ひでぶさんの小説

【クリスマス小説 2010年】あるふぁ・がんま・あきゅーとつきあるふぁ・ぱい・えーた 〜その1〜


 カービィのお話が好きなみんななら、マルクっていうわるもののことは、きっと知っているだろう。そう、どんな願いも叶える大彗星ノヴァを利用して、カービィたちの住む星ポップスターを自分のものにしようとしたやつだ。
 
 最近のお話では、カービィが格闘大会に出た時に、パワーアップを果たしたマルク――マルクソウルが出現し、カービィにリベンジしようとした、というのもあるけれど、ともあれ今のところ、カービィが彼と戦ったのは、「銀河に願いを」と「(真・)格闘王への道」というお話の中だけとされている。
 
 我らが星のカービィはわるものには屈しない。彼はどちらのときも見事マルクに勝利を収めたわけだけれど、では、敗北したマルクはどうなったのだろうか? ノヴァの爆発に巻き込まれて、死んでしまった? マルクソウルのまま力尽きた反動で、消滅してしまった? そうかもしれない。でも、僕が知ってる話では、そうじゃなくて、マルクはその後もポップスターで暮らしていたらしいんだ。
 
 今回はその話を詳しく話すから、よかったら、聞いていっておくれよ。
 
 
 
 2010年 クリスマス小説
 あるふぁ・がんま・あきゅーとつきあるふぁ・ぱい・えーた
 
 
 
1.
 
 マルクがカービィにやっつけられた後、彼のした悪さはプププランド中に知れ渡った。ポップスターでプププランドがどれだけ大きいかははっきり知らないけど、多くのカービィのお話の中でそこだけで充分な舞台になるくらいだから、きっとポップスターの中でもかなり大きな国なのだろう。でもって、そんなプププランドで彼の評判はガタ落ちしたわけで。彼は自業自得とはいえ、あまりよろしくない生活を送っていた。
 
「やーいわるもの! あっち行け!」
 
「マルクがひとを騙しにやってきたぞー! やっつけれー!」
 
 面白がって石や泥団子を投げたり、木の棒などを持って追いかけてくるのは子どもたち。
 
「お前に食わす食べ物なんぞない。さっさと帰ってくれ」
 
「…………」
 
 不信に拒絶、冷たい視線と無視をぶつけるのはおとなたち。
 
 呆れ返るほど平和な星といっても、分別をまだ学んでいない子供たちもいれば、怪しいやつには関わり合いになりたくないおとなたちもいるのであり。マルクはいつもからだ中泥だらけ、タンコブ擦り傷だらけだったし、ろくにご飯も食べられず。「いたずら」も当然ひとびとが信用しなくなったことで全然うまくいかなくなり、彼なりの生き甲斐も楽しめなくなって心のほうも大分弱っていたのであった。
 
 え、なんだい……ああ。マルクは強いから、その気になれば仕返しができるし、好き放題欲しいものも奪えるんじゃないかって? そうだね。カービィと戦った頃の彼なら、そんなこともできただろうな。でも、今はもう無理だ。カービィにやっつけられたときに、何やらどこかで破魔の力が働いたらしくって、マルクは魔法の全てを失ってしまったんだ。
 
 ともかくまあ、「普通のひと」になってしまったマルクは、ひどい仕打ちと孤独で心もからだもまいっていた。で、この後も、また散々な目に合うのさ。
 
 
 
「お腹が空いたのサ……」
 
 森の中で、マルクは何度呟いたか分からないその言葉を、また呟いた。彼が森に入った理由は二つ。嫌なことばかりの町から離れるため、と、そこなら果物や野菜や、お肉になる動物なんかが手に入るんじゃないかと思ったためだ。でも、シロウトにはそうそう森で食べ物を見つけるなんて思い通りできるもんでもなく、そのうえうろうろしているうちに道に迷ってしまった。
 
 少し休もうと座り込んだマルクだけれど、さらに追い打ちをかけるようなできごとが。なんと、茂みの奥から、野生の獣ガオガオが出てきたのだ。しかもガオガオはどうやらお腹を空かせており、マルクを食べてみようかなと思っているらしかった。こうなると、いくらつぶらな瞳をしていても猛獣だ。ガオガオは鋭利な爪を生やした両手を広げて、ガオーと吠えた。マルクはぎょっとして逃げ出した。
 
 けれども、からだ中ケガだらけでお腹もすこぶる減ってるやつが、そんなに頑張れるはずもない。マルクはあっという間にガオガオに追いつかれて、力いっぱいの体当たりを食らって弾き飛ばされてしまった。そして、地面に転がったあとは、もう起き上がれなかった。マルクは、ガオガオのエサになることを覚悟した。
 
 ところがだ。いざマルクへとにじり寄ろうとしたガオガオは、いきなりうしろどたまを抱えてひっくり返った。ひっくり返ったガオガオの近くには、野球ボールくらいの木の実が。マルクが食べようとしたけど、あまりの堅さに断念したやつだ。ガオガオはこいつがぶつかったせいでひっくり返ったのだ。
 
「じっとしていて」
 
 マルクはもがいているガオガオより奥のほうから声を聞いた。彼はそちらを向く。可愛らしい赤いリボンをつけた、ゲルちっくなからだを持つ種族の女の子がそこにいた。どうやら彼女が、ガオガオのあたまに堅い木の実をぶつけたらしかった。
 
 しかし見た顔だ……と、そのときマルクは思った。そして、すぐに思い出した。彼は、その子とは初対面だったけれども、その子のことを既に知っていたのだ。いつ知ったかって? 彼がポップスターを乗っ取ろうと、カービィの身辺を調べたときにだ。
 
 そう、その子はカービィの友だち・チュチュだった。
 
 ガオガオは起き上がると、チュチュめがけて突進を仕掛けた。でもチュチュはただの女の子じゃない。英雄・星のカービィの仲間であり冒険者なのだ。ガオガオの突進を素早い身のこなしでかわした。また突進。三度目。チュチュはひらりひらりと避ける。ガオガオは余計にいきり立って、両手を広げぐるぐると全身を回転させた。それはガオガオ必殺の狩猟ワザで、まるで竜巻のようだったが、チュチュは怖気づくこともなくそれもスマートにやり過ごした。回転しすぎたガオガオは、目を回してまたもひっくり返ってしまった。
 
「さ、逃げるわよ」
 
 チュチュは目で逃げる方向を促して走り出した。マルクも他に仕様がないからそれに従った。彼の状態は起き上がれなかったしばし前とさして変わらなかったけど、必死にからだを動かして駆けた。
 
 こうして、マルクは無事逃げきることができた。彼は、まさかカービィの仲間に助けられようとは……と思ったそうだ。僕は、彼は割と手段には拘らないタイプだと思っていたから、そんな感情とは無縁かなと思っていたのだけれど、カービィが絡むと別らしく、ともかく相当悔しがったんだと。
 
「わたしも、まさか襲われているのがあんただとは思わなかったわ」
 
 と、これはチュチュの言葉。彼女もまた、当然マルクとカービィの間に何が起こったか知っていて、かつ、マルクの顔も知っていた。「助けなくてよかったかもね」とも言った。
 
 こんなだから、ふたりはすぐ別れようとした。マルクは礼も言わず、チュチュはつんとして。けれども、マルクの体力・気力はそこで正真正銘に限界だった。彼はばたりと倒れ気を失った。
 
 
 
 マルクが気がついたのは、どこかのリビングのソファの上でだった。彼が目を開けたとき、一番最初に視界に入ったのは、チュチュ……ではなく、彼女と同じ種族の、これまた女の子。からだの色は黄色で、ピンクのリボンのついた帽子を被っている。チュチュそのひともいる。扉なく繋がっているダイニングキッチンのほうで、何か支度をしているようだった。
 
「あ、お姉ちゃん。起きたよー」
 
 と、その子は目を覚ましたマルクに気づいて、チュチュを呼んだ。
 
 チュチュのことをお姉ちゃんと呼んだ女の子は、マルクに自己紹介をした。彼女の名はニュプン。カービィのお話に詳しい子なら、もしかすると知っているかもね。うん、そう。カービィが“黒い雲”と戦ったときに、彼についていったチュチュの身を案じていた子だ。この子とチュチュの関係も諸説あるけど、僕は妹だと聞いているから、とりあえずこのお話では、そうだと思って聞いてくれい。ま、何はともあれ、チュチュとニュプンはこの家でふたり暮らししているそうだった。
 
「まったく、急に倒れるからびっくりしちゃったわよ。それにしても、町ではひどい目に合っていたのね。からだ中ケガだらけじゃない」
 
 チュチュはマルクのもとへやってくると、不憫に思った様子で言った。敵に同情されるほど、落ちぶれちゃいないぜ! とでも言わんがばかりに、マルクはぷいっと顔を背ける。
 
「助けてあげたってのに、素直じゃないわね」と、チュチュ。「ま……いいわ。とりあえず、もうお夕飯にするから。あんたも食べるでしょ?」
 
 ニュプンが「わぁい、お夕飯、お夕飯!」としきりに喜んで、さらにマルクに得意げに言う。「今夜はシチューなの。お姉ちゃん、お料理得意だけど、中でもシチューはすっごく美味しいんだよ!」
 
 そこでようやくマルクは、ダイニングキッチンからとんでもなく美味しそうなにおいがしてくるのに気がついた。そしてもう随分とまともな食事にありついてないことを思い出し、そうなるとからだが勝手に反応し始めた。お腹はぐうぐう鳴り、よだれが飲み込んでも飲み込んでも止め処なく溢れる。
 
 結局、マルクはチュチュの作ったシチューをごちそうになった。彼はカービィとの因縁に意固地だったけど、「すっごく美味しいシチュー」を目の前にしてはどうしようもなかった。で、口にすれば、空腹だったからというのもあろうが、実際これまで食べたどんなものよりも美味しかったのだ。彼は泣きながら食べた。どんどんおかわりした。
 
「どんだけお腹空かせてたのよ……」
 
 チュチュは呆れたけど、でも、ちょっと嬉しそうでもあった。それから彼女は、まだしきりに食べ続けているマルクを見て少し考えると、なんとこう言った。
 
「あんた、他に行くところないなら、うちに住むといいわ。部屋も余ってるし。ただし、色んなことを手伝ってもらうけどね」
 
 そりゃマルクは驚いた。カービィの敵だぞ、今も。嫌じゃないのか、怖くないのか。彼はチュチュに尋ねた。彼女は笑って言い返す。
 
「悪いけど、今じゃわたしのほうがあんたより強いと思うわ。あんたが悪さをしても、懲らしめることはワケないわね」
 
 なんだとー! と、マルクは思ったが、実際、あのガオガオとのやりとりを考えるに、その通りだった。魔法の力のないマルクは、仮に本調子でもガオガオに敵わなかったろう。
 
 それに、他に行くところがない、というのも事実だった。マルクは森で生きていく術は持っていないし、町では件の通りだ。プププランドを離れるというのが最後の手段ではあったが、いくらなんでも、今のマルクにはそれは冒険過ぎた。
 
 そうして、マルクはしぶしぶチュチュの申し出を受け入れた。
 
「そう。じゃ、よろしくね、マルク」
 
 チュチュは満面の笑顔でそう言った。ニュプンも、「わぁいわぁい、イソーローだー!」と嬉しそうにしている。なんなのサ……とマルクは思ったが、にこにこしているふたりを見ていると、なんだか何も言えなくなってしまった。
 
 
 
つづく