ひでぶさんの小説

【短編 2009年】アドレーヌ直伝マドレーヌ


 食べ物の中でいうと、初めて「ほんもの」にすることができた絵は、カスタードプリン。あたしの大好きなお菓子。いつも食べてるから、きっとすぐにうまくいくと思っていた。けれども、いざ描いてみると全然ダメで、随分困ってしまった。

 結局は材料を用意して自分で作ってみたことが成功のきっかけになったのだけれど、このときのプリン作りが結構楽しくて、それからはお菓子作りもあたしの好きなことの一つになった。

 今ではレパートリーは十四品! カービィたちの評価を聞くかぎり、自信もある。えへん。

 だから、あたしのところにお菓子の作り方を聞きに来る友達も、実は少なくなかったりする。でもまさか、あのカービィが、「お菓子を作りたい」ってうちに来るとは思わなかった!


 その日はリップルスターからリボンが遊びに来る前日で、カービィは朝ごはんを食べてすぐにあたしの家に来たようだった。玄関でお願いを聞いて、あたしはびっくりする。

「食べたい、じゃなくって?」

「うん、あげようと思って……」

 へぇー。と、感心した。ならば、一肌脱ごうではありませんか。あたしはオーケーして、カービィを家の中に招いた。

 しかし、今日教える相手はあのぶきっちょなカービィだ。これは作る品を慎重に選ばないと大変かも知れない……あたしはそう考えて、自作のイラスト付きレシピブック(「ほんもの」にはなりません)を本棚から取り出した。絨毯の上に座ってそれを開くと、カービィもあたしの隣にやってきて、一緒に眺める。

 ショートケーキはいくらなんでも。クレープも……ちょっと難しいかな。あたしが悩みながらページをめくっていると、カービィがあるイラストを見て「あっ」と呟いた。あたしも「おっ」と思う。

「これ、アドちゃんに名前が似てるお菓子だよね。これもおいしいよねえ」

 マドレーヌ。これなら簡単だし、カービィでも作れるかもしれない。

「これにする?」

 あたしがそう聞くと、カービィは元気よく頷いた。決定!

 いざ、ダイニングキッチンへ。食卓テーブルを作業用に確保して、カービィのために踏み台も持ってくる。さて、もうここからはレッスンだ。あたしは極力手を出さないよう決心した。

 マドレーヌの作り方は、
「一、計量した砂糖と小麦粉を粉ふるいで一緒にふるう。
二、これをボールに入れて、卵を加えてホイッパーで混ぜる。
三、溶かしたバターを入れ、さらに混ぜる。
四、三までで作った物を型に注いで、オーブンで焼いてできあがり」
という感じ。

 さっきも言ったけど、簡単でしょ? うん、簡単なはずなんだけど……カービィはやっぱりカービィで、色んなアクシデンツをやらかしてくれた。型に使うアルミカップを取り出すときに、ひっくり返してばらまいたのから始まり……卵を床に落として割るわ、秤めがけて袋いっぱいの小麦粉を全部、どばーって出すわ、挙げ句生地を混ぜる際には、どういうわけかボールが明後日の方向へ飛んていったりなんかしたり。正直なところ、ちょっと頭痛ものだった。

 でも、舞った小麦粉で真っ白になっても、生地入りボールを頭から被っても、重なる失敗でわりとキンキン声になったあたしに叱られても、カービィは諦めなかったし、謝る言葉も素直だった。「絶対に作ってやるぞ」と伝わってくるカービィの意志に、あたしも投げ出してはいけないと思った。

 そうして、作り始めてから二時間ちょっと。ようやく、カービィは生地を型に注ぐところまで辿りついた。

「うぅ……」

 カービィは真剣この上ない表情で、おたまをゆっくり傾ける。型の上に、とろーりと注がれる生地。平らにする、傾けるを繰り返して、型にあった量に調節していく。

 一つ目。んん、おしい。二つ目。あらら、がんばれ。三つ目……よしよし、いいぞ。最後、四つ目……。

 そして、ぴたり。カービィは落ち着いておたまをボールに戻して……四つのアルミカップを確認し、にこやかに言った。

「できたぁ……!」

 横で見ていたあたしもふぅーっと一息。一つ目はやや量が少ないし、二つ目は溢れちゃってるけど、三つ目と四つ目はいいセン。

「やればできるじゃん、カービィ!」

「えへへ……」

 跳ねた生地まみれのカービィの笑顔は、最高に眩しかった。

 オーブンで焼いている間、カービィは照れながら口に出した。この前リップルスターに遊びに行ったとき、リボンがプレゼントをくれたのだそうである。なんてのろけ話……まったく、あんなかわいい子につくされて、カービィは幸せ者だ。

「今度はぼくも、何かあげたくてさ。リボン、お菓子好きだから、コレだって思ってね。でも、なんとなく、『コック』とか、『アイススパーク』を使うのも、どうだろうって気がして……やっぱりコピー能力は使わないで、アドちゃんに教えてもらおう! って、決めたんだ」

 その言葉が示す真っ直ぐながんばりを、あたしは今日見ることができた。きっとリボンも、こんなカービィが好きなんだろうに違いない。

 焼き上がったマドレーヌに串を刺してみる。串に生地はつかなかった。一つ目と二つ目はあたしたちで食べた。一つ目はちょっぴり固かったけど、二つ目は形がいびつなだけでおいしかった。これなら三つ目と四つ目はばっちり合格点だろう。コングラッチュレイション、カービィ。

 お昼ごはんを食べた後、プレゼント用の袋も作ることにした。こっちも結構時間がかかって、マドレーヌを袋に納める頃には、もうすっかり日が暮れてしまったけど、あたしもカービィも、いっぱいの達成感に満たされていた。
 
 こうしてこの日は、傑作のおしゃれな袋を抱えて誇らしげなカービィと、笑顔で別れた。
 

 次の日、あたしは家でのんびりしすぎて、昼まで絵を描きに出なかった。しまったなぁと思いつつ、公園に行ってみると、そこでカービィとリボンの姿を見つけた。いつもより寄り添って見えるカップルに、何だかニヤニヤしてしまう。やれやれ。

 あたしは邪魔をしないよう声はかけずに、近くのベンチに座ってスケッチブックを開いた。今日の絵の主役は、言うまでもなく。



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2009年 12月03日 公開
2009年 12月04日 第一回修正
2009年 12月26日 第二回修正

 この作品を読んでくださった皆様、公開する場を提供してくださったKNML運営の皆様には、感謝の気持ちでいっぱいです。