ちゃせんさんの小説

【短編】座談会


「……さて、なんだか暗いな、この部屋」
「モノがモノですからね。だって今回は、”ドキッ! ラスボスだらけの座談会”ですから」
 また古臭いネーミングだな、と返すのは、ご存知プププランドの自称国王、デデデ大王である。赤いガウンに、同じ色の帽子、たらこ唇と迫力のある瞳が威圧感を放っている。
 その横で実にいきいきとした様子で話しているのは、大王の半分の背丈もないかと思われる、ワドルディである。
 二人の手にはきらきらと光るマイクが握られていて、広い座敷のようなところに並んで立っている。
 部屋は薄暗く、お世辞にも居心地が良さそうには見えない。
 そんな中、実にくつろいだ様子で大王たちの前に車座となって座って――という表現も適切ではないかもしれない――いる者たちがいた。
 マントに身を包んだ、尖った鼻と顎が目印の魔法使い。全身黒ずくめの一つ目剣士。その横にはまた一つ目の丸いもの。
 そしてその隣に、二回りほど大きな白い目玉状の生物が二体。片方は天使のそれに似た輪を浮かべている。
 そして、そこから少し離れて座っているのは、二股に別れた帽子をかぶり、大きな靴を履いた、これまた魔術師風の者。

「これだけ見ると、えらく不気味というか、公共の電波には間違いなく乗らない光景だな」
 ぐるりと座を見渡してぽつりとつぶやいた大王に、一同から熾烈な視線の攻撃が浴びせられる。
「お前だってこちら側だろう、どっちかといえば」
 一つ目剣士――ダークマターが、ぼそぼそと抑揚のない声で、しかし鋭く言う。
 それに続くようにして、うん、そうだ、お前もこっちだ……と、同意の声があちらこちらから漏れ出る。
 大王はそれに対して憤然とした面持ちになり、マイクをぎゅうと握った。
「なんだなんだ。わしゃお前らとは違うぞ。最初こそただのボス……か、と、思いきや! その後はすっかりレギュラーとして日々大活躍してるじゃないか! それにキュートにしてダンディな、この瞳、この顔!」
 一語一語区切りながら、さらに握力を強くして力説する大王。一同の間に、しいん、という物理的にあるはずのない音まで聞こえてきそうなほどの静寂が染み渡る。
 ない、それはない、ないよね、ないない。先ほどとは反対に、一斉に否定の声が挙がり、むっとする大王を尻目に、ワドルディは苦笑いを浮かべつつ司会の業務を始めた。
「……さて、大王様は司会じゃなくて参加者のほうが良かったんじゃないか、なんて思いますが……」
 ぎろりと睨む視線を感じて、ワドルディは冷や汗を大量にかきながらも、咳払いをして続ける。
「今回は”ドキッ! ラスボスだらけの座談会!”ということで、今までカービィに倒されたラスボスのみなさん……の、一部の方にお越しいただいてます」
「なんだ、けちくさい」
 鋭く入る大王のつっこみ。司会という立場はどこへ行ったのか。
「まあ、諸般の事情っていうか。言い換えればここにいる皆さんは選抜をくぐりぬけた選ばれし者なんですよね」
 物は言いよう、というものである。
「さて、じゃあ、順番にお話を聞いていきましょう。と言っても、今日はごちゃごちゃといろんな質問はしません」
「要は、ちょっとした思い出を語ってもらう」
 急に役目を思い出したかのように、すかさず大王が口を挟む。この場合、そういう表現は適切でないかもしれないが。

「つまり、”悪巧みした挙句に見事倒されてどんな気持ちですか?”ってことなんだネ」
 相変わらず飄々とした態度を崩さずにマルクが言う。
 よ、っと、などと掛け声をかけつつ、器用に玉に乗って遊んでいる。
「ま、あれだ。しょうがないかなーって。エンディング迎えるには僕が譲歩してあげないとしょうがないでしょ」
 玉の上でバランスを取りながら、テレビの前のお子様たちにはカタルシスを……などと若干次元を超えた御託を並べ始めたので、大王は一発咳払いをして遮る。
 随分と嫌な表現をするものだな、と内心で苦笑しつつ、ワドルディはもっともらしく頷いてみせ、インタビュアーとしての役目に徹することにした。
 大王はというと、胡乱な眼差しを遠慮無くマルクに向けている。こちらはすっかり役目とは関係ないところに身を置いてしまっている。

「じゃあ、次は……目玉さんたち」
「まとめるんじゃない」
 感情など抱いていないはずの単眼生物たちが、底冷えのするような鋭さで声を唱和させる。
「……えーっと、じゃあ、剣士ダークマター……さん?」
 あまりたじろいだ様子も見せないワドルディだったが、代わりにめんどくさそうにかぶりを振って、その名を呼ぶ。
「うむ」
 この中では一番まともな生物に近い外見をしているかもしれない。マントとゴーグル、そして剣が印象的なダークマターである。
「まあ、何だ。目的は潰えたが、私のかっこよさは十分世間に知らしめられただろうな」
 周囲を沈黙が支配する。
「見よ、この私のスタアァァイリッシュな頭、そしてこのゴーグル、極めつけは風にはためくこのマント! 何処をとっても完璧だ」
「……そもそもラスボスじゃないんじゃ……」
 普段のキャラクターは何処へやら、すっかり自己陶酔に浸りきっていたこの暗黒物質に、何処からか無邪気な、そして素朴な言葉が深々と突き刺さった。
 大王とワドルディには、極端な気持ちの上がり下がりが眼に見えるようだった。
 すっかり元気を無くしてしまった剣士ダークマターは、何事かをぶつぶつと呟いているが、ちっとも聞き取ることはできない。
「どうなんでしょ、第一形態と第二形態……ってことだから」
 横にちょこんと座っているダークマター、こちらは人型ではないが、それが付け加える。
 しかし、剣士の方はというと、そんなフォローも聞こえていない様子である。

「……えー、じゃあ次に行くか。白目玉」
 自分よりも大きな目玉にぎょろりと睨まれ、大王はぞくっと寒気を感じる。
「ゼロ、さん」
 ゼロは、言ってしまえばただの目玉である。よって、いったい感情などというものを持ち合わせているのか、いたとしていったい何を思っているのか、全く分からない。
 威圧感と恐怖が周囲に濃く滲んでいるのだけは確かだが、それにしても不気味な姿であると、大王はしみじみ思う。
「……皆、私を誤解しているな」
 ぽつり。どこから発されているのかは定かでないが、そんな声が目玉の中から響く。
「私の評価といえば、”トラウマ”だの”グロテスク”だの、ろくなものがないじゃないか。このシンプルなデザインと、苺のようなフレッシュな赤、そして無垢な白とのコントラストが、私の持ち味だというのに」
 表情などないにもかかわらず、そこには憤慨の色がしっかりと出ているから不思議である。
 カービィと戦った当時よりも、幾分か感情らしきものを覗かせているようにも見える。
「それにしても……最後のあれはないんじゃ……」
 おずおずとワドルディが割って入るが、またしてもぎろりと一瞥をくれ、ゼロは続ける。
「あれは……ちょっとしたミスで」
 ミス。一体何をミスしてああなったのだ。大王は口の中で溢れそうになる言葉をぐっとこらえて、続けるように目で促す。
「あんなに痛いと思わなかったんだ、カービィの攻撃が。だからつい気が抜けて……」
「飛び出したのか」
 ぶるん、とダイナミックに体を震わせて頷くゼロ。
「……まさか、そんなわけだったとは」
 冷酷無比なはずのこの生物に、何故か親しみめいたものを感じる大王であった。

「えーっと……じゃあ、ゼロツー、さん?」
 ゼロの隣に鎮座している、ゼロと似たような構造の生き物。違うのは、まるで天使のような輪が浮かんでいることや、羽根のようなものが生えていることである。
 ゼロツーは呼ばれたことにしばらく気づかない風であったが、少し遅れてそれを知覚したようで、大儀そうに体を起こし――転がし、自分の名を呼んだ者の方を見やる。
 その真紅の視線にさらされると、やはりあまりいい気持ちはしなかった。
「……私も、こいつと同意見だな」
 そう言ってちらと傍らのゼロを見やる。
「私なんて、こんなにかわいらしいエンジェルの姿をしているのに、なんで女の子に人気が出ないんだ」
「エンジェル! はははは、鏡をじっくり見れば……」
 大王は思わず腹を抱えて笑ったが、案の定それはこの目玉の怒りを買うことになる。


「えーっと……大王様がちょっと粗相をしてしまいました、が、続けていきましょう」
 部屋の片隅には頭に大きなたんこぶを作って、大王が伸びている。……いったいどうやって殴られたというのか。
「じゃあ、次は……ナイトメアさん」
「ちょっと待った」
 最後に呼ばれた、マントをまとい、尖った鼻と顎が特徴的な魔術師風の男。
「私は”ナイトメア・ウィザード”だからな。正式に呼んでくれたまえ」
「……はい、じゃあ、ナイトメア・パワー……違った、ナイトメア・ウィザードさん」
 正直第一形態と第二形態なのだからどうでもいいのでは、と思いつつも、大王が相手の機嫌を損ねたあげくどうなったか見ているワドルディは、その指示に従う。
「私のこのエレガントなヴィジュアルは、皆当然分かっているだろうから、改めては触れないぞ」
(誰も思ってないよ)
 ワドルディはつい、心のなかで毒づく、。
「ま、私の計画は失敗したが、結局そのおかげでシリーズも今日まで続いている……といったところか」
「はあ……」
 意味が分からない、と顔にそのまま書いたような表情を作って、ワドルディは相槌を打つ。
「私たちという悪役がいたからこそ、カービィの活躍もあったんだよ。つまりシリーズが続いているのは我々のおかげでもあるわけだ」
「なるほど」
 その言わんとするところは、ワドルディの理解も追いついてきた。
「そうですね、確かに……こう言うのも変ですが、事件あってこそのカービィの活躍、とも言えますよね」
「そう。まあ、主人公が最後に勝つ、というのは悔しいがしょうがないな」
 そうだ、そうだ。一堂に会したラスボスたちが頷きあう。いつの間にか立ち上がっていた大王もそれに続く。
「まあなんといっても、シリーズ最初の悪人は俺様だからな。つまり一番偉いのはこのおれさ……」
「それは違う」
 一斉に否定の言葉を浴びせられて、大王は憤懣やるかたない様子ではあったが、ずかずかと元の司会席に歩み寄る。
「……まあ、急ぎ足で振り返ったわけだが、これからも我々の活躍が続くことを祈ろうか」
「そうですね、大王様……あ」
 小さな部屋の入口で、なにやら物音がする。
「どうやら新入りが呼ばれたみたいだな」
 誰かがぽつりと言う。
 果たして、今度はどんな悪役が、物語を盛り上げてくれたのだろうか……?
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