ひでぶさんの小説

X’mas in 2002 外伝 〜HERO〜 <前編>


X’mas in 2002 外伝 〜HERO〜


<前編>

街の雰囲気といえばもうクリスマス一色だ。少し歩いたところにある
若い子達に人気のケーキ屋は予約でいっぱいになっているし、休日になると
現在仕事の相手である出版社の隣りに建っている玩具店は、プレゼントを
選ぶ親子で大いに賑わう。広場の巨大なクリスマスツリーも、いつの間にか
華やかな電飾を着飾った。

そんな中で、僕はといえば今年最後の〆切に追い詰められ、半ば泣き顔で
原稿に取り掛かっていた。生来『時間を守る』ということが苦手な性格だが、
今回ほどそれを悔やむことは今までにはなかったであろう。

長女の瑠璃(るり)に恵まれ、3年をおいて誠(まこと)が生まれた。
それからもう2年も経ち、瑠璃が、今年初めて自分の意思で
クリスマスプレゼントを欲しがっている。いやはや、子供の成長というものは
実にめざましいものだ。

今日は子供達に買うつもりの玩具を、一緒に店へと見に行く
つもりだったのだが。はたしてこれ、今日中に仕上げられるものなのか?

「近藤さん……近藤さん!」
一心不乱。というわけではなかったが、集中していたために
編集の松本君に呼ばれていたことに気が付かなかった。
手を休めはしないが、慌てて返事をする。
「4章の3節目、もうすぐあがりますよね?そこのチェックが終わったら、
お子さんと一緒にプレゼントを見にいってあげてください。残りは明日に
すると編集長に伝えておきますから」

松本君曰く、
「なんだかんだ言って、いつも〆切を守ってくれている
近藤さんだからこそです」だとか。
守っているとは言っても、大体ギリギリなんだけれども……。
しかしこの温情、ありがたく受け取らせていただきます。

こうして今日の分の仕事を終わらせることができた僕は、
テレビを見ながら待っていた家族と、自宅の近くにある
割と大きな玩具店に向かった。


もう年なのだろうか……最近の玩具は、はっきり言ってわけが分からない。
もちろんプレゼントを選ぶのは子供達の自由だが、覚えるのに苦労するものを
選ばれたりしたらどうしようかと思ってしまう。
知人である女流小説家の伊藤さんのお子さんは、瑠璃達よりもうちょっと
年上なのだが、去年のクリスマスプレゼントに『何たら王』とかいう
カードを一箱分ねだったらしいし。本当に分からない。
これも、一種のジェネレーションギャップというやつかな?

「パパ〜っ!」
母親と、つまり僕の奥さんと手をつないで歩いていた瑠璃が、
僕のことを呼んだ。僕に抱っこされつつも、店の売り物である戦隊モノの
人形を弄ろうとして棚を掴んでいる誠の手を、ちょっとした罪悪感を
覚えながら引き剥がして(案の定バタバタされた)、呼ばれた所へ向かう。

「瑠璃が欲しがっているものが、お店に無いみたいなの」
まだ少々片言っぽい瑠璃の言葉を簡潔に訳して、妻はそう言った。

そういえば今日この日まで、僕は瑠璃から欲しいプレゼントが何であるか、
詳しく聞いていなかった。大きな玩具店に行ってみれば、きっと見つかると
思っていたのだが……。
仕方なく僕は、瑠璃に欲しいプレゼントがどんなものか聞いてみた。

「ぬいぐるみ。ぴんくでね、まるくてね、ぽよぽよしてるの」

ピンクで丸くて、ぽよぽよしてるぬいぐるみ?
妻と一緒に天井を仰いで考える僕。

「パパとなかよしなんだよ」

僕と仲良しなの!?
思わず口走りそうになった突っ込みをこらえて、更に深く考え込む。
なかよしって……。

「なかよしだから、あさも、よるも、いっしょなんだって。
ママがいってた」

当然といえば当然か、瑠璃のその言葉で、先に妻は気がついたようだ。
しかし奥さん、『いぢわる』で僕には教えてくれないようである。

ピンクで丸くて、ぽよぽよしてるぬいぐるみで、
僕と仲良しだから、朝も夜も一緒なもの。……なんじゃそりゃ。
大体、朝から夜までは、僕は仕事で執筆を……。

仕事。

自分で思い浮かべた言葉で、ようやく僕も気づくことができた。







星のカービィ。
僕が書いているシリーズ小説の主人公だ。