シンキさんの小説

【エピソードパズル】動くかめこうら


 動くかめこうら

 その紺色の球体は、天井の吹き抜けからの光に照らされながら地面に倒れていた。それを取り囲む周囲は真っ暗だった。その暗い空間から、巨大な顔が浮かび上がった。
「闇……大いなる闇の一族がここに現れるとは……。危険だ。我が国を危険に晒す前にどこかに閉じ込めなければ……」
 岩で出来た巨大な手が虚空から現れ、地面に落ちている球体を掴み上げる。そしてその顔と手はフェードアウトするように姿を消し、その場は誰もいない空間となった……。

 ピンク色の球体に丸っこい手足のついた姿が特徴的な若者カービィは、ある日の散歩中うっかり穴に落ち、古の洞窟マジルテを冒険する事になってしまった。
 殺る気満々のトラップを乗り越え、お肌のツヤを良くし、風にも負けず、実は入らなくても脱出には関係ない塔で死闘を繰り広げたりと紆余曲折を経て、ようやくこの迷宮を抜け出す事ができた。彼にとっては久々にハードな出来事だっただろう。
 これは、その数日後に起きたちょっとしたお話である。

 マジルテから持ち帰ったお宝をおおよそ換金するなどして処理したカービィは、引取り手のいない一部の宝をどうするか考えていた。どれも売れるほどの価値にはならないし、かといって捨てるには惜しい品々ばかりだ。
「う〜ん、どうしようかな」
 悩むカービィの目を特に引いたのは、古代の塔で見つけたお宝『かめこうら』だった。ずっしりとした重量感に、鮮やかな緑色に輝くその甲羅のデザインは彼に妙な魅力を感じさせた。亀が身につけていた自然のモノだからだろうか。とりあえずこのかめこうらは棚の上に飾る事に決めた。質素な部屋を彩る新たな装飾品にカービィはご満悦の様子。すっかりお気に入りのようだった。

 それから翌日。朝目覚めたカービィは眠気まなこを擦りながらベッドから降りると同時に何かに足を滑らせた。
「うわっと」
 あまりに突然の出来事に完全に頭の覚醒し、すぐさま正面を見やる。だが、またしてもその何かを確認する前に自分の顔面に衝撃が襲い掛かった。
「イテテ……も〜何なの〜!?」
 耳を澄ませるとコンコンと物を叩くような音が聞こえる。やっとの事で部屋の状況を把握すると、あのかめこうらが部屋の中を縦横無尽に滑っているのが確認できた。物音は甲羅が壁にぶつかって跳ね返る音のようだ。起きた直後は静かだった事から、恐らくさっきベッドから降りた時に踏んでしまい、そのまま滑り始めたのだろうか。しかしその勢いは収まるところを知らない。一体どこからこれほどの運動エネルギーがもたらされたのだろうか……。カービィは被害が広がる前に吸い込んで甲羅を止め、ゆっくりと手元に吐き出してから元の棚に置いた。
 これで一応は解決したが、やはり疑問が残る。
「何であんなとこに落ちてたんだろ?」
 棚はベッドからやや離れたところにあり、寝返りを打っても当たる事はまずない。棚上のスペースも十分にあるから独りでに動きでもしない限り落ちないと思うのだが……。これ以上考えたところでどうしようもない。今度からはちゃんと点検しておこうと心に決め、冷蔵庫から朝食を取り出した。

 更に次の日。朝起きたカービィは昨日の朝の事を思い出し、ちゃんと棚の上にかめこうらが安置されてる事をしっかり確認してからベッドを飛び降りた。
 問題なし。安心して冷蔵庫を開けたカービィはその中を見て違和感を覚えた。
「……冷蔵庫の中身、こんな少なかったっけ?」
 昨晩、最後に開けた時に比べて明らかに食べ物の密度がスカスカになっている。ふと、足元を見るとケチャップか何かが床に付着しているのが分かった。それも断続的落ちていて、それを辿っていくと……まさかとは思ったがかめこうらの所まで続いている。
(……何か怪しい)
 少なくとも、今までの事はこの家に潜んでいる何者かの仕業である事は明らかであった。

 その晩、意を決して部屋の電気を消した後、ベッドの上からかめこうらの様子を見張ることにした。
 眠気に耐えつつ観察すること数十分後、ようやく甲羅に異変が現れる。かめこうらの穴から何か長い物が伸びているのが見えた。その得体の知れない物体が目指す先は……やはり冷蔵庫。取っ手部分を手探りしているようだった。
「誰だ!」
 カービィは電気をつけ、かめこうらに迫る。赤く、長い物体は一瞬身を強張らせるように固まった。
「ご、ごめんなさい」
 かめこうらの中から声が聞こえる。どこかおどおどしい声色だった。その声の主は長く伸びた物体を引っ込ませると、甲羅の中で体をモゾモゾさせてから飛び出してきた。
「君は……確かグーイ?」
「そうです。お久しぶりです」
 やや紺色っぽい体色に、ひょろりと伸びた長い舌。彼は以前カービィが虹の島々で冒険をした時に偶然出会ったグーイである。その時は敵に捕らわれて麻袋に閉じ込められているところをカービィに助けられていた。
「何で君がかめこうらの中に?」
「実は僕、あれからプププランドに遊びに行ったんです。そしたら途中で大きな穴に落ちて……気づいたらあの中に閉じ込められてたんです」
 どうやら彼もカービィと同じようにマジルテに続く穴に落ちてしまったようだ。そこからまた捕まってしまうとは気の毒な話だ。
「あなたの声が聞こえたので安全な所に来れたのだと思って、一昨日の晩こっそり抜け出そうとしたのですが行く当てがなくて……」
 するとグーイは口篭ると同時に顔を赤らめ始めた。
「それに……お腹がすいてしまってつい……その、すいませんでした」
 それを聞いたカービィは思わず笑ってしまった。
 何だ、そんな話だったのか。質の悪い泥棒でもやってきたのかと思っていたカービィはすっかり安心していた。
「だったら一緒に住まない? お金もたっぷりあるし、リック達とも会えるよ」
「え、いいのですか? 僕は……」
 グーイは一瞬戸惑った。自身には周りに知られたくない秘密がある。もしそれがバレたら……。
「もちろんさ。あの後すぐいなくなっちゃったから、僕も会いたかったんだよ。明日から皆で一緒に遊ぼうよ!」
 だが、そんな彼の不安もカービィの笑顔を見ていると自然と薄れてしまった。この人ならどんな事実を知っても受け入れてくれるかもしれない。根拠はないのに、何故か自然とそう信じ始めていた。この気持ちは、以前に助けてもらった時にも感じていた気がする。 そもそも何故、あれから目的もなく自分がこの地を訪れたのか。それは、彼を探していたからかもしれない。彼の優しさに包まれたかったからかもしれない。
 そして今、自身が『一族』から異端視されてまでも憧れていた感情、カービィこそがその象徴である事に気づくのであった。
「はい! よろしくお願いします!」
 彼は、自分の過去を振りほどくつもりで力強く答えた。そして同時に、これからどんな事が待ち受けようと……例え一族が自分の前に立ちはだかろうと、カービィと共に戦う事を決意する心の強さを手に入れるのであった。

終わり
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