tateさんの小説

【世界迷作劇場】カビデレラ


 あるところに、カビデレラという一つの球体がおりました。諸般の事情によりこのカビデレラ、今は継母と二球の姉と暮らしています。
 が、この継母は大変厳格な球でした。
 徐にリビングのサイドボードに指を走らせると、仮面の奥の双眸がギラリと輝きました。その鋭さは周囲の空気をも切り裂きそうです。
「むっ……埃が残っている……!」
 また、二球の姉も大変口うるさく、
「どうされましたか、メタ母様! も、もしや夕食の材料がカビデレラに食われて無くなってしまった……とか!?」
「わにゃにゃー」
 特に美しい二本の毛に円らすぎる一つの目を持つ上の姉は、これでもかとばかりに喋くりまくります。下の姉も何時も上の姉にくっついて回り、わにゃわにゃと騒ぎ立てるのです。
「いや、棚に埃が積もっていてな」
「そ、それは大変! 今すぐ掃除を致しましょう! ワドルディ、掃除を始める!」
「わにゃにゃー」
「それには及ばん、ここは私に任せておけ。お前達はそろそろ夕食の支度に取り掛かってくれ」
「はっ」
 継母はマントをばさあっと仰々しくはためかせ、納屋からはたきと雑巾を持ってくると、自分で屋敷の掃除をし始めました。二球の姉は小走りでキッチンへと向かいます。
「わぁ、大変そうだなぁ」
 ばたばたと駆け回る継母と姉達を見遣りつつ、末の娘であるカビデレラはソファに転がり、若干気まずそうにばりばりとチップスを頬張っています。
 自由気まま、本能の赴くままに自堕落な生活を送っていたカビデレラにとって、最早ここは居心地のいい我が家では無くなってしまっていたのでした。

 そんなある日、デデデ城からダンスパーティの招待状が届きました。
 招待状は三通。継母と二球の姉の分しか在りません。当たり前です、カビデレラの無限の胃袋はデデデ城にまで知れ渡っている事なのですから。
「パーティ! ご馳走食べたいー! ボクも連れて行ってよぅ!!!」
 それを解っていた継母と二球の姉は、じたばたと食い下がるカビデレラを置いて、さっさと出掛けてしまいました。
「酷い、酷いよメタナイト! ボクだってお城の美味しいご馳走沢山食べたいのに! はっ、もしやこれが……ネグレ……クト…………!?」
 置いてけぼりを食らったカビデレラは、ぐすんと鼻をすすりました。その可愛らしい円らな瞳は涙で一杯です。目の前に積まれたマキシムトマトの山も、見る間に低くなっていきます。
 そしてマキシムトマトの山を一つ腹袋に収めたカビデレラが手持ちぶさたになり、玄関の広間をごろごろと転がりいじけていると、一人の鼻顎眼鏡が現れました。音もなく現れたそれは中空に浮かび、カビデレラを見下ろしています。
「わあ! なんて凄い鼻と顎なんだ!」
「フフフ……すっかり落ち込んでいるお前に、コイツをくれてやろう」
 カビデレラの失礼なツッコミを黙殺した鼻顎眼鏡が指先を振ると、ワープスターが一つ現れました。玄関の扉を全開にすれば、ぎりぎり通り抜けられるほどのサイズでしょうか。玄関にこんなモノを呼び出すとは、全く迷惑な話です。もう一回りワープスターが大きければ、その辺の壁をぶち破らなければ外に飛び出すことが出来ないところです。
「こ、これは……幻のワープスター!」
 しかし相手の非常識さを疑うだけの常識は、カビデレラにはありませんでした。ピンク餅は目をきらきらと輝かせ、ワープスターを見遣っています。
「そしてカビデレラよ、コイツもやろう。ガラスの靴とドレス……」
 鼻顎眼鏡がマントの下から透き通った美しいガラスの靴と、純白のドレスを取り出しました。カビデレラがその身にまとったら、おそらく愛らしいつるつるのおつむまで隠れてしまうことでしょう。
「は無理か。ならばこれだ」
 そう言うと鼻顎眼鏡はドレスをしまい、代わりに一枚の白銀の仮面を差し出しました。
「それを装備すれば、お前がカビデレラであることに誰も気が付かないだろう。さあ、これを身につけ思う存分ダンスパーティを楽しんでおいで」
「わーい! 有り難う、鼻顎眼鏡さん! んん? そういえばキミは誰?」
 事ここに至ってようやく相手とは初対面であることに気が付いたカビデレラ、一応名を尋ねました。
「フッ、名乗るほどのモノでもないが……そうだな、魔法使い、ということにしておこうか」
「ふうん、まいっか。行ってきまーす!」
 もはやカビデレラの頭の中には、デデデ城で待ち受けている山のようなご馳走のヴィジョンしかありません。カビデレラの問いに律儀に答えた鼻顎眼鏡に気のない返事をすると、カビデレラは仮面をぺたりと顔に貼り付け、ワープスターで城へと飛び出していきました。

「そうだともカビデレラ。デデデ城のダンスパーティを台無しにしてこい。そしてデデデ王子の注意をその身に引きつけるのだ。その隙に……フフフフフ」
 誰も居なくなった玄関でほくそ笑む鼻顎眼鏡は、間違いなく変態……もとい悪夢のようでした。

 デデデ城で催されているダンスパーティは、非常に盛大なモノです。絨毯を敷き詰めた城の大広間には多くの人々が招かれ、王座で反り返っている王子の周囲には目を見張る程のご馳走が並んでいます。
「ふむ、今宵の馳走も美味いゾイ」
 もっしゃもっしゃと肉を咀嚼しながら、デデデ王子は広間でしずしずと踊る人々に興味なさげな視線をぼんやりと送っています。
 それもそのはず、ダンスパーティとは馳走で腹を満たしたい王子の口実に過ぎないのです。それでもこの日ばかりは城の食料庫が市井にも開放されるため、デデデ王子は国民から絶大な支持を得ていました。
 一方、このダンスパーティに招待されていたカビデレラの継母と二球の姉は、広間ではなく周囲の廊下をうろうろと歩き回っています。
「メタナイト様、異常はありません!」
「うむ」
 城の近衛兵であるブレイドナイト、ソードナイトから報告を受けた継母は一つ頷きます。カビデレラの継母は、その実ポップスターでも一、二を争う剣士なのです。今でこそ前線からは身を引いていますが、こうして城で催し事があると、警護主任として召喚されています。二球の姉も哨戒の任についています。
 今宵も特にトラブルはなく過ぎそうだな、と継母が息を吐いたところに、上の姉が転がりこんできました。
「メタ母様、大変です! 仮面の不審者が王子の食事を片っ端から吸い込んでいます!!」
「仮面の不審者……だと!? すぐに参ろう」
 一瞬己の仮面に手を触れた継母は二球の姉と急ぎ広間に駆けつけ、逃げまどう人々の波に逆らい王座へと向かいます。人々の喚声に混じって、王子の怒声も聞こえてきます。
「何だこの仮面! ワシの料理を勝手に吸い込むなゾイ〜!! 近衛兵っ、近衛兵っ! すぐにこやつを引っ捕らえるゾイ!」
 大変です。仮面を被り、皿ごと料理を吸い込んでいくピンク色の何かの乱入に、王子はカンカンに怒っています、怒り狂っています。継母は頭痛と心労でくらくらしながらも、ブレイドとソードの二人に、不審な仮面を捕らえるように命じます。
 「承知!」と二人の近衛は勇ましく飛びかかりましたが、仮面の闖入者は恐ろしいまでの身のこなしで二人の攻撃をかわし、→→ダッシュで城の外へと逃走してしまいました。
 その後、城を上げて闖入者の捜索が行われましたが、結局見つかった痕跡は、城の外階段に落とされていた一枚の仮面だけでした。
 デデデ王子は側近のポピーブロスJr.から仮面を奪い取ると、こう吠えました。
「おのれ……絶対に見つけ出して賠償させてやるゾイ!」
 と。

 ダンスパーティに乱入してきた仮面の不審者の噂は、その翌日にはプププランド中に広まりました。街のそこら中にお触れ書きが出されたせいもありますが、とかく平和なプププランドでは、事件そのものが珍しいのです。
 野次馬が見守る中、ポピーブロスJr.は仮面を片手に真っ直ぐカビデレラの暮らす屋敷に向かいました。
 がんがんと無遠慮にドアノッカーを叩くと、待っていましたとばかりに扉が開きました。
「えー、デデデ王子様の命により、仮面の闖入者を捕らえにやってきたで。せやさかいカビデレラを引き渡……」
 ポピーブロスJr.の言葉を遮るかのように、その視界一杯にピンク色が広がります。一歩下がると、それは二球の姉に両腕をがっちりホールドされたカビデレラでした。
「酷いよメタナイト! ボク何も悪いことしてないよ!」
 じたばたともがくカビデレラの顔に、ポピーブロスJr.は断ることもなくぺたりと仮面を貼り付けました。
「やっぱりジャストフィットや……試すまでもなかったんやけど、あのアンポンタン王子にはこうでもしてやらんと理解できんやろしなぁ。あ、メタナイト殿、協力感謝するで」
「いや、こちらこそご足労を掛けた。カビデレラはこのまま二人に連行させよう」
 ポピーブロスJr.達を送り出すため、玄関のドアを開けようと継母がカビデレラに背を向けました。
 きゅるりら〜
 その間の抜けた音に咄嗟に継母が振り返ると、そこにいたのはカラフルなピエロキャップを被ったカビデレラ一球のみ。口の端からはポピーブロスJr.のものと思しき腕が一本突きだしていましたが、カビデレラはもぐもぐと咀嚼して飲み込んでしまいました。
「あ、そっかー。メタナイトはボスだから吸い込めないんだった」
 見て見て! ビームウィップが出せるようになったよー、とはしゃぐカビデレラに、継母は声を掛けます。
「仮面はどうした、カビデレラ」
「飲んじゃった」
「そうか、証拠の品もなくなったのなら仕方がないな」
 と頷き、ポピーブロスJr.が一人でやってきたことを確認すると、継母は何事も無かったかのように玄関のドアを閉めました。

 仮面の不審者の噂は、およそ一日でぱたりと聞かれなくなりました。デデデ城からのさらなる使いが街を駆け回ることもありませんでした。
 というのも、プププランドでは夢が見られなくなってしまい、ピンク仮面どころではなくなってしまったからです。
 物憂げにカビデレラが窓の外に目をやると、多くの人々が目の下にクマを作り、浮かない顔で街を行き交っています。アンニュイです。
 継母も疾うにデデデ城に召喚されてしまっており、屋敷の中にはカビデレラ一球しか残っていません。
 カビデレラは読んでいた漫画に目を落とします。春風と共にやってきた一人の勇者が長い旅の末に魔王を倒し、世界を救うというお話です。
「ボクも……ボクも何かしないと! だってボクは春風の勇者なんだから!」
 漫画をテーブルの上に置くと、カビデレラは力強く立ち上がりました。

 その後、どうやらデデデ王子が夢の泉に悪さをしたっぽいという噂を耳にしたカビデレラは、それを鵜呑みにし、デデデ王子を成敗するための長い長い冒険の旅に出るのでした。

 おしまい。
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