ひでぶさんの小説

X’mas in 2002 外伝 〜HERO〜 <後編>


X’mas in 2002 外伝 〜HERO〜


<後編>

ヒーターの入らない車の中に戻ってきて、僕はくしゃみを1つした。
抱えていたお菓子の長靴は、いつの間にか、
助手席に置いてあったクッションに化けている。

僕は抱えたクッションをまじまじと見て、溜め息をついた。

どれくらい寝ていたのだろうか。
車内の温度が、寒く感じるくらいに下がっている。
ここで一夜を過ごしたら、僕、明日新聞の冥福の欄に載るんじゃないか?
そんな恐怖観念に、心拍数が増えた。

何キロか前に通った所に、家が1軒あったはずだ。
きっと迷惑だろうけど、そこで電話を貸してもらうしかない。


後の座席に放っておいたコートを羽織って、僕は車の外に出た。


と。
頬に、何かひんやりとしたものが触れた。

僕はすぐ水滴になったそれを拭い取り、天を仰ぐ。

控えめで、何かに触れるとすぐに溶けてしまう雪。
止む事無く降り注ぐそれは、結局重なり続けて。
車道は、もう真っ白だった。

何となく、嬉しくなって。
とりあえず僕は、笑顔で歩き出すことが出来た。
足元は慣れないながらも、どうにかなりそうだ。



車で通り過ぎたときには民家に見えたのだが、
どうやらそこは、ドライブインらしい。
もちろんそちら側の入り口はもう閉まっているので、
僕は裏口に回ってインターホンを鳴らす。
すると、玄関の明かりが点いた。

「こんな夜にまあ……。寒かったでしょう。
好きなホットドリンクをさしあげますから、店の方へどうぞ」
気前のいいオーナーが、僕にコーヒーを入れてくれた。
電話も貸してくれるということで、ようやくホッとする。

中に入ってみると、結構広々とした店内である。
見開きになっている厨房に、テーブルは十数個。
清掃もよく行き届いている。

ただ、1つだけ。
これらとは別空間のように、無造作に何かが放置されている場所があった。

「玩具ですよ」
オーナーはばつが悪そうに笑って言う。
「今年まで、申し訳程度に入荷していたんですけどね。
やっぱり、ドライブインはドライブインの仕事をしていた方が
良いみたいです」


コーヒーを飲み終えた僕は何となく、そこへ向かう。
ここ最近で、もはや習慣になってしまったといっても過言ではない
『カービィ』探し。もう、考えての動作ではなかった。

ここまで来てしまえば、まるで病気だな。
そんな風に思ったが、自分を笑う気力も残っていない。
ただひたすら、埃のかぶった玩具達を
両手で拾い上げては睨めっこする。



おどけたボクサーのゴム人形を、確認しては元の場所に戻し。
蛍光スティックの入った杖型の玩具を、確認しては元の場所に戻し。
がらがらと音が鳴るプラスチックの鞠を、確認しては元の場所に戻し。
何だかよく分からんピンクの丸のぬいぐるみを、確認しては元の場所に戻し。





……。





最後に拾い上げた物を、僕はもう一度、よく見た。





「……うわああああああああっ!!」



そんな叫び声をあげた僕に、きっとお店のオーナーは驚いたであろう。
でも、こればっかりはこらえきれなかった。
大砲のようにばくばくいってる心音に、
有無を言わさず押し寄せてくる喜びに、
ただただ、心を躍らせた。

そして。
お店のオーナーを道連れにして、恥ずかしげもなく、僕も踊った。







昨夜降った雪は、その地域だけのものかと思っていたら。
意外にも、僕達の住んでいる街でも積もったようだ。
おかげで交通が上手い具合に働いていないらしい。

そんなことがあっても、サンタさんは無事我が家にも訪れたようで。
子供達にプレゼントを置いていってくれたみたいだ。


大好きな戦隊モノの人形の腕をこねくり回してきゃっきゃと喜ぶのは、誠だ。
いつ人形の腕がもげるかと、僕達に人形の心配をさせているが……。

瑠璃は、起きてからどこへ行くのにも『カービィ』を抱えながら歩いている。
時に乱暴にぶん投げたりするが、それもまた彼女なりの愛情表現なのだろう。


僕は妻と一緒に、その微笑ましい光景を眺めている。







そうそう。
スムーズに片づけすぎたおかげで、
松本君が年が明ける前に新しい仕事を持ってきたのだが。
これはまあ、置いておいてほしい。

今日は『ヒーロー』じゃなく。
『パパ』として、子供達と一緒に遊びたいからね。





そんなわけで、皆さん……メリー・クリスマス。