まびさんの小説

春風の旋律


星のカービィ十周年記念作品  小説大会用短編小説

「春風の旋律」

私がカービィとであったのは、雨の日だった。

降り注ぐ雨の中。こんな日は、心の中も雨模様。
でも、そんな事なんか考えていない。
じゃあ、他の事は?やっぱり考えていない。
あの事件があってから、私の心の中は止まったままだ。
そう、何も考える事も無く、ただただ、生きているというだけなのだ。

ずいぶん歩いた。向こうのほうに白い半球体がぼやけて見える。
もう体力も限界に近づき、私はその半球体にもたれかかって目を閉じた。

目をあけるとどこかの部屋の中だった。
時計の針を見たところ、今は朝のようだ。
外の雨がやんでいないところから、一晩しか寝ていないらしい。
ちょっと回りを見回すと、そこに転がっているピンクの球体が目に入った。
寝てる・・・らしい。とにかく、それが生き物だという事を、私は直感的に感じ取っていた。
好奇心からだろうか。こんな気持ちになったのはとても久しぶりなのだが、
私はその球体を突っついてみた。
「ンン・・・」
その球体は機嫌が悪そうな声をあげると、むっくりと起き上がった。
「ほえ・・・起きたの?」
どうやら私をここまで運んだのは、球体、いや、彼らしい。
そして、ここに寝ていた事を見ると、ここが彼の家なのだろう。
「昨日僕の家の前でぐったりしてたから、びっくりしたよ。
 ねえ、どこから来たの?お名前は?」
私はいろんな意味でびっくりしていた。
あの半球体が彼の家なのか。なぜ見ず知らずの私に気軽に声をかけられるのか。
そして、「なぜ私を避けないのか」
どこに行こうと、みな私を避けた。それなのに・・・
「あ、申し送れたね、僕の名前は・・・」
彼はカービィと名乗った。
私も何とか声を出そうとしたが、長年話していないので、声がなかなかでない。
それにしても、私は何でこんなにカービィと話そうとしているのだろう。
今までずっと人を避けて、避けられてきたのに・・・。
声を振り絞って、これだけ言った。
「私は、ライク。ライク=リトルローズっていうの。」
久しぶりに聞いた、自分の声だった。


行くところも無い私は、カービィの家にお世話になる事にした。
しかし、人と対話する気になったものの、いまだに顔は無表情のままなのが自分でもわかる。
さすがにカービィも不信になったのか、少し心配そうな顔つきをするようになった。
「どうしたの、何か・・・何かあったの?」
見るからに能天気そうな彼に悟られたのには、正直言って驚いた。
でも、私は、すべてを話す事にした

・  ・  ・  ・

ものの、結局一部の事しかいえなかった。
話したのは、私が村を出てきた事。
そして、村の人々と違うこの栗色の髪とスカイブルーの目のせいで、私はずっと避けられていたという事。
その他は・・・覚えていないのである。
でも、そのせいで私は人を避けるようになり、心を閉ざしたのだという事は、分かっている。
この不十分な説明でも、カービィは納得し、共感してくれた。
「村の人は変だって言っても、僕はその髪と目、きれいだと思うよ。」
良く聞く慰めのセリフだった。けど、なんだか少し心は軽くなった。
カービィってすごいなあって、改めて思った。


今日、やっと晴れた。
「ねえ、晴れた事だし、ここにすんでる皆に会いに行こうか」
カービィが聞いてくる。
私は、正直言ってカービィ以外の人と仲良くなれるかどうか心配だったけど、
なんだか平気なような気もして、大きくうなずいていた。
「そっか。じゃ、皆広場で遊んでると思うから、行こう!」
カービィは私の手を引いて、外に飛び出す。
あたりには豊かな自然が残っていて、木々の間から鳥のさえずりも聞こえた。
昨日までの雨がうそみたいだった。
遠くのほうで、ネズミ(またはハムスター)見たいのとか、紫色の梟とかが遊んでいた。
「お〜〜い!リック、クー!」
カービィが駆け寄っていくので、私も後を追った。
「よっカービィ、後ろにいるのは・・・お連れさんかい?」
私の事を然して怪しみもしない。どうやら、カービィを含めてここの人たちは、
皆こんな大らかな性格らしい。
「名前はなんていうんだ?」
私は一瞬ひるんでしまった。どうしても話す勇気がわいてこない。
カービィはそんな私を振り返って、何か納得したような顔つきをし、皆に話した。
「あのね、このこは、ライク・・・なんだっけ?」
私は内心でがっくりしたが、それと同時に、自分から訂正していた。
「ライク・リトルローズって言います・・・」
「あっそうそう、リトルローズっていうんだっけ。」
「そうか、じゃライクでいいな。よろしく!おいらはリックだ。」
「俺はクーってんだ。よろしくな。」
「はい、よろしくお願いします」
まだまだ無表情。でも随分自分が変わってきている事に、私は感づいていた。
こんなにぺらぺらと言葉が出てくるなんて・・・。
「じゃあ、少しこの辺を案内しようか?行こう!」
リックが私の手をつかもうと、手を伸ばしてきた。
だが、その手は私を「通り抜けた」。
「え・・・・・」
皆の声が重なった。元論、私の声も混じっていた。
「うそ・・・」
「なんで?僕んちに来た時は触れたのに・・・」
「おい、カービィ。そん時は、雨でぬれていたんじゃないのか?」
クーが口を開いた。
「うん。だけど、それとこれとに何の関係が?」
「もしかしたら、ライクは・・・幽霊かもしれない」
その言葉を聞いた時、私は頭に、何か強い打撃を受けたようだった。
「そんな!そんなはずないよ!ライクは・・・」
「幽霊っていうのは、死んだ自覚が無い時も、この世に残ってしまうものなんだ。
 そして、死んだ時の状態に戻った時だけ、その体に触れる事が出来る。」
「じゃあ、ライクは、死ぬ時に、何か水と関係がある場所で事故にあったのか?」
リックのその一言で、私の脳裏に浮かぶ出来事が会った。
村の子供達が私のことをからかっている。
泣きながら逃げて川の岸にうずくまる私。そして、そのまま寝てしまう。
目がさめた時、雨が降っていた。そして、もともと水量の多かった川は、反乱をはじめていた・・・
思い出した。私はその波に飲み込まれて、そのまま・・・。
自分で封印した記憶だった。それだけに、思い出した時、ショックだった。
「そうだよ・・私は幽霊だよ・・・川で溺れたんだ・・・だから、皆私を避けた・・・」
無意識のうちに言葉が漏れた。不思議と涙は出なかった。
「おい、いこうぜ。」
クーのその一言で、みな他のところに逃げるように去っていった。
その場に残ったのは、カービィと私だけだった。
「ねえ、今日は帰ろうよ・・・」
カービィがつぶやいた。どんなに皆が私をのけ者にしても、
カービィがいればそれでいい。私はそう思った。
もちろん手で触れ合う事は無い。でも、心は絶対触れ合える。カービィの目がそういっていた。

・  ・   ・   ・

次の日から、カービィは私を連れて、皆の説得に走った。
やっぱり、皆私を避けた。慣れているはずなのに、無性にさびしかった。悲しかった。
ついには、カービィまで皆ののけ者にされるようになった。
私にはもうそれが絶えられなかった。
私のせいで、他の人が不幸になるのは、いやだった。
「もう・・・いいよ・・・」
私はその場にぺたんと座り込んでいた。
気がついた人々が、ものめずらしそうに集まってきた。
「別にいいよ。無理して私の友達になる事なんて無い。どうせ私のことなんて誰も愛してくれない!」
「そんなことない!」
初めて聞いたカービィの怒鳴り声だった。
「じゃあなんなの!?私はねえ・・・親にも捨てられたの!見捨てられたの!
 こんなんで、どこが愛されてるって言うの!」
「ちゃんと愛されてるよ・・・」
見ると、カービィは泣いていた。
なんで?何で泣くの?分からなかった。
「皆がどんなに嫌いでも、愛して無くても、僕はライクが好きだよ。それに・・・」
その声は震えていた。だけど、しっかりした声だった。
「それに、その名前・・・ライクって、「好き」って意味じゃないか!
名前って言うのはね、親が一番最初にくれる、最高の宝物なんだよ!」
言い返す言葉も無かった。
昔、何度その言葉を聞いた事だろう。何度そう思おうとしただろう。
昔は、無理だった。でも、カービィがそういうと、なんでも本当に思えてくる。
―暖かい雫が、零れ落ちた。
私に当たるはずの無いその雫は、ポチャンと音を立てて、私のひざに当たった。
とたんに、体中に何かが満ち溢れた。
太陽の光のようだった。子供のころ、野原で感じた、あの光。
私が長い間忘れ続けてきた、喜び、悲しみ、感動などの、感情そのものだった。
一滴の雫に誘われたように、後から後から、涙は零れ落ちた。
嬉しさの涙でも、悲しみの涙でもないそれは、一言では表せない感情の結晶だった。
涙にぬれた目で前を見上げると、カービィや、皆の手があった。
皆笑っていた。そうだ、私を受け入れてくれる、愛してくれる人たちは、こんなにいたんだ。
ただ、私が受け入れていなかっただけなんだ。
私の手は、皆と重なり合った。
こんなの自然界の法則に反するのだろうけれど、私は生き返ったのかもしれない。
そう思ったその時だった。
やわらかい、春風が吹いた。
そして、皆の顔がかすんだ。
次の瞬間、私はその場からかき消えていた。


目がさめると、そこは村の病院だった。
今日は休館日なのだろう。外には黄昏が迫っている。
今までの事は夢だったのだろうか。でも、川に落ちた記憶は、夢なんかじゃない。
とにかく、このことは、私の胸に深く刻み込んで、永遠の思い出となるだろう。
いつか、本当の事が分かったら、もう一度、カービィたちに会いたい。

―思い出すのは  日の光
 零れる中で   柔らかく
 メロディーとなり流れてく
 春風の旋律
 ほら、今、春風が吹いた・・・。




                               END