ひでぶさんの小説

【短編 2010年】ハートフル棒っこ


 皆さんは黒い雲の事件はご存じだろうか。邪悪な黒い雲がポップスター全土を蔽い、ポップスターの住民たちにネガティブな思念を与え悪事を働かせた、という事件だ。最終的にはやっぱり星のカービィと仲間たちが黒い雲をやっつけて無事に解決したけれど、本作はそれから少し後のお話。
 
 
 昼過ぎ、クーが暇を持て余してベジタブルバレーの街の上を飛んでいると、見下ろした大通りにヒトだかりの輪を発見した。興味を覚え降り立って見物してみれば、なんと輪の中心にいたのはカービィとグーイであった。

「さあさ、お立ち会い! オタチ弱い! 天下のカービィさんが皆さんを幸せにいたします」

 と、グーイの口上。なんかどさくさに紛れて某ポケモンを馬鹿にしたような気がしたが、クーはひとまず気にしない。

 幸せにする、というのはどういうことなのだろう……そんなクーの疑問に答えるかのように、カービィがざっと片手を天にかざす。その手は何かを持っていた。

「ご覧くださいませ! これぞ幸せの顕現、愛と平和の象徴にございます!」

 カービィがかざした物――お祝いなどに使う三角クラッカーにハート型のオブジェをつけたような杖――を、グーイが饒舌にアピールした。クーは驚いた。

 その杖の名は、ラブラブステッキ。前述の事件にて、黒い雲を倒す切り札となった究極ウェポンである。カービィが冒険の途中で助けたヒトビトの感謝の気持ちが結集し具現化した奇跡の存在で、とにかく邪悪なやつには滅法強い代物だ。

「この杖の力にかかれば、辛い気持ちなどなんのその! どんなに滅入ってる方でも、たちまち活気を取り戻しあったかハートとなるのです! さぁさ、試してみたい方はいらっしゃいませんかー?」

 グーイの言葉に、ヒトだかりの輪はしばらくざわざわとしていたが、やがてひとりのワドルドゥがカービィたちのほうへと歩み出た。

「……ほ、ホントに幸せになれるのか?」

 薄幸のワドルドゥは頭に毛が一本しか生えていなかった。それゆえ「品のない変な老人」という不名誉なあだ名をつけられて、悩んでいるとのこと。ググってはならぬ。

「それはお辛いでしょう。早速カービィさんに幸せにしていただきましょう。では、よろしくお願いします!」

 グーイがそう言うと、カービィはおもむろに頷いて、

「らぶらぶー」

 とラブラブステッキを振った! ワドルドゥめがけてハート型の衝撃波が放たれた!!

 ずぎゃぎゃぎゃぎゃ!!

「ぶべら!!」

 衝撃波を食らったワドルドゥは激しく吹き飛び、地に伏す。驚愕する人だかり。が、しかし。

 ワドルドゥは起き上がると、

「フア〜」

 と、アシッドな声をあげ、一つきりの目玉を上に凸の三日月型にひん曲げた。

「さて、ご気分はいかがです?」

 グーイが問うと、

「えひゃひゃはぁ最高ッス!」

 ワドルドゥは顔面をとろけさせながら言った。ややあって彼は、「育毛やってやるぜぇー!」とやる気に満ちた言葉を叫び、どこかへと走り去った。

「この通り効果テキメン! ではでは、次に幸せになりたい方はどうぞ前にー!」

 ロッキーが、ケケが、ノディが歩み出た。つられて続々とヒトだかりから幸せになりたい者たちが歩み出ていく。たちまち輪は行列へと姿を変えた。

 カービィは順番にラブラブステッキの衝撃波をぶつけていった。

「らぶらぶー」 ずぎゃぎゃぎゃぎゃ!!

「ウホッ! いいエモーション!!」

「らぶらぶー」 ずぎゃぎゃぎゃぎゃ!!

「こんな杖に、くやしい……でもっ!」

「らぶらぶー」 ずぎゃぎゃぎゃぎゃ!!

「キ、モ、チ、イ、イ……」

 カービィの攻撃の真意が掴めない! クーは次々に衝撃波をぶつけていくカービィを見ながらそう思った。ラブラブステッキの衝撃波を受けると確かに幸せな気持ちになって活力に満ちるみたいだが、一体カービィたちはどうしてこんなことをしているのか。

「おや、クーさん。こんにちは」

 グーイがクーに気づいてやってきた。クーはちょうどいいと思い、この催しについて彼に尋ねてみる。グーイはきっぱりと答えた。

「これは幸福を振りまく会です」

 新手の宗教か。と、クーは突っ込んだが、グーイは言葉を続ける。

「黒い雲の一件以来、街に暗い表情でいるヒトが増えたんです。彼らの活気を取り戻すために、僕とカービィでやることにしました」

 訝しむクー。黒い雲は倒されて、ポップスターは平和になったはずなのに、何故未だに。

「色んな話を聞きますけど、主立っては黒い雲に憑かれた際の悪事が原因ですかね」

 ようやくクーは合点がいった。確かにあの一件では、家や大事なものを壊されたりした者もいた。そういう連中は素直に喜べないだろうな。だが彼がそのままそれを言葉にすると、グーイはかぶりを振った。

「むしろ、『悪事を働いたヒト』が多いんですよ。自分のやったことを気にして、元通りふるまうことができないと。そんなに悪く思われてるのかなって、被害を受けた方に聞いてみても、気にしてないヒトばかりなんですけどね」

 良心の持ち主は、悪いことをされた時より、した時のほうが気にしてしまうということか。と、クーは思う。特に黒い雲の件で悪事を働いた者たちは、自分の意思でそれをやったわけではない。余計に救われない。

「……それで。この前カービィとラブラブステッキで遊んだときに、今日みたいな使い方ができることを知りまして。これは仲直りに有用かもと考えたのです。行動さえなされれば、きっともう解決できることだと思ったので」

 クーはグーイたちが奇跡の杖を遊び道具にしていることに、いいんだろうかという若干もやもやした感情を覚えたが、それはともかくグーイの考えには賛成だった。考えるより、ホットな心で動くことが大事な場合も、時にはある。ラブラブステッキならその後押しができるだろう。

 しかしグーイも立派だな。クーは感心した。グーイなりに、英雄カービィの裏方として、色んなことを考えて、平和に貢献しようとしているようである。いいコンビだ。

 そしてクーもまたホットな心の持ち主である。何か自分にできることはないか。と、彼は手伝いを申し出た。グーイはにこやかな笑顔で、「ありがとうございます!」と礼をした。

「では、クーさんには実際に杖の力を受けてもらって、客引きをしていただきたいです」

 そうかそうか……え?

「さっきはワドルドゥさんが出てきてくれたから助かりましたが……実は、呼びかけてもなかなか試してくれる方がいなくって。ヒトは集まるんですけど、すぐ散り散りになっちゃって往生してたんですよね。そこで、この先はサクラが必要だなぁと考えまして。いやー、ホント助かります」

 ちょっと待て、い、嫌だ。見世物は嫌だ。後ずさりするクー。

「大丈夫、ラブラブステッキがありますから、きっと全然恥ずかしくなったりしませんよ。カービィ、クーさんにも『らぶらぶー』をお願いします!」

 クーは戦慄してグーイが呼んだ者のほうを向いた。もはやクーのほうに向きなおり、ラブラブステッキを振り下ろさんとしているピンク球。叫ぶクー。やめっ……!

「らぶらぶー」

 ずぎゃぎゃぎゃぎゃ!!
 

 これよりひと月ほど、カービィたちはポップスターを巡って、しっかりと住民たちの仲の取り直しに努めた。ラブラブステッキの力は見事功を奏し、かくして黒い雲の名残りをも打ち払ったのであった。

 ただ、この時のクーのサクラっぷりは、大いに仲間たちの笑いのたねにされたそうである。
 


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2010年 02月10日 公開

 この作品を読んでくださった皆様、公開する場を提供してくださったKNML運営の皆様には、感謝の気持ちでいっぱいです。