ひでぶさんの小説

【短編 2010年】キルトのまちイモ煮バトル


 キルトのまちのルーム・ウールは上機嫌。自分の管理するマンションが、二階建てから三階建てへと改築されたためです。彼はお世話になっているみんなにお礼がしたいと考えました。

「何か皆さま方が喜ぶ催しはないものか……」

 ルーム・ウールはあれこれ考えながら歩きます。そして前をよく見ていなかったせいで……ドシン! 弟たちの店の前にあった展示品にぶつかりひっくり返ってしまいました。

「イタタ……」

「兄さん、大丈夫であーるか?」

「気をつけるでーすよ」

 弟たちは心配そうに言いました。ルーム・ウールはばつが悪そうに起き上がり、展示品を眺めます。それは見たこともないほど大きなナベでした。

「……これだ!」

 どうやらルーム・ウールはこのナベのおかげで何か思いついたようです。
 
 
 
〜キルトのまちイモ煮バトル〜
 
 
 
「イモ煮会かぁ。面白いね」

 お昼のマンション前。毛糸の国の王子フラッフは、用意された三つの大きなナベを見て、感心して言いました。カービィもとても嬉しそうです。ふたりの様子にルーム・ウールも笑顔になります。

「これから寒くなりますからな。たくさん食べて元気に過ごしてほしいのですぞ」

 おイモでいっぱいのナベがぐつぐつと煮立つころ、クルリンとビータン、そしてコロンと、マンションの住民たちが揃ってやってきました。

 クルリンとビータンはイモ煮が大好きな様子。うんとはしゃいでいます。コロンはきょとんとして、「イモ煮って何ですの?」と彼らに尋ねました。

「あれ、知らないのかい。イモ煮はこの季節の食べ物で、イモはもちろん他の野菜やお肉もいっぱいのおいしい料理なんだぜ」

「食べると風邪をひかなくなるよ」

「まあ! それは楽しみですわ」

 ルーム・ウールが野菜やお肉をナベの中に入れ始めます。けれどもはしごを使わないといけないほど大きなナベが三つですから、彼ひとりでは大変です。みんなで手伝うことにしました。カービィとフラッフはルーム・ウールが切った食材を運ぶ係。クルリン、ビータン、コロンはそれぞれナベの前につき、運ばれてきた食材を入れて混ぜる係になりました。

 クルリンがおいしそうなナベの中を見て言います。

「たまんないなー! でもっておしょうゆ入れると、もっとなんだよなー」

 ところがそれを聞いたビータンは何故かとても驚いて、クルリンに言いました。

「イモ煮といったら、おみそで味付けするものだよ!」

 ビータンの言葉に今度はクルリンが驚きます。そしてクルリンは「わかってないなー」とビータンのことを笑いました。

「イモ煮はしょうゆ味に決まってるよ。みそを使うなんて豚汁だぜ!」

 ビータンはむっとして言い返しました。

「おしょうゆ使ったらすき焼きじゃないか!」

 ふたりはにらみ合うと、同時に飛び出しました。そしてお互い好みの調味料を持ってきて、自分たちが見ていたナベの中に勝手に入れ始めたのです。

「なんてことを!」

 ルーム・ウールが悲鳴をあげました。

「このナベはおれが味付けする。本当のイモ煮はしょうゆ味であることを分からせてやるぜ!」

「受けて立つよ。ぼくの作るみそ味のほうが絶対おいしいんだからね!」

 意地を張るふたりを止めようと、コロンが言いました。

「あなたたちやめなさい! ルーム・ウールさんの迷惑になりますわ!」

 ふたりは聞く耳を持たないどころか、あろうことかこうも言います。

「料理できないお嬢様〜って感じの子なくせに、口出しすんなよな!」

「そうだよ、これは真剣勝負なんだ。コロンはひっこんでて!」

 コロンもそれを聞いて怒ってしまいました。

「言いましたわね! ならウデの違いを思い知らせてさしあげますわ!」

 結局コロンも、好きなようにナベの味付けをし始めました。

 思わぬお料理バトルが始まって、ルーム・ウールは困り果てます。

 と、何やらぞろぞろと足音が。なんとナベのにおいにつられて毛糸のワドルディたちが大勢どこかからやってきたのでした。ルーム・ウールは大慌て。カービィとフラッフも驚いて戦おうとします。しかし、それでもクルリンたちは勝負をやめようとしません。

「ちょうどいい。一番多く食べてもらえたひとが優勝にしようぜ!」

 クルリンたちはワドルディたちに並ぶように言いました。すると、彼らは暴れることもなくちゃんと列を作ります。フラッフとルーム・ウールはあっけにとられてしまいました。

「早いもの勝ちですわ。おふたりもお並びになって」

「カービィはもう並んでるよ」

 そう。もうカービィは笑顔でワドルディの列に紛れ込んでいます。

 フラッフは何だかなぁと思いつつも、列の最後に並ぶことにしました。ルーム・ウールもやけっぱちに言います。

「くうう、ならば公正な勝負になるよう協力いたしますぞ。もっと器を用意しますので、食べ終わりの器の数で勝負なさるといいでしょう!」

 こうしてルールが整い、クルリンたちは正々堂々とお料理バトルに挑むのでした。クルリンはしょうゆ味、ビータンはみそ味。コロンは自分のふるさとの味で勝負です。みんな絶好調で、どんどん器に盛られていきます。

 そしてたちまちに時間は過ぎ……
 

 夕方。カービィとフラッフはたくさん食べて幸せな気分。ワドルディたちも全員満足して帰っていきました。ナベはみんな空になり、クルリンたちはくたくたです。

 ルーム・ウールがコホンと咳払いをしてから言います。

「結果発表ですぞ。クルリン味、ビータン味、コロン味……いずれも千十四食。同率一位!」

 クルリンたちは一斉に「えぇー!」と叫びました。

「なんだよ、引き分けかぁ」

 と、クルリンは残念がりました。他のふたりも同じ様子です。けれどもそんな彼らに、フラッフが笑顔で言います。

「みんなすごく美味しかったよ。どれも一番だよ」

 同じ気持ちのカービィもにこにこと飛び跳ねました。

 ぐう〜と、お腹の音が三つ重なって鳴ります。クルリンが「おっ」と声を漏らし、ビータンは照れて、コロンは恥ずかしそうにしました。彼らは勝負に夢中でちっとも食べていなかったのです。

 ルーム・ウールが器を三つお盆に載せて持ってきました。彼はそれぞれの味のイモ煮を一食ずつ残しておいたのでした。

「さ、あなた方の分ですぞ」

 ルーム・ウールはクルリンにビータンの作ったイモ煮を渡しました。またビータンにはコロンのものを、コロンにはクルリンのものを渡します。

 お腹が空いていたクルリンたちは、仕方なく渡されたイモ煮を食べました。

「ビータンの、やっぱり豚汁じゃん」

「クルリンのも、ビータンが言うとおりすき焼きみたいですわ」

「コロンのはなんか、ポトフだね」

 それからクルリンたちはしばらく黙って食べ続けていましたが、やがて口を揃えて言いました。

「……でもおいしい(ですわ)」

 クルリンたちは顔を見合せ、そしてお互い笑顔になりました。その後は言い争っていたことなどすっかり忘れて、三つの器を囲んで仲良く食べるのでした。

 安心するカービィとフラッフ。ルーム・ウールも――おや? 彼は何やら考え込んでいます。フラッフは「どうしたの?」と彼に尋ねました。

「わたくしの作るイモ煮は魚だしの寄せ鍋風。彼らを見ていたら、わたくしの味もどれだけのひとに食べてもらえるか気になってきましたぞ。これは来年もこの形でやりますかな……」

 はりきるルーム・ウールに、カービィとフラッフは来年が楽しみになり、つい笑ってしまいました。
 

 それからキルトのまちのイモ煮会は、毎年の楽しい催しのひとつとなったそうです。
 
 
 
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2010年 10月27日 公開

あとがき
 作者の押し付けになる可能性があるのでそういうのがやだっていう方にはうまく見ないようにしてもらうことを願いますが、そうでもない方は以下へどうぞー。
※一項目だけ作品本編よりもネタバレ成分が強い文章があります。ご注意。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 でわでわん。
 
表現したかったこと……
 僕がこの作品で何を表現したかったのかというのを、まず先に書いてしまうと、「何かを作る者、おこなう者」としての意識です。
 
 自分の作るイモ煮こそが本当のイモ煮である。とか、そんなことよりも、そのイモ煮のおいしさが大事だと思うし、たとえおいしくなくてもその場が楽しくなればよく、ぶっちゃけ誰もその味を認めてくれなくても作った本人が笑って食べることができればよいと思うのです。
 
 また、何かをオーガナイズする立場になったとき、仮に参加者が自分の意図と違った動きをしても、自分の意図した展開に無理やり直そうとするよりも、参加者の動きをうまく取り入れるほうがずっとよいオーガナイザーなのです。些細なことに惑わされず最終的な目標の達成を目指すことが大事なのです。
 
 何かの作り手や担い手になったとき、こういう気持ちを忘れないようにしたいと、ほとんど自分のためにこの作品を書きました。
 
 ただ、ひとの発想や能力には限界があって、作る側も受け取る側も、主催側も参加者側も、ちょっとしたことにむきになってしまうものです。おいしいのは認めるけどやっぱりすき焼きだ、豚汁だ、ポトフだ。とか、催しをお料理バトルに変えるときは半ばやけっぱち。とか、そんな風になってしまうこともままあります。ですから、そうなってしまう自分を受け入れて、そうなってしまう相手を理解し、今よりちょっとでも優しくなれたらいいなという気持ちもまた、作品に込めました。
 
 焦燥感や重圧に押しつぶされることなく、心に平穏を持ったうえで、楽しく作り手や担い手をやっていきたいものです。
 
 
作り……
 なんか秋にまつわるものないかなーと考えているうちに、ふと「イモ煮会」という単語を思い出して、ググったわけです。で、アンサイクロペディアにて宮城派と山形派の死闘を読みまして、「これはみそとしょうゆの聖戦ではないか……!」と思ったわけです。きっかけはこれなわけです。けれどもみそとしょうゆだけじゃまんまあべしひでぶ(http://starry.knml.net/?mode=list_view&user_id=0815)なのでコロンにポトフを作らせました。どうです、新しいでしょう!(
 
 この作品を投稿した企画では、毛糸のカービィを題材に使う際に「ファンタジーランドまででお話を構成する」というルールがあったので、マンションの住民はそこまでで居住させることができる三名のみです。あんまし多すぎても字数が多くなるだろうし、ちょうどよかったです。でも、コロンよりフミフミのがお料理バトルしそうでないかなとちょっぴり思ってたりして。
 
 物語の話し手については毛糸のカービィを意識して敬体語を使ってみました。キャラメイクも、今回はなるたけゲームに忠実にしたつもりです。カービィにあんまりものを喋らせないの面白い。そういえば感想でも疑問をいただきましたが、なぜ吸い込みはダメで物は食えるんだろう。まー、カービィの口より奥は生身(?)のころから不思議なんですけどもねぇ……。
 
 エンジィとかも出そうとしていたし、敵キャラももっと多く書こうとしていたのですが、字数の関係でいなくなってしまいました。ルーム・ウールの弟たちも、「弟たち」としか表記されず。三千文字以内で話を作るときは、もっともっと短いお話でないとダメかねともじわじわ。難しいだすー。
 
 
最後に……
 ある晩KNMLである人とチャットをしているとき、「お話を書くというのはつまりただそれだけで面白い」ということを思い出させられました。おかげでこの作品は本当に楽しく書ききることができました。ありがとうございます! お題企画というお祭りにも参加できて実によかったです。これからもKNMLが盛り上がりますように!
 
 
2010年 11月 6日 あとがき追加

 この作品を読んでくださった皆様、公開する場を提供してくださったKNML運営の皆様、そして僕に書く意志と力を与えてくださった多くの方々には、感謝の気持ちでいっぱいです。