シンキさんの小説

冷たい夜に


 暗い吹雪の中、プププランドの上空には四羽の鳥の影が映っていた。そのうちの一羽は他よりも遥かに大きく、一行を先導するようにどこかを目指して飛び、その後を小さな三羽が追従している。だが、一羽だけやけに飛ぶ姿がおぼつかず、遅れを取るばかりか次第にその高度がどんどん落ちていった……。

 外からは、聞くだけでも背筋がぞっとするような薄気味悪い風音が耳に入ってきた。プププランドに住む、ピンク色のまん丸とした体が特徴的な若者カービィは普段なら冬場の寒さでも外で遊ぶほど元気であるが、この日は滅多に見ることのない大吹雪に見舞われているためさすがの彼も一日中おとなしく部屋で本を読んで過ごしていた。
 外は悪天候だが、その一方でカービィの部屋の中は明るく、そして暖かであった。部屋の奥に設置されている暖炉からの熱に暖められた空気に包まれて室内は快適な環境となっている。プププランドは比較的温暖な気候を持つため昼間はそこまで寒くなく、基本的に暖炉が活躍するのは夜になってからだ。しかしこの日は朝から冷え込みが激しく、起きてからずっと暖炉を使いっぱなしであった。もちろん暖炉の火を熾すには薪を燃やさなければならず、これだけ長時間使えばその消費量も馬鹿にならない。
「あ、火が……」
 暖炉の中にある薪がほぼ燃え尽き、灰となった。不運にもそれは屋内にストックしていた最後の分である。残りの薪はこの家の裏側に積んであり、それはつまりこの吹雪の中で外に出て取りに行かなければならないという事だった。距離的には大したものではないのだが、これまであったかい部屋でぬくぬくと寛いでいたカービィにはなかなかこの極寒かつ悪天候の中へ飛び出す勇気が出なかった。
(う〜ん、寒そうだし嫌だなぁ)
 そう考えているうちにも部屋の空気はカービィを急かすかのようにどんどん冷え始めている。さっさと行ってさっさと戻ってこようと思い、防寒具であるニット帽とマフラーを身に纏う。そしてドアを開けようとするが、積もった雪の影響か意外と重かった。
「よい……しょっ!」
 力を入れなおすとゆっくりとドアが開いていく。そして外に足を踏み入れたカービィには寒さのみならず激しい強風までもが襲い掛かり、おまけに大地を覆う雪の層が思ったよりも深いため、足を取られなかなか思うように進むことができなかった。それでも家の外周を伝いながら一歩ずつ確実に足を踏み出し、やっとのことで家の裏側に辿り着く。普通なら歩いて数秒で行ける距離なのだがこの時は一分以上かけてしまった。早く薪を取って部屋に戻りたいところだったが……。
(……アレ?)
 確かに積んであったはず場所に薪はなく、代わりに雪に埋もれていたそれを抜き取ったかのような跡と、大きな足跡が残っている。しかし、このまま引き返すわけにもいかず、カービィはとにかくその足跡を辿っていくことにした。
 冷たい、果てしなく空虚な世界をただ孤独にひたすら進む。何でこんな事になってしまったのだろうか。今すぐにでもあったかい部屋に戻ってゆっくりと休みたい、そんな辛さと先の見えない不安でいっぱいだった。
 途中、遠くに城らしき建物の影が見えた。家からの距離からするとダイナブレイドの事件の際に通ったマシュマロ城だろうか。そして雪の上を歩くのにも慣れてきたその頃、前方にのっしのっしと歩く大きな影が現れた。カービィは雪を掻き分けながら駆け足で追いかける。そのシルエットから正体は分かっていた。
「待って、アイスドラゴン!」
 カービィの呼び掛けに反応し、その影、アイスドラゴンはこちらを振り向いた。ドラゴンという名がつくもののその体はずんぐりとした水色で普段はおとなしく優しい目をした、むしろ愛嬌のあるデフォルメ怪獣といった感じだ。とはいえドラゴンの名に恥じず巨体の持ち主であり、いざ戦いとなれば圧倒的なパワーを誇る。そんな彼の短い両手には薪の束が抱えられていた。
「その薪がないとボク、困るんだ」
 するとアイスドラゴンは大きく横に首を振る。そして鳴き声を上げながら先に見える洞窟に顔を向けた。そこもダイナブレイド事件の所縁の地であるココア洞窟だった。そしてアイスドラゴンは再び足を進め始めた。
「あそこに何かあるのかな?」
 カービィはとりあえずアイスドラゴンの後に続き、ココア洞窟に到着した。その内部に入ると、燭台の下に一羽の鳥の姿が見えた。怪鳥ダイナブレイドのヒナであるダイナベビーだ。恐らくは三兄弟の中で一番ドジだった子だろう。一時期彼らの親代わりになった事があるカービィにはその雰囲気だけで何となく分かった。彼はカービィの姿を見るや近くまで駆け寄り、抱きついてきた。その体はとても冷たい。ここで待ってる間、ずっと寒くて、一人で、怖い思いをしたのだろう。
「こんなに凍えて……お母さんとはぐれちゃったの? ……そうだ、これ!」
 カービィは自分が身につけていたニット帽とマフラーを外し、雪を掃ってからダイナベビーに着せてあげた。カービィの温もりの残ったそれに心を落ち着けたのかベビーは笑顔を見せる。アイスドラゴンは運んできた薪を何本か地面に適当に並べると、別の一本の先端を燭台の火に当てやる。少し時間を掛けたが火が燃え移り、それを今度は並べた薪の中に放り込んだ。これで焚火が完成し、その傍に寄るとようやく寒さから解放された。彼がカービィの家から薪を持ち出したのはここで凍えているベビーのためだったのだ。
「キミも優しいんだね」
 アイスドラゴンはゆっくりと頷く。本来はアイスバーグという寒い地方に生息しているため、もしかしたら過去にもこうして遭難した人を助けた事があるのかもしれない。結局カービィはベビーのためにもここで一晩過ごすことにした。
「大丈夫だよ。明日、天気がよくなったらきっとお母さんが迎えに来てくれるから。それまではボクらが一緒にいるよ」
 カービィはベビーの頭を撫でながらそう言い聞かせた。そして皆が寄り添いながら眠りに就く。そこには、単なる温度とは異なる暖かさがあった。守り、包み込む事で生まれる、すなわち優しさという暖かさが……。

 翌朝は気持ちのいいぐらいの快晴で、昨日の吹雪が嘘のような暖かさだった。洞窟の外に出て空を見上げると早速我が子を探して飛び回るダイナブレイドの姿が見えた。すっかり元気を取り戻したダイナベビーは母親の元まで飛んでいく。ダイナブレイドは子の無事な姿を確認して安堵の表情を浮かべた。そして親子揃って巣に向かって戻っていく。
「またねー!」
 カービィとアイスドラゴンが手を振りながら見送る。ベビーも顔をこちらに向け、それに応えるように鳴き声をあげる。ところがその際に体のバランスを崩してしまい必死に羽をばたつかせるが……そのまま真っ逆さまに落ちて地面にドスンと激突してしまった。それに気づき慌てて介抱に向かうダイナブレイド。その様子を見ていたカービィも思わず唖然としてしまった。
「あぁ……ハハハハ! 相変わらずだなぁもう」
 カービィも、アイスドラゴンも、ベビーも、ダイナブレイドも。皆が笑いあうこの一場面もまた暖かなものであった。


 終わり


――――

 後書き

 どうも、筆者のシンキです。今回お題小説に初参加するということで一筆執らせていただきました。
春に向けての『あったか』がテーマ、ということでまず浮かんだのが寒さを乗り越えて暖かい時期を迎える感じです。
台詞を喋るキャラがカービィだけになってしまいましたが、こういう言葉を喋らない生き物だからこその暖かさもあるかなと思ってあえてこのキャストにしてみました。
このような作品になりましたが読者の皆様に楽しんで頂ければ光栄です。
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