ひでぶさんの小説

【クリスマス小説 2010年】あるふぁ・がんま・あきゅーとつきあるふぁ・ぱい・えーた 〜その3〜


3.
 
 その地方は、例年通りの成り行きで雪が降った。しばらく、降っては溶け、降っては溶けを繰り返した後、しきりに降る日が二日ほど続いて、その年の根雪となり、それからはどこもかしこも真っ白になった。森の木々たちは準備の甲斐もあって、みんなきれいに氷と雪の化粧を纏った。
 
「ふぅ。外、すっごい寒いよー」
 
 朝飯時からさほど間もなくして、赤いベレー帽を被った女の子――からだつきは、僕らに近い種族だ――が、チュチュの家へとやってきた。もしかすると紹介するまでもないかもしれないけど……彼女の名前はアドレーヌ。絵の上手な女の子。チュチュの、そしてカービィの友だちだ。
 
 チュチュとアドレーヌはボランティア活動でも仲間同士であり、だからマルクも知り合いだった。知り合いになった当初は、やっぱりマルクは彼女にもからかわれたものの、このときには彼にとって数少ない「まともに話す相手」のひとりとなっていた。
 
 アドレーヌがチュチュの家にやってきた理由は、来たる冬のパーティに向けた準備のためであった。主催者はほかならぬアドレーヌそのひとだ。このお話より何年か前に、彼女が故郷の星で毎年おこなわれていた冬のパーティをこの星の仲間うちで開いてみたところ、すこぶる好評だったそうで、こうして毎年の冬に欠かさず開かれるようになった。また、この年のパーティはボランティアグループと合同でやるとかで、とても大きなものになりそうとのことだった。
 
「ねえ、マルクくんもおいでよ。きっと楽しいからさー」
 
 アドレーヌの招待を、断固マルクは受けない。何故かって? そりゃ、あの忌々しいピンク球も、そのパーティにやってくるからに決まっている。彼はどんなにチュチュたちと気軽に話せるようになっても、あれと同席だけは、まかりならんかった。逆恨みなんだけどね。
 
 その日の準備はプレゼントをいくつか作って包むというものだった。マルクは、あいつ宛てのプレゼントにおっきな毛虫でも仕込んでやろうかしら……とかなんとか考えつつも、例によって例により、まともに作業を進めることにした。全員でリビングに色々な材料を広げた。きれいな色紙や、布や、石など。
 
 そういえば……と。マルクはいつだか一つ目に貰った「うらみオーブ」のことを思う。身につけてから、もうずっと苦しいことや辛いことを体験しているはずなのに、ちっとも光らないじゃないか。うそっぱちか、と。まあ、うらみオーブがパチモノでも、彼はうらみオーブの嵌まったアクセサリーを、手放す気はないのだが。
 
「何見てんの?」
 
 はっとして顔を上げるマルク。気がつけば、既にみんな作業を始めている。不意打ちの問い掛けはアドレーヌからだった。彼女は言った。
 
「マルクくん、そのアクセサリー、すっごいお気に入りだよね。どうしたの?」
 
 不覚であった。マルクはアクセサリーを見つめぼーっとしているところを、ばっちり目撃されてしまったらしい。取り繕う言葉も見つからない。
 
「はい、はい、はーい! ニュプンね、知ってるよ。それ、お姉ちゃんのプレゼント! マルクちゃん、大事にしてるよねえ」
 
 無邪気なニュプンの追撃もあって、マルクは、もう完全に言い逃れができなくなった。
 
「へー、ふーん、ほぉお……」
 
 殊にニヤニヤするアドレーヌ。
 
「なに? おふたりって、そうなの?」
 
「ちがっ……」「な、なに言いだすのサ!」
 
 チュチュとマルクは同時に否定して顔を見合わせた後、同時によそよそしく視線をお互いから逸らした。そこでまた、アドレーヌが笑う。
 
「まあ、仲が良いのに越したこた、ないでしょ。一緒に住んでるんだから」
 
「ニュプンもそう思うー!」
 
 アドレーヌとニュプンは「ねーっ」と向き合って頷いた。あのチュチュも、アドレーヌにはどこか敵わないところがあるらしい。珍しくペースを握られているようだった。
 
「さ、さっさとプレゼント作るわよ。今日は結構大変なんだからっ」
 
 苦し紛れのチュチュの言葉に、アドレーヌは、ま、勘弁してやるか。とでも言わんがばかりに、おもむろに作業を再開した。ニュプンも「うふふー」と笑ってそれに続く。
 
 全体的な作業ペースとしては順調だったのだが、そろそろお昼ご飯を食べようかというあたりで、思いのほかプレゼントのための材料が足りてないことが判明した。メンバーはお昼調理係と材料調達係に分かれて行動に当たることにした。前者はアドレーヌと、ちょうど昼の炊事当番であったマルク。後者はチュチュ・ニュプン姉妹である。
 
 チュチュたちが出ていった後、マルクはお昼ご飯を普通に作る気満々でいたが、「大丈夫。お皿とコップだけ出して」と、アドレーヌは彼に言った。彼女が画材セットを取り出したところで、彼はようやく思い出した。そういえば、この子もただの女の子じゃない。魔法の絵筆の使い手だった。魔法の絵筆で描かれたものは、画用紙を飛び出して実物として存在するようになる。
 
 アドレーヌが魔法の力でパンやサンドイッチ、牛乳にジュースと、次々に食べ物を画用紙から出現させていくのを、マルクはじぃっと見ていた。彼もかつては、似たようなことをして日々の食べ物をこしらえていたわけで。アドレーヌはそんな彼の様子に気づき、また一品描きながら尋ねる。
 
「魔法の力、まだ取り戻したいと思ってる?」
 
 マルクは「もちろん」と即答した。「キミが羨ましくて仕方がないのサ」とも。アドレーヌは苦笑する。
 
「魔法の力でできることなんて、たかが知れてるじゃない。あたしが描いた食べ物より、チュチュの作る料理のがずっとおいしいわよ。ま、マルクくんの作るのと比べたなら、どうかは分からないけど」
 
 マルクはまずアドレーヌのセリフの後のほうに多少憤慨したが、それは言葉に出さず無視してやり、本件のほうだけについて言い返した。
 
「それはキミが『持っている者』だからそう思うのサ。魔法の力を持っていて、余裕があるから、そういう考え方ができるんだ。説得力ないぜ、そんなひとが言っても」
 
 アドレーヌは、「そうかもね」と静かに肯定した。何だか余裕がある。マルクはむっとして、「なんなのサ……」と呟いた。彼女は笑って、「ゴメン」と謝った。
 
「じゃ、質問変えよう。魔法の力を取り戻したら、何がしたい?」
 
「そりゃもちろん……」
 
 いたずら好きほうだい。と、マルクは答えようとして、はっとして、押し黙った。こんなことを言って、チュチュに告げ口されでもしたらまずい。きっとチュチュは「悲しい顔」をするだろう。アレをされると、なんだか心にぎりぎりと締め付けられるような痛みが走る。彼はとんとお仕置きをされなくなったが、もしあれがお仕置きとして使われでもしたら、今までのどんなのより恐ろしいだろうと思った。
 
 マルクが答えないのを、アドレーヌがどのように察したかは分からないが、とにかくややあって彼女は別の話をし始めた。
 
「今度のパーティって、あたしの星では、元々ある偉いひとの誕生日に開かれていたものなのよ。そのひとの言葉の中で、ちょっととんでもないのがあってね、何だか分かる?」
 
 マルクは分かるわけなかったが、テキトーに言ってみた。無論、外れた。
 
「正解はね、『汝の敵を愛せよ』……すっごいしょ」
 
 絶句。マルクの思考は停止し、しばらくしてから復帰する。そして、「ふーん」と、無味乾燥な反応を彼は示した。理解できそうにないものはそもそも考えないほうがよい。と、捨て置いたのだ。しかしそんな彼の様子を見ても、アドレーヌは「まあまあ」と言葉を続けた。
 
「正直、あたしもよく分かんないんだけど、そのさ……マルクくんって、事実として、前はあんなだったわけでしょ? だから、少なくともあたしらは、その事実だけ見て、キミのことを最低なヤツだと思ってたのよね」
 
 少なくとも。じゃなく、プププランドの住民の大半がそう思っているだろう。今でも。マルクは茶化してそんなことを思い、実際に口に出したが、彼女は気にせずさらに言葉を続ける。
 
「でもそれでも、チュチュはキミをここに居候させたでしょ? ぶっちゃけ、最初のうちはさ、あの子もキミを『困ったヤツだ、困ったヤツだ』って言ってたけど、今じゃ、もしかするとあたしらより心を許してるかもしんないのよね。キミにさ」
 
 あのチュチュが? ンなアホな。マルクがそんな顔をすると、彼女はきっぱりと言った。
 
「キミだって、そうじゃないの?」
 
 言われて、マルクはチュチュのことを考えた。心を許すってどういうことか、実はあんましよく分かんないことに、彼は気づく。でも、チュチュに会ったことで、チュチュの手伝いを続けたことで、それまで考えなかったことを考えるようになったし、嫌なもののランキングも入れ変わった。マルクは、随分チュチュを優先した行動を取るようになった。それは、紛れもない事実であった。そこまで理解して、彼は言う。
 
「チュチュは、よく分かんないやつなのサ。怖いし、うるさいし、すぐ手が出る。でも、ボクが絶対がんばらないところで、とびきりがんばるのサ。最初は全然そんなの気にもならなかったけど、どうしてこうなったんか……今じゃ、チュチュが元気にがんばってるとこ見れないと、ボクまでしんどくなるのサ……」
 
 アドレーヌは短く、「昔よりつらくなった?」とマルクに問うた。彼はかぶりを振った。万能たる魔法の力を持っていたころに比べ、何故か心がうんと温かいのである。アドレーヌは優しく笑った。
 
「チュチュのしたことで、キミがそういう気持ちになれたみたいに……チュチュ自身もキミに心を許せたみたいに。少しでも多くのひとがそんな風になるために、さっきの言葉があるんだと思う。きっと」
 
 なんとなく、理解ができたマルク。けれども、「でも……」と。「前までのボクと、違いすぎるのサ」
 
 アドレーヌが最後に出現させた品は、透明なボウルに入ったフルーツポンチだった。色とりどりのフルーツが目に鮮やかで、マルクは思わず見惚れた。ダイニングテーブルの中央にそれを位置させると、昼食の献立が全て揃った。アドレーヌは、「よし!」と、快活な笑顔になった。そしてそれから、マルクにこう言った。
 
「あたしは、こっちのがいいからこうしろとかっていうのは、ちょっと言えない。キミのこれから先のことはもちろん、キミが決めりゃいいとは思うけど。でも、キミってもっと、楽しいことを優先するキャラじゃなかったっけ。昔の自分云々とかよりは、さ」
 
 玄関のドアが開く音。チュチュたちが帰ってきた。アドレーヌは「おかえりー」と、そのまま玄関へとチュチュたちを迎えに行った。ダイニングにひとり残されたマルクは、アドレーヌの言葉を噛み締めるのだった。
 
 
 
 ちょっとしたスケジュールの変更はあったものの、昼食以降は滞りなく作業が進み、“おやつどき”までにはその日作った全てのプレゼントの包装が終わった。あとは、パーティ会場予定のマシュマロ城にプレゼントを運べば、仕事は全て完了である。
 
 しかし、マシュマロ城にプレゼントを運ぶひと手は、マルクとチュチュだけだった。アドレーヌは自宅に帰りパーティで展示する絵を描かなければならず、ニュプンも他のところへの外出の用事があった。
 
 チュチュの家の前にて、いざそれぞれ別行動を取ろうとしたときに、アドレーヌがマルクとはちょっと離れたところにチュチュを呼び寄せ、耳元で言った。
 
「あんたがプレゼント隠し持ってるの、知ってるわよ。彼、パーティに来ないつもりなんだから、今夜ふたりでいるうちに、渡してしまいなさい」
 
「なっ」
 
 赤面のチュチュを放っぽって、アドレーヌは「じゃあねーっ」と去っていった。ニュプンも、「いってらっしゃい、いってきまーす」と元気に歩き出す。
 
 チュチュはため息を一つつくと、やがて振り返り、
 
「じゃ、行こうか」
 
 と、笑顔でマルクに言った。
 
 
 
つづく