ひでぶさんの小説

X’mas in 2002 外伝 〜HERO〜 <中編・2>


X’mas in 2002 外伝 〜HERO〜


<中編・2>

運転席の窓を開け、乾燥した冷たい空気に、否が応にも白くなる息を
吐きかけながら。僕はもうすっかり暗くなった空を見上げていた。

今僕がいる場所は郊外だから、街中ではよく見えない一番星が瞬いていて、
他の小さな星達も、ぼんやりとだが点々と姿を現している。

冬の空は高く見えた。


『カービィ』のぬいぐるみを探して。
今日が一番、たくさんの店を訪ねただろう。
昼食を済ませた後は、隣りの県まで車を走らせ、
そこでもまた、手当たり次第玩具店に足を踏み入れた。

こんなことなら、アニメーション化に賛成しておけば良かった。
グッズの売れ行きが芳しくなかった為に断った事柄を、今更ながら後悔して
苦笑する。テレビに出たものが、必ずしも有名になるとは限らないのに。

やはり、どこの店にも『カービィ』のぬいぐるみは置かれていなかった。


深く溜め息をつくことが、もう1つ。
僕の乗ってきたポンコツ自動車のガソリンメーターが、こんな郊外で
『E』を振り切った。……見ていなかった僕が悪いと言ってしまえば、
それで終わりなのだが。僕は個人では携帯電話を持っていないから、
こういう時に連絡する場所へ、それを実行できもしない。

ここ数十分、車は通らない。
そうだ。クリスマスイヴに、こんな所を通る奴がいるわけがない。
もう、どうしようもなかった。


最後にもう1回だけ、大きな溜め息をついてから、
この時ばかりは旧式で良かったと思う窓を閉める。
僕は背もたれに身を委ね、目蓋を閉じた。





地元では珍しい雪。それの中、誰かが歩いている。

あれ……?
いつか何処かで、僕はその人と会ったことがある。

少し近づいてみると、その人は、きれいな女性と
一緒にいるのが分かった。

2人とも楽しそうに、ちらほらと降っている雪の中を歩いていた。

女性の顔を見て、数年前の、僕の奥さんとなる人の顔を見て、
今更ながら僕は、その人が誰か気がついた。

どうやらその人は、女性にプロポーズをしようとしているらしい。
しかしまぁ、実に情けない。隠している指輪の箱を、いつ渡そうかと
考えて、妙な笑顔を作っている。傍目から見ると、呆れて物も言えない。

結局、その年は渡せず終いだったんだよな。と、僕は苦笑した。


女性が振り返って、その人をからかうように微笑む。
そして彼に近づいて、何かを持っていることに気がついて。
彼女は、どうにかしてそれを見ようとする。
途端に彼は慌てて、そこから走り出した。彼女もまた、それを追う。

どんどん遠くなっていき、やがて見えなくなった2人の姿を、
それでも僕は、いつまでも見送っていた。


そんな折。
今まで無音だったその空間に、雪が積もって真っ白になっている地の上を、
ぐ、ぐ、ぐぐ……と、何かを引きずる音が響き渡った。

ぐぐ……ぐぐ……ぐぐぐぐ……。
音は、次第に近づいてくるように聞こえた。

不思議に思って辺りを見回すと、ちょうどあの2人が歩いてきた方角から、
小さい何かが、白くて大きな袋を積んだソリを、1人で引っ張って
やってくるではないか。

先っちょに綿の玉がついている赤い帽子を被った、
『ぽよぽよ』している、ピンクの丸。
そいつは僕を見るなり足を止め、こう言った。

「こんな日に一体どうして。
君は、君の大事なヒトと一緒にいたくないの?」

それを聞いて、どういう意味か理解して。
僕は、笑わずにはいられなかった。

僕は話した。
自分の娘が、ぬいぐるみを欲しがっていること。
探している最中にガス欠になってしまって、
帰ろうにも帰れなくなっていること。

ピンクの丸は黙って聞いていたが、僕が話し終えた後に。
「きっとみんな、心配してるよ」
おもむろに、そう短く僕に言った。

俯いて、頬をかく僕。
すると何なのか、ピンクの丸は急にソリに乗せた白い袋に、
身体を突っ込ませた。そして。

「今、他のヒトに渡せるものっていったらこれしかないけど。
るりちゃんにプレゼント。コレあげる」

たくさんお菓子の詰まった、フェルトと紙でできた長靴だった。

「ぬいぐるみじゃないけど、ぼくの大好きな物がたくさん入っているんだ。
るりちゃんも、きっと喜ぶよ」

お菓子の長靴を抱きかかえている僕を一目見てから、
ピンクの丸はにこやかに頷く。
「さあ、おうちに帰って。るりちゃんと、まことくんによろしくね」

それからすぐ、僕の体が足元から、光の粉になって散り散りになり始めた。
不思議と体がその場から消えゆくのに慌てなかった僕は、
最後に、白い袋には他に何が入っているのかを尋ねる。

「袋はたくさんあってね、色んなヒトのステキなものを入れてるんだけど。
この袋の中には、さっき走っていった男のヒトと女のヒトの嬉しいことが、
ホントに一杯入っているんだ。すっごく大きなプレゼント、もうすぐ
渡さなきゃいけないんだけどなぁ……男のヒトが逃げてっちゃうんだ」

再び苦笑した僕の身体は、もう上半身だけしか、
その場に存在していなかった。

短い手を振り、ピンクの丸は消えゆく僕を見送ってくれた。