大佐さんの小説

【戦士の憂鬱】Stage 5


星のカービィ fifth



「―――なっ」



狭い通路が開けると、そこにはマントに覆い隠された……メタナイトがいた。



「……はやい! メタナイトの逆襲イベントにおいて、今からこいつと戦うなんてことは……!」

第一まだ、メタナイツとの戦いすら終わっていない。

だが、メタナイツは船長と共に逃走をはかっており、戦うことはまず有り得ないのだが、カービィらがその事実を知ることはない。



そうこう考えているうちに、メタナイトが、ゆっくりとマントを翻した―――。





「カービィ! おいこら返事しろ!」

「駄目だ……全然聞こえちゃいねぇ」

電池切れの無線に向けて必死に声を投げかけるリック・カインの二匹。

「電池切れだなぁ、こりゃ」

リックが頭をかき、無線を放り出した。さほど音を立てずに無線が地面に転がる。

何が起こっているか分からないが、助ける術などないだろう。

「だが……この胸騒ぎ……」

全身を駆け巡る血流は、一体何を教えてくれているのだろう。

その答えを知る術は無かった。







―――ガッギィン!



衝撃で揺れる視界の中、クーはカービィの姿をとらえた。

メタナイトの、突進のスピードを生かした斬りつけを辛うじてソードで受け止め、自分を守っているカービィ。

クーは驚きに目をみはり、そして何も出来ずにいた。

「……その程度か」

メタナイトのつぶやきと共に、横一閃を途中で止められた剣が引かれ、袈裟斬り、兜割りとしてカービィを襲う。

「……ぐっ」

それらをギリギリの位置で止めるカービィ。鋭い金属音と共に、わずかに火花が散る。稲妻を模したギザギザの剣は、斬った者の力を吸うと言われる業物。うかつな行動は出来なかった。

刀身のギザギザで敵を切り刻み、ダメージで動きを鈍くし、さらに斬りかかるメタナイトの姿は悪魔そのものだという。

その言葉を反芻し、カービィは汗で湿った柄を再度握りなおす。

鍔迫り合いが続き、少々手が麻痺し始めている。仕掛けるなら今しかない。

カービィの頭の中で文字が閃く。

―――先手必勝。

「はぁぁっ!!」

頭上で掲げた剣に全ての力を込め、掛け声で集中、爆発させた。鋭く剣を押し上げる。

兜割りを止めた状況下なので、全ての力といってもさほど大きくないものだが、力を入れ続けて麻痺したメタナイトにとっては十分な効力をもった。

大体頭の上ほどで止められた剣と共に、メタナイトが押し返され、たじろぐ。



千載一遇―――これ以上と無いチャンスだった。



万歳のような格好をしているメタナイトに照準を合わせ、カービィは鋭く地を蹴った。

一直線にメタナイトめがけ飛び、勢いに任せ剣を振りぬく寸法だ。

受け止められてもそれを弾き飛ばす。受け止められなかった場合は言うまでもない。

カービィは勝利を確信した。

だが、



「甘い……お前のしていることは愚かだ……」



声がしたとたん、体中から力が抜けた。

振りぬきは完璧だった。照準も問題ない。だが、手ごたえが無かった。

メタナイトは振り抜かれた剣を後ろに倒れるようにして避け、続いて飛んでくるカービィを斬りつけたのだ。

彼からしてみれば剣を掲げた程度だろう。だが、カービィのつけた勢いで破壊力を上げてしまった。

攻撃をいなして反撃に移る、これぞメタナイトの真骨頂だった。

「ぐっ……」

勢いを殺がれて地面に倒れこむカービィ。鉄のヒヤッとした感触と、体温が奪われていくような感覚。

傷は浅いが、何か体中の力がなくなったように入らない。やはり、噂に違わぬ切れ味と能力。

カービィは、苦しげにうつぶせの状態から顔だけをメタナイトに向けた。



「ようやく気付いたか……『ソウルイーター』触れたものの生命力を吸い取るという魔剣らしいっすよ」

「語尾が変なだけでかなり雰囲気変わるな……」

「うるさい! とにかく、もうお前の命も終わりだな」

死刑宣告をするような、哀れんだような目でカービィを見るメタナイト。

そして、魔剣がゆっくりと振り上げられる。

力が入らない体のせいか虚ろな目をするカービィに、終焉をもたらすために。







「羽根飛ばし・ミラクルッッ!!」



ツタツタツタツタツタッ―――

クーが叫ぶと、魔剣に数十本の羽根が突き立った。

「貴様……味な真似を……ッ!」

メタナイトが羽根を振り払うように魔剣を振るう。暗黒のオーラを周りに漂わせるとなお好ましい。

「こんなことをしてただで済むと思―――」

「散れ……ウィング・ツィスター!!」

メタナイトの台詞を早々に打ち切ると、クーは華やかに踊り始めた。

途中でクーから離れた羽根が舞い、妙に神々しい。未完全ながら、ハルバート艦内でクーが起動した行動の一つである。

「な……こんな前例は見たことがない……視界撹乱か? いや、あまりに不足すぎる……」

華麗に過ぎる時。束の間の安らぎ―――。

そう、『束の間』の。



「いけぇえぇえぇええぇええぇえええぇっ!!!」



クーは、『奥義』形成の最終段階に入っていた。

全ては準備であり、隙を作る為の作戦であり、また、切り札であった。



「しまったっ―――」

クーのこれからの行動に気付いたメタナイトが、慌てて斬りかかろうとするも、



時、既に遅し。



「遅いぜ」

クーが両翼を激しく振ると、一つの竜巻が発生した。

準備に著しく時間をとる、クーの最終奥義の一つ。



「ふ、ふはは……驚かせやがって。ただの竜巻じゃないか」

メタナイトが竜巻をそう評価し、『ソウルイーター』で一刀のもとに両断してやろうと決めた―――そのとき。

周りを飛び交っていた羽根らが、メタナイトを襲った。

「ぐっ!?」



「ははははは! 気付くのが遅すぎだ!」

「な、なんだと……」

「この竜巻は、準備で飛ばした羽根を高速回転させた空気にあて、四方八方に散らして敵を攻撃するというクー流一子相伝奥義だ!」

正直一子相伝ではなく、クーも子に教えるつもりはないのでつける必要は無いが、クー曰くカッコつけたいだけらしい。

「なんだと!?」

「二回も言うな二回も」



そういっている間に、竜巻はメタナイトのもとに急接近していた。

「あ、忘れてた! この説明時間で相手の注意を引き、竜巻の接近速度上昇に気付かせないって言う作戦だからな!」

クーの言葉と共に。



「しかし所詮は羽根……はっ!」

鋭い掛け声と共に振られる刀身。そこに同じほどのレベルの竜巻が作り上げられていた。

「うあっ! 卑怯だぞこのヤロウ!」

「知るかっ!」



そのまま竜巻はぶつかり―――合わず、クーのほうの竜巻だけが巧みに右方向に逸れて、そのまま左方向に軌道修正、スピードを段々と増しながらメタナイトを飲み込んだ。

「あはっ♪ 悪いね、コントロール可能だから♪」

「このやろおおおおおおおぉぉおぉおぉ……」





竜巻の中で押し合いへし合い、乱舞する羽根に随所を斬られ、果てに高く巻き上げられる。





「ジ・エンドだぜ」



カッコつけるクーの後ろで、どしゃ、とメタナイトが地面に墜落した。

「クー♪」

「カービィ♪」

カービィとクーは、強敵を撃破した余韻に浸りながら互いの場所に走りよった。

「俺……やった! やったぜカービィ! 褒めて! もっと俺を褒めてくれ!」

なにやら怪しい幻覚を見ているらしいクーは、彼の人生(鳥生?)の中でもっとも喜びに満ちた瞳をしていた。

「っっっってめぇぇぇええええ!!!!!」

対するカービィは、どす黒いオーラを隠すことなく放出している。彼の人生(?)の中でもっとも憎しみに満ちた瞳をしていた。

「よくも俺のライバルを独り占めしやがったな……」

「カービィ痛いぜ、フフフ……」

クーは幻覚のほかに幻聴にもさいなまれているらしいので、カービィの怒りは爪の先ほども理解できていない。もう目は既に逝っている。

「せっかくあの辺まで追い詰めてたっていうのによ……」

「あれはまぐれさ。ああ、偶然に偶然が重なっただけさ(メタナイトを倒した感想を述べている)」

「(青筋が立つ)あれは全て計算づくだったんだが?」

「ありえないって。ハハハ。バカが計算なんかするわけないだろ?(自分の一連の行動は全て火事場のバカ力だったということを解説中)」

「………………お前、調子に乗ってるだろ?」

「調子に乗って攻撃すると痛い目を見ると今日よく分かったぜ。ほら、腹に浅く切り傷が(自分の行動を反省しての言葉だが、カービィをけなしているようにも聞こえる)」

「(ブチブチブチッ!)お前という奴は……」

「気にするなって。俺とお前はトモダチ。敵を共に倒すのは当たりま――――ゴフッ!?」



そこまで言って、クーはがっくりとひざを突いた。といっても、フクロウの出来る範囲で。

「クー!? どうし――――がはっ!」

カービィも続いて倒れ伏した。力の消耗が残っていたと考えたほうが正しい。



「言っていなかったか? この魔剣の銘はソウルイーター……『魂を喰う者』だと……」

先ほど竜巻で吹き飛ばした場所に立つ、クーとカービィを恐ろしい形相で睨むメタナイトだった。

「き……さま……っ、さっき俺が……成敗した……はず……っ」

「成敗だと? あの程度の攻撃で倒したとでも思っていたのか? まぁ、思っていただろうな。敵から視線を外し仲間と戯れていたんだからな!!」

「ぐ……っ……」

「この剣は特殊でね、斬った傷が浅ければ浅いほど攻撃力が増すというおかしな能力を持っている。それは力を吸う能力と併せて持つものだ。つまるところ、『浅ければ浅いほど力を多く吸える』ということに置き換えられるかな?」

「―――――なにっ!?」

「あの竜巻も剣で引き裂いた空気だ。その力をきちんと移植されている。お前らがまんまと油断したのが俺にとっては幸いだったな」

つまり、メタナイトが起こした竜巻が力の消耗を引き起こしている、ということである。

「そして、真相を知ったところでゲームは終わりだ。さらばだ、勇敢なふくろうよ――――」

「―――――!!!」

刃先がスローモーションで近づく。クーは微妙ながら、『死』を感じ始めていた。

(ちっ、家に置いといたリンゴ食っておけばよかった)

そんな陳腐な後悔と共に。



助けを呼ぶのはもうゴメンだ―――。







「―――?」

「どうした、リック?」

海の上。カインにリックが乗る形で、カービィたちを探索中である。

「いや……別に、何も……」

「悪いものでも食ったのか? 海水飲む?」

「遠慮しとく」

さっき叩き潰したメタナイツと変な鳥がまだこの辺に浮いているかも知れないし。そうリックは思った。







「…………ふぅ……っ」

「か、カービィ……?」

クーが目を開けると、腕に剣を深く食い込ませたカービィがメタナイトとの間を埋めるように立ちふさがっていた。

「カービィ……ほぅ? いつからここまで自分を犠牲に出来るようになったんだろうな?」

あざけるようにその情景を見下ろすメタナイト。

「…………?」

“いつから”?

確かに巷に流れる噂では、メタナイトとカービィは昔から確執があると聞く。だが、カービィの全てを知っているようなこの口ぶりは一体、なんだ?

クーがその答えを導き出す前に、

「ふざけるな……」

地を這うような、カービィの憎しみが詰まった声が吐き出された。

「お前なんかに、何が分かる!!」

「フフフ、いい返事だ。今日はなにやら嫌な予感がする、ここで終わりにさせていただくよ」

メタナイトはそういったと同時に、剣を渾身の力を込めて引いた。

「まて……っ―――ぐあっ―――!!」

そのギザギザの刃に腕を完膚なきまでに切り裂かれ、がくんと糸の切れた操り人形のように倒れた。

「カービィ!」



クーの叫び声が遠く、かすれるように薄れていく……。





Stage 5 fin