ちゃせんさんの小説

【10周年記念作品】思い出記念日



「うんしょ、うんしょ……」
 今年初めての木枯らしが吹いてから何日か、木の葉もすっかり散り、プププランドは冬模様である。
 寒風が北から南へ吹き抜ける中、鈍色の空の下を、カービィは両手いっぱいになにやら大荷物を抱えて難儀している様子だ。
「ふう……さすがに寒いなあ。マフラー巻いてくればよかった」
 一体その体のどこにマフラーを巻くというのか、一人ごちてまた歩き出す。

「お、カービィ」
 荷物の下敷きになった格好で歩くカービィに、上方から声をかける者がいた。
「あ、クー。やっほー」
 クーと呼ばれたのは、紫の鮮やかな羽をなびかせたフクロウである。
「……何やってんだ、お前まるでコナーだぞ」
「んー……お菓子をいっぱい買ったら、こんなになっちゃって」
 食べ物のこととなると特に見境がなくなる、相変わらずのカービィらしさだ。クーはそんなことを考え、大きなため息を一つついた。
「しょうがないな。俺がちょっと持ってやるよ」
「やった! ありがとークー、大好き!」
「はいはい」

「さて、と」
 開け放しになったドアのそばに、大きな袋が四つ、どさどさという音とともに無造作に置かれる。
「こんなもんかな。……しかし、よくもまあこんなに菓子を買い込んだな」
「まあね、パーティーするならこのくらい用意しないと」
 パーティー、と復唱し、クーは訝しげな表情を作る。
「……何か記念日でもあったかな」
「うん、おかし記念日」
 満面の笑みのカービィと、そのままの表情で固まるクー。半開きのドアを、冷たい風が吹き抜ける。

「おかし記念日なんて、あったか」
「作ったの」
 またしても、妙な沈黙がしばしその場を支配する。
「一体何をする記念日なんだ?」
「お菓子を食べるの」
 カービィはあっけらかんとした顔で言い放つ。あまりに純粋すぎて、裏に何か潜んでいはしないかと勘ぐりたくなるほどの笑顔である。
「それだけ?」
「それだけ」
 クーは今ひとつ釈然としない面持ちのままではあったが、それなりにカービィの言う記念日を理解したつもりではあった。むしろ、あまりにも簡明すぎて逆にすっきりしないと言ったほうが正しいかもしれない。
「じゃあ、準備してるからさ、リックやカインたちも呼んできてよ」
「あ、ああ。分かった」
 クーは北風を切って素早く飛んでいく。その姿を見送ると、カービィは一人でニコニコ笑いながら、鼻歌交じりに袋をがさがさと漁り始めた。

 それから三十分ほどのち、ひときわ目立つ大所帯が、カービィの家に向かって歩いてきた。
「あ、みんなだ」
 カービィは表へ飛び出していく。そこには、かつて、虹の島の冒険でカービィとともに戦った仲間たちが勢ぞろいしていた。
「突然呼ばれたからびっくりしたぜ。なんかうまいもん食わしてくれんだろ?」
 開口一番そう言い放ったのは、ハムスターのリックである。
「もちろん! でもいきなりそういうこと言うのって、さすがリックだなあ」
「お前に言われたかねーや」
 そう言って笑いあう二人。あけすけな性格のリックは、仲間の中でもムードメーカー的な存在である。
「やあカービィ、今日は招待ありがとう〜」
 リックの横に顔を出したのは、マンボウのカイン。大きな瞳を輝かせている。
「カインもありがとう。こうやって集まるなんて久しぶりだなあ」
「そうだねえ。なんだかんだで、こうやってみんな集まる機会ってないもんねえ」
 カインは軽く跳ねるようにして、ひれをばたつかせている。
「カービィ、そういえば、グーイはどうしたんだ? お前ん家に住んでるのに」
「えっとね、もうすぐ帰ってくるはずなんだけど……あっ」
 カービィの視線の先を、三匹ともが見やる。遠くで、何か黒く丸い物体が飛び跳ねながらこちらへ接近してくる。
「カービィさーん」
 長い舌の先に袋をぶら下げ、グーイがカービィたちの方へとやってくる。
「頼まれてた飲み物買ってきましたよー」
 カービィのもとへたどり着くなり、グーイは舌から器用に袋を外し、カービィに手渡す。中には、色とりどりの液体が入った瓶ががちゃがちゃと音を立てている。
「ありがとグーイ! じゃあみんな、寒いとこで突っ立ってるのもなんだから、中にどうぞ」
 カービィはリズムを取るように小刻みに揺れながら、ふんふんと歌いつつ家の中へ入っていく。残る仲間たちも後に続いた。
 
「おぉ……」
 三匹の声が唱和した。決して広いとは言えないカービィの家ではあるが、壁には色とりどりの紙を使った飾りが貼りつけてあり、部屋の中央に鎮座するテーブルの上には、たくさんのお菓子が並んでいる。
 買ったものと思しき無敵キャンディーや、お菓子の範疇に入るかは定かでないが、ともかくカービィの大好物であるマキシムトマト。それぞれの好物も取り揃えてある。
「うわ、このリンゴ味のスナック、おいらの好物だ!」
 リックは早速好物を見つけたようで、無邪気に目を輝かせて皿の前に飛んでゆく。
「まったく……相変わらずだな」
 そんなことを言いつつも、クーの視線は深皿に盛られた甘納豆に注がれている。
「わあ、おいしそうだなあ……」
 カインは柔和な笑みを浮かべて、酢昆布を見つめている。
 カービィはそんな仲間の様子に喜びながら、コホン、と咳払いをした。

「えーっと……今日は、”おかし記念日”のパーティーに集まってくれて、ありがとうございます」
 しゃべることなど全く得意ではないのだが、カービィは一応の形を作ろうとしているようであった。
「特に何もないんですけど……とりあえず、おいしく楽しくお菓子を食べてくれたらうれしいな!」
 ぱちぱち……と拍手の音。カービィは少しだけ赤くなりながら、早速テーブルの前にスタンバイする。
「じゃあ、いただきます!」
 仲間たちも後に続く。

 外は相変わらずの冷え込みであったが、カービィの家は、その狭さも手伝ってか暖かい空気に満ちている。
「わあ、これ美味しい」
「うん、いける」
 たったの5人――単位が正しいかは定かでない――という少数でも、まさに『賑わい』と表現しても差し支えないであろう。
 口々にお菓子を褒めては、幸せそうな表情を浮かべている。
 そんな中でもカービィやリックは質より量という感じでたくさんのお菓子を食べ続けていたのは、言うまでもない。
 カービィが珍しく吸い込みを発動しなかったのは、主催者という立場に一応あったからであろうか。

「ふぅ……おいしいものを食べると幸せになれるねぇ」
 カービィはぽんぽんと腹のあたりを叩きつつ、どっかと座り込んだ。まるで締まりのない顔である。カービィを知らない者にこの姿を見せて、彼のこれまでの活躍を話して聞かせてもにわかには信じがたいかもしれない。
「たしかに。嫌なことがあったって、うまいもん食って寝りゃすっきりだ」
 リックもその横でまるで同じ体勢を取りながら、腹のあたりをどこん、と叩く。
「おいしかったですねー。あ、片付けは僕がやりますよ」
 グーイは長い舌を器用に操り、空になった袋を集めて袋に入れていく。
「そういえばカービィ」
 ふと、満足そうな顔をしていたクーがカービィの方へ向き直る。なに、と聞き返すカービィに、クーは軽く小首をかしげながら聞いた。
「そもそもどうして、お菓子記念日なんて思いついたんだ? 普通にお菓子パーティーみたいな催しを開いても同じだろう」
 うーん、と、カービィも少し体を傾げ、宙を見つめて考えた。しばらくそうしていたかと思うと、笑顔でクーの方を見て言う。
「なんかさ、”記念日”ってさ、特別じゃない。そんなに毎日毎日記念日作ってたらありがたみもないけどさ、たまになんでもない日を記念日にするのも楽しいんじゃないかなあって」
 ふむ……と、4人分のため息。
「なんでもない日だけど、記念日にして、みんなで楽しくお菓子を食べておしゃべりして、楽しい思い出が作れたらいいなあ、と思うんだ。それに、僕らにとっては何でもない日でも、どこかの誰かにとっては特別な記念日、っていう日もあるんじゃないかな」
 たしかに。そんな声がどこかから聞こえた。
「まあ、今日はみんなに楽しんでもらって、ちょっと特別な気分を味わってもらおうって思っただけなんだ。なんだか記念日って、わくわくするしね」
 カービィはそう言って片目をつぶってみせる。瞳に宿ったまばゆいほどの純粋さは、昔から少しも変わっていない。
「確かにね。今日はとっても楽しかったよ。久しぶりにみんな勢揃いしたし」
 カインは穏やかに微笑み、ひれを振っている。リックもクーもグーイも、皆が晴れやかな顔をしていた。
「まあ、そうだな。記念日って思ったら、少しだけ特別な感じだな。なんだか、共通の記念日があったら、色んな人と友達になれそうな気がする」
 でしょ? にかっ、という形容がぴったりな笑顔で、カービィは頷いてみせる。
「で、さ。実はね……」



 翌日。太陽もそこそこ高く登り、青空が広がっている。相変わらず空気は冷たかったが、すっきりと冴え渡る冬の朝である。
「ん……今日もいい天気だ」
 小高い山の上にそびえるデデデ城、その一角の広いバルコニーで、デデデ大王は朝の紅茶を味わっていた。
「果てしなく広がる平原に、吹き抜ける冷たい風……たまらんな。ふっ」
 どこか遠くを見ながら、大王は紅茶の香りで鼻を満たす。
「ん……?」
 山の向こうに、黒い豆粒ほどの影が浮かんでいる。そしてそれは、急速にデデデ城の方へと近づいてくる。
「な、何だありゃ」
 内心うろたえてはいたが、大王は誰にともなく見栄を張って、少なくとも外面は繕ってじっとその影を見ていた。

「だーいおーう!」
 大王の耳に入るのは、聞き慣れた高めの声である。その声に混じって、飛行機のエンジン音のようなものも聞こえる。
 大王が何か応えをする間もなく、カービィは甲高い音とともにバルコニーに着地した。
「お前な……ジェットなんか使わなくたって、もっと普通に来れるだろう、普通に」
「だって今日はジェットな気分だったんだもん」
 なんだそれは、とつっこむのを忘れずに、大王は盛大に溜息をついた。
「で、今日はなんだ」
「えっとねー、今日はお城の食堂を貸して欲しくて」
「食堂? なんでだ」
「まあ、ちょっとね。いいでしょ?」
 大王は怪訝な表情を崩さなかったが、まあいいだろう、と承諾の返事をした。
「ありがと! じゃあお昼すぎから借りるね。大王も来てよ」
「ん? あ、ああ」
 じゃーねー、と言い残し、カービィはまた飛び去っていく。騒々しい奴だ、と思いつつも、大王は何故か少しだけ安心感を覚えたのだった。

 そして昼過ぎ。デデデ城の一階にある、広い食堂は賑わっていた。長いテーブルには、たくさんの料理が並んでいる。
 広大な部屋が、食欲をそそる匂いでいっぱいになっている。
 そこには、カービィやリック、カイン、クーにグーイ、そしてデデデ大王の姿もある。さらにはウイスピーウッズやクラッコといった大王の部下も集い、更にはメタナイトやその部下たちまでも顔を見せていた。
「まったく……いきなり呼びつけたと思ったら、なんだこの騒ぎは。私は静かなほうが好きで……」
 メタナイトはグラス片手になんやかんやとぶつぶつこぼしてはいたが、部下たち曰く「けっこう楽しんでるみたいです」とのことであった。
 そんな喧騒のなか、カービィは最前列に用意された箱に乗ると、こほん、と咳払いをして話し始める。
「えーっと、突然呼びつけちゃってごめんなさい。でも、今日はみんなと色んな思い出を語り合ってみたいな、と思って、こういう機会を設けました」
 会場はざわざわとどよめく。思い出も何も、ここにいるメンバーの大半は、過去にカービィと一戦交えた経験のある者たちばかりなのである。
「たしかに、色々あったけど……でも、僕はみんな、友達になれると思ってる」
 いつの間にか、ざわついていた会場は静寂に包まれていた。
「たしかに昔は敵同士だったかもしれない。けど、今はこうやってみんな平和に暮らしてる。だったら、新しく友達になってもいいと思うんです」
 何人かは、なるほど、と軽く頷いている。メタナイトなどは相変わらずそっぽを向いていたが、それでも視線だけはチラチラとカービィの方に向けられている。
「だから今日は、僕らの友達記念日。みんなで美味しい物を食べて、楽しく過ごしたい」
 また会場はざわざわとしだしたが、そのざわめきは先ほどとはまるで性格の異なるものである。
「みんなで、友達記念日を祝おう! 色々あったけど、みんな、友達さ!」
 カービィの明るい声が、冬の空に弾けた。
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