとってテーブルの上においた。
「はーい、アドちゃんの分」
「は!?」
一種の死刑宣告を受けたような緊張。 既に少女アドレーヌの額には脂汗が一筋流れていてその不意打ちがいかに心外な物だったかを物語っている。
「え? 何? もしかして甘いもの苦手?」
「……カー君、それもしかして飲むつもりで作ったわけ?」
約300cc程のカップになみなみと注がれているそのジュースらしき物体を指差しながら、少女は恐る恐る問いかける。 少年の答えは、平然な顔をしての一言Yesだった。 既に少年はカップに口をつけてその液体を喉に通している。 顔色一つ変えないその様子は、上手いのか不味いのか疑り深さをより深刻にさせてしまう。
「早く飲みなよ、折角作ったんだもん……好き嫌いしているからいつまでたってもアドちゃんの身長は伸びないんだよ」
「関係無いな、それ」
キャンパスを開きながら言い返した彼女を見て、カービィはふと立ち上がる。 彼女がどこに行くのかと問いかけた時に、彼は完結的にこう答えた。
「デデデんとこに行く」
そう呟いたカービィは扉を全開にしたままアドレーヌを置いて家を飛び出していった。 部屋の中には、アドレーヌ一人が取り残された状況である。
「……そっか、今日だんなの所でお食事会だもんね。 あたしも行ってこよーっと」
キャンパスブックを閉じて、彼女も衣服の裾を整えなおして立ち上がる。 何も無く彼女はそのまま入り口へと向かって城へ足を向けるはずだったが、何故か彼女はふと足を止めて眉間にしわをそっと寄せる――何か忘れてないかと、後ろを振り向いた先には鼠色のミックスジュースが彼女を待ちわびていたかのように独特のオーラを放っていたのは、内緒の事である。


「ゲッ……カービィ、やはり来たのか」
カービィの家から殆ど時間がかからないほどの丘の上に、その城郭はそびえている。 レンガ質のお城の主は神経を尖らせたような瞳で球体をまじまじと見詰めて、額には一筋の汗をたらしている。
「勿論だとも!! この僕を差し置いてパーチィをするなんて、ご法度モノだよペンギン!!」
「喧しい、ペンギン言うなピンクボールめ。 (……しかし困ったぞ、こいつが毎回来るといつもの様にアレが来るのだから) おい、桃球め。 参加云々以前に二つの条件があるのは知っているか」
デデデが少しばかり不安げな瞳をしながらカービィを見下ろす。 それに彼は含み笑いを浮かべながら、彼に少しばかり近づいて口元を少しだけ崩した。
「この食通のボクにそんな事を聞くのかい……? フフン、大王。 少しは脳年齢を鍛えた方がいいさ……勿論、この日のためにマイ箸とマイフォークは持参さ!!」
「帰れ」
カービィの腹部の部分を蹴り上げてデデデは彼を簡単に“デデデ丘”の坂道向かって蹴り飛ばす。 けまりの様に軽く浮き上がった彼の身体は簡単に坂道を転がって行くが、彼も易々と転がり落ちるわけには行かない。 崖の土を腕の力で踏ん張ると一気に飛び上がり簡単に大王の下へ舞い戻ると物凄い形相で彼は一気に大王に突っかかる。
「帰れとは何だァ!! 世界中の食材が僕のお腹に入るのを待ち望んでいる中で、それは無いだろうよぉ!!」
「……なんだそれ。 まぁいいわい。 折角じゃから条件を教えてやるよ。 一つは他の皆と同じ、食材を二つ以上持参する事」
「もう一つは?」
「……もう一つは、そりゃあ」
その一言で彼の言葉がぶつ切りになる。 少しばかり城の周りが暗くなったかと思えば、二人はふと空を見上げると雨雲のような黒い雲が覆いかぶさっている。 その大きな雲からは一つ目玉がぎょろりと覗かせて、こちらを凝視しているのが分かった。
「……あの、ストーカーダークマターが来る所は、毎回お前さんが来る場所と合致して決まって事件がおきる。
 ……他の一般国民が被害を被る事は避けねばならん、二つ目の条件はあの目玉を殲滅する事じゃ」
「なぁんだ、そんな事でいいんだぁ」
晴れやかな笑顔を撒き散らしながら、カービィは口から一本の剣を取り出した。 お気楽そうなその表情は、余裕綽々と言う言葉が到底お似合いの彼の本質でもある。
「大王、食材ぐらいは僕だって理解していたよ。 まぁ、一つだけだと思っていたけど……その件についてはこの事が終わってからね」
その言葉に大王が感嘆をあげようとしたその瞬間に、カービィは軽く地面を蹴り上げて上空へと飛び上がる。 目の前にいる一匹のダークマターの正面にまで到達したが、彼は目玉から小さなビームを次々と発射して彼に威嚇をする。
「無駄無駄無駄無駄無駄ぁあああ!!」
口元を吊り上げながら裏声全開で叫び続けて、ダークマターの放つビームをいとも容易く剣で弾き返しつつ、ダークマターの正面に飛び込んでくる。 すぐさま彼も、真っ黒な太い光線を放とうと体勢を整えるが、それよりも数歩速くカービィの振りかざした剣が彼の頭部に直撃する。
「ヒャッハァアア!! 観念しなァ!」
鈍い金属音が響き渡り、一匹のダークマターはソードの面部分で強く叩きつけられるとそのまま地面に落下する。 デデデはその様子を微動だにせず見守りつつ、カービィの様子を見届ける。
カービィは、あくどい笑みを浮かべながらダークマターの傍にまで駆け寄ると、そのソードで彼のオレンジの鱗の部分を二つほど引きちぎる。 満足げにその“戦利品”を見つめながら、口から一つのトマトを取り出した。
「ハイ、戦利品のマキシムトマトとでっかい牡蠣(カキ)」
これが二つの食材だとも言いたいのだろう、しかし現実というのは厳しいのである。
笑顔を撒き散らしながら呟いたカービィに向かって、デデデは冷徹なセリフを彼にぶつけるのであった
「帰れ」


 その頃、カービィの家にいたアドレーヌと言えば……
「カ、カー君の奴ぅ……今度会った時にはカエルのフンを混ぜたジャムパンでも食わせてやるぅ」
冒頭でカービィが作った“特製ジュース”。 お人よしの彼女は素直に洗面台に捨てればいいものを口にした後、激しい腹痛と吐き気にもよおされてカービィの家の中でうずくまる事になる……。
ちなみにその後、カービィが帰って来た時に発見されて彼女は急いで病院に運ばれた。 幸い大した事ではなかったが、この事件以来彼女はジューサーミキサーに何故か猛烈なトラウマを持つ事になる……。

「いつも好き嫌いするからだよ! 僕みたいに何でも食べれば、そんなことにならないのに」
「黙れ!!」