ひでぶさんの小説

X’mas in 2002 外伝 〜HERO〜 <中編>


X’mas in 2002 外伝 〜HERO〜


<中編>

そう。
瑠璃は、僕が書いている小説のキャラクターの人形を欲しがっているのだ。

『星のカービィ』は、作者個人の目論見からしてみれば、決して多くの人の
ニーズに応えるために送り出した小説ではなかった。1作限りの、
言ってしまえば試作品のようなつもりで書き上げた作品だった。
しかしどういうわけか、『星のカービィ』の1作目は、僕が手がけた物の中で
史上最高の売上を果たしてしまったのである。それはもう、グッズが
作られたり、一時期アニメーション化の話まで持ち上がったことが
あるくらい。もちろん、現在にその頃ほどの勢いはないが、それでもまだ、
ありがたくも人気は残っている状態であり。僕は『星のカービィ』シリーズを
1年に一度のペースで書き続けている。色々な物にローンが残っている
うちの家計が『星のカービィ』に助けられていることは言うまでもない。

しかしだ。あの小説の主人公である『カービィ』のぬいぐるみ。
グッズになったのは2年も前の話で、とっくに製造先では廃盤になっている。

「るりがね、3さいのときにね、てれびでやってたの。あれがほしいの」
「瑠璃〜……それはちょっと、サンタさんも難しいよ。もっと他の、
新しい玩具にしなさい」
「『ぽよぽよ』じゃなきゃ、や〜っ!」

母親の言葉に耳も向けず、頑なに『カービィ』のぬいぐるみを欲しがる瑠璃。
しかし、覚えていてくれるものなんだなぁ。何だか、嬉しいやら困るやら。

「『ぽよぽよ』が欲しいんだもん……あれじゃなきゃ、やなんだもん……」
少し目蓋に涙を溜める瑠璃。

そうだ。
瑠璃は、今年初めて、自分の意思で、それが欲しいと
サンタクロースにお願いをするのだ。
それなのに、親の都合で簡単なものを選ばせてしまって、本当にいいのか?


溜め息をつく妻に向かって、僕は頷いた。
こうなったら、色んな所を探し回ってやろうじゃないか。





学生の頃からすぐに集中力が切れてしまって悩んでいた僕が、
玩具店に行った日の翌日から、物凄くスムーズなペースで仕事を
終わらせていくことに自他共に驚いていたが、そんなことより、
今は瑠璃のプレゼントのことで頭が一杯だった。

来る日来る日も、仕事を終えた後、そろそろ車検が通らないんじゃないかと
思われるポンコツ自家用車に鞭を打って、小さな規模の玩具店から
大きな規模の玩具店、大手デパートや雑貨屋の玩具コーナーまで、
とにかく自分の小説のキャラクターの玩具がないか探し回った。
それだけじゃない。グッズの製造先に問い合わせたり、『星のカービィ』の
出版を手掛けてくれた出版社に、いつだかその製造先から貰った奴が
残っていないか(この時、自分ももらっておけばよかったと激しく後悔した)
調べてもらったり、果てはインターネットオークションなどをチェック
したりもしたのだが。

クリスマスまであと2日。
まだ、『カービィ』はどこにも見当たらない。



その日の夕食はカレーライスで……といっても、僕は例によって
遅くまで外に出ていたために、夜も遅い時間帯に食べているのだが。
カレーライスを食べながら、眠そうなのに付き合ってくれている
妻に、もう製造先にも残されていないことを知らされた。

「やっぱりどうしようもないよ……ねえ、貴方ももう無理しないで。
瑠璃に言って、諦めてもらいましょう?」
僕が連日何をしているか知っている妻が、僕を気遣ってそう言う。

水を飲み干して、僕は、無言のままカレーライスを食べ続けた。

僕だって、半分諦めかけていた。
これだけ探しても無いとなると、日本中どこを駆けずり回っても
見つからないだろう。行く場所行く場所での「申し訳ありません」という
言葉。聞く度に、僕の望みが絶たれるような気がした。

だが。
あの時の瑠璃の泣き顔を思い出してみると、何だか負けていられない
気持ちになった。まだ、諦めてはいけない。



クリスマス前日。今日と明日、僕は仕事を入れていない。
望みを賭けて、僕はガタのきている愛車に乗り込んだ。

「私も、できる限りのことはするから。
頑張ってね……私達の『ヒーロー』さん」

ガレージの入り口近くで誠を抱えている妻が、微笑んだ。
少々照れ臭くて頭をかきながら、出発することを彼女に告げて。


そして僕は、『カービィ』を探す最後の旅に出た。