ちゃせんさんの小説

【The Darkness Thunder】 プロローグ


The Darkness Thunder

序章 Prologue.光を宿す少年

 ――とある湖のそばに、小さな家があった。
 その古びた木の扉は無残に砕かれ、今はその材質と色ほどしかとどめていない。
 うるさいほどに鳴き続ける蝉とは対照的に、家の中でうずくまる男女とそれを冷徹に見下ろす男達の間には、静かで冷たい緊張が流れている。
 女の手にはまだ小さな赤ん坊が抱かれていた。
 その赤ん坊は泣き喚くこともなく、ただ静かに怯えたような表情でじっとしているだけである。
 一人の大柄な男は乱暴に女のほうへ歩み寄ると、華奢な腕から赤ん坊をもぎ取った。途端、赤ん坊は火がついたように泣き喚く。
「かまわん。やれ」
 別の男が言うと、もう二、三人は手にした武器を振り上げる。微塵ほども感情のない顔で。
 
 その後も、赤ん坊は一向に泣き止む様子がない。
「ちっ。うるさい子供だ」
 血塗れの顔で吐き捨てる男。その声に反応するかのように、辺り一面に禍々しい風が吹き始めた。 
 男達は何事かと周りを見渡すが、もう遅かった。
 次の瞬間、風は眩しい光、そして炎へと変わり、家ごと男達を焼き尽くしたのである。
 塵一つ残さず焼けた場所で、赤ん坊だけがひたすら泣き続けていた。





 強い風が吹き抜けていく。草原は青々とした緑に染まり、元気のよい草たちが為されるがままに揺れている。
「…………」
 そんな中で、青い体のカービィ族が静かに佇んでいた。左目には大きな眼帯をはめていて、外見からするとまだ若い少年だった。
 何をしているのだろう、隠されていない右目をも閉じている。
「そこかっ」
 右目をかっと見開き、その少年は自らの持っていた矛らしき武器を一振りした。
 途端に黄色い閃光が草原を覆い尽くし、人らしき呻き声が聞こえてきた。その矛を持っている少年自身も、少々眼を見開いているようだ。
「盗賊なら、狙う相手を選ぶんだな」
 地面に倒れ伏し、苦しそうに呻く男たちに一瞥をくれ、少年は草の間を歩いていった。

 さすがに夏の陽射しはまぶしく、だがそれに反して、熱気を帯びた空気は雨の降る前兆なのか、湿気を多く含んで重たく沈んでいる。
「……アルシェ、まだかなぁ」
 大きく茂る楠の木の下で、少年は先ほどとはまるで違う表情を覗かせていた。
 それは、年相応に明るく、まるで無邪気ないたずらを企む子供のようだ。
 きょろきょろとせわしなく辺りを見回している様子から見ると、どうやら誰かを待っているらしい。
 
 

 一陣の風が吹いた。
 砂埃が巻き上がり、草が揺れる。
 緑と土色のコントラストの中、夏の日差しが、少年を照らしている。
page view: 1705
この小説を評価する:                   (5)